今回は『インスリン』というホルモンについてです。
インスリンは体の中を駆け巡り、細胞に『糖』というエネルギーを配る大事なホルモンです。この働きを理解することでインスリンがうまく働かなくなる『糖尿病』についてもわかるようになる。

糖尿病の治療にも従事する現役医師のライター、スコットと一緒に解説していきます。

ライター/スコット

内科医として日々臨床の現場で働いている。少しでも多くの人が自分の体や病気に興味をもち、よりよい人生のためのサポートをできるように試行錯誤している。

インスリンとは?

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インスリンと聞くと何を思い浮かべるでしょうか?

糖尿病のことを知っている人が聞くと注射の薬などを思い浮かべるかもしれないですし、ダイエットに少し詳しい人が聞けば、太るなどのイメージがあるかもしれません。

インスリンは体の中でつくられ、血液中の糖(グルコース)、つまり血糖を下げる唯一のホルモンで、膵臓という胃の背中側にある臓器のランゲルハンス島にあるβ細胞から分泌されています。血糖は食事やストレス、感染症などさまざまな原因によって変動しますが、健康な人の場合にはいつも一定の幅の中で保たれているのです。血糖は下がりすぎても、上がりすぎても体に悪影響が出てしまいます。

食事とインスリン

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わたしたちの体はグルコースをエネルギーとして活動しています。

ごはんやパンなどの炭水化物を摂取すると消化されて、小腸からグルコースとして吸収され、これが血液中に運ばれ血糖となるのです。食事の刺激や血糖の上昇に伴い、インスリンが分泌され、主に骨格筋や脂肪細胞、肝臓で作用します。

骨格筋:アミノ酸やカリウムの取り込み、タンパクやグリコーゲンの合成。

脂肪組織:脂肪の合成を促進し、脂肪の分解を抑制。

肝臓:グルコースを蓄えておける『グリコーゲン(貯蔵糖)』という形に変えてストックしておきます。糖新の抑制。糖新生とはアミノ酸やグリセオール(脂肪酸が分解してできるもの)、乳酸を分解してグルコースを合成する代謝。

つまり、『エネルギーを蓄える』方向に働くホルモンとも言えます。

\次のページで「ダイエットとインスリンの関係」を解説!/

ダイエットとインスリンの関係

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少し余談にはなりますが、インスリンとダイエットについても考えてみましょう。インスリンはなくてはならないホルモンではありますが、働きの中に「脂肪の合成」に関わるとあります。つまり、インスリンがいっぱい出ると脂肪が増えて太る方向に進むということです。

早食いや長時間の空腹の後には血糖上昇が急激となり、その分インスリン分泌も多くなり、『太りやすい』ということが言われています。しかし、それは余分なエネルギーが脂肪に変換されるということであり、適切な量を食べている状況ではそこまで大きく影響はしません

これは糖尿病の患者さんでは話は別になるので健康な体の場合と思っておいてください。

糖尿病とその種類

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さて、話は元に戻りますが、インスリンがうまく働かなくなるとどのようなことが起きるでしょうか?

膵臓から分泌されるインスリンの量が少なかったり、うまく働なかったりすると血糖は正常の範囲を超えて高くなってきます。その状態を高血糖といい、これが続く病気が糖尿病です。

 

糖尿病は生活習慣病でありますが、元々の体質でインスリンの分泌量が少なくて糖尿病になってしまう患者さんもいます。そのような糖尿病を1型糖尿病といい、病気の初期からインスリン注射による治療が必要です。

生活習慣と関わりの深い糖尿病は2型糖尿病と言われ、病気のなり易さには遺伝が関係しています。血縁者に2型糖尿病がいる方は生活習慣が悪いと糖尿病になってしまうリスクが高いということです。糖尿病の患者さんは厚生労働省の調査では平成9年以降増加していますが、その背景としては食の欧米化、ストレス、運動不足などが言われています。

また、アジア人は欧米の人に比べて肥満度は低いですが、インスリンを分泌する量が少ないため、軽い肥満でも糖尿病を発症しやすいのです。

あなたは見逃してない?糖尿病の症状

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糖尿病とはどんな病気なのでしょうか?

糖尿病の初期の症状としてはのどの渇きや頻尿(尿の回数が多くなる)などがみられます。これは高血糖により血液の浸透圧が上がることや、尿にも糖が排泄されることで多尿(尿の量が増える)になり、のどの渇きが出てくるのです。インスリンは骨格筋での蛋白の合成や脂肪組織での脂肪合成の作用があるので、インスリンが不足すると体重が減ってくるといった症状もみられてきます。

糖尿病の怖さは合併症にあり!

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糖尿病の恐ろしいところは高血糖が続くことにより全身の血管の障害が起きてくることにあります。糖尿病の治療の目的は血糖を下げることも大事ですが、それにより血管の障害による合併症を防ぐことです。血管の障害が続くことで血管の壁が固くなったり、厚くなったりして血管の内腔が細くなる『動脈硬化』の強力な促進因子となります。

血管は全身にくまなく分布しているので、全身で様々な不具合が生じてくるのです。糖尿病の治療がうまくいっていないと脳の血管がつまれば脳梗塞となり、心臓の血管がつまれば心筋梗塞となります。他には目の血管が障害されて突然目が見えなくなったり、腎臓が悪くなると透析になってしまったり、足の血管がつまって足が腐ってしまい足を切断したり…。その他には糖尿病は感染症や癌のリスクとなることも知られています。

糖尿病の合併症は大血管障害(比較的太い動脈の障害)と細小血管障害(細い血管の障害)の2つです。

\次のページで「糖尿病の基本治療は食事療法」を解説!/

大血管障害:・心筋梗塞 ・脳梗塞 ・下肢閉塞性動脈硬化症

細小血管障害:・糖尿病性神経症 ・糖尿病性網膜症 ・糖尿病性腎症

糖尿病になった患者さんが全員このようなことが起きるわけではありません。糖尿病自体は治る病気ではないですが、きちんと治療を続けていけば、上で書いたような合併症をさけることも可能です。糖尿病の治療は進歩していて、現に糖尿病患者さんの寿命は延びてきています。

糖尿病の基本治療は食事療法

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糖尿病の治療にはどんなものがあるのでしょうか?

一番の基本であり、とても重要なのが食事療法となります。ポイントは正しい量を、3食に分けてゆっくりよく噛んで食べるということです。ダイエットのところで少し話しましたが、空腹時間が長かったり、早食いをしたりすると血糖が急激に上昇します。また、よく噛むことでインスリンの分泌を促すことができるのです。食事療法だけでも十分な管理ができる患者さんもいます。(1型糖尿病の患者さんはインスリンの治療が必要です)

その他の治療としては内服薬インスリンなどの注射製剤です。内服薬は進歩が目覚ましく、多くの種類の薬が出てきています。インスリンは現在は注射製剤しかないですが、パッチタイプのものも開発されており、今後、注射せずに貼るだけで効くものも出てくるかもしれません。

現在の治療法では糖尿病を治療することはできますが、“治癒”させることはできないのです。そのため、発症したら上手に付き合っていくことが必要となります。糖尿病治療の最も難しいところは治療の根幹が食事であるため、患者さん本人の意識病気への姿勢が治療の成績を左右してしまうところです。

インスリンは血糖を下げるホルモン

インスリンは血糖を下げるホルモンで、食べたエネルギーを体に蓄える働きがあります。

それが不足したり、うまく働かなくなる病気が糖尿病。糖尿病は合併症の予防を目的として治療が行われ、その治療の根幹は食事療法です。

糖尿病の患者さんは多く、生活習慣病であり、周りの人にもいるかもしれません。治療が遅れると怖い合併症を引き起こし、その時点での治療には限界があるのが現状です。糖尿病の治療は研究が進んでおり、様々な薬や治療法が開発されています。インスリンの働きを知るにあたって、糖尿病という病気について関心をもち、予防や治療に役立ててもらえれば嬉しいです。

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タンパク質と生物体の機能理科生物

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今回は『インスリン』というホルモンについてです。
インスリンは体の中を駆け巡り、細胞に『糖』というエネルギーを配る大事なホルモンです。この働きを理解することでインスリンがうまく働かなくなる『糖尿病』についてもわかるようになる。

糖尿病の治療にも従事する現役医師のライター、スコットと一緒に解説していきます。

ライター/スコット

内科医として日々臨床の現場で働いている。少しでも多くの人が自分の体や病気に興味をもち、よりよい人生のためのサポートをできるように試行錯誤している。

インスリンとは?

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インスリンと聞くと何を思い浮かべるでしょうか?

糖尿病のことを知っている人が聞くと注射の薬などを思い浮かべるかもしれないですし、ダイエットに少し詳しい人が聞けば、太るなどのイメージがあるかもしれません。

インスリンは体の中でつくられ、血液中の糖(グルコース)、つまり血糖を下げる唯一のホルモンで、膵臓という胃の背中側にある臓器のランゲルハンス島にあるβ細胞から分泌されています。血糖は食事やストレス、感染症などさまざまな原因によって変動しますが、健康な人の場合にはいつも一定の幅の中で保たれているのです。血糖は下がりすぎても、上がりすぎても体に悪影響が出てしまいます。

食事とインスリン

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わたしたちの体はグルコースをエネルギーとして活動しています。

ごはんやパンなどの炭水化物を摂取すると消化されて、小腸からグルコースとして吸収され、これが血液中に運ばれ血糖となるのです。食事の刺激や血糖の上昇に伴い、インスリンが分泌され、主に骨格筋や脂肪細胞、肝臓で作用します。

骨格筋:アミノ酸やカリウムの取り込み、タンパクやグリコーゲンの合成。

脂肪組織:脂肪の合成を促進し、脂肪の分解を抑制。

肝臓:グルコースを蓄えておける『グリコーゲン(貯蔵糖)』という形に変えてストックしておきます。糖新の抑制。糖新生とはアミノ酸やグリセオール(脂肪酸が分解してできるもの)、乳酸を分解してグルコースを合成する代謝。

つまり、『エネルギーを蓄える』方向に働くホルモンとも言えます。

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