今回は「慣性力」について解説していきます。「慣性の法則」ってのは知ってるな?他の記事で詳しく解説しているので参考にしてくれ。

今回は、うまく使えば問題を解くために非常に有効な「慣性力」について物理系ライターのタッケと解説します。

ライター/タッケ

物理学全般に興味をもつ理系ライター。理学の博士号を持つ。専門は物性物理関係。高校で物理を教えていたという一面も持つ。今回は慣性力について考えてみた。

慣性力とは

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「慣性の法則」をご存知ですね。下記の記事にて解説していますので、今一度読み直してください。

電車に乗っていると、電車が急加速したり、減速したときに体がぐらっとゆれますね。ひどいときには転びそうになります。しかし、等速で走っているときは、それがたとえ新幹線のような速い乗り物であっても特に不自由は感じませんよね。

今回はそんな、急加速したり急減速したりする電車の中につるされているおもりについて考えて見ましょう。

慣性の法則をわかりやすく解説

慣性の法則をわかりやすく解説

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おもりを電車の天井から糸でぶら下げます。電車が静止または等速直線運動している場合、おもりはまっすぐに垂れ下がったままです。このとき、おもりに働いている力は重力とおもりをつるしている糸の張力の二つのみだということはわかりますね。

電車が等速直線運動する場合、「電車内に乗っている人が見た場合」、「通り過ぎる電車をホームから見る人が見た場合」とで考えて見ます。

この場合、どちらの人も「おもりに働く二つの力がつりあっている」という解釈に違いはありません。電車が静止または等速直線運動しているときは、「慣性の法則」によりおもりに働く力がつりあっているはずだからです。

慣性の法則のいうように、物体に外部から力が働かないか、あるいは働いてもつりあっている場合、静止している物体は静止し続け、運動している物体は等速直線運動をする。

ここで注意することは等速直線運動についても、外部からの力が働かないか働いてもつりあっている場合は静止している場合と同じことが言えるということです。

加速する電車内ではどうか

加速する電車内ではどうか

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ここまでは、電車が静止または等速直線運動しているという前提でした。では、加速している車内ではどうでしょうか?電車が加速していく場合を考えます。皆さんも電車で経験があると思いますが、この場合、体は後ろに傾きますね。

電車内につるしたおもりも、後ろに傾くはずです。そうすると、図にあるようにおもりに働く重力と張力は一直線上には存在せず、つりあわなくなっています。さあ、この場合はどのようなことになるのでしょうか?力の関係を見ていきましょう。

\次のページで「プラットフォームにいる人から見ると?」を解説!/

プラットフォームにいる人から見ると?

プラットフォームにいる人から見ると?

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電車外から見ている人から考えて見ましょう。この場合、電車は加速運動していますから、当然、つるされているおもりも電車と同様に加速運動しています。

ここでニュートンの法則から第2法則をおさらいしましょう。物体に力が作用している場合はその力の方向に加速度を生じるのですね。その加速度の大きさは力の大きさに比例し、物体の質量に反比例します。

したがって、電車外から見る人にとって、電車内のおもりに働く力はつりあってはいけません。図の青い力(重力と張力の合力)が水平左方向に向くことで、電車内につるされたおもりにも水平左方向の加速度を与えていると解釈できるのです。

電車に乗っている人が見るとどうなるか?

電車に乗っている人が見るとどうなるか?

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あなたが電車内にいるとしましょう。このときは、おもりは電車内から見る人に対しては、傾いたまま静止しています。つまり、車内から見たときに物体が静止しているとして、つりあいで解いてしまおう!という工夫が慣性力なのです。

そのためにはどうするか?というと、図にあるように物体に右向きにつりあう力を考えてやります。そうすると、重力と張力、そして今考えた力の3力でつりあいとして考えることが可能ですね。車外から見たときの運動方程式は、おもりの質量m、加速度aとして

ma = F

です。このFは重力と張力の合力であることはお分かりでしょう。 これから

F - ma = 0

としてやると、つりあいの式に変化します。つまり、maという大きさの力をFと逆向きにかけてやるとつりあうよ。といっているわけです。

そこで、この大きさmaの力を慣性力と呼ぶことにします。また、ニュートン運動の第2法則から、Fと電車の加速度aの方向は一致しているはずですから、慣性力の方向はa(加速度)の方向とは必ず一直線上逆向きです。

つまり、加速する観測系において加速度と一直線上逆方向に maの大きさの力を考え、慣性力としたということになります。これは減速している場合についても同じようにいえるのです。

加速する電車の中の世界

加速する電車の中の世界

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加速する電車の中が、全てのものに対して常に慣性力が働く世界と考えると、もうひとつ常に働く力重力との合力を考えてみることができます。そうすると、加速する電車の中の人にとっては、この二つの合力の方向が「下」であると感じるはずです。

ではここで、問題を考えてみることにしましょう。加速する電車内でおもりをつるしている糸が切れたら、電車内の人から見た場合、おもりはどの方向に落ちていくでしょうか?

図の、1、2、3 から選んでみてください。答えは最後にお教えしますので考えてみてくださいね。すぐに答えを見ずに考えることがだいじですよ。

回転体における慣性力・・・遠心力とは

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こういった慣性力の考え方は回転運動する物体でも同じことが言えるのです。等速円運動する物体では加速度は中心へと向かいます。したがって、中心から外側に向けて、maという力を考えて慣性力とするのです。

これが、遠心力ですね。よく遠心力と向心力をごっちゃにしてしまっている人を見かけますが、よく理解しておいてください。

向心力は、等速円運動する物体をその外の静止系から見たときの力です。向心力は常に回転中心へ向かいます。したがって、ニュートンの第2法則により加速度が力の方向に存在し、その加速度方向は回転中心です。もちろん、運動方程式ma = Fに従います。遠心力とは、回転する物体とともに観測した場合の慣性力です。加速度方向と一直線上反対向きにmaの大きさで働きます。

よくできたSF映画では、上の画像にあるような宇宙ステーションは回転していますね。そのため、宇宙ステーション内部では回転中心から外側へ向かって慣性力が働きます。宇宙ステーション内で物を落とすと「下」方向である回転外側に向かって落ちていくのです。慣性力により、まるで地球にいるかのような擬似重力を感じさせてくれるのですね。

慣性力まとめ

慣性力は加速度と一直線上逆方向にmaという力を考えてやりましょう。問題ではいろいろなシチュエーションがありますが、全て同じに考えることができるのです。

慣性力の大きさはいつでもma(mは慣性力を受ける物体の質量)、方向は加速度と一直線上逆向き

慣性力の基本的な考えはここに書いたことでほぼ網羅しています。基本の理解が大事だということを忘れずに!がんばっていきましょう。

さて、問題の答えですが、2が正解です。重力と慣性力の合力が右斜め下を向くため、その方向が「下」となり物体は糸を離れた後は「下」にむかってまっすぐ落ちていきます。

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物理物理学・力学理科

3分で簡単にわかる「慣性力」!運動方程式も物理系ライターがわかりやすく解説

今回は「慣性力」について解説していきます。「慣性の法則」ってのは知ってるな?他の記事で詳しく解説しているので参考にしてくれ。

今回は、うまく使えば問題を解くために非常に有効な「慣性力」について物理系ライターのタッケと解説します。

ライター/タッケ

物理学全般に興味をもつ理系ライター。理学の博士号を持つ。専門は物性物理関係。高校で物理を教えていたという一面も持つ。今回は慣性力について考えてみた。

慣性力とは

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「慣性の法則」をご存知ですね。下記の記事にて解説していますので、今一度読み直してください。

電車に乗っていると、電車が急加速したり、減速したときに体がぐらっとゆれますね。ひどいときには転びそうになります。しかし、等速で走っているときは、それがたとえ新幹線のような速い乗り物であっても特に不自由は感じませんよね。

今回はそんな、急加速したり急減速したりする電車の中につるされているおもりについて考えて見ましょう。

慣性の法則をわかりやすく解説

慣性の法則をわかりやすく解説

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おもりを電車の天井から糸でぶら下げます。電車が静止または等速直線運動している場合、おもりはまっすぐに垂れ下がったままです。このとき、おもりに働いている力は重力とおもりをつるしている糸の張力の二つのみだということはわかりますね。

電車が等速直線運動する場合、「電車内に乗っている人が見た場合」、「通り過ぎる電車をホームから見る人が見た場合」とで考えて見ます。

この場合、どちらの人も「おもりに働く二つの力がつりあっている」という解釈に違いはありません。電車が静止または等速直線運動しているときは、「慣性の法則」によりおもりに働く力がつりあっているはずだからです。

慣性の法則のいうように、物体に外部から力が働かないか、あるいは働いてもつりあっている場合、静止している物体は静止し続け、運動している物体は等速直線運動をする。

ここで注意することは等速直線運動についても、外部からの力が働かないか働いてもつりあっている場合は静止している場合と同じことが言えるということです。

加速する電車内ではどうか

加速する電車内ではどうか

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ここまでは、電車が静止または等速直線運動しているという前提でした。では、加速している車内ではどうでしょうか?電車が加速していく場合を考えます。皆さんも電車で経験があると思いますが、この場合、体は後ろに傾きますね。

電車内につるしたおもりも、後ろに傾くはずです。そうすると、図にあるようにおもりに働く重力と張力は一直線上には存在せず、つりあわなくなっています。さあ、この場合はどのようなことになるのでしょうか?力の関係を見ていきましょう。

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