今回は光電効果について解説していきます。
光電効果は金属などに光が当たると電子が飛び出してくる現象です。今ではよく理解され、様々な形で利用されている物理現象なのですが、実は発見当時の常識では説明が困難だったんです。

では、具体的にどういったものなのか、光電効果に詳しいライター、ひいらぎさんと一緒に解説していきます。

ライター/ひいらぎさん

10 年以上にわたり素粒子の世界に携わり続けている理系ライター。中でもニュートリノに強い興味を持っており、その不思議な性質を日夜追いかけている。今回は量子力学が発展するきっかけともなった光電効果についてまとめた。

光電効果とは

image by PIXTA / 30146844

金属に光を照射すると、その金属内部に存在している電子が金属の外に飛び出してくる、という現象です。1800年代の後半に発見されたのですが、当時知られていた物理学の知識だけでは説明困難で、様々な議論を巻き起こしました。

そんな状況の中、1905年にアルベルト・アインシュタインが、それまでの物理学とは異なる新しい概念を導入して、この光電効果を鮮やかに説明したのです。相対性理論で有名なアインシュタインですが、1921年にこの光電効果の解明でノーベル賞を受賞しています。

光電効果の発見と解明までの道のり

image by PIXTA / 47550766

光電効果が初めて確認されたのは、1887年にドイツの物理学者ヘルツが行った実験です。ヘルツは、電極の陰極側に紫外線を当てると電極の間で放電現象が起き、電圧が下がることを見出だしました。

翌年、同じくドイツの物理学者ハルヴァックスが、振動数の大きい(波長の短い)光を金属に当てると表面から電子が飛び出してくる現象を発見します。

発見後の実験から判明した事実

発見後に行われた研究の結果、光電効果について次のようなことが分かってきました。

・電子の放出は、ある一定の値よりも大きい振動数でなければ起こらない。それより小さい振動数の光をどれだけ当てても電子は放出されない。

・振動数の大きい光を当てると、出てくる電子の運動エネルギーは変化するが、飛び出してくる電子の数は変化しない

・強い光を当てると大量の電子が放出されるが、電子1個あたりの運動エネルギーは変化しない

ところが、これだけの事実が判明したにも関わらず、19世紀当時の物理学ではこの現象を上手く説明できませんでした。

当時の物理学が抱えていた問題点

当時の物理学では、光は波として捉えられていました。この考え方を光電効果に適応してみましょう。

電子が金属内部から飛び出してくるということは、電子に十分なエネルギーが与えられたためと考えられます。すると、弱い光であっても、長い時間、金属に照射していれば、多くのエネルギーを電子に与えられるので、電子は金属から飛び出してくるはずです。

ところが、実際には電子が飛び出してくるか否かは、光の振動数だけに依存しています。

また光から電子にエネルギーが移動するのであれば、飛び出してきた電子全てのエネルギーの総和は光の与えたエネルギーと同じであっても、電子一つ一つは異なるエネルギーを持つはずです。

しかし、これも実験の結果とは食い違います。

「光 = 粒子」という概念の転換

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1905年、アインシュタインは「光は粒子としても扱うことができる」という光量子仮説を導入して、この難題を解き明かしました。発想の起点となったのは、プランクという物理学者が別の現象を説明するために用いた量子仮説です。

光子1個が持つエネルギーEはE=hνで表現される。

ここで、νは光の振動数、hはプランク定数と呼ばれるものです。

アインシュタインはこの考え方をさらに進めて、光電効果を説明するために次のような仮説を立てました。

\次のページで「身近にある光電効果」を解説!/

・光は,エネルギーを持った粒子(光子)の流れである。

・光子1個と電子1個が衝突すると,光子の持っていたエネルギーはすべて電子に渡り,光子はなくなる

セミナー12.jpg
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この光量子仮説は、1916年にミリカンという科学者の行った実験によって実証されます。上の図はその実験装置の概念図です。ミリカンの実験では、これまでに判明しているものに加えて、次のような結果が得られました。

・金属の種類によって、光電効果を起こす最小の振動数が存在する。その値を下回ると、どんなに強い光であっても光電効果は起きない。

・光電効果により現れる電子のエネルギーが光の振動数に比例して大きくなる。また、この比例定数はプランク定数に等しい。

これらの結果は、アインシュタインが光量子仮説から予言したものと完全に一致していました。こうして、光電効果は「光は粒子でもある」という概念を持ち込むことで、鮮やかに解明されたのです。

身近にある光電効果

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光電効果に関わる光も電子も目に見えないものなので、日常生活ではその現象をなかなか体感しにくいと思います。ここでは例として、日焼けと光電子増倍管という光検出器を挙げました。

他にも太陽光発電やCCDカメラなど、色々な用途に応用されているので、調べてみるといいかもしれません。

\次のページで「日焼けは肌で起こる光電効果!?」を解説!/

日焼けは肌で起こる光電効果!?

日焼けは太陽からの紫外線が原因、というのはよく知られていることでしょう。ですが、太陽から降り注いでくる光には、紫外線以外にも様々な波長(振動数)を持ったものが含まれています。

他の成分はなぜ日焼けの原因とならないのでしょうか。

これは光電効果によって説明することができます。太陽光に含まれる振動数の小さい光は、皮膚の細胞と光電効果を起こせません。それに対して紫外線は振動数が大きいため、細胞中の電子を叩き出し、日焼けの要因を作ってしまうのです。

微弱な光を捉える科学者たちの「目」、光電子増倍管

肉眼では全く見えないほど微弱な光を捉える検出器で、医療機器のPET装置などに使われています。また素粒子を研究する分野でも広く用いられており、スーパーカミオカンデ実験などが代表的な例です。

光電子増倍管には光電面と呼ばれる半球状の金属ガラス部分があり、そこに光が入ってくると、光電効果で電子が弾き出されます。すると、この電子は検出器の後ろ側についている電極が何枚も連なった場所に飛んで行き、数百万倍以上に増幅されるのです。この増幅された信号を検出することで、極めて微弱な光も人の目で見ることが出来るようになります。

光電効果は量子力学への扉を開いた、重要な発見

光電効果は、これまでの「光は波である」という古典的な物理描像が書き換わるきっかけを与えました。それにより、光は波の性質と粒子の性質を併せ持つという、これまでの考え方ではあり得なかった姿を持つようになります。そしてこの概念の転換を契機に、物理学には相対性理論や量子力学といった現在の物理学において基礎となる二つの理論が登場して、自然にまつわる様々な謎を解き明かしていくのです。

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物理理科量子力学・原子物理学

量子力学が生まれるきっかけとなった「光電効果」を元理系大学職員がわかりやすく解説

今回は光電効果について解説していきます。
光電効果は金属などに光が当たると電子が飛び出してくる現象です。今ではよく理解され、様々な形で利用されている物理現象なのですが、実は発見当時の常識では説明が困難だったんです。

では、具体的にどういったものなのか、光電効果に詳しいライター、ひいらぎさんと一緒に解説していきます。

ライター/ひいらぎさん

10 年以上にわたり素粒子の世界に携わり続けている理系ライター。中でもニュートリノに強い興味を持っており、その不思議な性質を日夜追いかけている。今回は量子力学が発展するきっかけともなった光電効果についてまとめた。

光電効果とは

image by PIXTA / 30146844

金属に光を照射すると、その金属内部に存在している電子が金属の外に飛び出してくる、という現象です。1800年代の後半に発見されたのですが、当時知られていた物理学の知識だけでは説明困難で、様々な議論を巻き起こしました。

そんな状況の中、1905年にアルベルト・アインシュタインが、それまでの物理学とは異なる新しい概念を導入して、この光電効果を鮮やかに説明したのです。相対性理論で有名なアインシュタインですが、1921年にこの光電効果の解明でノーベル賞を受賞しています。

光電効果の発見と解明までの道のり

image by PIXTA / 47550766

光電効果が初めて確認されたのは、1887年にドイツの物理学者ヘルツが行った実験です。ヘルツは、電極の陰極側に紫外線を当てると電極の間で放電現象が起き、電圧が下がることを見出だしました。

翌年、同じくドイツの物理学者ハルヴァックスが、振動数の大きい(波長の短い)光を金属に当てると表面から電子が飛び出してくる現象を発見します。

発見後の実験から判明した事実

発見後に行われた研究の結果、光電効果について次のようなことが分かってきました。

・電子の放出は、ある一定の値よりも大きい振動数でなければ起こらない。それより小さい振動数の光をどれだけ当てても電子は放出されない。

・振動数の大きい光を当てると、出てくる電子の運動エネルギーは変化するが、飛び出してくる電子の数は変化しない

・強い光を当てると大量の電子が放出されるが、電子1個あたりの運動エネルギーは変化しない

ところが、これだけの事実が判明したにも関わらず、19世紀当時の物理学ではこの現象を上手く説明できませんでした。

当時の物理学が抱えていた問題点

当時の物理学では、光は波として捉えられていました。この考え方を光電効果に適応してみましょう。

電子が金属内部から飛び出してくるということは、電子に十分なエネルギーが与えられたためと考えられます。すると、弱い光であっても、長い時間、金属に照射していれば、多くのエネルギーを電子に与えられるので、電子は金属から飛び出してくるはずです。

ところが、実際には電子が飛び出してくるか否かは、光の振動数だけに依存しています。

また光から電子にエネルギーが移動するのであれば、飛び出してきた電子全てのエネルギーの総和は光の与えたエネルギーと同じであっても、電子一つ一つは異なるエネルギーを持つはずです。

しかし、これも実験の結果とは食い違います。

「光 = 粒子」という概念の転換

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1905年、アインシュタインは「光は粒子としても扱うことができる」という光量子仮説を導入して、この難題を解き明かしました。発想の起点となったのは、プランクという物理学者が別の現象を説明するために用いた量子仮説です。

光子1個が持つエネルギーEはE=hνで表現される。

ここで、νは光の振動数、hはプランク定数と呼ばれるものです。

アインシュタインはこの考え方をさらに進めて、光電効果を説明するために次のような仮説を立てました。

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