君たちは「ホルモン」という言葉を聞いたことがあるか?テレビなどでも比較的よく耳にする言葉ですが、「ホルモンとは何なのか」をしっかりと説明できる人は少ないんじゃないでしょうか?
ホルモンはヒトが生きていくためにはなくてはならないものです。

今回は、生き物のからだについて詳しい現役講師ライターのオノヅカユウと一緒に解説していきます。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

ホルモンは「体の調節システム」の一つ

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みなさんは普段の生活の中で、自分の体に起こる変化をどれくらい意識しているでしょうか?気温が上がれば汗をかき、雪が降るほど寒くなれば震える。緊張すると心拍数が増え、リラックスすれば血圧が下がる、病気になって熱が出る…どれも無意識化で起きている体の変化だと思います。「汗をかこう!」「血圧を下げよう!」と考えて体をコントロールできる人はなかなかいませんよね。

私たちの体には、意識しなくても環境や状況の変化に対応できるよう、体内を自動調節してくれる機能があります。これは『恒常性(ホメオスタシス)』とよばれる性質で、生き物がさまざまな環境で生きていくためになくてはならない機能です。

この恒常性は、大きく分けて3つのシステムから成り立っています。

1.自律神経系

2.内分泌系

3.免疫系(生体防御)

1、2、3のいずれも正常に機能していることが、健康な生活には欠かせません。『3.免疫系』は、細菌やウイルスが体内に侵入したり、体内の細胞に異変が起きた時に機能します。

体外の環境変化に対応する際に主にはたらくのは、『1.自律神経系』と『2.内分泌系』。ホルモンは、このうちの『2.内分泌系』で活躍する物質です。

ホルモンの4つの特徴

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ホルモンとは、生き物の細胞でつくられ、ほかの細胞に情報を伝達する化学物質のことを指します。ホルモンの特徴として特に抑えておきたい4つのポイントをご紹介しましょう。

\次のページで「ホルモンは、特定の細胞でつくられる」を解説!/

#1 ホルモンは、特定の細胞でつくられる

ホルモンは基本的に、内分泌腺という器官にある腺細胞でつくられます。「体中のどの細胞でもつくれる」という代物ではありません。

内分泌腺には、脳下垂体や甲状腺、副腎などがあります。「どのホルモンがどの内分泌腺でつくられるのか」を覚えることはなかなか大変ですが、高校の生物学では重要な学習事項です。

#2 ホルモンは、特定の組織や器官の細胞(標的細胞)ではたらく

体内では常に複数のホルモンが分泌されていますが、それぞれのホルモンが作用できるのは、特定の細胞=『標的細胞』に限られます。標的細胞には特定のホルモンを受け取ることができる『受容体』があり、受容体にホルモンが結合することで効果を発揮するのです。

逆に、そのホルモンの受容体をもっていない細胞に対しては、ホルモンは作用できません。

#3 ホルモンは、体液にのって移動する

あるホルモンを分泌する内分泌腺と、そのホルモンの標的細胞は、遠く離れたところに位置していることが少なくありません。ホルモンは、血液などの体液にのって流れることで、内分泌腺から標的細胞までを移動します。

標的細胞にたどり着いても受容体に空きがなかったときは、体をもう一周して再度標的細胞にたどり着くこともあるんです。神経のように直接つながっていない場所にも情報伝達ができる、便利なシステムといえます。

#4 ホルモンは、少量でもよく効く

ホルモンはほんのわずかな量でも標的細胞で効果的に作用することが知られています。一説には、「50メートルプールにスプーン一杯ほどの濃度でも十分はたらく」といわれるほどです。

そのため、わずかなホルモンの過剰や不足でも、体には大きな影響を与えます。内分泌腺の不調・異常によって引き起こされる病気もあるため、各ホルモンの分泌量の調節はとても大切です。

ホルモンにはどんな種類がある?

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ホルモンはその構造によって、大きく3つのグループに分けられています。『ペプチドホルモン』、『ステロイドホルモン』、そして、『アミノ酸誘導体ホルモン』です。

現在、ヒトの体内で見つかっているホルモンは合計で100種類前後といわれてます。しかしながら、ホルモンは神経とはちがって肉眼で確認できません。研究が進めば、これから新しいホルモンが見つかる可能性は十分あります。

\次のページで「ペプチドホルモン」を解説!/

ペプチドホルモン

アミノ酸がペプチド結合してできたホルモンがペプチドホルモン(もしくはポリペプチドホルモン)です。アミノ酸がペプチド結合で多数つながっているという点は、私たちの体をかたち造るタンパク質、細胞内ではたらく酵素などと同じだといえます。

代謝の維持に欠かせない「成長ホルモン」や、糖尿病の人がお世話になる「インスリン」、近年”愛情ホルモン”や”幸せホルモン”の愛称で注目されている「オキシトシン」などは、このペプチドホルモンです。

ペプチドホルモンの仲間は数が多く、いずれも重要な役割を持つものばかりですが、残念なことにペプチドホルモンの仲間はサプリやドリンクなどで摂取することができません。私たちがお肉やお魚などのタンパク質を食べると、胃で分解(もしくは変質)してしまいますよね。ペプチドホルモンも同様で、経口摂取では消化管で分解されてしまうことがほとんどなのです。

ステロイドホルモン

ステロイドという構造を持ったホルモンをステロイドホルモンとよびます。ペプチドホルモンよりもサイズが小さく、アミノ酸でできているわけではないため分解されにくいことから、経口投与することもできるホルモンです。

女性ホルモンの代表「エストロゲン」や、男性ホルモンの代表「テストステロン」などの名前は、聴いたことがあるのではないでしょうか?

腎臓の上に副腎という内分泌器官があります。その副腎の、髄質というエリアでつくられるホルモン(副腎皮質ホルモン)の一種である「糖質コルチコイド」を使った薬が、よく耳にする『ステロイド剤』です。ステロイド剤には強い抗炎症作用があります。

アミノ酸誘導体ホルモン

アミノ酸が酵素によって加工されてできる小さなホルモンがアミノ酸誘導体ホルモンです。アミノホルモンや低分子ホルモンという名前でよばれることもあります。

アミノ酸誘導体ホルモンに分類されるのは、「アドレナリン」や「ノルアドレナリン」、「ドーパミン」など。この3種はいずれもカテコールという構造をもっていることから、まとめてカテコールアミンといいます。また、細胞の代謝に大きくかかわる甲状腺のホルモン「チロキシン」も、このアミノ酸誘導体ホルモンのなかまです。

ホルモンと自律神経の関係は?

『自律神経系』と『内分泌系』、この二つがうまく機能することで、私たちの体は健康に保たれています。どちらも生存のために欠かせないシステムですが、両者の間には大きな違いがあるんです。

自律神経系は「素早く効く」、ホルモンは「ゆっくり効く」

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自律神経系と内分泌系の特徴でとくに注目すべきなのが、作用するまでの「スピード」。ご紹介した通り、内分泌腺から放出されたホルモンは体液の流れにのって標的細胞までたどり着きます。ホルモンの放出から作用までは数分から数時間が必要になることが多いため、瞬時に環境の変化に対応しなくてはいけない場合には適していません。その一方、自律神経は神経細胞の興奮により、ものの数秒で情報を伝達できます。

自律神経と違い、ホルモンは「長期間持続する」ような作用が得意。例えば、子どもの成長期には代謝を高める成長ホルモンの分泌が盛んになりますが、この場合は数か月から数年にわたって分泌量の多い状態が続きます。毎日少量ずつでもホルモンをつくり続けることで、作用を持続させるのです。

\次のページで「自律神経系とホルモンが協力し合う?」を解説!/

自律神経系とホルモンが協力し合う?

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正反対の性格を持つように見える内分泌系(ホルモン)と自律神経系ですが、恒常性を維持するための様々な反応はこの2つが複雑に絡み合って起きているものが少なくありません。途中までは自律神経が情報を伝え、自律神経からの刺激を受けてホルモンが分泌される、という行程をたどることもあります。

たとえば、発汗や震えなど体温を調節するためにおこる反応は、複数の自律神経系やホルモンが関連しているんです。

ホルモンの基礎はこれでOK!

私たちの体内では、今もホルモン’(内分泌系)と自律神経が巧みにはたらき続けています。この2つのシステム(+免疫系)によって、生命が維持されているのです。

体の中で活躍し続けるホルモンには、様々な種類があります。ホルモン全般の特徴を抑えたならば、次はそれぞれのホルモンを分泌する内分泌腺や標的細胞でのはたらきを学んでみましょう。

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理科環境と生物の反応生物

体の中で活躍する「ホルモン」を現役講師がわかりやすく解説!4つのポイントをおさえよう!

ペプチドホルモン

アミノ酸がペプチド結合してできたホルモンがペプチドホルモン(もしくはポリペプチドホルモン)です。アミノ酸がペプチド結合で多数つながっているという点は、私たちの体をかたち造るタンパク質、細胞内ではたらく酵素などと同じだといえます。

代謝の維持に欠かせない「成長ホルモン」や、糖尿病の人がお世話になる「インスリン」、近年”愛情ホルモン”や”幸せホルモン”の愛称で注目されている「オキシトシン」などは、このペプチドホルモンです。

ペプチドホルモンの仲間は数が多く、いずれも重要な役割を持つものばかりですが、残念なことにペプチドホルモンの仲間はサプリやドリンクなどで摂取することができません。私たちがお肉やお魚などのタンパク質を食べると、胃で分解(もしくは変質)してしまいますよね。ペプチドホルモンも同様で、経口摂取では消化管で分解されてしまうことがほとんどなのです。

ステロイドホルモン

ステロイドという構造を持ったホルモンをステロイドホルモンとよびます。ペプチドホルモンよりもサイズが小さく、アミノ酸でできているわけではないため分解されにくいことから、経口投与することもできるホルモンです。

女性ホルモンの代表「エストロゲン」や、男性ホルモンの代表「テストステロン」などの名前は、聴いたことがあるのではないでしょうか?

腎臓の上に副腎という内分泌器官があります。その副腎の、髄質というエリアでつくられるホルモン(副腎皮質ホルモン)の一種である「糖質コルチコイド」を使った薬が、よく耳にする『ステロイド剤』です。ステロイド剤には強い抗炎症作用があります。

アミノ酸誘導体ホルモン

アミノ酸が酵素によって加工されてできる小さなホルモンがアミノ酸誘導体ホルモンです。アミノホルモンや低分子ホルモンという名前でよばれることもあります。

アミノ酸誘導体ホルモンに分類されるのは、「アドレナリン」や「ノルアドレナリン」、「ドーパミン」など。この3種はいずれもカテコールという構造をもっていることから、まとめてカテコールアミンといいます。また、細胞の代謝に大きくかかわる甲状腺のホルモン「チロキシン」も、このアミノ酸誘導体ホルモンのなかまです。

ホルモンと自律神経の関係は?

『自律神経系』と『内分泌系』、この二つがうまく機能することで、私たちの体は健康に保たれています。どちらも生存のために欠かせないシステムですが、両者の間には大きな違いがあるんです。

自律神経系は「素早く効く」、ホルモンは「ゆっくり効く」

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自律神経系と内分泌系の特徴でとくに注目すべきなのが、作用するまでの「スピード」。ご紹介した通り、内分泌腺から放出されたホルモンは体液の流れにのって標的細胞までたどり着きます。ホルモンの放出から作用までは数分から数時間が必要になることが多いため、瞬時に環境の変化に対応しなくてはいけない場合には適していません。その一方、自律神経は神経細胞の興奮により、ものの数秒で情報を伝達できます。

自律神経と違い、ホルモンは「長期間持続する」ような作用が得意。例えば、子どもの成長期には代謝を高める成長ホルモンの分泌が盛んになりますが、この場合は数か月から数年にわたって分泌量の多い状態が続きます。毎日少量ずつでもホルモンをつくり続けることで、作用を持続させるのです。

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