今回は周期表で1番目の原子である水素について学んでいきます。
電池や燃料として使われているから水素を知らない人はいないと思う。
でも、ほとんどの人が水素が何か知らないんじゃないか?
水素は最も基本的な原子だから、これを学べば他の原子の理解にも繋がるぞ。
では、化学に詳しく、大学での研究の実験で水素を使用したこともあるライターshiogiと一緒に解説していこう。

ライター/shiogi

大学院を卒業し、化学系の専攻で修士号を取得している。海外の学会での研究成果の発表経験がある。

1. 聞いたことはあるけど、水素って結局なに?

image by iStockphoto

水兵リーベ僕の船……。

この語呂合わせで原子(げんし)が並べられた周期表(しゅうきひょう)を暗記した人も多いと思います。今回はこの語呂合わせの最初に出てくる「水」こと水素(すいそ)についてのお話です。

水素はとても身近な気体ですよね。皆さんも水素爆発水素燃料電池などのキーワードを聞いたことがあるのではないでしょうか。しかし、ほとんどの人がそもそも水素が何であるかということは知らないと思います。

でも、水素は原子の中でも最もシンプルな原子なので、基礎を理解するのは簡単。だから、文系で全く化学の知識がない人でも大丈夫。水素から化学の世界に入門しましょう。

それでは、最初に水素とは何かという基礎から学んでいきます。

1.1. 水素原子って何からできてるの?

水素は原子番号1番の原子です

原子番号は正の電荷をもつ粒子である陽子(ようし)の数を表します。だから、原子番号が1の水素は1つの陽子をもっているということになるんです。

さらに、水素は1つの陽子だけではなく、1つの電子(でんし)ももっています。陽子が正の電荷をもつのに対し、電子は負の電荷を帯びています。

また、水素原子は宇宙に最も豊富に存在する原子です。宇宙全体の質量の3/4を占めていると考えられています。

水素は最も構造がシンプルであり、かつ最もありふれた原子なんです。

1.2. 水素原子と気体の水素って違うの?

実は、水素原子と気体の水素は違うんです

一般的に私たちが水素と呼ぶのは、水素原子が2つ結合してできた水素分子(すいそぶんし)から構成される気体を指します。水素原子2つが結合しているので表記はH2です。

そして、水素は最も軽い気体になります。なんと、体積あたりの重量は二酸化炭素の22分の1しかありません。

また、水素は無色・無臭なので、私たちが目で見たり、臭いで感じ取ることは不可能です。

2. 水素は3種類もある!?

Hydrogen Deuterium Tritium Nuclei Schmatic-ja-textpath.svg
By I, WhiteTimberwolf, CC BY-SA 3.0, Link

実は水素原子は3種類もあるんです。


先ほど、水素は1つの陽子と1つの電子から構成されると説明しました。
しかし、この2つの粒子に加えて電荷をもたない中性子(ちゅうせいし)という粒子をもっている水素があります

最初に説明した中性子をもたない水素を軽水素(けいすいそ、1H)とも呼ぶんです。それに対して、1つの電子と陽子に加えて中性子を1つもつ水素原子を重水素(じゅうすいそ、2H)と呼びます。さらに、中性子を2つもつ水素原子は三重水素(3H、さんじゅうすいそ)です。

重水素と三重水素は軽水素と性質が異なるため、それぞれ別の応用がされています。

重水素は原子核反応において中性子の減速や診断薬の追跡に使用されているんです。一方、三重水素は核融合燃料や発光塗料に応用されています。

\次のページで「3. 気体としての水素の性質」を解説!/

3. 気体としての水素の性質

それでは、気体の水素がどのような性質があるのか学んでいきましょう。

主な水素の気体としての性質は以下の3つです。

1. 水に溶けない

2. 燃えやすい

3. 酸素と反応して水を生じる

それぞれの性質について詳しく解説していきます。水素の気体としての性質を理解すれば、なぜ私たちの身近で水素が利用されているのか理解することができるでしょう。

3.1. 水素って水に溶けないの?

水上置換法svg.svg
By すじにくシチュー - 投稿者自身による作品, CC0, Link

水素は頭文字に「水」がついているから、水に溶けると思っている人も多いのではないでしょうか?

でも、実際は、水素はほとんど水に溶けないんです。

だから水素を集める時は、水に溶けにくい気体の捕集に用いられる水上置換法(すいじょうちかんほう)が用いられます。水上置換法とは、水の入った水槽などに気体の発生口を入れ、水で満たした容器の中に気体を集めるという手法です。

ちなみに、水素は亜鉛や鉄といった金属に塩酸や硫酸をかけることで発生することが知られています。

3.2. 水素は燃えやすい

水素はとても燃えやすい気体です。

水素は火の気が近くにあったり、静電気などのエネルギーが与えられたりすると燃焼します。

実際に、酸素下で水素に火を近づけると、ポンと音を立てた後に炎が生じます。(危険なので絶対に真似しないでくださいね。)

また、水素の濃度が高い時には燃焼とともに、爆発も起きます。実際に、水素による爆発事故が多発しているんです。水素爆発なんていう言葉を聞いたことがある方も多いでしょう。

福島の第一原発の爆発も水素の発生が原因でした。まず、原子炉の被覆菅が空気中の水蒸気と反応することで、水素が発生しました。さらに、発生した水素が酸素と高温下で反応することによって原子力発電所内で爆発が起きたのです。

\次のページで「3.3. 水素は酸素と反応して水を生じる」を解説!/

3.3. 水素は酸素と反応して水を生じる

水素は酸素と反応すると水を生じます

この現象は水素の語源でもあるんです。

英語で水素は「hydrogen(ハイドロジェン)」と呼びます。これは、フランスの化学者ラヴォアジエが命名した「hydrogène(イドロジェーヌ)」という言葉が由来になっているんです。hydôrが「水」という意味で、gennenが「生む」という意味を表していて、これらの言葉を組み合わせることで名付けられました。

4. 水素って何に使えるの?

水素は様々な用途に使用されています。

主な用途は以下の3つです。

1. 材料合成の原料

2. 水素燃料電池

3. 水素燃料

それでは、それぞれについて詳しく見ていきましょう。

4.1. 材料合成

水素は様々な物質と反応するので、あらゆる材料の合成の原料として使われています。

代表的なものは、以下の用途です。

\次のページで「4.2. 水素燃料電池」を解説!/

アンモニアの製造
窒素と反応させることで肥料となるアンモニアの製造が行えます。

油脂のマーガリン化
油脂に添加することで油脂を固体化させ、トウモロコシ油や綿実油をマーガリン化させることができるんです。

このように水素を使うことで、多様な物質の生産が可能になるんですよ。

4.2. 水素燃料電池

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水素と酸素の化学反応により、電気エネルギーを生み出すことができます。

水素と酸素の化学反応では、水が生じ、基本的に副生成物が生じません。そのため、 大気汚染の原因となる二酸化炭素(CO2)や窒素酸化物(NOx)、一酸化炭素(CO) を排出せずに発電することが可能なんです。 

他の反応を用いた電池では副産物が生じてしまうのに対し、水素と酸素の反応で生じるのは水であるため、環境負荷が低いとされています。そのため、再生可能エネルギーとして注目を集めているんです。

この水素燃料電池は、モーターを回して走る燃料電池自動車(FCV)に搭載され、実用化が進められています。

4.3. 水素燃料

Shuttle Main Engine Test Firing cropped edited and reduced.jpg
Publieke domein, Skakel

水素は低温・低圧下では液体になります
この液化した水素(液化水素、えきかすいそ)を液化した酸素(液化酸素、えきかさんそ)で燃やすと、エネルギーが得られるんです。

生じたエネルギーによって、空気中の水分が蒸発して空気が膨張し、外へと空気が排出されます。
この空気の排出を推進力とした燃料を水素燃料と呼ぶんです。

この水素燃料は、ロケット燃料として利用されています。

水素を知れば他の原子をもっと知りたくなる!

今回は水素について学びました。水素には面白い性質がたくさんあることをわかっていただけたのではないでしょうか。

水素よりも興味深くてユニークな性質を持つ原子はまだまだたくさんあります。原子はとても小さくて目に見えないですが、あらゆる物質の構成要素なんです。つまり、原子のことを知れば、あらゆる材料の性質を知ることに繋がります。

ここで学んだことをきっかけにして他の原子についてもどんどん学んでいきましょう!

" /> 【化学】「水素」って何?化学専攻が教える文系でもわかる「水素」のお話 – Study-Z
化学

【化学】「水素」って何?化学専攻が教える文系でもわかる「水素」のお話


今回は周期表で1番目の原子である水素について学んでいきます。
電池や燃料として使われているから水素を知らない人はいないと思う。
でも、ほとんどの人が水素が何か知らないんじゃないか?
水素は最も基本的な原子だから、これを学べば他の原子の理解にも繋がるぞ。
では、化学に詳しく、大学での研究の実験で水素を使用したこともあるライターshiogiと一緒に解説していこう。

ライター/shiogi

大学院を卒業し、化学系の専攻で修士号を取得している。海外の学会での研究成果の発表経験がある。

1. 聞いたことはあるけど、水素って結局なに?

image by iStockphoto

水兵リーベ僕の船……。

この語呂合わせで原子(げんし)が並べられた周期表(しゅうきひょう)を暗記した人も多いと思います。今回はこの語呂合わせの最初に出てくる「水」こと水素(すいそ)についてのお話です。

水素はとても身近な気体ですよね。皆さんも水素爆発水素燃料電池などのキーワードを聞いたことがあるのではないでしょうか。しかし、ほとんどの人がそもそも水素が何であるかということは知らないと思います。

でも、水素は原子の中でも最もシンプルな原子なので、基礎を理解するのは簡単。だから、文系で全く化学の知識がない人でも大丈夫。水素から化学の世界に入門しましょう。

それでは、最初に水素とは何かという基礎から学んでいきます。

1.1. 水素原子って何からできてるの?

水素は原子番号1番の原子です

原子番号は正の電荷をもつ粒子である陽子(ようし)の数を表します。だから、原子番号が1の水素は1つの陽子をもっているということになるんです。

さらに、水素は1つの陽子だけではなく、1つの電子(でんし)ももっています。陽子が正の電荷をもつのに対し、電子は負の電荷を帯びています。

また、水素原子は宇宙に最も豊富に存在する原子です。宇宙全体の質量の3/4を占めていると考えられています。

水素は最も構造がシンプルであり、かつ最もありふれた原子なんです。

1.2. 水素原子と気体の水素って違うの?

実は、水素原子と気体の水素は違うんです

一般的に私たちが水素と呼ぶのは、水素原子が2つ結合してできた水素分子(すいそぶんし)から構成される気体を指します。水素原子2つが結合しているので表記はH2です。

そして、水素は最も軽い気体になります。なんと、体積あたりの重量は二酸化炭素の22分の1しかありません。

また、水素は無色・無臭なので、私たちが目で見たり、臭いで感じ取ることは不可能です。

2. 水素は3種類もある!?

実は水素原子は3種類もあるんです。


先ほど、水素は1つの陽子と1つの電子から構成されると説明しました。
しかし、この2つの粒子に加えて電荷をもたない中性子(ちゅうせいし)という粒子をもっている水素があります

最初に説明した中性子をもたない水素を軽水素(けいすいそ、1H)とも呼ぶんです。それに対して、1つの電子と陽子に加えて中性子を1つもつ水素原子を重水素(じゅうすいそ、2H)と呼びます。さらに、中性子を2つもつ水素原子は三重水素(3H、さんじゅうすいそ)です。

重水素と三重水素は軽水素と性質が異なるため、それぞれ別の応用がされています。

重水素は原子核反応において中性子の減速や診断薬の追跡に使用されているんです。一方、三重水素は核融合燃料や発光塗料に応用されています。

\次のページで「3. 気体としての水素の性質」を解説!/

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