今回は力学的エネルギー保存の法則についての話です。例えば、ボールを坂から転がすとしよう。坂の低いところと高いところ、どちらから転がすとボールは速くなるかはわかるな?その運動について科学的に説明しよう。

今回は力学をよく知る、建築構造力学を専攻するライター、ユッキーと一緒に解説していこう。

ライター/ユッキー

建築学科で構造力学を専攻している大学生。小学校から高校と理科系クラブに所属しており、高校ではクラブ内の研究を海外で英語発表することも経験した。

1.力学的エネルギーとは

image by iStockphoto

最初に、力学的エネルギーとは何かの整理を行いましょう。力学的エネルギーとは、その名の通り物体が保持しているエネルギーのことです。例えばある速度でボールが転がっているとします。そのボールにはその速度で運動しているだけのエネルギーが存在している、という考え方です。

では、具体的にはエネルギーにはどんな種類があるのでしょうか。まず押さえておいてもらいたいものは運動エネルギーと位置エネルギーです。それぞれ、以下の式で表されます。

運動エネルギー
E=1/2 mv^2

位置エネルギー
E=mgh

m:質量(kg) v:速度(m/s) g:重力加速度(m/s^2) h:高さ(m)

運動エネルギーはある速度で物体が運動しているとき、物体が持っているエネルギーのことです。対して位置エネルギーは物体がある高さにあるときに、物体が持っているエネルギーを表します。

さて、この2つを最初に紹介した理由は、これらがエネルギーの中でも頻出で、かつ保存力が行う仕事であるからです。

エネルギーは、ある力が仕事を行うことで変化します。保存力というのは、力の中でも、表題でもある「力学的エネルギー保存の法則」内に存在するエネルギーを生み出すのです。

2.力学的エネルギー保存の法則

2.力学的エネルギー保存の法則

image by Study-Z編集部

例えば図のように重さmの球を、摩擦のない斜面のうち地面から高さhのところに置くとします。この球から手をはなすと、球は斜面を転がっていくことは想像がつくでしょう。この球が地面に達した瞬間の速度をvとします。

このとき、球が高さhにあるときの位置エネルギーと、球が床面に達したときの運動エネルギーは等しくなります。これが力学的エネルギー保存の法則です。式で表すと以下のようになります。

mgh=1/2 mv^2

\次のページで「2-1.保存の法則を用いた例題」を解説!/

2-1.保存の法則を用いた例題

2-1.保存の法則を用いた例題

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これを応用すると、図のような例題も考えることができます。先ほどと同じように摩擦のない斜面の高さhのところから球を転がしますが、球が高さh/2のところまで転がったときの速度v`を考えてみましょう。まずは転がす前の段階について考えます。このとき物体は運動していないため考えるものは位置エネルギーです。このときの位置エネルギーは、

E=mgh

と表されます。次に球が高さh/2のところまで転がってきたときのエネルギーを考えましょう。高さh/2のときの位置エネルギーはmg(h/2)です。また、このときの速度をv`としているため、運動エネルギーは1/2mv`^2となります。これらを合わせると、球が高さh/2のところまで転がってきたときのエネルギーは、

E=1/2mgh+1/2mv`^2

です。これらが保存するため、等式をたてると、

mgh=1/2mgh+1/2mv`^2

となります。これを変形させると、

1/2mgh=1/2mv`^2

gh=v`^2

v`=√(gh)

と、v`の値が求められました。

\次のページで「3.力学的エネルギー保存の法則を崩すエネルギーがある?」を解説!/

3.力学的エネルギー保存の法則を崩すエネルギーがある?

さて、以上のふたつは保存力によって生み出されるエネルギーとお教えしましたが、裏を返せば力学的エネルギー保存の法則に当てはまらないとされるものもあります。そのひとつが仕事です。

力学の分野では主に摩擦力による仕事がみられます。保存の法則に当てはまらないとはどういう意味か。それは、この仕事が力学的エネルギー保存の法則の等式を崩してしまうからです。具体例をみる前に、摩擦力による仕事の式を見せましょう。

W=μNL

μ:摩擦係数 N:垂直抗力(mgで表される) L:距離(m)

μは摩擦係数、Nは垂直抗力ですのでこのふたつが摩擦力を表します。それに加えてLは摩擦が発生している距離。それらの積が摩擦による仕事です。

3-1.摩擦による仕事を考えよう

3-1.摩擦による仕事を考えよう

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では、例を通して考えましょう。球は最初の例題と同様に摩擦のない滑らかな斜面を転がったあと、摩擦のある床を転がり始めたあと止まった、という条件です。

最初に球を転がす前から球が床にたどり着くまでを考えます。高さhの時の位置エネルギーはmgh、速度vに達したときの運動エネルギーは1/2mv^2なので、球が斜面を転がり終わるまでの力学的エネルギー保存の法則の等式をたてると、

mgh=1/2 mv^2

です。次に、球が坂を転がり終えてから、床を転がって止まるまでについて考えます。床を転がり始めるときの速度はvなので、運動エネルギーは1/2mv^2です。

球が止まったときの速度は0であるので運動エネルギーも0となってしまいます。これでは力学的エネルギー保存の法則が成り立ちません。運動エネルギーは保存されず失われてしまいました

このとき、運動エネルギーが消費されてしまった理由が、摩擦による仕事です。言い換えれば運動エネルギーは摩擦による仕事に変換されたということですね。ここで、摩擦による仕事は、球がLだけ転がったとすると垂直抗力N=mgより、

W=μmgL

運動エネルギーは摩擦による仕事に変換されたことを踏まえると、

1/2mv^2=μmgL

と書けます。

摩擦による仕事は力学的エネルギー保存の法則の等式を崩してしまうと言いました。しかし、この式をみればわかると思いますが、摩擦による仕事はエネルギーの等式内に組み込むことができます

つまり、摩擦による仕事は力学的エネルギー保存の法則を(実質的に)成り立たせています。エネルギーが摩擦による仕事に変換されているのですから、数式上は成り立ちますね。

3-2.数字を入れた例題を考えてみよう

3-2.数字を入れた例題を考えてみよう

image by Study-Z編集部

具体的に数字を入れた例から計算してみましょう。球が滑らかな坂を転がって、摩擦のある床を転がり静止したとき、球が床を転がった距離を求めてみましょう。

先ほどの解説を参考にすれば簡単だと思いますが、解説を記します。ぜひ自分で解いてみて知識を確認してみてください。

最初に坂を転がり終えるまでの力学的エネルギー保存の法則の等式をたて、vを求めて後Lを求めてもよいのですが、力学的エネルギー保存の法則の前提から、位置エネルギーと運動エネルギーは保存するので、位置エネルギー=摩擦による仕事の式を立てることができます。

mgh=μmgL

h=μL

L=h/μ=5/0.2=25(m)

となります。もちろん一度vを求めてからでも同じ値となります。

力学的エネルギー保存の法則は等式を立てることが基本

力学的エネルギー保存の法則は、物体が運動している最中のエネルギーは常に一定であることを表します。実際に運動を考える際はその時々の物体が持つエネルギーについて等式を立てましょう。計算自体は複雑ではないため、力学的エネルギー保存の法則の考え方に気を付けて取り組みましょう。

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物理物理学・力学理科

簡単にわかる力学的エネルギー保存の法則!力学専攻学生が例題を通してわかりやすく解説

今回は力学的エネルギー保存の法則についての話です。例えば、ボールを坂から転がすとしよう。坂の低いところと高いところ、どちらから転がすとボールは速くなるかはわかるな?その運動について科学的に説明しよう。

今回は力学をよく知る、建築構造力学を専攻するライター、ユッキーと一緒に解説していこう。

ライター/ユッキー

建築学科で構造力学を専攻している大学生。小学校から高校と理科系クラブに所属しており、高校ではクラブ内の研究を海外で英語発表することも経験した。

1.力学的エネルギーとは

image by iStockphoto

最初に、力学的エネルギーとは何かの整理を行いましょう。力学的エネルギーとは、その名の通り物体が保持しているエネルギーのことです。例えばある速度でボールが転がっているとします。そのボールにはその速度で運動しているだけのエネルギーが存在している、という考え方です。

では、具体的にはエネルギーにはどんな種類があるのでしょうか。まず押さえておいてもらいたいものは運動エネルギーと位置エネルギーです。それぞれ、以下の式で表されます。

運動エネルギー
E=1/2 mv^2

位置エネルギー
E=mgh

m:質量(kg) v:速度(m/s) g:重力加速度(m/s^2) h:高さ(m)

運動エネルギーはある速度で物体が運動しているとき、物体が持っているエネルギーのことです。対して位置エネルギーは物体がある高さにあるときに、物体が持っているエネルギーを表します。

さて、この2つを最初に紹介した理由は、これらがエネルギーの中でも頻出で、かつ保存力が行う仕事であるからです。

エネルギーは、ある力が仕事を行うことで変化します。保存力というのは、力の中でも、表題でもある「力学的エネルギー保存の法則」内に存在するエネルギーを生み出すのです。

2.力学的エネルギー保存の法則

2.力学的エネルギー保存の法則

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例えば図のように重さmの球を、摩擦のない斜面のうち地面から高さhのところに置くとします。この球から手をはなすと、球は斜面を転がっていくことは想像がつくでしょう。この球が地面に達した瞬間の速度をvとします。

このとき、球が高さhにあるときの位置エネルギーと、球が床面に達したときの運動エネルギーは等しくなります。これが力学的エネルギー保存の法則です。式で表すと以下のようになります。

mgh=1/2 mv^2

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