今回はフックの法則について解説していきます。

フックの法則って、あの、バネを伸ばしたり縮めたりするときの法則です。こりゃー地味な法則だとみんな思ったんじゃないかな。ところがどうして、なかなか奥の深いところもあるようだぜ。この法則について物理系ライターのタッケさんと解説します。

ライター/タッケ

物理学全般に興味をもつ理系ライター。理学の博士号を持つ。専門は物性物理関係。高校で物理を教えていたという一面も持つ。今回は地味な感じのする「フックの法則」について考えてみた。

ロバートフック

HookeFlea01.jpg
By Robert Hooke (1635–1703) - This image is available from the National Library of Wales, パブリック・ドメイン, Link

ロバート・フックという人をご存知ですか?一応、歴史に名を残す大科学者なのですが、同時代の大科学者アイザック・ニュートンの陰に隠れてあまり知られていないようです。

彼の名声は、顕微鏡の発明でも良く知られています。フックは「ミクログラフィア」を1665年に出版しました。その中には顕微鏡で観察した昆虫などが驚くほど精密な図で描かれています。最初にあげたのみの絵はフック自身によるものです。その精緻さに驚きますね。

また彼は、レオナルドダヴィンチに並び称されるほどの人物で、その興味は物理学、生物学、天文学、建築学など多岐にわたりました。

ところが、どうしたわけか彼はその業績ほどに有名とはいえない一面があります。その理由にニュートンとの確執があったのでは?というのは科学史において有名な話です。

フックと確執のあったニュートンがその権力を使って、フックの業績はおろか肖像画までも葬り去ったのでは?といわれています。そのためかどうかはわかりませんが、フックの肖像画は現在ではほとんど残されていないようです。

まあ、この科学者の名前を冠したフックの法則は中学校でも扱うので、みなさん一度は目にあるいは耳にしたことがあると思います。もちろん高等学校物理でも習いますね。

フックの法則

image by iStockphoto

それではさっそく、フックの法則を見てみましょう。

・バネの弾性力の大きさは、バネの自然長からの伸び(縮み)の長さに比例する。

と、これだけです。

もちろん、フックの法則はバネが伸びきってしまったり、縮みすぎてしまうということがない範囲において成立します。
またここで、バネの自然長とは、バネに対して力やおもりなどの負荷を与えない状態でのバネの長さのことです。

image by Study-Z編集部

図にあるように自然長であるバネを伸ばしたり縮めたりすることで弾性力が生まれるのです。基本的にはバネは押しても縮めてもそのときに働く力は同じ法則に従います。

フックの法則は、バネの自然長からの伸び(縮み)の長さを x とした場合、そのバネの引く(押す)弾性力の大きさ F は x に比例するといっているだけです。

つまり、式で表現すると、
F = kx
ここで、k をバネ定数といいます。
このバネ定数はバネの固さなどの特徴を表すもので、当然バネごとに違った値をとるものです。

バネ定数とは

バネ定数 k は、バネにより違う値をとります。
フックの法則から

 

image by Study-Z編集部

と示されますね。
つまり、バネ定数 k は、バネを単位長さ伸ばす(縮める)ために必要な力を表しています。単位でいうと、1 m 伸ばす(縮める)のに何N(ニュートン)必要か?という意味になるのです。

ということは、バネ定数 k が大きければ大きいほど伸ばしたり縮めたりするのに大きな力が必要であり、固いバネということができます。

フックの法則を単なるバネと力の関係を表したものだと思っている人は多いはずです。
「あまり高級な式ではないな」、とか、「こんな簡単な法則で歴史に名を残していいな・・・」などと感じる人もいるかもしれません。

しかし、フック自身はそこまで想定はしていなかったでしょうが、この法則は実はいろいろなところで見られるものなのです。

例をひとつあげると、分子において、その振動する振る舞いがフックの法則にほぼ従っているということがわかっています。例えば、水は酸素原子1個に水素原子が2個くっついた構造をしていることはご存知ですね。この水素原子と酸素原子はお互いにバネでつながれているのと同様な振る舞いをするのです。

image by Study-Z編集部

水分子は外部からのエネルギーを受け取るとこのバネ部分が振動してさまざまな振る舞いをすることがわかっています。図の水分子を指でぱちんとはじくのを想像してみてください。いろいろな動き方をするのがわかりますね。

どうも、ただのバネの法則というわけではなさそうです。現代ではこのことを利用して赤外分光、ラマン分光などといった分光学に応用されています。

フックの法則とバネのエネルギー

最後に、バネを自然長から x だけ伸ばす(縮める)のに必要な仕事 W を求めましょう。言い換えるならバネが x だけ伸びて(縮んで)いるときにバネが蓄えている位置エネルギー ともいえます。

物理における仕事 W は W = Fx で示されます(仕事の詳しい話については他の記事を参照してください)。図において、Fx とはうすい赤で示される四角形の面積を意味することはおわかりですね(たて X よこ)。

\次のページで「フックの法則は単純だが奥が深い」を解説!/

image by Study-Z編集部

では、バネを x だけ伸ばす(縮める)のに必要な仕事も Fx でしょうか?
いえ、この Fx の F は力ですが、バネを引く力 F は刻々と変化しますね。なので単純にかけるだけではいけません。

グラフを見ていただくとわかるように、F はフックの法則に従うのです。
そのため、この場合の仕事はうすい赤で示される三角形の面積になります。

image by Study-Z編集部

であるので、仕事 W は x 伸ばしたときに働く力が F だったとき、

image by Study-Z編集部

となります。ここにフックの法則の式 F = kx を代入してやりましょう。

image by Study-Z編集部

となることがお分かりでしょうか。バネの x だけ伸びている(縮んでいる)ときのエネルギーはこうして計算されるのです。もちろん、エネルギー保存則に従います。

フックの法則は単純だが奥が深い

フックの法則は
バネは伸ばせば伸ばすほど(縮めれば縮めるほど)力が要って、それはバネを伸ばす(縮める)長さに単純比例している。
という単純な話ですが、きっと当時は大発見だったのでしょう。この法則に従って携帯型のぜんまい時計が開発されるようになったといいます。

後から結果だけを見るとやさしそうに見える法則でも、当時の科学者たちはきっと四苦八苦したに違いありません。その影には、たゆまない努力と好奇心があったはずです。この式を丸暗記して使うだけでは、物理の面白さもわからないのではないでしょうか。理論的な背景を大事にしたいものです。

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物理物理学・力学理科

「フックの法則」って?物理系ライターが考察する「フックの法則」とは

今回はフックの法則について解説していきます。

フックの法則って、あの、バネを伸ばしたり縮めたりするときの法則です。こりゃー地味な法則だとみんな思ったんじゃないかな。ところがどうして、なかなか奥の深いところもあるようだぜ。この法則について物理系ライターのタッケさんと解説します。

ライター/タッケ

物理学全般に興味をもつ理系ライター。理学の博士号を持つ。専門は物性物理関係。高校で物理を教えていたという一面も持つ。今回は地味な感じのする「フックの法則」について考えてみた。

ロバートフック

HookeFlea01.jpg
By Robert Hooke (1635–1703) – This image is available from the National Library of Wales, パブリック・ドメイン, Link

ロバート・フックという人をご存知ですか?一応、歴史に名を残す大科学者なのですが、同時代の大科学者アイザック・ニュートンの陰に隠れてあまり知られていないようです。

彼の名声は、顕微鏡の発明でも良く知られています。フックは「ミクログラフィア」を1665年に出版しました。その中には顕微鏡で観察した昆虫などが驚くほど精密な図で描かれています。最初にあげたのみの絵はフック自身によるものです。その精緻さに驚きますね。

また彼は、レオナルドダヴィンチに並び称されるほどの人物で、その興味は物理学、生物学、天文学、建築学など多岐にわたりました。

ところが、どうしたわけか彼はその業績ほどに有名とはいえない一面があります。その理由にニュートンとの確執があったのでは?というのは科学史において有名な話です。

フックと確執のあったニュートンがその権力を使って、フックの業績はおろか肖像画までも葬り去ったのでは?といわれています。そのためかどうかはわかりませんが、フックの肖像画は現在ではほとんど残されていないようです。

まあ、この科学者の名前を冠したフックの法則は中学校でも扱うので、みなさん一度は目にあるいは耳にしたことがあると思います。もちろん高等学校物理でも習いますね。

フックの法則

image by iStockphoto

それではさっそく、フックの法則を見てみましょう。

・バネの弾性力の大きさは、バネの自然長からの伸び(縮み)の長さに比例する。

と、これだけです。

もちろん、フックの法則はバネが伸びきってしまったり、縮みすぎてしまうということがない範囲において成立します。
またここで、バネの自然長とは、バネに対して力やおもりなどの負荷を与えない状態でのバネの長さのことです。

image by Study-Z編集部

図にあるように自然長であるバネを伸ばしたり縮めたりすることで弾性力が生まれるのです。基本的にはバネは押しても縮めてもそのときに働く力は同じ法則に従います。

フックの法則は、バネの自然長からの伸び(縮み)の長さを x とした場合、そのバネの引く(押す)弾性力の大きさ F は x に比例するといっているだけです。

つまり、式で表現すると、
F = kx
ここで、k をバネ定数といいます。
このバネ定数はバネの固さなどの特徴を表すもので、当然バネごとに違った値をとるものです。

バネ定数とは

バネ定数 k は、バネにより違う値をとります。
フックの法則から

 

image by Study-Z編集部

と示されますね。
つまり、バネ定数 k は、バネを単位長さ伸ばす(縮める)ために必要な力を表しています。単位でいうと、1 m 伸ばす(縮める)のに何N(ニュートン)必要か?という意味になるのです。

ということは、バネ定数 k が大きければ大きいほど伸ばしたり縮めたりするのに大きな力が必要であり、固いバネということができます。

フックの法則を単なるバネと力の関係を表したものだと思っている人は多いはずです。
「あまり高級な式ではないな」、とか、「こんな簡単な法則で歴史に名を残していいな・・・」などと感じる人もいるかもしれません。

しかし、フック自身はそこまで想定はしていなかったでしょうが、この法則は実はいろいろなところで見られるものなのです。

例をひとつあげると、分子において、その振動する振る舞いがフックの法則にほぼ従っているということがわかっています。例えば、水は酸素原子1個に水素原子が2個くっついた構造をしていることはご存知ですね。この水素原子と酸素原子はお互いにバネでつながれているのと同様な振る舞いをするのです。

image by Study-Z編集部

水分子は外部からのエネルギーを受け取るとこのバネ部分が振動してさまざまな振る舞いをすることがわかっています。図の水分子を指でぱちんとはじくのを想像してみてください。いろいろな動き方をするのがわかりますね。

どうも、ただのバネの法則というわけではなさそうです。現代ではこのことを利用して赤外分光、ラマン分光などといった分光学に応用されています。

フックの法則とバネのエネルギー

最後に、バネを自然長から x だけ伸ばす(縮める)のに必要な仕事 W を求めましょう。言い換えるならバネが x だけ伸びて(縮んで)いるときにバネが蓄えている位置エネルギー ともいえます。

物理における仕事 W は W = Fx で示されます(仕事の詳しい話については他の記事を参照してください)。図において、Fx とはうすい赤で示される四角形の面積を意味することはおわかりですね(たて X よこ)。

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