タンパク質を解説する記事も、今回が最終回です。

ここまで、第1回ではタンパク質とアミノ酸の構造、第2回ではタンパク質の立体構造に関わるアミノ酸の特徴やタンパク質の性質、第3回ではタンパク質ができるまでのプロセスを解説した。今回は生体内のタンパク質にはどんな種類があってどんな機能をもっているのかを紹介していこうと思う。とはいっても、タンパク質には膨大な種類があり、とてもすべてを紹介することはできない。ここでは、高校の生物で取り上げられることの多い、特に重要なタンパク質を扱っていきます。

この記事を読んだ諸君には、タンパク質が生体の中で具体的にどんなはたらきをしているのかを知ってもらい、タンパク質がいかに多種多様で、かつ重要な物質だってことを少しでも分かってほしい。理系大学生ライターこみとりと一緒に解説していきます。

ライター/こみとり

某国立大に通う理系ライター。高校時代から生物の図説を愛読している。今回は生体を構成するのに不可欠な物質、「タンパク質」についてまとめた。

生体内で活躍するタンパク質

#1 筋肉

細いフィラメントモデル.jpg
Sokurates - 投稿者自身による作品, CC 表示-継承 3.0, リンクによる

ヒトのからだを構成している物質として、筋肉は欠かせませんね。ここでは骨格筋に注目してみましょう。骨格筋を構成する筋繊維(筋細胞)は、ミオシンフィラメントとアクチンフィラメントという繊維からなります。ミオシンフィラメントを構成するミオシン、アクチンフィラメントを構成するアクチントロポニントロポミオシンはいずれもタンパク質です。

その他、骨格筋にはミオグロビンという、酸素を蓄えるはたらきをもつタンパク質も含まれます。

#2 酵素

「生体内ではたらくタンパク質といえば酵素!」と言ってもいいかもしれません。それほどまでに、酵素は重要なタンパク質なのです。
例えば、ATP合成酵素、光合成のカルビン・ベンソン回路に関わるルビスコ、呼吸に関わる脱水素酵素(デヒドロゲナーゼ)があります。(特にNAD⁺,FADは呼吸に関わる補酵素として有名です。これらが水素を受け取って、ミトコンドリアの膜間腔にH⁺の濃度勾配を形成していく様子がイメージできたでしょうか?)私たちが今こうして無意識に呼吸している間も、酵素によって反応が進み、エネルギーがつくられているのですね。

酵素は語尾が「アーゼ」となるよう名付けられたものが多いです。代表例を挙げると、DNAポリメラーゼRNAポリメラーゼ、過酸化水素を分解するカタラーゼ、脂肪を分解するリパーゼ、といったところでしょうか。
先程紹介した筋肉は体を構成するパーツだったのに対し、酵素は非常に小さく、ちょこまかと動き回ってお仕事をしているイメージが(著者にとっては)あります。

\次のページで「リボソーム」を解説!/

#3 リボソーム

リボソームは、rRNA(リボソームRNA2つのタンパク質(大サブユニット、小サブユニット)からなる細胞小器官。タンパク質合成の場です。詳しいはたらきは前回の記事を参照してください。

よく似た名前の「リソソーム」という細胞小器官がありますね。こちらは膜の構造(ゴルジ体由来)なので、それ自体がタンパク質でできているわけではありませんが、内部に多数の消化酵素を持っています。区別しておきましょう。

#4 ヘモグロビン

image by iStockphoto

赤血球に含まれる赤色のタンパク質です。ヒトの体内で酸素の運搬を担っています。また、鉄(Fe)を内部に含んでいることも大きな特徴の1つです。第2回のタンパク質の分類という項目で「単純タンパク質」「複合タンパク質」をご紹介しましたが、ヘモグロビンはまさに複合タンパク質に相当しますね。

物質を運ぶはたらきをもつタンパク質は他にもあります。私たちの社会でいう宅配便の配達員さんにあたる存在ですね。同業者の例を挙げると、血液中にあるアルブミンという輸送タンパク質には脂質を運ぶ役割があります。

#5 ホルモン

内分泌腺や脳の神経分泌細胞でつくられる物質で、血液によって運ばれます。たとえば、血糖量を減少させることで有名なインスリン、反対に血糖量を増加させるグルカゴン、その他成長ホルモン甲状腺刺激ホルモンはタンパク質からなるホルモンです。他にもバソプレシンはポリペプチド、チロキシンはアミノ酸からなるタンパク質であることが分かっています。

※すべてのホルモンがタンパク質でできているわけではありません。たとえば、副腎皮質から分泌されるホルモン(鉱質コルチコイド、糖質コルチコイドなど)の成分はステロイドです。

#6 免疫グロブリン

細菌やウイルスなどの異物(抗原)が体内に侵入すると、抗体をつくり、抗原を取り押さえようとします。この抗体を構成しているタンパク質こそ、免疫グロブリンです。抗体が抗原に結合すると、マクロファージなどの食細胞の食作用が促進されます。(抗体は抗原と特異的に反応します(抗原抗体反応)。つまり、侵入してきた抗原に結合できる抗体の形はたった1つに決まっているということです。)

免疫に関わるタンパク質は他にもたくさんあります。抗原提示に必要なMHC分子、抗原を認識するT 細胞レセプター(TCR)B細胞レセプター(BCR)、食細胞がもつToll様(トルよう)受容体サイトカインなどです。

#7 調節タンパク質

その名の通り、遺伝子の発現を調節するタンパク質です。遺伝子の転写を促進する調節タンパク質(アクチベーター)と、発現を抑制する調節タンパク質(リプレッサー)の2タイプがあります。

※よく似た名前として「エンハンサー」「サイレンサー」がありますが、こちらはタンパク質ではなくDNAの塩基配列の特定の領域を指す用語です。

その他、遺伝子の発現に関与するタンパク質には、酵素であるDNAポリメラーゼ、RNAポリメラーゼはもちろんのこと、基本転写因子ヒストンなどがあります。

\次のページで「植物の光受容体 」を解説!/

#8 植物の光受容体 

フィトクロム、フォトトロピン、クリプトクロムなどは色素タンパク質として知られ、光発芽や光屈性、気孔の開口などに関わります。

#9 ディシェベルドタンパク質

ディシェベルドタンパク質

image by Study-Z編集部

カエルの発生に関わる母性因子のひとつで、卵のどちらを腹にし、どちらを背にするかの決定に関わります。少し詳しく説明しましょう。カエルの卵では、βカテニンという物質が卵全体でつくられます。一方ディシェベルドタンパク質が存在するのは卵のごく一部のみ。加えて、βカテニン分解酵素の活性を阻害するはたらきがあります。すなわち、ディシェベルドタンパク質がある背側では、酵素活性が阻害されてβカテニンが残る一方、ディシェベルドタンパク質がない腹側では酵素によりβカテニンが分解されるのです。こうして腹側から背側にいくにつれてβカテニンの濃度が高くなっていく、という濃度勾配が形成されます。


他にも、ノーダルタンパク質、ビコイド、ナノスなど多数のタンパク質のはたらきによって、発生は緻密に制御されているのです。

#10 モータータンパク質

Kinesin walking.gif
Jzp706 - 投稿者自身による作品, CC0, リンクによる

エネルギー(ATP)を利用して、細胞骨格の微小管やアクチンフィラメント上を移動するタンパク質のことを「モータータンパク質」といいます。小胞などの細胞内の物質と結合し、細胞骨格を伝って物質を輸送するのが仕事です。微小管上を移動するモータータンパク質にはダイニンキネシン、アクチンフィラメント上を移動するモータータンパク質にはミオシンがあります。

#11 膜タンパク質

細胞膜などの生体膜上に存在するタンパク質です。輸送タンパク質、細胞膜受容体、細胞接着に関するもの、というように、大きく3つのタイプに分けられます。

輸送タンパク質は、細胞膜内外での特定の物質の輸送を担っており、輸送体チャネルがこれに相当するタンパク質です。
細胞膜受容体には、シグナル分子を受容することで開くイオンチャネル型、シグナル分子を受容することで活性化する酵素型、Gタンパク質共役型などがあり、細胞内シグナル伝達により、細胞の挙動を変化させます。
細胞接着に関するタンパク質の具体的な名称を挙げると、インテグリンカドヘリンコネクソンなどがです。細胞と細胞を隙間なくしっかりつなぎとめるものもあれば、隙間をつくっておいて隣の細胞と物質のやりとりをできるようにしたりと、いくつかのパターンがあります。

#12 カゼイン

あまり教科書で取り上げられることはないと思いますが、非常に身近なタンパク質のひとつです。牛乳やチーズに含まれるタンパク質で、リン酸が多く結合していることからリンタンパク質ともいわれます。よく、牛乳を飲むとカルシウムを採れる言いますよね。カゼインの最大の特徴は、カルシウムイオンやナトリウムイオンと結びつきやすいということ。これは、リン酸の結合により、分子全体として負に帯電しているためです。(DNAのヌクレオチド鎖が負に帯電するのと同じ原理。)

#13 GFP(緑色蛍光タンパク質)

1962年に下村脩氏がオワンクラゲから単離した特殊なタンパク質です。特定の波長の光(紫外線)を浴びると緑色の蛍光を発する性質をもちます。今では医学や生物学の実験に欠かせない道具です。GFPの分子構造や発光の仕組みの解明に関する功績が高く評価され、2008年には下村氏にノーベル化学賞が贈られました。

\次のページで「以上、タンパク質の多岐にわたる活躍をお届けしました!」を解説!/

以上、タンパク質の多岐にわたる活躍をお届けしました!

今回は、タンパク質について解説するシリーズの最終回として、各分野を横断する形で多くのタンパク質を紹介しました。「そうか、ここでもタンパク質がはたらいていたのか」、あるいは、多くの専門用語が登場する生物学ですが、「そうか、これはタンパク質の名前だったのか」、といった気づきが1つでもありましたら、この記事を書いた甲斐があります。

何かしらの生命現象について知ろうとするとき、たくさんの用語が出てくると思いますが、その用語は現象の名前なのか、状態の名前なのか、タンパク質のような物質の名前なのか、といった区別をすると、把握しやすくなるはずです。あわせて、タンパク質に着目してその現象の流れを追いかけてみると面白いと思いますよ。最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

" /> 【タンパク質の機能】タンパク質の構造とその特徴を、生物専攻ライターが5分でわかりやすく解説!<第4回> – Study-Z
タンパク質と生物体の機能理科生物

【タンパク質の機能】タンパク質の構造とその特徴を、生物専攻ライターが5分でわかりやすく解説!<第4回>

タンパク質を解説する記事も、今回が最終回です。

ここまで、第1回ではタンパク質とアミノ酸の構造、第2回ではタンパク質の立体構造に関わるアミノ酸の特徴やタンパク質の性質、第3回ではタンパク質ができるまでのプロセスを解説した。今回は生体内のタンパク質にはどんな種類があってどんな機能をもっているのかを紹介していこうと思う。とはいっても、タンパク質には膨大な種類があり、とてもすべてを紹介することはできない。ここでは、高校の生物で取り上げられることの多い、特に重要なタンパク質を扱っていきます。

この記事を読んだ諸君には、タンパク質が生体の中で具体的にどんなはたらきをしているのかを知ってもらい、タンパク質がいかに多種多様で、かつ重要な物質だってことを少しでも分かってほしい。理系大学生ライターこみとりと一緒に解説していきます。

ライター/こみとり

某国立大に通う理系ライター。高校時代から生物の図説を愛読している。今回は生体を構成するのに不可欠な物質、「タンパク質」についてまとめた。

生体内で活躍するタンパク質

#1 筋肉

細いフィラメントモデル.jpg
Sokurates投稿者自身による作品, CC 表示-継承 3.0, リンクによる

ヒトのからだを構成している物質として、筋肉は欠かせませんね。ここでは骨格筋に注目してみましょう。骨格筋を構成する筋繊維(筋細胞)は、ミオシンフィラメントとアクチンフィラメントという繊維からなります。ミオシンフィラメントを構成するミオシン、アクチンフィラメントを構成するアクチントロポニントロポミオシンはいずれもタンパク質です。

その他、骨格筋にはミオグロビンという、酸素を蓄えるはたらきをもつタンパク質も含まれます。

#2 酵素

「生体内ではたらくタンパク質といえば酵素!」と言ってもいいかもしれません。それほどまでに、酵素は重要なタンパク質なのです。
例えば、ATP合成酵素、光合成のカルビン・ベンソン回路に関わるルビスコ、呼吸に関わる脱水素酵素(デヒドロゲナーゼ)があります。(特にNAD⁺,FADは呼吸に関わる補酵素として有名です。これらが水素を受け取って、ミトコンドリアの膜間腔にH⁺の濃度勾配を形成していく様子がイメージできたでしょうか?)私たちが今こうして無意識に呼吸している間も、酵素によって反応が進み、エネルギーがつくられているのですね。

酵素は語尾が「アーゼ」となるよう名付けられたものが多いです。代表例を挙げると、DNAポリメラーゼRNAポリメラーゼ、過酸化水素を分解するカタラーゼ、脂肪を分解するリパーゼ、といったところでしょうか。
先程紹介した筋肉は体を構成するパーツだったのに対し、酵素は非常に小さく、ちょこまかと動き回ってお仕事をしているイメージが(著者にとっては)あります。

\次のページで「リボソーム」を解説!/

次のページを読む
1 2 3 4
Share: