今回は物理の力学、そのなかでも重要な概念のひとつであるモーメントについて勉強しよう。

モーメントは簡単に言えば回転力のことです。
てこの原理は知っているでしょう。作用点から力点が離れているほど重いものを持ち上げられる、という話だったが、なぜそうなるのかはモーメントについて学べば理解できるぞ。
難しい教科の高校物理になってから登場したから取っつきにくく思っているやつもいるでしょうが、その考え方は意外に簡単です。
力のつり合いの延長線ということを念頭において考えていこう。

複雑なモーメントの計算が多くを占める建築構造力学を専攻するライター、ユッキーと一緒に解説していこう。

ライター/ユッキー

建築学科で構造力学を専攻している大学生。小学校から高校と理科系クラブに所属しており、高校ではクラブ内の研究を海外で英語発表することも経験した。

1 モーメントとは?

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物理、特に力学について学ぶにあたってモーメントは特に重要な概念です。高校物理で急に登場して戸惑った方も多いかと思います。しかし、モーメントに限らず力学は一度理解してしまえば、簡単に応用がきく分野です。

モーメントとは物体に力が加えられたときに発生する回転力と言えるでしょう。(厳密に言えば力とモーメントは異なりますが、大まかなイメージとして捉えてください)

では、モーメントについて順序立てて説明していきたいと思います。

2 モーメントの考え方

2 モーメントの考え方

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まず、モーメントとは何かについてお話します。一言で表すならば、「回転する力」です。

例えば、ここに棒があります。棒上の点Aに図のような力Fが加わったとき、棒は時計周りに回転することは想像できますよね?

この回転する力について表したものがモーメントです。

大まかなイメージはつかんでいただけたかと思います。しかし、実際には物理の現象はほとんど公式で表されるものですよね。モーメントを表した式はこちらです。

M=F×L

M:モーメント(N*m)
F:力(N)
L:距離(m)

式からわかるように、モーメントは力の大きさと距離の積で求められます。力が大きいほど、距離が大きいほどモーメントは大きくなることがわかるでしょう。

ここで「距離ってなんだ?」と疑問に思った方も多いはずです。距離は「任意に決めたある点」からの距離を表します。言い換えるならば、「モーメントを知りたい点と加えられる力の距離」です。

\次のページで「3 例題を参考にした式の考え方」を解説!/

3 例題を参考にした式の考え方

3 例題を参考にした式の考え方

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具体例を参考に説明していきましょう。

ここでは、点Aに加えられた力Fが、棒の中心点Oに与えられるモーメントについて考えていきましょう。前提として、時計回りを正として考えます。

実際にOにかかるモーメントを計算します…が、式や図を見てわかるとおり、計算自体はとても簡単なものです。OA間は2m、F=4N、Fは棒を時計回りに回転させるため、

M=+4×2=+8(N*m)となります。つまり、「点Oを中心に8(N*m)の力で時計回りに回転する」と考えてください。

ここで注意してほしいことは、モーメントは「ベクトル」であるということです。

回転にも時計回り、反時計回りと向きがありますよね?モーメントはその「向き」を考慮したものであるため、数式でもそれを反映させます。

3-1 では、点Aでのモーメントは?

次に、点Aに与えられるモーメントについて考えてみましょう。モーメントは力と距離の積ですが、力Fは点Aに加えられていますね。つまり、距離は0となってしまいます。

このことから、点Aに与えられるモーメントは0、つまりありません。「点Aを中心に回転はしない」ということです。

てこの原理を思い出してみてください。力点は遠ければ遠いほど、重いものを持ち上げられますよね?それと同様に力が加えられた点(点A)と知りたい点(点O)が離れているほど、モーメントは大きくなり、逆に近いほど小さくなります。

ここで学んだ「力が加わる点と、モーメントを知りたい点の距離が0のときモーメントは0になる」という特性はぜひ覚えておいてください。

4 モーメントのつり合い

モーメントは回転を表す、とお教えしましたが、力が加えられていても必ずしも回転しているとは限りません。力のつり合いがあるように、モーメントにもつり合いが存在するのです。

複数のモーメントが物体に加えられていても、それがつり合っていれば回転しないといえます。

\次のページで「4-1 ふたつ以上の力が加わったときのモーメント」を解説!/

4-1 ふたつ以上の力が加わったときのモーメント

4-1 ふたつ以上の力が加わったときのモーメント

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また、ここで例を見ていきましょう。

先ほどの図に新しく力F`が加わっていますね。点Bに力Fが加えられたとき、棒のモーメントはどうなるのか計算してみましょう。

ここでもまた点Oまわりのモーメントについて考えます。

まず、力Fについて考えましょう。先ほどと同様にOA間は2m、F=4N、Fは棒を時計回りに回転させるため、+4×2=+8(N*m)となります。

次に力F`についてです。OB間は1m、F`=8N、ですが、F`は棒を反時計回りに回転させることに注意します。以前お話した「ベクトル」の考え方ですね。つまり、-8×1=-8(N*m)となります。

この二つをまとめると、M=(+8)+(-8)=0です。

M=0であるということは、モーメントが釣り合っていることを表します。つまり「点Oを中心に回転しない」ということです。

4-2 では、さらに力が大きくなるとつり合いはどうなる?

4-2 では、さらに力が大きくなるとつり合いはどうなる?

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次に図のようにF`の大きさが変わった例題について考えましょう。

力Fについて考えましょう。先ほどと同様にOA間は2m、F=4N、Fは棒を時計回りに回転させるため、+4×2=+8(N*m)となります。

次に力F`についてです。OB間は1m、F`=10N、F`は棒を反時計回りに回転させるため、-10×1=-10(N*m)となります。

これらをまとめるとM=(+8)+(-10)=-2です。

つまり、「点Oを中心に2(N*m)の力で反時計回りに回転する」ことを表します。

参考書で勉強している方は例題ではモーメントが釣り合っており、物体は静止している問題が多いかと思います。しかし、このように複数のモーメントが釣り合わず回転している例もあるので注意してください。

5 力がナナメに加わると?

5 力がナナメに加わると?

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ここからは、少し難しい内容ですが、基礎として重要な部分です。

図の点Oまわりのモーメントについて考えましょう。

今までとは違い、力に角度がついていますね。驚いてしまうかもしれませんが、これも今までと考え方は変わりません。

まずはナナメの力を水平方向と鉛直方向に分解して考えましょう。

\次のページで「モーメントの考え方は難しくない」を解説!/

なす角をθとすると、水平方向はFcosθ、鉛直方向はFsinθで求められます。

ここではθ=45°なので、それぞれFcosθ=√2、Fsinθ=√2となります。

これで力は鉛直方向と水平方向に分けられました。

まずは、今まで通り鉛直方向について考えます。OA間は2m、sinθ=√2N、Fは棒を時計回りに回転させるため、+√2×2=+2 (N*m)です。

次に、水平方向について考えます。この力の方向は、棒の中を通るような方向であることがわかるでしょうか。

ここで、以前お教えした「力が加わる点と、モーメントを知りたい点の距離が0のときではモーメントは0になる」という考え方を使います。力が棒を通るような方向ということは、点Oも通るイメージがつきますか?つまり、水平方向の力と点Oとの距離は0です。

そのため、水平方向の力Fcosθが点Oに与えるモーメントは0ということになります。

したがって、この問題に対する回答は、「点Oには時計回りに2(N*m)のモーメントが発生する」です。

ここで勘違いしがちな点があります。それは、問題によっては必ずしも片方のモーメントが0になるわけではない点です。

この例では、水平方向の力が0となりましたが、仮に棒が斜めに配置されていたりすると点Oと力が一直線にはなりません。そのようなときは、注意して力と点の距離を考えましょう。(力学は図にメモを書き込みながら考えるとわかりやすいですよ)

モーメントの考え方は難しくない

モーメントは取っつきにくそうですが、ベクトルであることに気を付ければ単純な足し算と掛け算の計算から成り立っています。

今回は横たわった棒を例に考えました。実際には箱やトラスといった複雑な形のものにもモーメントはあります。しかし、この棒の考え方を応用すれば理解が進むでしょう。

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物理物理学・力学理科

【物理】力のモーメントを力学専攻ライターが5分でわかりやすく解説!考え方を例題を通して学ぼう

今回は物理の力学、そのなかでも重要な概念のひとつであるモーメントについて勉強しよう。

モーメントは簡単に言えば回転力のことです。
てこの原理は知っているでしょう。作用点から力点が離れているほど重いものを持ち上げられる、という話だったが、なぜそうなるのかはモーメントについて学べば理解できるぞ。
難しい教科の高校物理になってから登場したから取っつきにくく思っているやつもいるでしょうが、その考え方は意外に簡単です。
力のつり合いの延長線ということを念頭において考えていこう。

複雑なモーメントの計算が多くを占める建築構造力学を専攻するライター、ユッキーと一緒に解説していこう。

ライター/ユッキー

建築学科で構造力学を専攻している大学生。小学校から高校と理科系クラブに所属しており、高校ではクラブ内の研究を海外で英語発表することも経験した。

1 モーメントとは?

image by iStockphoto

物理、特に力学について学ぶにあたってモーメントは特に重要な概念です。高校物理で急に登場して戸惑った方も多いかと思います。しかし、モーメントに限らず力学は一度理解してしまえば、簡単に応用がきく分野です。

モーメントとは物体に力が加えられたときに発生する回転力と言えるでしょう。(厳密に言えば力とモーメントは異なりますが、大まかなイメージとして捉えてください)

では、モーメントについて順序立てて説明していきたいと思います。

2 モーメントの考え方

2 モーメントの考え方

image by Study-Z編集部

まず、モーメントとは何かについてお話します。一言で表すならば、「回転する力」です。

例えば、ここに棒があります。棒上の点Aに図のような力Fが加わったとき、棒は時計周りに回転することは想像できますよね?

この回転する力について表したものがモーメントです。

大まかなイメージはつかんでいただけたかと思います。しかし、実際には物理の現象はほとんど公式で表されるものですよね。モーメントを表した式はこちらです。

M=F×L

M:モーメント(N*m)
F:力(N)
L:距離(m)

式からわかるように、モーメントは力の大きさと距離の積で求められます。力が大きいほど、距離が大きいほどモーメントは大きくなることがわかるでしょう。

ここで「距離ってなんだ?」と疑問に思った方も多いはずです。距離は「任意に決めたある点」からの距離を表します。言い換えるならば、「モーメントを知りたい点と加えられる力の距離」です。

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