今回は『腎臓』の構造や機能について学んでいきます。
腎臓は体の恒常性(ホメオスタシス)を保つための重要な臓器です。まずは正常な構造や機能を勉強する。更に正常に働かない状態、つまり、『病気』の状態も学ぶことでより理解を深めていくんです。

腎臓の病気を専門としている現役医師のライター、スコットと一緒に解説していきます。

ライター/スコット

内科医として日々臨床の現場で働いている。少しでも多くの人が自分の体や病気に興味をもち、よりよい人生のためのサポートをできるように試行錯誤している。

腎臓とホメオスタシス

image by iStockphoto

腎臓は端的に言えば、尿をつくる臓器です。

ヒトは進化の過程で海から陸上にあがりました。そこで必要となったのが水分と塩分の保持です。いつ摂れるかわからない水分塩分を体の中で蓄えたり、排泄したりしながら厳密に調整することで、体のホメオスタシスを保っています。その役割を果たすのが腎臓なのです。

その他にも腎臓はカリウムやその他の電解質バランス造血に関わるホルモン臓器としての役割も持っています。

腎臓の解剖

image by iStockphoto

腎臓は体のどこにあるのでしょうか?

両手を握って、腰のあばら骨の一番下の部分より少し下のところに当てて背中をグイッと反ってみてください。「ここを押すと一番背中が反るな!」って辺りが大体の腎臓の位置です。大きさも大体握りこぶしくらいで、1個の腎臓が150g程の重さで2個あります。

それぞれの腎臓に血液を送込む血管を腎動脈といい、血液が出てくる血管が腎静脈です。

その他にもう1本ずつ出ている管が尿管(輸尿管)といい、腎臓でつくられた尿を膀胱に送り出します。

腎臓内部の構造は血液から尿への流れでみる!

image by iStockphoto

上の図は腎臓を縦に切った断面だと思ってください。

腎臓は大まかに3つの領域に分けられます。

・血液が流れ込む領域:腎皮質

・尿の途中段階の領域:腎髄質

・尿を出していく領域:腎盂

ここで血液から尿への流れにそってみていきましょう。腎動脈から入ってき来た血液は腎臓の表面側の方腎皮質まで運ばれて、一部が尿に変えられます。そしてつくられた尿が腎髄質で水分や電解質の調整をされていくのです。更に、その尿が集まって腎盂を通り、尿管に流れていきます。

\次のページで「形態からみる腎臓病」を解説!/

形態からみる腎臓病

image by iStockphoto

腎臓病になると形はどのように変化するのでしょうか?

腎臓病の患者さんを診ていくとき、お腹の超音波検査CT検査で腎臓の形をみます。

一般的に腎臓が長い経過で悪くなった方や透析をしている方は腎臓は小さくなっていくことが多いです。しかし、糖尿病による腎臓病の場合にはあまり小さくなっていかないことも知られています。

急激な変化、例えば感染症や薬剤の副作用などによる腎臓病の場合にはあまり変わらないか少し腫れることもあるのです。

その他には腎臓に複数の嚢胞と呼ばれる水分の入った袋のような構造物ができてそれが大きくなって、機能の低下をきたす『多発性嚢胞腎』という病気の場合にはひどくなると両方の腎臓で1kg以上になることもあります。

あなたも200万個持っている!ネフロン(腎単位)の構造について

Gray1128.png
By Henry Vandyke Carter - Henry Gray (1918) Anatomy of the Human Body (See "Kitab" section below) Bartleby.com: Gray's Anatomy, Plate 1128, Public Domain, Link

それでは血液からどのように尿がつくられてくるのでしょうか?

腎動脈から流れてきた勢いのある血流は糸球体と呼ばれる球状の毛細血管の塊に入ります。その糸球体を取り囲むボウマン嚢(糸球体包)という部分で初めて尿になるのです。ここでつくられた尿のことを原尿といいます。原尿は尿細管(腎細管)集合管を通る過程で水や電解質などの調整を受けて尿となるのです。

ここで一旦言葉の定義をまとめます。

腎小体:糸球体+ボウマン嚢

ネフロン(腎単位):腎小体+尿細管

腎小体は糸球体とボウマン嚢を含めたものをいい、原尿ができる場所と覚えてください。

ネフロンは腎小体に尿細管を加えたもので、これが腎臓1個につき100万個あると言われています。ヒトには腎臓が2個なので200万個持っていることになるのです。

\次のページで「これぞ腎臓の醍醐味。ろ過と再吸収」を解説!/

これぞ腎臓の醍醐味。ろ過と再吸収

image by iStockphoto

腎臓の構造について学んできました。次は腎臓の機能についてです。

突然の質問になりますが、ヒトは1日にどれくらいの尿を排泄しているでしょうか?

 

もちろん体格や環境にもよりますが、概ね2リットルくらいとされています。

そして、先ほど勉強した『原尿』はどれくらいつくられているでしょうか?

4リットル? 10リットル?

いえいえ、実は180リットルもの原尿がつくられているのです!それが全部尿となって出てしまうとヒトはすぐに干からびてしまいますよね?実はそのうちの170リットルほどは尿細管で、8リットルくらいは集合管で血液の中に戻っていくのです。

この血液に引き戻す働きを『再吸収』と言います。

ここから原尿をつくる「ろ過」と原尿から体にとって

ろ過について学ぼう

先ほど腎小体において原尿がつくられることを学びました。

糸球体からボウマン嚢へ尿がつくられる時に必要なものが『血圧』です。糸球体の血管は毛細血管なので血管壁に平滑筋は存在しませんが、その前後に平滑筋の存在する動脈があります。その平滑筋によって血管が細くなったり、太くなったりして糸球体内の血圧を調整しているのです。

原尿が血圧によってボウマン嚢に押し出されることをろ過といいます。

糸球体からボウマン嚢に出るところには網目のような『仕切り』があり、血液中の成分が全部出てしまわないような仕組みになっているのです。この仕切りは『係蹄壁(けいていへき)』と呼ばれ、2つの役割を持っています。その役割を「サイズバリア」、「チャージバリア」といい、以下にまとめてみました。

サイズバリア:蛋白などの分子量が大きな物質が通れないような網目の穴の大きさ

チャージバリア:蛋白はマイナスに帯電しており、この仕切りもマイナスに帯電していることで反発して通れない

体にとって必要な蛋白などの成分が尿に漏れ出さないように網目の大きさが工夫されているだけでなく、電気的な反発を利用して漏れを防いでいることがわかります。

再吸収:尿細管の働き

ろ過の段階で体にとって必要な成分は漏れ出ないような仕組みがあることがわかりました。

しかし、それは十分ではなくて、小さな分子の物質であるナトリウムやグルコースなどは原尿の方に漏れ出てしまいます。また、水分に関してもそのまま全部を尿にすることはできません。

そういった物質を尿細管や集合管で再吸収していきます。その再吸収は一様に行われているのではなく、水が飲めないとか、塩分を多く摂ったとか、汗をいっぱいかいたなどの様々な影響を受けても、体の中のホメオスタシスを保てるように厳密に調整されているのです。

それに関わるホルモンに鉱質コルチコイドとバソプレシンがあります。

ホルモンの詳細は割愛しますが、鉱質コルチコイドは尿細管に主に働き水分とナトリウムの吸収を促進し、バソプレシンは集合管に働き、水の再吸収を行うのです。

\次のページで「腎臓病におけるろ過と再吸収」を解説!/

腎臓病におけるろ過と再吸収

腎臓病においてはろ過と再吸収のどちらもが障害されていくことがほとんどです。

どこで病気が起きているかで「糸球体腎炎」やに「尿細管間質性腎炎」などの病名がつきますが、つながっている構造なのでどちらがやられても腎臓の機能は落ちてきてしまいます。

しかし、腎臓の機能が半分以上落ちてしまっても検査をしなければ、腎臓の悪いことがわからない場合もあるのです。それはダメになったネフロンが多くても残っているネフロンが頑張って、なんとか機能を維持しようとするので、多少機能は落ちても自覚症状がないということがあります。

早く腎臓病に気づくためにはどうしたらいいのでしょうか?

ろ過の機能が障害された場合を考えてみましょう。仕切りの役割である、係蹄壁が壊れてしまうので、赤血球蛋白などが尿の中に出てきてしまいます。そうすると尿検査尿潜血尿蛋白が検出されるようになります(正常では検出されません)。

再吸収の機能が障害された場合にはナトリウムやグルコースなどが尿に出てしまう病気もあります。しかし、残っている尿細管の機能で補われる場合があり、そうなると簡易的な尿検査では異常がみられないこともあるのです。尿細管の障害が疑われる場合には血液検査尿の特殊な物質を測ることで腎機能の低下や尿細管の障害を検出することができます。

健康診断の尿検査血液検査腎機能の異常が疑われた場合には専門科(腎臓内科・泌尿器科)に受診するようにしてみてください。

腎臓病になったら食事はどうしたらいい?

image by iStockphoto

腎臓にいい食事は?と問われると『西瓜(すいか)』と答えられることがあります。

すいかには水分とカリウムが多く含まれているので、ある程度進行した腎臓病の患者さんは水分とカリウムの排泄がうまくいかなくなるので、むしろ『悪い食べ物』に分類されてしまうのです。

では腎臓病の時にどんなことを気を付けながら食べればいいのでしょうか?

それは腎臓病の種類や重症度が分かれているのでそれによっても変わりますが、ポイントは塩分・カリウム・蛋白質・水分の制限があります。

それぞれどんな理由で制限が必要かみていきましょう。

血圧が高い「高血圧」の状況が続くと腎臓の血管や糸球体に障害を起こして腎機能が低下しまいます。そのため、高血圧と診断されているもしくは治療されているような方は塩分制限が必要となるのです。

腎機能が低下してくると電解質の中のカリウムという成分の排泄がうまくいかずに体内の濃度が高くなってしまいます。カリウムが高すぎると不整脈などを起こして亡くなることもあるため、注意が必要です。カリウムは果物生野菜に多く含まれており、制限が必要となります。

蛋白質は糸球体の障害があると尿に漏れ出し、血液中の蛋白濃度は下がるので、食べる必要があるように思われますが、実は逆なのです。蛋白質が尿に漏れ出すこと自体が腎臓にダメージを与えてしまうため、蛋白尿が出ているような状況では蛋白制限が必要になります。また、蛋白質にはリンが含まれており、腎臓が悪いとリンの排泄が不十分となるため、リンを摂りすぎないように蛋白質を減らす必要があるのです。

最後に水分ですが、これは尿量がどれくらい出ているかということが強く影響するため、状況によって変わります。強い脱水でも腎臓病になるため、その場合にはとる必要がありますが、透析患者さんなどで尿が出ない場合には摂った分が体にたまってしまうため、可能な限り控えることが大切です。

腎臓は水分や電解質調整のかなめ!

腎臓では血液から大量の原尿をつくり、必要なものを再吸収することで水分や電解質バランスを調整しています。その調整はかなり厳密に行われていて、健康であるときはあまり気にすることはありません。腎臓病の方がどんな制限があり、どんな症状があるかを考えることで腎臓の機能が身近に感じられるようになります。

勉強したり、覚えたりするときに自分の体で起きていることをイメージをしてみるといいかもしれません。

" /> 腎臓病からみる「腎臓」の構造と機能を現役医師がわかりやすく解説! – Study-Z
タンパク質と生物体の機能理科生物

腎臓病からみる「腎臓」の構造と機能を現役医師がわかりやすく解説!

今回は『腎臓』の構造や機能について学んでいきます。
腎臓は体の恒常性(ホメオスタシス)を保つための重要な臓器です。まずは正常な構造や機能を勉強する。更に正常に働かない状態、つまり、『病気』の状態も学ぶことでより理解を深めていくんです。

腎臓の病気を専門としている現役医師のライター、スコットと一緒に解説していきます。

ライター/スコット

内科医として日々臨床の現場で働いている。少しでも多くの人が自分の体や病気に興味をもち、よりよい人生のためのサポートをできるように試行錯誤している。

腎臓とホメオスタシス

image by iStockphoto

腎臓は端的に言えば、尿をつくる臓器です。

ヒトは進化の過程で海から陸上にあがりました。そこで必要となったのが水分と塩分の保持です。いつ摂れるかわからない水分塩分を体の中で蓄えたり、排泄したりしながら厳密に調整することで、体のホメオスタシスを保っています。その役割を果たすのが腎臓なのです。

その他にも腎臓はカリウムやその他の電解質バランス造血に関わるホルモン臓器としての役割も持っています。

腎臓の解剖

image by iStockphoto

腎臓は体のどこにあるのでしょうか?

両手を握って、腰のあばら骨の一番下の部分より少し下のところに当てて背中をグイッと反ってみてください。「ここを押すと一番背中が反るな!」って辺りが大体の腎臓の位置です。大きさも大体握りこぶしくらいで、1個の腎臓が150g程の重さで2個あります。

それぞれの腎臓に血液を送込む血管を腎動脈といい、血液が出てくる血管が腎静脈です。

その他にもう1本ずつ出ている管が尿管(輸尿管)といい、腎臓でつくられた尿を膀胱に送り出します。

腎臓内部の構造は血液から尿への流れでみる!

image by iStockphoto

上の図は腎臓を縦に切った断面だと思ってください。

腎臓は大まかに3つの領域に分けられます。

・血液が流れ込む領域:腎皮質

・尿の途中段階の領域:腎髄質

・尿を出していく領域:腎盂

ここで血液から尿への流れにそってみていきましょう。腎動脈から入ってき来た血液は腎臓の表面側の方腎皮質まで運ばれて、一部が尿に変えられます。そしてつくられた尿が腎髄質で水分や電解質の調整をされていくのです。更に、その尿が集まって腎盂を通り、尿管に流れていきます。

\次のページで「形態からみる腎臓病」を解説!/

次のページを読む
1 2 3 4
Share: