塩基(えんき)とは、一般的には「酸を中和する能力のある化合物,または水溶液中で水酸化物イオンを生成する化合物」を意味する用語です。

ですが、何種類かの塩基の定義が存在するため、分かりづらいと思っているヤツも多いはずです。それは、歴史の中で、塩基の概念は拡大をともないながら、何度も定義が考え直されてきたからなのですが、今日は、この分かりづらい塩基について解説してもらうため、実験大好き未来の科学者ライターHaruを呼んです。

お前ら、しっかり聞いておけよ!

ライター/Haru

化学グランプリに挑戦した経験もある、実験が大好きな学生ライター。子どもの頃、元素周期表をポケモンと一緒に覚えてから、物質を見ると化学式が一緒に見えてくる生活を送っている。アインシュタインとニュートンを尊敬しており、彼らの偉業や化学の面白さを分かりやすく伝えていきたい。将来は研究員になって実験を生業とするのが夢。

塩基の3つの定義とは

「塩基」と聞くと水酸化ナトリウムのほか、重曹やアンモニアなどを思い浮かべる人が多いでしょう。

桜木先生がおっしゃったように、塩基の定義はいくつか存在します。それぞれの定義を具体例とともに見ていきましょう。

1.アレニウスの定義

アレニウスの定義は最もシンプルな酸・塩基の定義です。この定義では、塩基とは「水に溶解して水酸化物イオンを放出する物質」と定義されます。

例えば水酸化ナトリウムは、水に溶けるとナトリウムイオンと水酸化物イオンに分かれるのですが、この現象を「電離」と呼ぶので覚えておきましょう。

水酸化ナトリウムは、この電離によって水酸化物イオンを放出しているので、アレニウスのいう塩基の定義を満たし、他にも、アンモニアも塩基の一つです。

アンモニア自体には水酸化物イオンは含まれていませんが、水と反応してアンモニウムイオンと水酸化物イオンを放出します。

ここでも水酸化物イオンが放出されているので、アンモニアも塩基と定義できるのです。

2.ブレンステッド・ローリーの定義

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Cdang - 投稿者自身による作品, パブリック・ドメイン, リンクによる

ブレンステッド・ローリーの定義では、酸と塩基を「水素イオンの授受」によって定義します。

ある化学反応において水素イオンを与える物質が酸、受け取る物質が塩基です。例えば塩酸にアンモニアを吸収させると、塩化アンモニウムが生成されます。

ここで注目して頂きたいのは、アンモニアの変化です。

アンモニアはこの反応で水素イオンを得てアンモニウムイオンになっており、つまり水素イオンの授受がおこなわれたことが分かります。

ここで塩酸はアンモニアに水素イオンを与えているので、酸であり、アンモニアは水素イオンを得ているので、塩基であるとの定義が可能です。

image by Study-Z編集部

ブレンステッド・ローリーによる再定義とは

それは、水溶液中で水素イオンや水酸化物イオンを放出しない物質を酸、あるいは塩基としてとらえることが可能になるからで、例えば水は、酸でも塩基でもない、中性だと考える人が多いと思いますが、ブレンステッド・ローリーの定義を用いれば水も定義が可能です。

ここで、上図「塩化水素を水に溶かしたときの反応」を見てみましょう。

式を見ればわかるように、塩化水素は水に水素イオンを与えて塩化物イオンに、水は塩化水素から水素イオンを受け取ってオキソニウムイオンに変化しており、つまり、この反応では水は塩基と定義されます。

次にアンモニアとの反応ですが、この反応では水はアンモニアに水素イオンを与えており、要するにさっきは塩基だった水が、この反応では酸と定義されているのです。

\次のページで「3.ルイスの定義」を解説!/

3.ルイスの定義

ルイスの定義のキーワードは「電子対の授受」で、この理論では酸・塩基が「電子対の授受」によって定義され、反応において電子対を受け取る物質が酸、与える物質が塩基です。

具体例として、アンモニアと三フッ化ホウ素が反応して、錯体を作る反応を考えてみましょう。

この反応では、アンモニアトリフルオロボラン錯体という生成物ができるのですが、この物質はアンモニアに含まれる窒素原子の非共有電子対が、三フッ化ホウ素の中のホウ素原子に存在する空の軌道に配位して結合しています。

ここでは、アンモニアは三フッ化ホウ素に電子対を供与しているので塩基であり、三フッ化ホウ素は酸として定義。

ルイスの定義によって、水が関係しない反応からも物質の酸・塩基を定義することが可能になったのです。

塩基の分類

塩基は、「強弱」と「価数」で分類することができます。まずは強弱による分類についてみていきましょう。

強弱で分類する

強弱とは、塩基が水に溶けた時、どれくらい水酸化物イオンを放出するかによって決まります。

塩基の中で水酸化物イオンを多く放出する物質を強塩基、あまり放出しない物質を弱塩基と呼び、強塩基の例としては水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどがあるのですが、それらは全て、水に溶けてほとんどすべてが電離し、水酸化物イオンを多く放出する物質。

逆に、弱塩基は2種類存在し、溶解度が低い弱塩基と、電離度が低い弱塩基があります。

溶解度が低い弱塩基とは、水酸化マグネシウムや水酸化鉄など、水に溶けにくい塩基のことです。

そもそもあまり水に溶けないのですから、水酸化物イオンを多く放出できないのも頷けるでしょう。

電離度が低い弱塩基とは、アンモニアのように水にはよく溶けるものの、あまり電離が起きないために水酸化物イオンを多く放出できない塩基のことを指します。

このように、塩基には強弱が存在し、それが塩基としてのはたらきの強さを決めているのです。

価数で分類する

価数で分類する

image by Study-Z編集部

次に、塩基の価数です。塩基の価数とは、1molの塩基が放出することのできる最大の水酸化物イオンのモル数のことになります。

例えば、水酸化ナトリウムは電離するとナトリウムイオンと水酸化物イオンに分かれ、このとき、1molの水酸化ナトリウムからは1molの水酸化物イオンが生成されるため、水酸化ナトリウムの価数は1となるのです。

image by Study-Z編集部

一方、水酸化カルシウムは電離してカルシウムイオンと水酸化物イオンに分かれるのですが、その式は上記の様になっています。

このとき、1molの水酸化カルシウムから2molの水酸化物イオンが放出されており、水酸化カルシウムの価数は2です。

このように、同じ物質量の塩基同士でも価数が違えば塩基の性質の強さも大きく変わり、1価の塩基は例えば水酸化カリウムやアンモニアがあり、2価の塩基の例には、水酸化バリウム、水酸化銅などが挙げられます。

\次のページで「pOH(水酸化物イオン指数)」を解説!/

pOH(水酸化物イオン指数)

216 pH Scale-01.jpg
OpenStax College - Anatomy & Physiology, Connexions Web site. http://cnx.org/content/col11496/1.6/, Jun 19, 2013., CC 表示 3.0, リンクによる

pOHとは、水溶液の塩基性がどれだけ強いかを表す指標で、この値は基本的に0~14の値を取り、0に近づくほど塩基性が強いことを示します。

逆にpH(水素イオン指数)という指標もあり、実際はこちらの方がメジャーなのですが、このpHとpOHは足し合わせると14になることが知られており、pOHの値が分かれば水素イオン指数を求めることが可能となるのです。

pHも基本的に0~14の値を取りますが、この値は14に近づくほど塩基性が強くなります。

塩基の検出

image by iStockphoto

最後に、塩基の検出方法を紹介しましょう。いろいろな方法で検出することが可能ですが、中でも最もオーソドックスな方法は、指示薬を用いる検出でしょう。

これをおこなった場合の反応を、項目で並べてみます。

・赤色リトマス紙に塩基性水溶液を垂らすと、青色に変色する。

・BTB溶液に塩基性水溶液を加えると、青色に変色する。

・塩基性溶液にフェノールフタレインを加えると、赤色に変色する。

胃の中の粘膜の成分でもある「塩基」

私たちの身の回りにも、塩基は多く存在しています。

例えば、掃除の時に使う重曹や、お風呂で使うシャンプー、そして胃の中の粘膜にも塩基が使われているのです。

また塩基は、ソーダ工業などの工業と深くかかわってきた物質でもあるため、塩基は人類文明の発展に長く付き合ってきた物質だということができるでしょう。

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化学

これで「塩基」はバッチリ!3つの定義と分類や検出方法を未来の科学者ライターがわかりやすく解説

塩基(えんき)とは、一般的には「酸を中和する能力のある化合物,または水溶液中で水酸化物イオンを生成する化合物」を意味する用語です。

ですが、何種類かの塩基の定義が存在するため、分かりづらいと思っているヤツも多いはずです。それは、歴史の中で、塩基の概念は拡大をともないながら、何度も定義が考え直されてきたからなのですが、今日は、この分かりづらい塩基について解説してもらうため、実験大好き未来の科学者ライターHaruを呼んです。

お前ら、しっかり聞いておけよ!

ライター/Haru

化学グランプリに挑戦した経験もある、実験が大好きな学生ライター。子どもの頃、元素周期表をポケモンと一緒に覚えてから、物質を見ると化学式が一緒に見えてくる生活を送っている。アインシュタインとニュートンを尊敬しており、彼らの偉業や化学の面白さを分かりやすく伝えていきたい。将来は研究員になって実験を生業とするのが夢。

塩基の3つの定義とは

「塩基」と聞くと水酸化ナトリウムのほか、重曹やアンモニアなどを思い浮かべる人が多いでしょう。

桜木先生がおっしゃったように、塩基の定義はいくつか存在します。それぞれの定義を具体例とともに見ていきましょう。

1.アレニウスの定義

アレニウスの定義は最もシンプルな酸・塩基の定義です。この定義では、塩基とは「水に溶解して水酸化物イオンを放出する物質」と定義されます。

例えば水酸化ナトリウムは、水に溶けるとナトリウムイオンと水酸化物イオンに分かれるのですが、この現象を「電離」と呼ぶので覚えておきましょう。

水酸化ナトリウムは、この電離によって水酸化物イオンを放出しているので、アレニウスのいう塩基の定義を満たし、他にも、アンモニアも塩基の一つです。

アンモニア自体には水酸化物イオンは含まれていませんが、水と反応してアンモニウムイオンと水酸化物イオンを放出します。

ここでも水酸化物イオンが放出されているので、アンモニアも塩基と定義できるのです。

2.ブレンステッド・ローリーの定義

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ブレンステッド・ローリーの定義では、酸と塩基を「水素イオンの授受」によって定義します。

ある化学反応において水素イオンを与える物質が酸、受け取る物質が塩基です。例えば塩酸にアンモニアを吸収させると、塩化アンモニウムが生成されます。

ここで注目して頂きたいのは、アンモニアの変化です。

アンモニアはこの反応で水素イオンを得てアンモニウムイオンになっており、つまり水素イオンの授受がおこなわれたことが分かります。

ここで塩酸はアンモニアに水素イオンを与えているので、酸であり、アンモニアは水素イオンを得ているので、塩基であるとの定義が可能です。

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ブレンステッド・ローリーによる再定義とは

それは、水溶液中で水素イオンや水酸化物イオンを放出しない物質を酸、あるいは塩基としてとらえることが可能になるからで、例えば水は、酸でも塩基でもない、中性だと考える人が多いと思いますが、ブレンステッド・ローリーの定義を用いれば水も定義が可能です。

ここで、上図「塩化水素を水に溶かしたときの反応」を見てみましょう。

式を見ればわかるように、塩化水素は水に水素イオンを与えて塩化物イオンに、水は塩化水素から水素イオンを受け取ってオキソニウムイオンに変化しており、つまり、この反応では水は塩基と定義されます。

次にアンモニアとの反応ですが、この反応では水はアンモニアに水素イオンを与えており、要するにさっきは塩基だった水が、この反応では酸と定義されているのです。

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