みんな宗教のことはどれくらい知っているかな?日本に住んでいると、宗教を身近に感じることはそれほど多くないよな。ですが、教養として知っておいて損はない。まずは世界三大宗教について学ぶところから始めてみようか。世界史に詳しいライター万嶋せらと一緒に解説していきます。

ライター/万嶋せら

会社員を経て、現在はイギリスで大学院に在籍中のライター。歴史が好きで関連書籍をよく読み、中でも近代以降の歴史と古典文学系が得意。歴史を紐解くうえでの前提知識となる宗教についても知見があり、今回は「世界三大宗教」について解説する。

世界三大宗教とは何か

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まずは世界三大宗教とは何かについて解説していきます。

どの宗教が世界三大宗教?

「世界三大宗教」とは、キリスト教・イスラム教・仏教を指します。実は、世界三大宗教と言うのは日本で使われる用語です。英語圏などでこれに該当する概念はありません。代わりに「五大宗教」と言われることがありますが、これは一般的にキリスト教・イスラム教・仏教にヒンドゥー教とユダヤ教を加えた5つの宗教を指します。

なぜ世界史に宗教が出てくるのか

そもそも宗教とは、神や自然を超越した観念を中心とした教義への信仰心やそれにともなう社会習慣、文化、制度、儀式などのことを表しています。しかし宗教の定義は難しく、明確な定義はありません。

なぜ、世界史で宗教を学ぶ必要があるのでしょうか。それは、宗教が人間の歴史と密接に結びついているからです。宗教の対立が争いを引き起こしたり、国や地域を統治する手段として宗教が利用されたりと、宗教と歴史は切っても切り離せない関係にあります。つまり、宗教を知ることで世界史が理解しやすくなるのです。

また世界には、宗教が政治の重要な役割を占めていたり日常生活に非常に大きな影響力を持っていたりする国も少なからずあります。日本に住んでいるとあまり実感がわかないかもしれませんね。けれど、宗教の基本的な知識は国際社会で生きる上では不可欠な教養でもあるのです。

キリスト教とはどんな宗教?

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ここからはキリスト教について詳しく解説していきます。

イエスが説いたキリスト教

キリスト教は約2千年前にナザレのイエスによって伝えられ、その教えを信じた人々に広められた宗教です。ユダヤ教をルーツとする一神教であり、「神を信じる者は救われる」「隣人を愛しなさい」などといった教えを説いています。

イエスは地上に遣わされた救世主(キリスト)として父なる神(ヤハウェ)の言葉を人々に伝え、そして人々を罪から救うために十字架にかけられ命を失いました。しかしその後復活して、弟子の前に再び姿を現したという言い伝えがあります。キリスト教の聖地は、イエスの誕生の地であるエルサレムです。

旧約聖書と新約聖書

キリスト教の教典は旧約聖書と新約聖書の二種類です。

旧約聖書には、創造主である神が天地を創造した物語や預言者モーセが神の命令によって民を導く物語などが記されています。一方の新約聖書は、イエスの言葉(福音)が記されたものです。旧約聖書はイエスの誕生前までの神と人々との契り、新約聖書はイエスの誕生後に新たに更新された神と人々との契りと捉えられています。

ちなみに旧約聖書はユダヤ教の教典でもありますが、「旧約」というのは「新約」との対比から見たキリスト教徒の捉え方です。ユダヤ教の人々にとっては唯一の教典であり、旧約聖書ではなく単に聖書と呼んでいます。

キリスト教の広がり

キリスト教は世界で最も信者の多い宗教で、およそ22億人が信仰しています。

キリスト教が創始されたのは当時のローマ帝国領内でしたが、当初キリスト教は異端として弾圧されていました。しかし信者は増え続け、4世紀初頭にはキリスト教が公認される流れに。そして、4世紀の後半には正式にローマ帝国の国教とされました。

大航海時代には、ヨーロッパから世界各地にキリスト教が広まり始めます。宗教改革の影響で弱体化されつつあったカトリック教会が、信者獲得のためにローマ帝国の後ろ盾のもと海外での布教活動に力を入れたためです。日本にも、1549年に宣教師フランシスコ・ザビエルによってキリスト教が伝えられました。

こうして世界各地にキリスト教が伝播し、現在では非常に広範な地域に信者がいます。

キリスト教の教派

キリスト教は様々な教派にわかれていますが、大まかに分類すると西方教会と東方教会にわけることができます。初代教会が完全に東西に分裂したのは11世紀のことです。しかしローマ帝国が東西に分裂した4世紀末から、教義の解釈の違いなど東西の隔たりは徐々に大きくなっていました。

西方教会は西ヨーロッパに広まったキリスト教で、主な教派はカトリックとプロテスタントです。プロテスタントは16世紀にカトリック教会から分離した教派ですが、これはマルティン・ルターを中心とした宗教改革の結果でした。

東方教会はギリシャやヨーロッパ方面に広まったキリスト教です。ギリシャ正教とも呼ばれ、正教会が中心となっています。

イスラム教徒はどんな宗教?

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続いてイスラム教について見ていきましょう。

ムハンマドが説いたイスラム教

イスラム教は、7世紀の初頭に預言者ムハンマドによって創始された宗教です。唯一の神(アッラー)を信仰し、偶像崇拝の禁止やラマダンの断食、禁酒や禁欲を定めた厳しい戒律などが特徴として挙げられます。

イスラム教の神とキリスト教の神は、同一の創造主です。神はこれまでに地上に何度か預言者を送っているとされており、イスラム教ではイエスも預言者の一人とされています。最後に送られた預言者がムハンマドであるため、イスラム教ではムハンマドの伝えた教えが神の完全な教えだと考えられているのです。

ムハンマドの死後、その教えはコーランにまとめられました。これがイスラム教の教典として使われています。

イスラム教にはいくつか聖地がありますが、最大の聖地はムハンマド生誕の地であるメッカです。イスラム教徒はメッカの方角に向かい礼拝をしています。

\次のページで「イスラム教の教派」を解説!/

イスラム教の教派

イスラム教は主にシーア派とスンニ派に分けることができます。ムハンマドの死後に後継者問題が生じ、ムハンマドの血族が正統な後継者だと主張するシーア派と、後継者にふさわしい者を話し合いで決めるべきだと主張するスンニ派に分裂しました。戒律などに多少の違いはあるものの、教義をめぐって対立しているわけではありません。

スンニ派はイスラム教徒の8割程度を占める多数派で、世界各地に分布しています。一方のシーア派は主に中東で広まっていて、イランなどが代表的な国です。

イスラム教の広がり

イスラム教の信者数は、およそ16億人です。中東を中心として北アフリカやアジアなどへ広がっているほか、中国やモンゴルなどでは一部の民族の間で信仰されていて、人種を越え世界各地に信者が分布しています。

現在、イスラム教の人口規模はキリスト教に次ぐ第二位です。しかし成長速度が速く、22世紀にはイスラム教徒の数がキリスト教徒の数を抜いているだろうと予想されています。イスラム教徒の出生率が高いことや、信者の平均年齢が比較的低いことなどがその理由です。

仏教とはどんな宗教?

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最後に仏教について解説していきます。

ブッダが説いた仏教

仏教は、紀元前5世紀頃にブッダ(ゴータマ・シッダールタ、又は釈迦とも)が伝えた宗教です。ブッダはインドのシャーキヤ族(釈迦族)の王族として生まれましたが、後に出家。その後、菩提樹の下で悟りを開いたと言われています。

仏教の教えの根底にあるのは、命あるすべてのものは何度も生まれ変わりその苦しみから逃れることはできない、という輪廻転生の世界観です。苦しみや悩みからから抜け出して悟りの境地に達することを解脱と言い、仏教の教義は解脱を目指しています。キリスト教やイスラム教よりも複雑で、理解しにくいと言われることも多いですね。

仏教の宗派

仏教には非常に多くの宗派がありますが、大きく部派仏教・大乗仏教・密教の3種類にわけることができます。

部派仏教は、ブッダやその直弟子から受け継がれた保守的な傾向の強い教えです。厳しい修行により自らを救済することを目指していて、現存する宗派は上座部仏教と呼ばれています。ミャンマーやタイなどの東南アジア諸国に広まりました。

大乗仏教では、修行をすることで自らの魂だけでなく他者も救済することができるとされています。出家をしていない人々も信仰心さえあれば極楽浄土に行くことができ、より一般の民衆との親和性が高い仏教です。中国や日本など東アジアを中心に広まりました。

密教は、教義や儀礼を秘密裏に伝承している仏教です。大乗仏教の一派とされることもあります。

\次のページで「仏教の広がり」を解説!/

仏教の広がり

仏教徒は全世界で約5億人いると推定されていて、その多くが居住するのはアジア圏です。近年では、中東やヨーロッパ、アフリカなどで仏教徒の人口が増加している地域もあります。

発祥の地インドで仏教は数世紀にわたり安定した成長を見せていましたが、後に衰退しました。イスラム勢力の侵攻や、バラモン教と土着の民俗信仰を融合したヒンドゥー教がより生活に密着していたことなど、様々な理由があったと言われています。現在、インドでは仏教ではなくヒンドゥー教がもっとも信者数の多い宗教です。

仏教の各地への伝播には、シルクロードが大きな役割を果たしたと考えられています。シルクロードを西方面に伝わりながら、仏教は中国などアジアの各地域へ広まっていきました。

日本に仏教が伝来したのは538年のことで、百済(朝鮮半島)から持ち込まれました。日本では特定の信仰宗教を持たない人の割合が多いものの、ほとんどの人は広義の仏教徒に含まれます。

なぜ世界三大宗教と呼ばれているのか

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ここからは、キリスト教・イスラム教・仏教が世界三大宗教と呼ばれている理由について解説します。

最大の宗教ではない?

世界三大宗教という名前から、キリスト教・イスラム教・仏教は信者数の多い上位3宗教だと勘違いしてしまう人もいます。しかし、そうではありません。

世界で最も信者数が多いのはキリスト教、次いでイスラム教も人口規模の大きな宗教ですが、世界第三位の人口を擁するのは仏教ではなくヒンドゥー教です。ヒンドゥー教徒は約10億人と、仏教徒のおよそ2倍の人々が信仰しています。

世界宗教と民族宗教

なぜ人口規模より大きなヒンドゥー教(約10億人)ではなく、仏教が世界三大宗教に含まれているのでしょうか?それは、ヒンドゥー教の信者のほとんどがインドに居住していて人口分布がかたよっているからです。仏教はアジアを中心に信仰され地域分布に多少のかたよりがあるものの、ヒンドゥー教と比べると信者は世界中に広く分布しています。

宗教はそもそも、あるひとつの民族や地域から発祥するものです。そのためどの宗教も、初めは特定の地域や民族のみに信仰される民族宗教なのですね。そうした観点から見ると、ヒンドゥー教はインドの民族宗教と言えるでしょう。また、日本人になじみの深い神道は日本の民族宗教です。

民族宗教には、やがて各地に広まり世界宗教となるものもあります。キリスト教・イスラム教・仏教は、ただ信者数が多いというだけでなく、地理的な隔たりや民族的な相違を越えて世界各地で人々の文化や生活に影響を与えていますね。つまり、これらは世界宗教なのです。

ヒンドゥー教でなく仏教が世界三大宗教に数えられているのは、そうした理由によります。

世界三大宗教は人種の垣根を越えて広がっている

日本に暮らしていると、宗教は特別なものだと感じることがあるかもしれません。けれど、宗教上の儀式や習慣は私たちの生活の中にも深く根付いています。また、「世界三大宗教」と呼ばれるキリスト教・イスラム教・仏教は、世界各地で歴史や文化を築いてきました。

宗教間や宗教内での対立が戦争や紛争を引き起こす例もたくさんありますね。宗教を知ると世界史が理解しやすくしやすくなるだけでなく、世界で今起きている様々な問題の原因もわかるようになるのです。

宗教の歴史は私たち人類の歴史と密接にかかわっています。歴史を紐解くために、ぜひ様々な宗教について学んでみてください。

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世界史歴史

3分で簡単にわかる「世界三大宗教」!聖地や教派も博識ライターがわかりやすく解説

みんな宗教のことはどれくらい知っているかな?日本に住んでいると、宗教を身近に感じることはそれほど多くないよな。ですが、教養として知っておいて損はない。まずは世界三大宗教について学ぶところから始めてみようか。世界史に詳しいライター万嶋せらと一緒に解説していきます。

ライター/万嶋せら

会社員を経て、現在はイギリスで大学院に在籍中のライター。歴史が好きで関連書籍をよく読み、中でも近代以降の歴史と古典文学系が得意。歴史を紐解くうえでの前提知識となる宗教についても知見があり、今回は「世界三大宗教」について解説する。

世界三大宗教とは何か

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まずは世界三大宗教とは何かについて解説していきます。

どの宗教が世界三大宗教?

「世界三大宗教」とは、キリスト教・イスラム教・仏教を指します。実は、世界三大宗教と言うのは日本で使われる用語です。英語圏などでこれに該当する概念はありません。代わりに「五大宗教」と言われることがありますが、これは一般的にキリスト教・イスラム教・仏教にヒンドゥー教とユダヤ教を加えた5つの宗教を指します。

なぜ世界史に宗教が出てくるのか

そもそも宗教とは、神や自然を超越した観念を中心とした教義への信仰心やそれにともなう社会習慣、文化、制度、儀式などのことを表しています。しかし宗教の定義は難しく、明確な定義はありません。

なぜ、世界史で宗教を学ぶ必要があるのでしょうか。それは、宗教が人間の歴史と密接に結びついているからです。宗教の対立が争いを引き起こしたり、国や地域を統治する手段として宗教が利用されたりと、宗教と歴史は切っても切り離せない関係にあります。つまり、宗教を知ることで世界史が理解しやすくなるのです。

また世界には、宗教が政治の重要な役割を占めていたり日常生活に非常に大きな影響力を持っていたりする国も少なからずあります。日本に住んでいるとあまり実感がわかないかもしれませんね。けれど、宗教の基本的な知識は国際社会で生きる上では不可欠な教養でもあるのです。

キリスト教とはどんな宗教?

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ここからはキリスト教について詳しく解説していきます。

イエスが説いたキリスト教

キリスト教は約2千年前にナザレのイエスによって伝えられ、その教えを信じた人々に広められた宗教です。ユダヤ教をルーツとする一神教であり、「神を信じる者は救われる」「隣人を愛しなさい」などといった教えを説いています。

イエスは地上に遣わされた救世主(キリスト)として父なる神(ヤハウェ)の言葉を人々に伝え、そして人々を罪から救うために十字架にかけられ命を失いました。しかしその後復活して、弟子の前に再び姿を現したという言い伝えがあります。キリスト教の聖地は、イエスの誕生の地であるエルサレムです。

旧約聖書と新約聖書

キリスト教の教典は旧約聖書と新約聖書の二種類です。

旧約聖書には、創造主である神が天地を創造した物語や預言者モーセが神の命令によって民を導く物語などが記されています。一方の新約聖書は、イエスの言葉(福音)が記されたものです。旧約聖書はイエスの誕生前までの神と人々との契り、新約聖書はイエスの誕生後に新たに更新された神と人々との契りと捉えられています。

ちなみに旧約聖書はユダヤ教の教典でもありますが、「旧約」というのは「新約」との対比から見たキリスト教徒の捉え方です。ユダヤ教の人々にとっては唯一の教典であり、旧約聖書ではなく単に聖書と呼んでいます。

キリスト教の広がり

キリスト教は世界で最も信者の多い宗教で、およそ22億人が信仰しています。

キリスト教が創始されたのは当時のローマ帝国領内でしたが、当初キリスト教は異端として弾圧されていました。しかし信者は増え続け、4世紀初頭にはキリスト教が公認される流れに。そして、4世紀の後半には正式にローマ帝国の国教とされました。

大航海時代には、ヨーロッパから世界各地にキリスト教が広まり始めます。宗教改革の影響で弱体化されつつあったカトリック教会が、信者獲得のためにローマ帝国の後ろ盾のもと海外での布教活動に力を入れたためです。日本にも、1549年に宣教師フランシスコ・ザビエルによってキリスト教が伝えられました。

こうして世界各地にキリスト教が伝播し、現在では非常に広範な地域に信者がいます。

キリスト教の教派

キリスト教は様々な教派にわかれていますが、大まかに分類すると西方教会と東方教会にわけることができます。初代教会が完全に東西に分裂したのは11世紀のことです。しかしローマ帝国が東西に分裂した4世紀末から、教義の解釈の違いなど東西の隔たりは徐々に大きくなっていました。

西方教会は西ヨーロッパに広まったキリスト教で、主な教派はカトリックとプロテスタントです。プロテスタントは16世紀にカトリック教会から分離した教派ですが、これはマルティン・ルターを中心とした宗教改革の結果でした。

東方教会はギリシャやヨーロッパ方面に広まったキリスト教です。ギリシャ正教とも呼ばれ、正教会が中心となっています。

イスラム教徒はどんな宗教?

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続いてイスラム教について見ていきましょう。

ムハンマドが説いたイスラム教

イスラム教は、7世紀の初頭に預言者ムハンマドによって創始された宗教です。唯一の神(アッラー)を信仰し、偶像崇拝の禁止やラマダンの断食、禁酒や禁欲を定めた厳しい戒律などが特徴として挙げられます。

イスラム教の神とキリスト教の神は、同一の創造主です。神はこれまでに地上に何度か預言者を送っているとされており、イスラム教ではイエスも預言者の一人とされています。最後に送られた預言者がムハンマドであるため、イスラム教ではムハンマドの伝えた教えが神の完全な教えだと考えられているのです。

ムハンマドの死後、その教えはコーランにまとめられました。これがイスラム教の教典として使われています。

イスラム教にはいくつか聖地がありますが、最大の聖地はムハンマド生誕の地であるメッカです。イスラム教徒はメッカの方角に向かい礼拝をしています。

\次のページで「イスラム教の教派」を解説!/

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