今回は副腎皮質刺激ホルモンについて学んでいこう。

ヒトの体の中ではたらくホルモンは種類も多く、紛らわしいものも多い。それぞれのホルモンを分泌する器官や機能、過剰や不足で何が起きるのか、などを一つ一つ確認していくのが、得点アップへの近道です。

副腎皮質刺激ホルモンについて解説してもらうため、生物のからだに詳しい現役講師のオノヅカユウを招いたぞ。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

副腎皮質刺激ホルモンとは?

副腎皮質刺激ホルモンは、間脳の視床下部、そのすぐ下に存在している脳下垂体という器官から分泌されるホルモンです。

英語ではAdrenocorticotropic hormoneといい、頭文字をとってACTH(アクス)と記述されることもあります。ホルモンの名前が長いので、こちらの名称でよばれることのほうが多いかもしれません。

脳下垂体とは?

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By Henry Vandyke Carter - Henry Gray (1918年) Anatomy of the Human Body (See "ブック" section below) Bartleby.com: Gray's Anatomy, Plate 1180, パブリック・ドメイン, Link

ホルモンについて学ぶとき、それがどの内分泌器官で産生・分泌されるのかをおさえるのはとても大切です。副腎皮質刺激ホルモンは脳下垂体の前葉から分泌されています。

脳下垂体は指先ほどの大きさしかない、小さな豆のような器官です。そんなサイズにもかかわらず、副腎皮質刺激ホルモンをはじめとした複数のホルモンの分泌に関係しています。この脳下垂体に腫瘍ができるなどの異常が生じると、複数のホルモンの分泌にも大きな影響が現れるんです。

副腎皮質刺激ホルモンの構造

副腎皮質刺激ホルモンは39個のアミノ酸がつながってできているペプチドホルモンの一種です。分子量は4500ほどであることがわかっています。

副腎皮質刺激ホルモンのはたらき

副腎皮質刺激ホルモンは副腎で作用し、副腎皮質からのホルモン分泌を促進するというはたらきがあります。副腎皮質刺激ホルモンの刺激によって、糖質コルチコイドなどのホルモン分泌量が増加するのです。副腎皮質刺激ホルモンによって分泌量が調節されるホルモンは、まとめて副腎皮質ホルモンともよばれます。

糖質コルチコイドは、コルチゾールという化学物質が主成分である重要なホルモン。グルココルチコイドという名前でよばれることもありますが、「糖質」や「グルコ」という単語が含まれていることからもわかるとおり、血糖調節に関係しているホルモンです。肝臓での糖新生を促進し、血液中の血糖量を増やします。

\次のページで「副腎皮質刺激ホルモンの分泌量調節」を解説!/

image by iStockphoto

また、副腎皮質刺激ホルモンは身体がストレスを受けた時にも増加。糖質コルチコイドなどの副腎皮質ホルモンの分泌増は、ストレスに対する防御機構のひとつであると考えられています。

副腎皮質刺激ホルモンの分泌量調節

ホルモンによる体内の調節はとても繊細なもの。微妙な分泌量を正確に調節できなければ、あっというまに体調不良に陥ってしまいます。副腎皮質刺激ホルモンはどのようにして分泌量が調節されているのでしょうか?

副腎皮質刺激ホルモンの分泌促進

副腎皮質刺激ホルモンの分泌は、副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモンというホルモンによって刺激されます。副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモンは脳下垂体のすぐ上にある間脳の視床下部から分泌されるホルモンです。

副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモンの分泌によって副腎皮質刺激ホルモンの分泌量が増え、それによって副腎皮質ホルモン分泌が促進される…まるで刺激をバトンパスしていくような仕組みといえるでしょう。

副腎皮質刺激ホルモンの分泌抑制

副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモンが分泌され続ける限り、副腎皮質刺激ホルモンも分泌が促され、副腎皮質ホルモンが増えていきます。このシステムを抑制するのは、バトンリレーの最終ランナーである副腎皮質ホルモンです。

血中の副腎皮質ホルモン、とくに糖質コルチコイドの量が増えすぎると、それが刺激となって副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモンと副腎皮質刺激ホルモンの分泌を抑制します。

\次のページで「副腎皮質刺激ホルモンに関係する病気」を解説!/

image by Study-Z編集部

このように、最終的にできる産物が前の段階の物質の生産を調節する仕組みをフィードバックといいます。

副腎皮質刺激ホルモンの場合は、最終的にできる物質(副腎皮質ホルモン)が増加することで前段階の物質(副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン、副腎皮質刺激ホルモン)の生産量を抑制していますよね。このような仕組みをとくに負のフィードバック(ネガティブフィードバック)とよんでいます。

副腎皮質刺激ホルモンに関係する病気

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ほんの少しの量で絶大な効果を発揮するのがホルモンの特徴。どんなホルモンでも多すぎたり、少なすぎたりすれば体に大きな影響が現れます。この項目では、副腎皮質刺激ホルモンの過剰や不足によって起きる病気などについて簡単にご紹介しましょう。

クッシング病

脳下垂体に異常が生じ、副腎皮質刺激ホルモンが過剰に分泌されることで起きる病気にクッシング病というものがあります。

すでに学んだように、副腎皮質刺激ホルモンは糖質コルチコイドなどの副腎皮質ホルモン分泌を促進させるもの。クッシング病になると血糖値が上昇し、糖尿病のような症状が現れます。高血圧や肥満(とくに体の中心部に脂肪がたまる中心性肥満)、顔がまんまるくなる満月様顔貌などもわかりやすい特徴です。また、筋肉の萎縮や月経不順、皮膚が薄くなって出血が止まりにくくなるといった症状もあらわれます。

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発病までのメカニズムが完全には判明していない難病ですが、男性と女性であれば女性のほうがなりやすい病気であるようです。病院では、尿検査や血液検査で血中のホルモンの濃度を測るなどして診断します。

副腎皮質刺激ホルモンの生み出される場所である脳下垂体前葉に腫瘍ができることが原因のものをクッシング病とよんでいますが、それ以外の原因で同じような症状が現れることも。それらはクッシング症候群という名前で区別されています。

ACTH単独欠損症

脳下垂体前葉からは複数のホルモンが分泌されていますが、そのなかでもACTH、つまり副腎皮質刺激ホルモンだけが正常に分泌されなくなる疾患をACTH単独欠損症といいます。

副腎皮質ホルモンの分泌量も低下し、全身の倦怠感を感じやすくなったり、低血糖、低血圧などの症状が現れることが多いです。急激な血糖値の低下は意識障害をも引き起こす可能性も。やはりこちらも発症のメカニズムが完全には解明されていないため、これからの研究の発展が望まれています。

副腎皮質刺激ホルモンの分泌システムや「負のフィードバック」はテスト頻出!

副腎皮質刺激ホルモンのはたらき、おわかりいただけましたでしょうか?「副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン増加→副腎皮質刺激ホルモン増加→副腎皮質ホルモン(とくに糖質コルチコイド)増加」という流れはしっかり理解しましょう。

また、「負のフィードバック」という単語も、よくテストなどで問われます。副腎皮質刺激ホルモンと合わせて覚えてくださいね。

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タンパク質と生物体の機能理科生物

3分で簡単副腎皮質刺激ホルモン!現役講師が簡単わかりやすく解説!

今回は副腎皮質刺激ホルモンについて学んでいこう。

ヒトの体の中ではたらくホルモンは種類も多く、紛らわしいものも多い。それぞれのホルモンを分泌する器官や機能、過剰や不足で何が起きるのか、などを一つ一つ確認していくのが、得点アップへの近道です。

副腎皮質刺激ホルモンについて解説してもらうため、生物のからだに詳しい現役講師のオノヅカユウを招いたぞ。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

副腎皮質刺激ホルモンとは?

副腎皮質刺激ホルモンは、間脳の視床下部、そのすぐ下に存在している脳下垂体という器官から分泌されるホルモンです。

英語ではAdrenocorticotropic hormoneといい、頭文字をとってACTH(アクス)と記述されることもあります。ホルモンの名前が長いので、こちらの名称でよばれることのほうが多いかもしれません。

脳下垂体とは?

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By Henry Vandyke CarterHenry Gray (1918年) Anatomy of the Human Body (See “ブック” section below) Bartleby.com: Gray’s Anatomy, Plate 1180, パブリック・ドメイン, Link

ホルモンについて学ぶとき、それがどの内分泌器官で産生・分泌されるのかをおさえるのはとても大切です。副腎皮質刺激ホルモンは脳下垂体の前葉から分泌されています。

脳下垂体は指先ほどの大きさしかない、小さな豆のような器官です。そんなサイズにもかかわらず、副腎皮質刺激ホルモンをはじめとした複数のホルモンの分泌に関係しています。この脳下垂体に腫瘍ができるなどの異常が生じると、複数のホルモンの分泌にも大きな影響が現れるんです。

副腎皮質刺激ホルモンの構造

副腎皮質刺激ホルモンは39個のアミノ酸がつながってできているペプチドホルモンの一種です。分子量は4500ほどであることがわかっています。

副腎皮質刺激ホルモンのはたらき

副腎皮質刺激ホルモンは副腎で作用し、副腎皮質からのホルモン分泌を促進するというはたらきがあります。副腎皮質刺激ホルモンの刺激によって、糖質コルチコイドなどのホルモン分泌量が増加するのです。副腎皮質刺激ホルモンによって分泌量が調節されるホルモンは、まとめて副腎皮質ホルモンともよばれます。

糖質コルチコイドは、コルチゾールという化学物質が主成分である重要なホルモン。グルココルチコイドという名前でよばれることもありますが、「糖質」や「グルコ」という単語が含まれていることからもわかるとおり、血糖調節に関係しているホルモンです。肝臓での糖新生を促進し、血液中の血糖量を増やします。

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