今回はホルモンのコントロールに欠かせない「負のフィードバック調節」について学んでいきます。

恒常性(ホメオスタシス)を維持するために、体内では神経やホルモンが日夜はたらいて細胞・組織・器官が保たれている。ホルモンによる体内環境調節は巧妙なシステムによって調節されているんです。そんな一例として、負のフィードバック調節を生物のからだに詳しい現役講師のオノヅカユウとともに学習しよう。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

フィードバック調節とは?

フィードバック調節とは、体内環境の調整に重要な役割を果たしている物質であるホルモンの分泌量を調節する仕組みです。分泌量を増やしたり、逆に減らしたりするための制御システムと言い換えても良いでしょう。

ホルモンの分泌調整に関する知識を学ぶのはとても重要です。なぜかといえば、それはホルモンのもつ性質に理由があります。

なぜ調節システムを知ることが重要なのか?

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ホルモンは、内分泌器官にある内分泌細胞から分泌される物質。その多くは血流によって運ばれることで、作用を及ぼす標的器官の標的細胞にたどり着きます。標的細胞で受容体というたんぱく質に結合して初めて効果を発揮する物質です。

このホルモンには「微量でも強い効果を発揮する」という特徴があります。ほんの少しの分泌量でも、しっかりと標的細胞が応答するのです。一説には、「25mプールの水に1滴程度の量でも効果がある」とか、「50mプールの水にスプーン一杯分の分量で十分」といわれるほど。逆に言えば、少々の分泌量の過不足が身体に大きな影響を与えてしまう可能性があります。

ホルモンの分泌量調節はとても重要かつ繊細な仕事。逆に、うまくいかなければさまざまな病気や疾患の原因になります。分泌量調節の仕組みについて学ぶことがどれだけ重要か、おわかりいただけましたでしょうか?

フィードバック調節のしくみ

「負のフィードバック調節」について学ぶ前に、まずは「フィードバック調節」についてみていきましょう。フィードバック(feedback)とは、「もとの場所にもどる(もどす)」というような意味合いの言葉です。最近はビジネスの現場でも使われる言葉になっているので、耳にしたことのある方もいらっしゃるかもしれません。

\次のページで「負のフィードバック調節の具体例」を解説!/

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ホルモンの調節において、フィードバック調節とは「最終的な生成物が前の段階の物質に影響し、その最終生成物の量を制御するしくみ」です。

フィードバック調節は、生成物が他のホルモンの分泌にどのような影響を及ぼすのかによって2種類に分けられます。生成物の増加がホルモンの分泌量をさらに増加させるのが『正のフィードバック調節(ポジティブフィードバック)』。そして、ホルモンの分泌を逆に減少させるのが、今回のメインテーマである『負のフィードバック調節(ネガティブフィードバック)』です。

負のフィードバック調節の具体例

それでは負のフィードバック調節の具体例をいくつか見ていきましょう。

甲状腺ホルモンの分泌

甲状腺ホルモンの分泌

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私たちの首にある甲状腺という内分泌器官からは、チロキシンやトリヨードサイロニンなどの甲状腺ホルモンが分泌されています。

この甲状腺ホルモンは、脳下垂体前葉から分泌される甲状腺刺激ホルモンというホルモンを受け取とることで産生が促進され、分泌量が増えるのです。さらに、甲状腺刺激ホルモンは脳下垂体の上にある間脳の視床下部から分泌される甲状腺刺激ホルモン放出ホルモンによって分泌が促進されます。

血中の甲状腺ホルモン濃度が高くなると、視床下部が刺激されて甲状腺刺激ホルモン放出ホルモンや甲状腺刺激ホルモンの分泌量が低下。これによって、甲状腺ホルモンの分泌が抑制され、甲状腺ホルモンの血中濃度上昇が抑えられるのです。

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このように、最終的に作られた物質(甲状腺ホルモン)が前の段階の物質(甲状腺刺激ホルモン放出ホルモンと甲状腺ホルモン)を抑制することで、最終的に作られる物質の分泌量も抑制されます。これはまさしく負のフィードバック調節の典型的な例といえるでしょう。

副腎皮質ホルモンの分泌

副腎皮質ホルモンの分泌

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副腎皮質ホルモンも、甲状腺ホルモンとよく似た分泌制御システムになっています。

糖質コルチコイドなど、副腎の皮質から分泌されるホルモンの総称が副腎皮質ホルモンです。副腎皮質ホルモンは、脳下垂体前葉から分泌される副腎皮質刺激ホルモンによって分泌が促進されます。副腎皮質刺激ホルモンは、間脳視床下部から分泌される副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモンを受け取ることによって分泌が促進されているのですが…これって、甲状腺ホルモンとほとんど同じ構図ですよね。

この副腎皮質ホルモンの分泌量制御も、負のフィードバック調節によっています。血中の副腎皮質ホルモン濃度の増加が視床下部や脳下垂体への刺激となり、副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモンおよび副腎皮質刺激ホルモンの分泌が抑制。副腎皮質ホルモンが多くなりすぎないようコントロールされているのです。

成長ホルモンの分泌

成長ホルモンは細胞の代謝を活発にし、骨や筋肉の生長を促進する効果をもちます。成長期の子どもに重要なホルモンであることは言うまでもありませんね。

成長ホルモンは脳下垂体から分泌されますが、これもやはり視床下部から分泌される成長ホルモン放出ホルモンの刺激を受け、分泌が促進されます。成長ホルモンの血中濃度が高くなってくると、それが視床下部に作用し、成長ホルモン放出ホルモンの分泌量が低下、成長ホルモンの分泌抑制が起きるのです。

インスリンの分泌

フィードバック調節は「最終的な生成物が前の段階の物質に影響し、その最終生成物の量を制御するしくみ」と書きましたが、“最終生成物”は上の2つの例のようなホルモンであるとは限りません。インスリンは膵臓のランゲルハンス島B細胞から分泌されるホルモン。食事などによって上昇した血糖値を下げるはたらきがあります。

\次のページで「フィードバック調節はテストでもよく出題される!」を解説!/

実は、このインスリンは自分自身の血糖量によって分泌が促進、または抑制されています。血糖量が増えるとインスリンの分泌が増え、逆に血糖値が下がってくるとインスリンの分離量も減るのです

さて、『血糖量が増えるとインスリンの分泌が増える』という例は、「負のフィードバック調節」と「正のフィードバック調節」のどちらなのでしょうか?

正解は、「負のフィードバック調節」です。『血糖量の増加→インスリンの増加→血糖量の低下』ということで、最終生成物(血糖量)が前段階(インスリン分泌量)に影響を与え、最終的な生産物(血糖量)を抑制するようにはたらくため、これも負のフィードバックのひとつだといえます。

フィードバック調節はテストでもよく出題される!

フィードバック調節は内分泌系の学習ではかなりの頻度でテストに出される重要キーワードです。なぜなら、前述の通りホルモンの分泌調節システムはとても大切な知識だから。仕組みや具体例をしっかりと勉強しておきましょう。

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理科環境と生物の反応生物

3分で簡単にわかる「負のフィードバック調節」!仕組みや具体例を現役講師がわかりやすく解説!

今回はホルモンのコントロールに欠かせない「負のフィードバック調節」について学んでいきます。

恒常性(ホメオスタシス)を維持するために、体内では神経やホルモンが日夜はたらいて細胞・組織・器官が保たれている。ホルモンによる体内環境調節は巧妙なシステムによって調節されているんです。そんな一例として、負のフィードバック調節を生物のからだに詳しい現役講師のオノヅカユウとともに学習しよう。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

フィードバック調節とは?

フィードバック調節とは、体内環境の調整に重要な役割を果たしている物質であるホルモンの分泌量を調節する仕組みです。分泌量を増やしたり、逆に減らしたりするための制御システムと言い換えても良いでしょう。

ホルモンの分泌調整に関する知識を学ぶのはとても重要です。なぜかといえば、それはホルモンのもつ性質に理由があります。

なぜ調節システムを知ることが重要なのか?

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ホルモンは、内分泌器官にある内分泌細胞から分泌される物質。その多くは血流によって運ばれることで、作用を及ぼす標的器官の標的細胞にたどり着きます。標的細胞で受容体というたんぱく質に結合して初めて効果を発揮する物質です。

このホルモンには「微量でも強い効果を発揮する」という特徴があります。ほんの少しの分泌量でも、しっかりと標的細胞が応答するのです。一説には、「25mプールの水に1滴程度の量でも効果がある」とか、「50mプールの水にスプーン一杯分の分量で十分」といわれるほど。逆に言えば、少々の分泌量の過不足が身体に大きな影響を与えてしまう可能性があります。

ホルモンの分泌量調節はとても重要かつ繊細な仕事。逆に、うまくいかなければさまざまな病気や疾患の原因になります。分泌量調節の仕組みについて学ぶことがどれだけ重要か、おわかりいただけましたでしょうか?

フィードバック調節のしくみ

「負のフィードバック調節」について学ぶ前に、まずは「フィードバック調節」についてみていきましょう。フィードバック(feedback)とは、「もとの場所にもどる(もどす)」というような意味合いの言葉です。最近はビジネスの現場でも使われる言葉になっているので、耳にしたことのある方もいらっしゃるかもしれません。

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