この記事ではハーシーとチェイスが突き止めた遺伝子の正体について解説します。

結論から言えば、もうわかっているでしょうが、遺伝子の正体は「DNA」です。
ですが、大事なのは彼らがどうやってそれを突き止めたかということです。

今回は生物学に詳しい現役塾講師のKAEDEと一緒に解説していきます。

ライター/KAEDE

現役塾講師。大学時代は微生物学を専攻し、酵素についての研究をしていた。今は科学の面白さを高校生に毎日伝えている。

#1 ハーシーとチェイスは一体どんな人?

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親から子に遺伝している遺伝子とはDNAのことであると発見したのは、ハーシーとチェイスという研究者です。名前は知っているという人は多いと思いますが、その詳細を知っている人は少ないのではないでしょうか?

よく高校の生物の教科書には写真が載っていますが、二人は男女なので、「夫婦なのかな?」と疑問を持った人も多いと思います。二人は一体どんな関係性なのでしょうか?

ノーベル賞を受賞したハーシー

ハーシーの本名はアルフレッド・ハーシー。アメリカの微生物学者で遺伝学者です。

ハーシーは当時、微生物学者の間ではあまり流行っていなかったバクテリオファージの研究を進めていました。そこで発見したのは、ファージを細菌に感染させると、それらの間で遺伝情報を交換し合うということ。

1950年にはニューヨークの研究室で、チェイスと出会い、あの有名なハーシーとチェイスの実験を行いました。その後1962年には、ウイルスの複製と遺伝機構を解明し、それによってノーベル生理学・医学賞を受賞します。

つまり、あの有名な実験によってノーベル賞を受賞したわけではないのですね。

チェイスは実は助手だった?

チェイスの本名は、マーサ・チェイス。アメリカの遺伝学者です。

ハーシーとともにファージを使った遺伝子の実験をしていたことは有名ですが、実は彼女、その当時は研究所の助手だったことはご存知でしたか?

しかもその研究所に在籍するときの学位は「学士号」。現代の研究職を考えると、学士号で研究所に配属されることなんてなかなかありません。時代の違いかそれともチェイスが相当優秀だったのかのどちらかでしょう。

その研究所に在籍している期間中に、他研究所のハーシーと出会い、あの有名なT2ファージを用いた遺伝子実験に取り組んだのです。

その後、南カルフォルニア大学で博士号を取得し、同大学で研究に励みますが、研究の成果もなかなか出ないことによる飲酒と喫煙が原因で病気にかかり解雇されます。そして2003年に肺炎で亡くなりました。

#2 T2ファージとは?

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T2ファージとは、大腸菌に感染して大腸菌の中で大量に増殖するウイルスのバクテリオファージの一種です。バクテリオファージの中でも、寄生した大腸菌を破壊するものの一つがT2ファージ。

T2ファージは大腸菌に寄生すると、大腸菌内部にDNAを注入して子ファージを大腸菌内でたくさん増やします。生活環は寄生から30分程度経過後、子ファージは大腸菌の細胞膜を破壊して外へとT2ファージを放出するということですから気持ち悪いですね。

内部はDNA、外殻はタンパク質

内部にDNAが存在し、外殻はタンパク質から構成されているということが、T2ファージの構造的な特徴です。

DNA、タンパク質はそれぞれどんな元素から成り立っているかご存知ですか?
DNAとタンパク質の構成元素はそれぞれ

\次のページで「細菌に感染して増殖する」を解説!/

DNA     ...C、H、O、N、P
タンパク質...C、H、O、N、S

になっています。この構成要素の違いが遺伝子はDNAであると決定づける実験で大きな鍵になってくるのです。

細菌に感染して増殖する

T2ファージは大腸菌に寄生し、自らの子孫を残すために大腸菌内に自らのDNAを注入します。すると何が起こるのでしょうか?

DNAを注入してから大腸菌のDNAは跡形もなく消滅するのですが、ここまでの時間はたったの5分。大腸菌のDNA消滅がT2ファージのDNA複製の合図に、一気にT2ファージのDNAを増殖していくのです。

DNAの複製がある程度進むと、次に起こることはT2ファージの外殻の形成。タンパク質から作られる外殻がどんどん作られます。そして無数の新しいT2ファージが大腸菌内にでき、大腸菌外へと放出されるのが一連の流れです。

30分もあれば細菌を破裂させるほど増殖

T2ファージが大腸菌に寄生してから、大腸菌内で子ファージを産生し、大腸菌外へと放出するまでの時間はとても短いです。その時間はわずか30分

寄生から30分経つと、大腸菌が破裂して、そこから子ファージがたくさん放出されますが、菌が破裂することを「溶菌」と言います。この言葉はよくテストなどに出題されるので、生物の勉強をするときには覚えておきましょう。

ちなみに溶菌してしまった大腸菌は死んでしまいます。T2ファージに寄生されたら一生の終わり。そんな気持ちで大腸菌は日々生きていかなければなりません。

#3 ハーシーとチェイスの実験

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さて、ついにこの記事の本題に入っていきます。ここまでハーシーとチェイスやT2ファージというウイルスについての基本的な情報について解説してきました。ここからは実際にハーシーとチェイスはどのような実験をして、遺伝子はDNAであると決定づけたのかということについて解説していきます。

なんども繰り返しになりますが、この実験においてカギになるのはT2ファージの構成元素ですので、しっかりと構成要素を頭の中に思い浮かべてくださいね。

\次のページで「T2ファージを標識」を解説!/

T2ファージを標識

まず、T2ファージの外殻とDNAを標識します。標識というのは簡単に言えば、それぞれに違う色を塗って区別できるようにすることです。

ここで出てくるのが、外殻とDNAの構成要素の違い。ハーシーとチェイスはその構成要素に違いに目をつけました。DNAにはPがあり、タンパク質にはSが含まれていますね。これらを標識したT2ファージを大腸菌に寄生させて、子ファージのDNAとタンパク質を確認しました。

もし子ファージのDNAが親ファージと同じなら親から子に伝わる遺伝子はDNA子ファージの外殻が親ファージと同じなら遺伝子はタンパク質であると言えますね。

5分間細菌内で増殖させる

T2ファージを標識した次は、T2ファージを大腸菌に寄生させる過程です。DNAを標識したT2ファージとタンパク質を標識したT2ファージをそれぞれ大腸菌に寄生させます。その後は5分間放置。

すると、大腸菌内で子ファージがみるみるうちに増殖し、最終的には大腸菌を破裂させて子ファージが飛び出します。この子ファージのDNAとタンパク質の標識を確認することで、遺伝子の正体を突き止めるのです

遺伝子の正体はDNAであると判明

最終的に大腸菌を破って出てきた子ファージのDNA、タンパク質はどうなっていたのか...

実験結果は、DNAは親ファージと同じ標識がされたもので、タンパク質は親ファージの標識がされたものではないことがわかりました

この結果からハーシーとチェイスは親から子に伝わる遺伝子とはDNAであるということを決定づけたということです。

ハーシーとチェイスはファージの構成要素に着目した

この実験でわかったことは遺伝子はDNAであるということですが、それと同じく大事になることはどのように実験をしたかということです。

ハーシーとチェイスはT2ファージのDNAとタンパク質の構成要素に着目しました。構成要素に違いがあるからこそこの実験ができたのです。さらに、都合が良いことにT2ファージは大腸菌に寄生するという特徴を持っています。これによって、子ファージのDNAとタンパク質が親ファージと同じかどうか確認すれば遺伝子の正体がわかると考えたのです。

このことをしっかりと覚えておけば、人に説明するときにも困らないのではないでしょうか。

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理科生物細胞・生殖・遺伝

3分で簡単ハーシーとチェイスが見つけた遺伝子!その正体について現役理系塾講師がわかりやすく解説

T2ファージを標識

まず、T2ファージの外殻とDNAを標識します。標識というのは簡単に言えば、それぞれに違う色を塗って区別できるようにすることです。

ここで出てくるのが、外殻とDNAの構成要素の違い。ハーシーとチェイスはその構成要素に違いに目をつけました。DNAにはPがあり、タンパク質にはSが含まれていますね。これらを標識したT2ファージを大腸菌に寄生させて、子ファージのDNAとタンパク質を確認しました。

もし子ファージのDNAが親ファージと同じなら親から子に伝わる遺伝子はDNA子ファージの外殻が親ファージと同じなら遺伝子はタンパク質であると言えますね。

5分間細菌内で増殖させる

T2ファージを標識した次は、T2ファージを大腸菌に寄生させる過程です。DNAを標識したT2ファージとタンパク質を標識したT2ファージをそれぞれ大腸菌に寄生させます。その後は5分間放置。

すると、大腸菌内で子ファージがみるみるうちに増殖し、最終的には大腸菌を破裂させて子ファージが飛び出します。この子ファージのDNAとタンパク質の標識を確認することで、遺伝子の正体を突き止めるのです

遺伝子の正体はDNAであると判明

最終的に大腸菌を破って出てきた子ファージのDNA、タンパク質はどうなっていたのか…

実験結果は、DNAは親ファージと同じ標識がされたもので、タンパク質は親ファージの標識がされたものではないことがわかりました

この結果からハーシーとチェイスは親から子に伝わる遺伝子とはDNAであるということを決定づけたということです。

ハーシーとチェイスはファージの構成要素に着目した

この実験でわかったことは遺伝子はDNAであるということですが、それと同じく大事になることはどのように実験をしたかということです。

ハーシーとチェイスはT2ファージのDNAとタンパク質の構成要素に着目しました。構成要素に違いがあるからこそこの実験ができたのです。さらに、都合が良いことにT2ファージは大腸菌に寄生するという特徴を持っています。これによって、子ファージのDNAとタンパク質が親ファージと同じかどうか確認すれば遺伝子の正体がわかると考えたのです。

このことをしっかりと覚えておけば、人に説明するときにも困らないのではないでしょうか。

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