今回は万有引力の法則について解説していきます。
万有引力の法則は二つの物体の間に働く重力の大きさや向きを表す物理法則です。どんな物体にも働く力ですが、その実態がどのようになっているのか。

具体的な例を挙げながら、万有引力の法則について、理系ライターのひいらぎさんと一緒に解説していきます。

ライター/ひいらぎさん

10 年以上にわたり素粒子の世界に携わり続けている理系ライター。中でもニュートリノに強い興味を持っており、その不思議な性質を日夜追いかけている。今回は素粒子のような小さな物体にも働く万有引力の法則についてまとめた。

惑星の運動から導き出された万有引力の法則

image by PIXTA / 6308122

万有引力の法則は、1665年にイギリスの物理学アイザック・ニュートンによって発見されました。これは惑星の運動に関するケプラーの法則と呼ばれるものに運動方程式を用いることで導き出されます。力学的・数学的に惑星の運動を解明したことは、近代物理学の扉を開ける偉大な成果でした。では、そのケプラーの法則から万有引力の法則が導かれるまでの流れを見ていきましょう。

ケプラーの法則

image by PIXTA / 35699139

ケプラーの法則は、17世紀の前半にドイツの天文学者であるヨハネス・ケプラーによって発見された、惑星の運動に関する法則です。次の三つの法則から構成されています。

第一法則(楕円軌道の法則):惑星は、太陽を一つの焦点とした楕円軌道を描く。

第二法則(面積速度一定の法則):惑星と太陽を結ぶ線分(動径)が単位時間に掃く面積は一定である。

第三法則(調和の法則):惑星の公転周期の二乗は楕円軌道の半長軸の三乗に比例する。

第二法則の面積速度一定の法則は、他の第一、第三法則に比べると直感的には分かりづらいかもしれません。惑星と太陽を結ぶ線をまず考えてみます。ある時間だけ惑星が動くと、その直線が軌道に沿って扇型の面を作ることが想像できるでしょう。これが「惑星と太陽を結ぶ線分が掃く面積」となります。第二法則では、この面積が常に一定であることを示しており、その結果、惑星は太陽から遠いところでは遅く、近いところでは速く動くことが分かるのです。

運動方程式の適用

image by iStockphoto

では、ケプラーの法則に運動方程式を使っていきましょう。

まず問題を単純化するために、惑星と太陽の軌道は円運動である、と近似します。すると、ケプラーの第二法則から面積速度が一定となっているので、惑星は太陽の周りを一定の速度で円運動している、となりますね。円運動の際には向心力Fが惑星に働くので、惑星に運動方程式を適用すると次のような式が成り立ちます(mは惑星の質量、rは惑星の描く軌道の半径、ωは角運動量)。

F = mrω^2

惑星の角運動量ωは、円運動の周期(=公転周期)Tを使ってω=2π/Tと表すことが出来ます。これを上の式に代入してωを消すと力を表す式は

F=mr(4π^2)/T^2

となりました。ここで登場するのがケプラーの第三法則です。半長軸というのはこの場合、円運動の軌道の半径に等しいので、ケプラーの第三法則は数式で表現すると(kは比例定数)、

T^2 = kr^3

これをさらに力の式に用いることで、次のような式を得ることができます。

\次のページで「身近な万有引力の大きさ」を解説!/

F = K x (m/r^2)

ここでKはK = 4π^2/kとなる定数を表す。

この式の意味は「惑星に働く力は惑星の質量に比例し、太陽との距離の二乗に反比例する」ということです。

ここまでは太陽から見た立場で惑星の運動を表してきました。今度は逆の立場、惑星から見た太陽の運動を考えてみましょう。当然、惑星から太陽を観測すると、太陽の方が円運動をしているように映ります。したがって、先程と全く同じ数式が成り立つことが分かるでしょう。

すなわち「太陽に働く力は太陽の質量に比例し、惑星との距離の二乗に反比例する」ということです。

ニュートンの運動の法則から、太陽と惑星に働く力は互いに作用・反作用の関係になっているので、両者は等しくなります。その結果、惑星と太陽に働く力はどう解釈されるかというと、次のようになり、まさしく万有引力の法則となるのです。

惑星と太陽の間に働く力は、太陽の質量と惑星の質量に同時に比例し、両者の間の距離の二乗に反比例する。これを数式で示すと、次のようなの形になる(Gは重力定数、Mは太陽の質量、mは惑星の質量、rは惑星と太陽の間の距離)。

F = GMm/r^2

G = 6.674x10^-11 (m^3 kg^-1 s^-2)

ニュートンはこの法則が、惑星の間だけではなく、質量を持った全ての物体に対して成立する、と考えました。そのため、この法則には「万有」という言葉が付いています。

身近な万有引力の大きさ

ここからは、万有引力がどのくらいの大きさを持っているのか、について具体的な数値を使いながら見ていきます。多くの数字が出てきますが、使う数式は万有引力の法則だけなので、電卓などを駆使して計算していきましょう。実際に手を動かすことで、より理解も深まっていくと思います。

\次のページで「太陽と地球の間に働く万有引力」を解説!/

太陽と地球の間に働く万有引力

image by PIXTA / 43392871

一つ目の例として、太陽と地球の間にどれくらいの引力が働いているのか、見ていきましょう。

太陽の質量は1.989x10^30 kgで、地球の質量は5.974x10^24 kgです。スイカの重さが約5kgなので、地球はスイカ1?個(1億の1億倍の1億倍)の重さに相当します。太陽はさらにその100万倍と、途方もない重さです。

さて、この値を万有引力の法則に代入していきましょう。太陽と地球の間の距離は、1.496x10^11 m(約1億5000万km)なので、万有引力の大きさは

F = 3.544x10^22 N

Nは力の大きさの単位で「ニュートン」と呼びます。この力はどれくらいの大きさなのでしょうか。自動車のエンジンの持つ力が約4.5x10^4 Nと言われます。なので、太陽と地球の間では、100京台(1兆の10万倍)の自動車がロープを引き合っているのと同じ状態になっているのです。

人と人の間にも万有引力は働いている

image by PIXTA / 41930163

二つ目の例として、人と人の間に働く万有引力を考えてみましょう。万有引力の法則なので、当然、人間にもその法則は当てはまります。

学校の教室で二人の生徒が並んで座っている場面を想像してみてください。どちらの生徒の体重も40kgで、二人の間の距離は60wp_とします。ここに万有引力の法則を適用すると、二人の間に働く力は

F = 2.966x10^-7 N

となりました。1Nはおおよそ100gの重さの物体に働く重力と等しい値です。二人の間に働く引力はその1000万分の1となるので、砂粒1つに働く重力と同程度となります。

このように、日常生活で引力を感じないのは、大きさが気にならないほど小さいためだと分かりますね。

単純だが奥が深い、万有引力の法則

万有引力の法則は惑星の運動だけではなく、質量を持った全ての物体の間に働く力を記述する基本的な物理法則です。現在では重力の姿が、アインシュタインの相対性理論によって明らかにされましたが、人が生活するスケールに限れば、この万有引力の法則で身の回りの物理事象を説明することができます。数式も単純な形をしているので、様々なものの間に働く引力を計算してみるのも面白いでしょう。

" /> 質量を持つ全ての物体に働く「万有引力の法則」について元理系大学教員が分かりやすくわかりやすく解説 – Study-Z
物理物理学・力学理科

質量を持つ全ての物体に働く「万有引力の法則」について元理系大学教員が分かりやすくわかりやすく解説

今回は万有引力の法則について解説していきます。
万有引力の法則は二つの物体の間に働く重力の大きさや向きを表す物理法則です。どんな物体にも働く力ですが、その実態がどのようになっているのか。

具体的な例を挙げながら、万有引力の法則について、理系ライターのひいらぎさんと一緒に解説していきます。

ライター/ひいらぎさん

10 年以上にわたり素粒子の世界に携わり続けている理系ライター。中でもニュートリノに強い興味を持っており、その不思議な性質を日夜追いかけている。今回は素粒子のような小さな物体にも働く万有引力の法則についてまとめた。

惑星の運動から導き出された万有引力の法則

image by PIXTA / 6308122

万有引力の法則は、1665年にイギリスの物理学アイザック・ニュートンによって発見されました。これは惑星の運動に関するケプラーの法則と呼ばれるものに運動方程式を用いることで導き出されます。力学的・数学的に惑星の運動を解明したことは、近代物理学の扉を開ける偉大な成果でした。では、そのケプラーの法則から万有引力の法則が導かれるまでの流れを見ていきましょう。

ケプラーの法則

image by PIXTA / 35699139

ケプラーの法則は、17世紀の前半にドイツの天文学者であるヨハネス・ケプラーによって発見された、惑星の運動に関する法則です。次の三つの法則から構成されています。

第一法則(楕円軌道の法則):惑星は、太陽を一つの焦点とした楕円軌道を描く。

第二法則(面積速度一定の法則):惑星と太陽を結ぶ線分(動径)が単位時間に掃く面積は一定である。

第三法則(調和の法則):惑星の公転周期の二乗は楕円軌道の半長軸の三乗に比例する。

第二法則の面積速度一定の法則は、他の第一、第三法則に比べると直感的には分かりづらいかもしれません。惑星と太陽を結ぶ線をまず考えてみます。ある時間だけ惑星が動くと、その直線が軌道に沿って扇型の面を作ることが想像できるでしょう。これが「惑星と太陽を結ぶ線分が掃く面積」となります。第二法則では、この面積が常に一定であることを示しており、その結果、惑星は太陽から遠いところでは遅く、近いところでは速く動くことが分かるのです。

運動方程式の適用

image by iStockphoto

では、ケプラーの法則に運動方程式を使っていきましょう。

まず問題を単純化するために、惑星と太陽の軌道は円運動である、と近似します。すると、ケプラーの第二法則から面積速度が一定となっているので、惑星は太陽の周りを一定の速度で円運動している、となりますね。円運動の際には向心力Fが惑星に働くので、惑星に運動方程式を適用すると次のような式が成り立ちます(mは惑星の質量、rは惑星の描く軌道の半径、ωは角運動量)。

F = mrω^2

惑星の角運動量ωは、円運動の周期(=公転周期)Tを使ってω=2π/Tと表すことが出来ます。これを上の式に代入してωを消すと力を表す式は

F=mr(4π^2)/T^2

となりました。ここで登場するのがケプラーの第三法則です。半長軸というのはこの場合、円運動の軌道の半径に等しいので、ケプラーの第三法則は数式で表現すると(kは比例定数)、

T^2 = kr^3

これをさらに力の式に用いることで、次のような式を得ることができます。

\次のページで「身近な万有引力の大きさ」を解説!/

次のページを読む
1 2 3
Share: