今回は慣性の法則について解説していきます。

慣性の法則は物理学を学ぶ上で初期の段階で登場する重要な概念です。有名なニュートンの3法則のひとつだというのは知っているな?実はこの「慣性の法則」はなかなかに面白く、また手ごわいのですが、物理に詳しく、理学の博士号も持つライターのタッケさんと一緒に解説していきます。

ライター/タッケ

物理学全般に興味をもつ理系ライター。理学の博士号を持つ。専門は物性物理関係。高校で物理を教えていたという一面も持つ。今回は慣性の法則について考えてみた。

慣性の法則ってなんだろう

STS007-32-1702.jpg
By NASA - http://spaceflight.nasa.gov/gallery/, パブリック・ドメイン, Link

物理を学び始めてすぐに「慣性」という専門用語が出てきます。なんとなく知っているようで、よくよく考えるとわからなかった、という人もいるかもしれません。

それそもそのはず、物理では歴史上、こういった基本概念獲得にいたるだけでも数百年単位の時間がかかってることも多いのです。本ではそのような概念がいきなり出てきて、しかも説明が数行などということも・・・。そういったことが物理を難しく感じさせるひとつの原因であるかもしれません。

さて、本題に入りましょう。「慣性」という言葉は日常生活ではあまり使わない言葉ですね。ニュートンの有名な運動の3法則の中に、第1法則「慣性の法則」というのがあります。

この慣性の法則はどのように表現されているかちょっと見てみましょう。

慣性の法則

物体に外部から力が働かないか、あるいは働いてもつりあっている場合、静止している物体は静止し続け、運動している物体は永遠に等速直線運動をする。

ちなみに、残りの二つの法則は
第2法則  運動方程式・・・物体に働く力と質量、加速度の関係をあらわす
第3法則  作用反作用の法則
となっています。

永遠に等速直線運動するのか

image by iStockphoto

慣性の法則
物体に外部から力が働かないか、あるいは働いてもつりあっている場合、静止している物体は静止し続け、運動している物体は永遠に等速直線運動をする。

ここで、外部から力が働かなければ、止まっているのは理解できますね。しかし、運動している場合は本当に永遠に等速直線運動するのか?と思いませんでしたか。

子供のころ、ミニカーで遊んだとき、押すのをやめるとミニカーはすぐ止まったことを思い出しますよね。それなら、等速直線運動するためにはずっと一定の力で押す必要があるのではないでしょうか?

初めて慣性の法則を学習した人たちは、この法則にとても違和感を抱くに違いないでしょう。アリストテレスが言うように、物体が等速運動するためには力が必要なのだと、日常生活の経験から感じるのが普通の感覚だからです。

物体に働く力にはどんなものがあるのか

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ミニカーを題材に、ミニカーに働く力を考えてみましょう。

あなたが今、ミニカーを押しているとして、そのときミニカーの動く方向には、
1. あなたがミニカーを押す力
2. 摩擦力
が考えられます。しかし、この摩擦力とは何でしょうか?だれが力を働かせているのでしょうか?

摩擦力はミニカーと床の間に働いて、その力の方向はこの場合、運動方向とは真逆の向きです。今日では摩擦力というと、たいていの人がそうか、と納得しますが、昔はこの概念もかなり難しいものだったに違いありません。なにしろ、摩擦力が目に見えないものだったからです。

ミニカーを押す力と摩擦力の2力を考える場合、これらの2力はお互いに打ち消しあうことでつりあいの状態にあることになります。なぜならば、摩擦力はこの場合、運動方向とは逆の一直線上逆の方向に働くからです。

これらの2力がつりあうことで実質的に物体に働く力は打ち消しあうため、慣性の法則を満たしています。ですから、もしミニカーを押すのをやめると、摩擦力は運動と反対方向に働いているため、ニュートン運動の第2法則にしたがってミニカーは減速し、やがて止まるのです。

つまり、力が働いてもつりあっている状態ではその力は相殺されて0となり、働かないのと同じなのだということになります。

等速直線運動する新幹線・宇宙船

image by iStockphoto

新幹線が時速260kmで直線の線路上を等速で運行している場合を考えましょう。このとき、等速直線運動をしているわけですから慣性の法則が適用されるはずです。

1.新幹線の動力
2.新幹線にかかる抵抗力

これらの力が釣り合っているために新幹線は等速直線運動をし続けます。このように、見事に慣性の法則を満たしているのです。つまり、力が働いてもつりあっている場合、永遠に等速直線運動を続ける、ということですね。

この場合、新幹線が前に進む動力を緩めると減速しますが、これは動力<抵抗力となるためです。この場合は、ニュートンの運動の第2法則にしたがって加速運動を行います。

ついでに、新幹線が等速直線運動をしている場合、動力=抵抗力なので抵抗力が小さいほど動力も少なくて済むため省エネなどにつながることになるのがお分かりでしょう。

また、抵抗の全く無い宇宙空間などを運動する宇宙船を考えてみます。宇宙船を一度加速して、エンジンを止めましょう。そうすると、宇宙船には全く力がかからない状態になりますから、あとは宇宙空間を永遠に等速直線運動するのです。たとえ、宇宙船の速さが光速の90パーセントというような非常な速さでも、あとはほうっておいても等速直線運動を永遠に続けます。

また、等速直線運動する新幹線の車内や、高速でで宇宙空間を飛ぶ飛行船の内部では、物理法則的にはそれが静止しているときと変わることはありません。等速直線運動の状態というのは、物理法則的には静止とかわらないのです。

ガリレオの思考実験

ガリレオの思考実験

image by Study-Z編集部

ガリレオ・ガリレイは次のような思考実験を行い、ニュートンの前に慣性の法則の概念に到達していました。ただし、完成を見るのはニュートンにおいてです。

摩擦の無い斜面を考えてボールを転がします。ボールはやがて、元と同じ高さにまであがって一瞬止まるでしょう。次に、レールを延長してやりましょう。少し延長しても、摩擦が無いとした場合、やはりボールは元と同じ高さにまであがって止まりますね。

では、このレールを無限遠に延長してやると、ボールはどこまでも転がっていくのではないか?というのが彼の考えです。

つまり、物体に力が働かない場合、物体はどこまでも等速運動をするに違いない、と結論しました。

\次のページで「慣性とは」を解説!/

慣性とは

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「慣性」という言葉についてもう少し考えて見ましょう。

ここまで考えてきたように、物体をその運動状態を変化させる(静止から動かす、等速直線運動から加速・減速する)場合には物体に働く力の釣り合いを破る必要があります。

もし、力の釣り合いが破られれば、大きい力の方向へ加速運動することはニュートン運動の第2法則の示すところです。

このとき、その加速度の大きさは、物体の質量に反比例します。具体的にいえば、質量の大きいものは同じ力でも加速度は小さくなるということですね。

つまり、質量が大きいものはその運動状態を変えにくいということになります。そこで、物体がその運動状態を変える、その変えにくさを慣性と呼び、この質量のことを慣性質量と呼ぶのです。

革命的な慣性の法則

慣性の法則はそれまでのアリストテレス的な自然観を打ち壊す革命的な理論だったのです。当時、人々は物体を押すのをやめると止まる、という自然観察から誤った理解をしていました。しかし、ニュートンが慣性の法則という法則を発表し、その古い考え方を打ち壊したのです。

当時まだ、古い考え方や宗教的な考えにとらわれていた時代に、このような卓越した自然観に到達したニュートンの非凡さが伺えます。

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物理物理学・力学理科

不思議?「慣性の法則」を博士号を持つ物理系ライターがわかりやすく解説

今回は慣性の法則について解説していきます。

慣性の法則は物理学を学ぶ上で初期の段階で登場する重要な概念です。有名なニュートンの3法則のひとつだというのは知っているな?実はこの「慣性の法則」はなかなかに面白く、また手ごわいのですが、物理に詳しく、理学の博士号も持つライターのタッケさんと一緒に解説していきます。

ライター/タッケ

物理学全般に興味をもつ理系ライター。理学の博士号を持つ。専門は物性物理関係。高校で物理を教えていたという一面も持つ。今回は慣性の法則について考えてみた。

慣性の法則ってなんだろう

STS007-32-1702.jpg
By NASA – http://spaceflight.nasa.gov/gallery/, パブリック・ドメイン, Link

物理を学び始めてすぐに「慣性」という専門用語が出てきます。なんとなく知っているようで、よくよく考えるとわからなかった、という人もいるかもしれません。

それそもそのはず、物理では歴史上、こういった基本概念獲得にいたるだけでも数百年単位の時間がかかってることも多いのです。本ではそのような概念がいきなり出てきて、しかも説明が数行などということも・・・。そういったことが物理を難しく感じさせるひとつの原因であるかもしれません。

さて、本題に入りましょう。「慣性」という言葉は日常生活ではあまり使わない言葉ですね。ニュートンの有名な運動の3法則の中に、第1法則「慣性の法則」というのがあります。

この慣性の法則はどのように表現されているかちょっと見てみましょう。

慣性の法則

物体に外部から力が働かないか、あるいは働いてもつりあっている場合、静止している物体は静止し続け、運動している物体は永遠に等速直線運動をする。

ちなみに、残りの二つの法則は
第2法則  運動方程式・・・物体に働く力と質量、加速度の関係をあらわす
第3法則  作用反作用の法則
となっています。

慣性の法則
物体に外部から力が働かないか、あるいは働いてもつりあっている場合、静止している物体は静止し続け、運動している物体は永遠に等速直線運動をする。

ここで、外部から力が働かなければ、止まっているのは理解できますね。しかし、運動している場合は本当に永遠に等速直線運動するのか?と思いませんでしたか。

子供のころ、ミニカーで遊んだとき、押すのをやめるとミニカーはすぐ止まったことを思い出しますよね。それなら、等速直線運動するためにはずっと一定の力で押す必要があるのではないでしょうか?

初めて慣性の法則を学習した人たちは、この法則にとても違和感を抱くに違いないでしょう。アリストテレスが言うように、物体が等速運動するためには力が必要なのだと、日常生活の経験から感じるのが普通の感覚だからです。

物体に働く力にはどんなものがあるのか

image by iStockphoto

ミニカーを題材に、ミニカーに働く力を考えてみましょう。

あなたが今、ミニカーを押しているとして、そのときミニカーの動く方向には、
1. あなたがミニカーを押す力
2. 摩擦力
が考えられます。しかし、この摩擦力とは何でしょうか?だれが力を働かせているのでしょうか?

摩擦力はミニカーと床の間に働いて、その力の方向はこの場合、運動方向とは真逆の向きです。今日では摩擦力というと、たいていの人がそうか、と納得しますが、昔はこの概念もかなり難しいものだったに違いありません。なにしろ、摩擦力が目に見えないものだったからです。

ミニカーを押す力と摩擦力の2力を考える場合、これらの2力はお互いに打ち消しあうことでつりあいの状態にあることになります。なぜならば、摩擦力はこの場合、運動方向とは逆の一直線上逆の方向に働くからです。

これらの2力がつりあうことで実質的に物体に働く力は打ち消しあうため、慣性の法則を満たしています。ですから、もしミニカーを押すのをやめると、摩擦力は運動と反対方向に働いているため、ニュートン運動の第2法則にしたがってミニカーは減速し、やがて止まるのです。

つまり、力が働いてもつりあっている状態ではその力は相殺されて0となり、働かないのと同じなのだということになります。

等速直線運動する新幹線・宇宙船

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新幹線が時速260kmで直線の線路上を等速で運行している場合を考えましょう。このとき、等速直線運動をしているわけですから慣性の法則が適用されるはずです。

1.新幹線の動力
2.新幹線にかかる抵抗力

これらの力が釣り合っているために新幹線は等速直線運動をし続けます。このように、見事に慣性の法則を満たしているのです。つまり、力が働いてもつりあっている場合、永遠に等速直線運動を続ける、ということですね。

この場合、新幹線が前に進む動力を緩めると減速しますが、これは動力<抵抗力となるためです。この場合は、ニュートンの運動の第2法則にしたがって加速運動を行います。

ついでに、新幹線が等速直線運動をしている場合、動力=抵抗力なので抵抗力が小さいほど動力も少なくて済むため省エネなどにつながることになるのがお分かりでしょう。

また、抵抗の全く無い宇宙空間などを運動する宇宙船を考えてみます。宇宙船を一度加速して、エンジンを止めましょう。そうすると、宇宙船には全く力がかからない状態になりますから、あとは宇宙空間を永遠に等速直線運動するのです。たとえ、宇宙船の速さが光速の90パーセントというような非常な速さでも、あとはほうっておいても等速直線運動を永遠に続けます。

また、等速直線運動する新幹線の車内や、高速でで宇宙空間を飛ぶ飛行船の内部では、物理法則的にはそれが静止しているときと変わることはありません。等速直線運動の状態というのは、物理法則的には静止とかわらないのです。

ガリレオの思考実験

ガリレオの思考実験

image by Study-Z編集部

ガリレオ・ガリレイは次のような思考実験を行い、ニュートンの前に慣性の法則の概念に到達していました。ただし、完成を見るのはニュートンにおいてです。

摩擦の無い斜面を考えてボールを転がします。ボールはやがて、元と同じ高さにまであがって一瞬止まるでしょう。次に、レールを延長してやりましょう。少し延長しても、摩擦が無いとした場合、やはりボールは元と同じ高さにまであがって止まりますね。

では、このレールを無限遠に延長してやると、ボールはどこまでも転がっていくのではないか?というのが彼の考えです。

つまり、物体に力が働かない場合、物体はどこまでも等速運動をするに違いない、と結論しました。

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