西部開拓時代の歴史を学ぶとき写真などで目に触れることが多い「カウボーイ」。昔はカウボーイが登場する映画が日本でも大人気だったらしいのです。今でも、テンガロンハットやジーンズなど、カウボーイファッションだと知らずに着ている服も多のです。

それじゃ、「カウボーイ」のアメリカ史における位置づけや現代への影響など、世界史に詳しいライターひこすけと一緒に解説していきます。

ライター/ひこすけ

文化系の授業を担当していた元大学教員。専門はアメリカ史・文化史。西部開拓時代のアメリカでは「カウボーイ」が大きな役割を果たした。20世紀にはいると「カウボーイ」の文化が人々の生活に大きな影響を与えるようになる。そこで、「カウボーイ」をキーワードに、西部開拓時代の歴史と現代における影響をまとめた。

カウボーイとは何?どのような人たちを指すの?

The Cow Boy 1888.jpg
By John C. H. Grabill - This image is available from the United States Library of Congress's Prints and Photographs division under the digital ID ppmsc.02638. This tag does not indicate the copyright status of the attached work. A normal copyright tag is still required. See Commons:Licensing for more information., Public Domain, Link

カウボーイは英語にするとCOWBOY。その名の通り牛などの畜産に関わる仕事をしている男たちのことを指します。西部開拓時代、とくに19世紀の後半のテキサスやメキシコ国境付近のエリアで活躍しました。

カウボーイのミッションは中継地点への牛の輸送

西部開拓がすすむと、アメリカ東海岸のみならず西海岸の人口も増加。さらにゴールドラッシュにより、一攫千金をめざしてヨーロッパから移住する人が爆発的に増えます。それにより、牛肉の需要がいっきに高まりました。

そこでテキサスやメキシコ国境付近に生息している野生の牛をとらえて売買するグループが形成。これがカウボーイです。彼らのミッションは、大都市につながる大陸横断鉄道まで何日もかけて牛の集団を移動させることでした。

カウガールや黒人カウボーイも存在した

白人男性のイメージが強いカウボーイ。実際はカウボーイのルーツをひとつの国に集約することはできません。イギリス系はもちろんですが、フランス系や北欧系さらにはアフリカ系なども。またメキシコ系のカウボーイもいました。

また、男性カウボーイだけではなく女性の「カウガール」も存在。彼女たちはカウボーイと同じように馬を乗り回し、牛を輸送する仕事に従事。のちにワイルド・ウェスト・ショウで馬術を披露するスターになる女性もあらわれました。

カウボーイ文化はヨーロッパと先住民(インディアン)の文化の融合

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By Charles Marion Russell - Uploader took photo at museum, Public Domain, Link

カウボーイ文化は、ヨーロッパにおける牛飼いの文化と先住民(インディアン)の文化が交わりあって形成されました。とくに野外における生活スタイルは、先住民(インディアン)の習慣を取り入れながら定着したと言われています。

カウボーイと先住民(インディアン)は衝突も多かった

カウボーイは、先住民(インディアン)テリトリーに生育する牛を集めることが大部分。それは、先住民(インディアン)の生きる糧を奪うことでもあります。そのため先住民(インディアン)と衝突することも多々ありました。

カリフォルニア州サンフランシスコ市では、19世紀末に建てられた銅像が大きな問題に。なぜならカウボーイと修道士が、先住民(インディアン)を踏みつけている構図だからです。それは当時のカウボーイと先住民(インディアン)の位置関係を生々しくあらわすものでした。

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先住民(インディアン)の風習を取り入れて発達したレシピも

カウボーイは牛を輸送しているあいだ、基本的に野外で生活することになります。そのため自分が食べるものも野外で料理。カウボーイ料理のひとつといわれるのが豆料理。保存がきくことから塩漬けのベーコンとともに輸送中の食料として重宝されていました。

もともと豆料理やトウモロコシ料理は、先住民(インディアン)の伝統的な料理のひとつ。そのほか、ぶつ切りの豪快な肉料理やジャガイモ料理も先住民の食文化から影響を受けたものでした。カウボーイのレシピは、先住民(インディアン)の食文化を参考にして作られたと考えられます。

カウボーイは馬術の達人?

image by PIXTA / 43496054

カウボーイと聞いたときにまず思い浮かぶのが馬に乗っている姿。アメリカ西部の広大な土地を馬に乗って自由自在に動き回る様子をイメージすると思います。実際、未開拓の地で大量の牛を輸送するなかで馬を操る技術はカウボーイになるための必須条件でした。

19世紀末にワイルド・ウェスト・ショウで見世物化された

カウボーイ=馬術の達人であることは、19世紀末にアメリカ西部で流行した「ワイルド・ウェスト・ショウ」の演出からも明らか。このショウには、白人と先住民の衝突の迫力ある再現のほかに、カウボーイの馬術を個々で披露する演目がありました。

なかには抜きんでた馬術を披露する人も。そうした演者は「本物のカウボーイ」として知名度をあげていきます。馬術を披露する様子が、世に出はじめたばかりの映画に記録され、興行プログラムの一部になることもありました。

ロデオはカウボーイ文化の名残

テレビのニュースなどで触れる機会もあるロデオ。この競技はもともとカウボーイの遊びから始まりました。カウボーイたちは、牛をかりあつめ、目的地まで輸送する長い旅をします。無事に牛を引き渡したあとの「打ち上げ」のような感じで、自慢の馬術を披露するようになりました。

当初は危険な技をくりひろげる「度胸試し」の要素が強かったとのこと。徐々にルールが定められるようになり、現在はプロスポーツ化されました。大会ではゴルフのように賞金が設定されています。そのためプロ選手はアメリカやカナダの各地をまわりながら、賞金獲得を目指しました。

カウボーイのイメージを定着させた映画スターとは?

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By Paramount Pictures - http://beinecke.library.yale.edu/dl_crosscollex/brbldl_getrec.asp?fld=img&id=1080218, Public Domain, Link

20世紀にはいるとアメリカでは映画が大きな産業に成長します。西部開拓時代の記憶がまだ色濃く残っていた時期に人気を獲得したジャンルのひとつがカウボーイ映画でした。

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正義感あふれるカウボーイを演じたウィリアム・S・ハート

数あるカウボーイ映画のなかでも、正義感が強い男を演じてスターになったのがウィリアム・S・ハートです。とくに1901年代から1920年代にかけて活躍しました。スターになるきっかけを作ったのがトーマス・H・インス。初期ハリウッド映画のプロデューサーとして知られた人物です。

実際のカウボーイは仕事がら荒くれものが多かったことは事実。しかし、ウィリアム・S・ハートが演じたカウボーイはまじめな性格。これは観客がカウボーイ映画を観ることによって悪い影響をうけないように配慮してのことでした。

やんちゃなカウボーイ精神を受け継ぐトム・ミックス

正義感あふれるウィリアム・S・ハートに対して、やんちゃなカウボーイを演じて人気をはくしたのがトム・ミックス。オクラホマのワイルド・ウェスト・ショウで馬術を披露していた時期もある、馬術の達人という一面もありました。

トム・ミックスは本物のカウボーイの生活、ファッション、馬術を再現することにこだわりました。スターとして多額のお金を得るようになると本物の牧場を購入。彼がでている映画のおおくは、実際にその牧場で撮影されたと言われています。

カウボーイファッションは現代に継承?

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現代の生活でカウボーイの歴史を感じ取ることができるのがファッション。ジーンズ、帽子、ベルト、ブーツなど、カウボーイを思わせるファッションは多岐にわたります。アメリカはもちろん日本にもカウボーイブームが到来するに至りました。

日本にカウボーイファッションを浸透させたのは映画やテレビ

日本でカウボーイファッションが大流行するきっかけとなったのが映画やテレビ。アメリカ映画やテレビシリーズを通じてカウボーイの世界観がお茶の間に浸透。それをうけて、日本人のカウボーイ映画が製作されはじめます。

とくに有名なものが石原裕次郎のシリーズ。「日活ウェスタン」と呼ばれる映画のなかで、カウボーイの恰好をした石原裕次郎が、西部のような高原で悪党と戦いました。さらにはカウボーイの恰好をして歌う流行歌が数多く生み出されます。

カウボーイファッションが大流行した1960年代

石原裕次郎をはじめ高倉健や小林旭などの大スターがカウボーイの役を演じたことで、そのファッションをマネする若者が急増。とくにジーンズは、戦後にアメリカ軍を通じて出回っていましたが、映画やテレビの人気により若者間に浸透するようになります。

当初ジーンズはアメリカからの輸入品が中心。しかし1960年代にはいると日本メーカーによる生産が開始されます。ジーンズが市場に出回ることで、それにあわせた靴、ベルト、帽子なども流通。日本にいながらにしてカウボーイファッションを楽しむことが可能になりました。

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アウトドアレジャーの基礎を作ったのがカウボーイ?

image by PIXTA / 22878424

現代の日本でも大人気のアウトドアレジャー。近年は気軽にキャンプを楽しめるようなアウトドア用品やレンタルシステムなどが発達しました。実はこうしたアウトドアレジャーの基礎の一部はカウボーイ文化にあると言われています。

コーヒーはマグカップを直接火にかけてつくる

カウボーイが愛した飲み物のひとつがコーヒー。牛の輸送中は気を抜けない時間が長く、眠気覚ましのコーヒーは必需品でした。しかし、西部開拓の時代に便利な家電はありません。そこでマグカップをそのまま火にかけて温めるスタイルでした。

コーヒーの作り方もカウボーイならでは。挽いたコーヒー豆をそのままマグカップに入れます。そこに水をいれて火にかけるというもの。この煮だしたコーヒーを飲みながら深夜の見張りをしていたと思われます。

カウボーイの必需品だったのがダッチオーブン

本格的なキャンプに興味がある人なら馴染みがあるだろうダッチオーブン。フタに炭火を載せられる金属製のなべのことです。上下で加熱できることから「オーブン」と呼ばれるようになりました。ちなみに「ダッチ」はイギリスのスラングで「~もどき」という意味だそうです。

カウボーイは牛の輸送をしているあいだダッチオーブンを携帯。焚火を使ってダッチオーブンの料理を作っていました。保存用の豆を煮こんだチリコンカンが定番料理。また牛を煮込んだ料理を作ることもありました。

カウボーイの文化は現代の生活に大きな影響を与えている

カウボーイはアメリカの歴史の一部で、西部開拓時代にあった仕事のジャンルです。しかし、映画やテレビドラマなどを通じて日本にもカウボーイ文化が浸透。カウボーイの生活やファッションに魅力を感じる日本人がたくさん出現しました。そうした経緯もあり、カウボーイ文化の名残といえようファッションやアウトドア用品が今日でも愛用されています。西部開拓時代のカウボーイは国も時代も異なりますが、実は私たちの生活とも密接にかかわっていることを意識すると、その歴史がより面白く感じられるはずです。

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西部開拓時代に活躍した「カウボーイ」の歴史と生活を元大学教員がわかりやすく解説!

先住民(インディアン)の風習を取り入れて発達したレシピも

カウボーイは牛を輸送しているあいだ、基本的に野外で生活することになります。そのため自分が食べるものも野外で料理。カウボーイ料理のひとつといわれるのが豆料理。保存がきくことから塩漬けのベーコンとともに輸送中の食料として重宝されていました。

もともと豆料理やトウモロコシ料理は、先住民(インディアン)の伝統的な料理のひとつ。そのほか、ぶつ切りの豪快な肉料理やジャガイモ料理も先住民の食文化から影響を受けたものでした。カウボーイのレシピは、先住民(インディアン)の食文化を参考にして作られたと考えられます。

カウボーイは馬術の達人?

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カウボーイと聞いたときにまず思い浮かぶのが馬に乗っている姿。アメリカ西部の広大な土地を馬に乗って自由自在に動き回る様子をイメージすると思います。実際、未開拓の地で大量の牛を輸送するなかで馬を操る技術はカウボーイになるための必須条件でした。

19世紀末にワイルド・ウェスト・ショウで見世物化された

カウボーイ=馬術の達人であることは、19世紀末にアメリカ西部で流行した「ワイルド・ウェスト・ショウ」の演出からも明らか。このショウには、白人と先住民の衝突の迫力ある再現のほかに、カウボーイの馬術を個々で披露する演目がありました。

なかには抜きんでた馬術を披露する人も。そうした演者は「本物のカウボーイ」として知名度をあげていきます。馬術を披露する様子が、世に出はじめたばかりの映画に記録され、興行プログラムの一部になることもありました。

ロデオはカウボーイ文化の名残

テレビのニュースなどで触れる機会もあるロデオ。この競技はもともとカウボーイの遊びから始まりました。カウボーイたちは、牛をかりあつめ、目的地まで輸送する長い旅をします。無事に牛を引き渡したあとの「打ち上げ」のような感じで、自慢の馬術を披露するようになりました。

当初は危険な技をくりひろげる「度胸試し」の要素が強かったとのこと。徐々にルールが定められるようになり、現在はプロスポーツ化されました。大会ではゴルフのように賞金が設定されています。そのためプロ選手はアメリカやカナダの各地をまわりながら、賞金獲得を目指しました。

カウボーイのイメージを定着させた映画スターとは?

20世紀にはいるとアメリカでは映画が大きな産業に成長します。西部開拓時代の記憶がまだ色濃く残っていた時期に人気を獲得したジャンルのひとつがカウボーイ映画でした。

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