みんな、「国際連合」ってどういう組織なのか知っているか?名前はよく聞くけれど、その活動にはあまりなじみがないよな。平和推進・貧困削減・環境保全などありとあらゆる問題に取り組んでいる、すごく重要な国際機関です。

国際事情に詳しいライター万嶋せらと一緒に解説していきます。

ライター/万嶋せら

会社員を経て、現在はイギリスで大学院に在籍中のライター。歴史が好きで関連書籍をよく読み、中でも近代以降の歴史と古典文学系が得意。専門として学んでいるグローバリゼーションの知識を活かして、今回は「国際連合」について解説する。

国際連合の基礎知識

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国際連合とは何か

「国際連合」とはニューヨークに本部を置く世界最大の国際機関で、日本では国連という短縮名で親しまれています。世界の平和、貧困削減、人道問題、環境問題など様々な課題に取り組んでおり、2019年時点での加盟国は193か国です。加盟国以外にも、国連オブザーバーという慣行により会議への参加や資料へのアクセスを認められた国や団体があります。現在はバチカン市国とパレスチナがオブザーバー国家として認められているほか、EUのような地域連合やアジア開発銀行のような地域開発銀行なども参加。投票権は持てませんが、国家だけでなく多くの国際団体に門戸が開かれています。

国連内での日常の活動には主に英語とフランスが用いられていますが、国連公用語として定められているのは英語・フランス語・ロシア語・中国語・スペイン語・アラビア語の6言語です。活動は国連システムと呼ばれる組織に支えられており、加盟国が分担して運営資金を拠出しています。

国際連合の目的は?

国連は国際連合憲章(国連憲章)に基づいて運営されていて、国連憲章には国連の4つの目的が定められています。
その目的とは、「世界の平和と安全を維持すること」「諸国間の友好関係を発展させること」「経済的・社会的・文化的・人道的な問題を解決すること」そして「これらの目的を達成するため、諸国の行動の中心となること」です。

国際連合はいつ成立したのか?

国連が成立したのは、第二次世界大戦直後のことです。

第二次世界大戦以前には、「国際連盟」という組織が世界平和の維持を目指して活動を行っていました。しかし、国際連盟は第二次世界大戦の勃発を防ぐことができませんでした。大国であるアメリカが参加していなかったこと、日本やドイツが国際社会での意見の不一致から途中脱退したことなど、いくつかの大きな問題があり、国際社会の均衡を守ることができなかったのです。

この反省を受けて、第二次世界大戦の終結後に国際連合が設立されました。1945年10月24日のことで、原加盟国は戦勝国を中心とした51か国でした。

ちなみに、日本が国連に加盟したのは1956年のことです。サンフランシスコ講和条約が発効して主権が回復した1952年に国連への加盟を申請したものの、ソ連の反対により難航しました。その後1956年、鳩山一郎総理大臣の時代にソ連との国交が回復し、同年に全会一致の承認で日本の国連加盟が承認されたのです。

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国際連合システムとは

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6つの主要機関

国連を構成する数々の機関は総称して「国際連合システム」と呼ばれ、その中心となっているのは総会・安全保障理事会・経済社会理事会・信託統治委員会・国際司法裁判所・事務局の6つの主要機関です。

「総会」はあらゆる問題を討議する機関で、国連の全加盟国が代表を派遣して一国一票の原則のもと運営されています。

「安全保障理事会」は、主に紛争や侵略行為の解決を目指す機関です。常時15か国が理事国を務めていて、その内アメリカ・イギリス・フランス・ロシア・中国の5か国は常任理事国、その他10か国は任期2年の非常任理事国となっています。常任理事国には拒否権が与えられているため、5か国のうち1か国でも反対した案件は可決されません。

「経済社会理事会」は世界の経済問題や社会問題を担当していて、貿易・人権・労働・教育など幅広い問題を取り扱います。

「信託統治理事会」は、信託統治地域の施政を監督し自治・独立を推進するための機関として設置されました。しかし、1994年に最後の信託統治地域だったパラオが独立。現在は活動を終了しています。

「国際司法裁判所」は国家間の紛争を解決するための司法機関です。オランダのハーグに事務所があり、15名の異なる国から選出された裁判官で構成されています。当事者となれるのは国家のみで、個人での訴訟はできません

「事務局」は、会議の開催・種々の調査・文書の翻訳など国連の日常的な活動を多岐にわたって支える機関です。任期5年の事務総長がトップにおかれ、多様な国籍を代表する職員が国際公務員として活躍しています。

補助機関・専門機関・関連機関とは

主要機関のほかにも、多くの機関が国連の活動を支えています。

補助期間は、総会へ活動の報告義務がある国連の内部組織です。日本人の緒方貞子氏が高等弁務官を務めたことでも知られる国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)や、貿易や金融などの問題に対応する国連貿易開発会議(UNCTAD)などが、補助機関に該当します。

専門機関とは、主要機関である経済社会理事会と連携関係の協定を締結した機関のことです。1919年に設立された国際労働機関(ILO)は国連よりも長い歴史を持っていて、国連では最初の専門機関となりました。また、世界遺産の登録を行っている国際教育科学文化機関(UNESCO)なども専門機関にあたります。

関連機関は、連携協定を結んでいるわけではないものの国連と密接な関係を持つ機関です。世界貿易機関(WTO)や国際原子力機関(IAEA)などが該当します。

世界の平和に向けた国際連合の活動

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平和と安全の維持

国連の目的の一つは「世界の平和と安全の維持」であり、安全保障理事会を中心として様々な機関が平和に向けた活動をしています。今まで、何度も紛争を拡大防止したり和解に向けた交渉を推進したりしてきました。

しかし残念ながら平和に向けた努力が実らないこともあり、そうした場合には安全保障理事会の権限において該当の国に経済制裁や禁輸措置などの制裁を行うことができます。近年では、北朝鮮やイランなどを対象に制裁が発動されたことも。国の経済にダメージを与えることで、妥協を引き出したり交渉のテーブルに引き戻したりする効果を狙っているのです。

また平和維持活動も重要な活動で、平和の回復を目指して紛争当事者の間に立ちながら対話を支援していますPKOという呼び方の方がなじみが深いかもしれませんね。実は平和維持活動は、国連憲章に明記された活動ではありません。そのため、「紛争の平和的解決」を規定する6章と「平和に対する脅威、平和の破壊及び侵略行為に関する行動」を規定する7章との中間の活動として「6章半の活動」と呼ばれることもあります。

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国際連合に軍隊はあるのか

世界の安全保障に寄与している国連ですが、常設の軍隊は保有していません

国連憲章第7章で国際平和の破壊や侵略行為に対する武力行使が認められているため、国連は加盟国の軍隊を編成して国連軍を組織することが可能です。しかし、今まで正規の国連軍が編成されたことは一度もありません。朝鮮戦争で活動したアメリカ軍を中心とした軍隊が「国連軍」と呼ばれることはありますが、その実態はアメリカが指揮を執る「多国籍軍」でした。

平和維持活動のために軍事組織が編成されることもありますが、これは「国際連合平和維持軍(PKF)」と呼ばれます。平和維持活動は国連憲章第7章の活動ではないため、国連平和維持軍も国連憲章に基づいた「国連軍」ではありません。

国際連合の人道支援活動

国連は単に戦争や紛争の拡大を防ぐだけでなく、争いのため家を失ったり国から追われてしまったりした人々を支援する活動も行っています。例えば国連設立初期から、情勢の不安定なパレスチナでは難民に対して生活環境の改善や教育機会の提供などの支援をしてきました。

戦争ばかりでなく、大規模な自然災害により生活基盤を失った人々への支援も重要な使命のひとつです。日本にも2011年の東日本大震災の際には国連から災害チームが派遣され、救援活動の支援が行われました。国連が活躍する舞台は、決して発展途上国に限るわけではないのです。

緊急事態に立場の弱い人々をを守るために行われるこのような活動は「人道支援活動」と呼ばれています。

世界の開発を目指す国際連合の取組

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経済開発や社会開発を通して人々の生活水準を向上させることも、国連の重要な役割です。

2000年の国連総会で、21世紀の国連の役割を話し合うミレニアムサミットが開催されました。この場で採択されたのが、開発分野における国際社会の共通の目標を定めたミレニアム開発目標(MDGs)です。貧困や飢餓の撲滅、初等教育の普及、ジェンダー平等などの8つの分野が設定され、2015年までの達成を目指すことで合意されました。MDGsは世界の開発に大きく貢献しており、この15年の間に極度の貧困下に暮らす人が減少したり初等教育の就学率が上昇したりするなど、多くの成果を残しています。

2015年、MDGsは持続可能な開発目標(SDGs)というより広範な開発目標に引き継がれることとなりました。途上国の開発だけでなく、気候変動や消費社会の歪みなど新たに生じている問題にも焦点があてられ、先進国も含めた全ての国の主体的な参加が強調されています。2030年までの15年間で目標を達成することが目指されていて、国連は現代のグローバルな問題にも中心となって取り組んでいるのです。

国際連合の評価

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国連はその功績が認められ、たびたびノーベル平和賞を受賞しています。

例えば1988年、平和の達成に向けた活動が評価されて国連平和維持活動がノーベル平和賞を授与されました。2001年には国連と当時のアナン事務総長が「より良く組織されたより平和な世界を構築するための取組」に対してノーベル平和賞を受賞しています。また、2007年には国連の専門機関である気候変動に関する政府間パネル(IPCC)とアメリカ元副大統領のゴア氏も受賞。地球温暖化への警鐘と気候変動を防ぐための取組が評価されました。

このように国連は平和への取組や環境問題など幅広い分野で認められており、国連としてだけではなく国連の関連機関などもノーベル平和賞を授与されています。

国際連合の課題

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拒否権は活動停滞の原因?

幅広い活動が成果を生み出している国連ですが、実は批判も数多くあります。そうした批判のひとつが、安全保障理事会の常任理事国に与えられている拒否権の問題です。

拒否権はしばしば物事の進行を妨げます。なぜなら安全保障の分野においてはアメリカとロシアが対立する傾向にあり、両者とも国の立場があるため意見を譲りたがらないからです。例えば北朝鮮問題では、北朝鮮との親交が深いロシアや中国がアメリカの強い姿勢に反発し、厳しい制裁が回避されるというようなことが何度もありました。他にも、拒否権が行使されるために紛争に介入することができず、現地の人々が危険な生活を強いられる状態が長く続くというようなケースもあります。

そもそも拒否権は、5大国の意見の一致を前提として行動することで大国間の戦争を防ごうという思惑から導入されました。しかし、逆に問題の解決が先送りされているという指摘もあり、拒否権の在り方が問われているのです。常任理事国は今ある権限を手放したくないため、安全保障理事会は拒否権問題になかなか対処できずにいます

21世紀になっても残る敵国条項

国連憲章には敵国条項と呼ばれる条項があり、第二次世界大戦で敵だった国が侵略行為や戦争行為をした場合、安全保障理事会の許可がなくても軍事的制裁を科すことが容認されています。国連はそもそも第二次世界大戦の戦勝国を中心に設立された機関であり、ドイツやイタリア、日本などを敵国として想定しているのです。

敵国条項は時代遅れであることが認識されていて、すでに形骸化したものと考えられています。総会では圧倒的多数の支持のもと、敵国条項の記述を削除することが決定しました。しかし国連憲章の改正には煩雑な手続きがあり、ほかの論点も議論されなければいけないため、近いうちに改正される見込みはほぼありません。

国連の活動に大きな貢献をしているにも関わらず、形式上であるにしても「敵国」として扱われていることに対して、日本国内には反発する意見も数多くあります。

国際連合は国際社会の中心となって平和と発展を目指している!

国連は、世界の平和と発展に貢献する重要な機関です。第一次世界大戦を防ぐことができなかった国際連盟の反省と、二度と戦争を起こしたくないという人々の願いが、今の国連につながったと言えます。もちろん、全ての紛争を防ぐことができるわけではないし貧困を根絶したわけでもありません。しかし、もし国連がなかったら、国家間の対話はもっと難しいものになっていたでしょう。国連は世界の国々の中心となって、国際秩序を守るために活動しているのです。

設立から年月が経ち、現代の社会にはそぐわない点や対応しきれない問題も増えてきました。そんな中でも国連が時代に応じて変化しようとしているのは、SDGsが新たな課題に対処しようとしていることからも読み取れます。様々な課題はありますが、現代のグローバル社会に欠かせない重要な機関として、今後も国連は世界の発展に向けた活動を推進し続けることでしょう。

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現代社会になくてはならない「国際連合」!成り立ちは?役割は?国際情勢を学ぶ大学院生ライターが5分でわかりやすく解説

みんな、「国際連合」ってどういう組織なのか知っているか?名前はよく聞くけれど、その活動にはあまりなじみがないよな。平和推進・貧困削減・環境保全などありとあらゆる問題に取り組んでいる、すごく重要な国際機関です。

国際事情に詳しいライター万嶋せらと一緒に解説していきます。

ライター/万嶋せら

会社員を経て、現在はイギリスで大学院に在籍中のライター。歴史が好きで関連書籍をよく読み、中でも近代以降の歴史と古典文学系が得意。専門として学んでいるグローバリゼーションの知識を活かして、今回は「国際連合」について解説する。

国際連合の基礎知識

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国際連合とは何か

「国際連合」とはニューヨークに本部を置く世界最大の国際機関で、日本では国連という短縮名で親しまれています。世界の平和、貧困削減、人道問題、環境問題など様々な課題に取り組んでおり、2019年時点での加盟国は193か国です。加盟国以外にも、国連オブザーバーという慣行により会議への参加や資料へのアクセスを認められた国や団体があります。現在はバチカン市国とパレスチナがオブザーバー国家として認められているほか、EUのような地域連合やアジア開発銀行のような地域開発銀行なども参加。投票権は持てませんが、国家だけでなく多くの国際団体に門戸が開かれています。

国連内での日常の活動には主に英語とフランスが用いられていますが、国連公用語として定められているのは英語・フランス語・ロシア語・中国語・スペイン語・アラビア語の6言語です。活動は国連システムと呼ばれる組織に支えられており、加盟国が分担して運営資金を拠出しています。

国際連合の目的は?

国連は国際連合憲章(国連憲章)に基づいて運営されていて、国連憲章には国連の4つの目的が定められています。
その目的とは、「世界の平和と安全を維持すること」「諸国間の友好関係を発展させること」「経済的・社会的・文化的・人道的な問題を解決すること」そして「これらの目的を達成するため、諸国の行動の中心となること」です。

国際連合はいつ成立したのか?

国連が成立したのは、第二次世界大戦直後のことです。

第二次世界大戦以前には、「国際連盟」という組織が世界平和の維持を目指して活動を行っていました。しかし、国際連盟は第二次世界大戦の勃発を防ぐことができませんでした。大国であるアメリカが参加していなかったこと、日本やドイツが国際社会での意見の不一致から途中脱退したことなど、いくつかの大きな問題があり、国際社会の均衡を守ることができなかったのです。

この反省を受けて、第二次世界大戦の終結後に国際連合が設立されました。1945年10月24日のことで、原加盟国は戦勝国を中心とした51か国でした。

ちなみに、日本が国連に加盟したのは1956年のことです。サンフランシスコ講和条約が発効して主権が回復した1952年に国連への加盟を申請したものの、ソ連の反対により難航しました。その後1956年、鳩山一郎総理大臣の時代にソ連との国交が回復し、同年に全会一致の承認で日本の国連加盟が承認されたのです。

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