
量子力学が生まれるきっかけとなった「光電効果」を元理系大学職員がわかりやすく解説
光電効果は金属などに光が当たると電子が飛び出してくる現象です。今ではよく理解され、様々な形で利用されている物理現象なのですが、実は発見当時の常識では説明が困難だったんです。
では、具体的にどういったものなのか、光電効果に詳しいライター、ひいらぎさんと一緒に解説していきます。

ライター/ひいらぎさん
10 年以上にわたり素粒子の世界に携わり続けている理系ライター。中でもニュートリノに強い興味を持っており、その不思議な性質を日夜追いかけている。今回は量子力学が発展するきっかけともなった光電効果についてまとめた。
光電効果とは

金属に光を照射すると、その金属内部に存在している電子が金属の外に飛び出してくる、という現象です。1800年代の後半に発見されたのですが、当時知られていた物理学の知識だけでは説明困難で、様々な議論を巻き起こしました。
そんな状況の中、1905年にアルベルト・アインシュタインが、それまでの物理学とは異なる新しい概念を導入して、この光電効果を鮮やかに説明したのです。相対性理論で有名なアインシュタインですが、1921年にこの光電効果の解明でノーベル賞を受賞しています。
こちらの記事もおすすめ

簡単でわかりやすい!「相対性理論」とは?特殊相対性理論・一般相対性理論を元理系大学教員が詳しく解説!
光電効果の発見と解明までの道のり

光電効果が初めて確認されたのは、1887年にドイツの物理学者ヘルツが行った実験です。ヘルツは、電極の陰極側に紫外線を当てると電極の間で放電現象が起き、電圧が下がることを見出だしました。
翌年、同じくドイツの物理学者ハルヴァックスが、振動数の大きい(波長の短い)光を金属に当てると表面から電子が飛び出してくる現象を発見します。
発見後の実験から判明した事実
発見後に行われた研究の結果、光電効果について次のようなことが分かってきました。
・電子の放出は、ある一定の値よりも大きい振動数でなければ起こらない。それより小さい振動数の光をどれだけ当てても電子は放出されない。
・振動数の大きい光を当てると、出てくる電子の運動エネルギーは変化するが、飛び出してくる電子の数は変化しない。
・強い光を当てると大量の電子が放出されるが、電子1個あたりの運動エネルギーは変化しない。
ところが、これだけの事実が判明したにも関わらず、19世紀当時の物理学ではこの現象を上手く説明できませんでした。
当時の物理学が抱えていた問題点
当時の物理学では、光は波として捉えられていました。この考え方を光電効果に適応してみましょう。
電子が金属内部から飛び出してくるということは、電子に十分なエネルギーが与えられたためと考えられます。すると、弱い光であっても、長い時間、金属に照射していれば、多くのエネルギーを電子に与えられるので、電子は金属から飛び出してくるはずです。
ところが、実際には電子が飛び出してくるか否かは、光の振動数だけに依存しています。
また光から電子にエネルギーが移動するのであれば、飛び出してきた電子全てのエネルギーの総和は光の与えたエネルギーと同じであっても、電子一つ一つは異なるエネルギーを持つはずです。
しかし、これも実験の結果とは食い違います。
「光 = 粒子」という概念の転換

1905年、アインシュタインは「光は粒子としても扱うことができる」という光量子仮説を導入して、この難題を解き明かしました。発想の起点となったのは、プランクという物理学者が別の現象を説明するために用いた量子仮説です。
・光子1個が持つエネルギーEはE=hνで表現される。
ここで、νは光の振動数、hはプランク定数と呼ばれるものです。
アインシュタインはこの考え方をさらに進めて、光電効果を説明するために次のような仮説を立てました。
\次のページで「身近にある光電効果」を解説!/