
量子力学の内包するパラドックス「シュレディンガーの猫」を元理系大学教員がわかりやすく解説
シュレディンガーの猫は、量子力学の持っている確率解釈を批判した思考実験です。今日では様々なメディアでも形を変えながら登場するなど、多くの人に知られたパラドックスの代表例でもある。
ではその内容についてシュレディンガーの猫に詳しいライター、ひいらぎさんと一緒に解説していきます。

ライター/ひいらぎさん
10 年以上にわたり素粒子の世界に携わり続けている理系ライター。中でもニュートリノに強い興味を持っており、その不思議な性質を日夜追いかけている。今回は量子力学の内包する矛盾点を指摘したシュレディンガーの猫についてまとめた。
量子力学と共に生まれたシュレディンガーの猫

「シュレディンガーの猫」という言葉を、きっと誰もが一度は耳にしたことがあることでしょう。これは、オーストリアの物理学者エルヴィン・シュレディンガーが1935年に量子力学の矛盾点や未完成である点を指摘するために発表した思考実験です。
しかし、今ではシュレディンガーの目的としていた批判以上に、量子力学が持っている特異な部分を際立たせる例え話と広く知られるようになっています。
では、その内容がどのようなものなのか、量子力学の成り立ちからシュレディンガーの猫の登場まで、順を追って見ていきましょう。
量子力学はミクロの世界を描く

量子力学(または量子論とも呼ばれます)は、電子や原子といった目に見えないほど小さな粒子が起こす物理現象を説明する力学体系です。
1900年代は実験の技術が進み、これまで観察することのできなかった領域に科学者たちは足を踏み入れていきました。すると、ニュートンの作った古典力学だけでは上手く理解できない現象が、次々に発見されていきます。量子力学はそのような時代に生まれた学問です。同時期にはアインシュタインの相対論も発表されました。現在、量子力学と相対論は現代物理学の二本柱として、あらゆる理論の土台となっています。
量子力学の始まりは、シュレディンガーが波動方程式と呼ばれる方程式を発見したことでした。これにより、粒子の状態が確率的に決めることができるようになりました。「確率的に」というのは、粒子が今どこにいてどの向きに運動しているのかといった情報が確率として記述できる、ということです。
しかしこの「確率的にしか決められない」という結果は、当時の物理学者たちにとって、受け入れがたいものでした。
シュレディンガーによる思考実験
当時の物理学では、量子力学が粒子の状態を確率的にしか予測できないことは、まだ量子力学が未完成であるためだと思われました。それまでの物理学は、決定論と呼ばれるものに基づいています。決定論とは、最初の条件を決めればその後の状態や運動の様子は運動方程式などの物理法則によって完全に予測できる、というものです。もし仮に想定と違った結果が得られれば、それは前提としていた条件や法則が間違っていたことになります。
しかし様々な実験などで、粒子のようなミクロの世界を観測した時、粒子の状態は未確定で色々な状態が混ざり合っており(量子力学ではこれを「重ね合わせ」と呼びます)、観測することで初めてその状態が決定される、ということが実証されはじめました。
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