今回はエントロピーについて考えていきます。

高校物理ではほとんど出てこない概念ですがな。しかし、熱力学第2法則は習ってるはずです。そしてエントロピーはこの熱力学第2法則の別の表現なんです。

エントロピーは難しい概念で、一言で「コレ」というのは難しいかもしれないが、理系ライターのタッケさんと一緒に解説してゆくぞ!

ライター/eastflower

物理学全般に興味をもつ理系ライター。理学の博士号を持つ。専門は物性物理関係。高校で物理を教えていたという一面も持つ。今回はエントロピーについて考えてみた。

熱力学第2法則

image by iStockphoto

熱力学第2法則をご存知でしょうか?

クラウジウス(1822~1888)によれば次のように定義され、クラウジウスの原理とも呼ばれています。

「熱は高温の物体から低温の物体へ移動し、自然に低温の物体から高温の物体へ移動することはない。」

なにを当たり前なことを、と思われるかもしれませんが、日常生活のこのような常識と思われることもなぜかと考えることは大事なことなのです。

さて、クラウジウスの言っていることは至極当然のように思われます。
しかし、ちょっと考えてみてください。

真空中で振り子を振らせるとき、抵抗がなければいつまでも振れ続けますよね。
いや、これも当然だろう、と思われるかもしれません。
でも、これは行ったり来たりできるという点で熱現象とは決定的に違います。

たとえば、熱いやかんを放置すればやがてやかんの中のお湯とともに冷えていきますね。
これの逆は…
  「冷えてしまったやかんの水を放置すれば、逃げていった熱が戻ってきてひとりでにお湯が沸く」

ということになりそうですが、このことは我々の直感通り、常識的には起こり得ないことです。
つまり、熱の場合は行ったり来たりすることはできないのですね。
こういう現象を不可逆変化といいます。

クラウジウスを始めとする当時の科学者たちは、熱現象がどうして可逆でないのか?
なぜ熱は温度の高いところから低いところへしか流れないのかについて、物理的な説明を与えようと努力しましたが、多大な努力にも関わらずできなかったのです。

そこで、クラウジウスはなぜ?と問うことをやめて、
「熱は温度の高いところから低いところへ流れ、その逆はない」
というのを経験則として認めることにし、それを物理学での原理として採用することにしました。
原理というのは、経験則などにより疑いがないと信じられるものを物理学の礎として採用するというものです。

トムソンの原理

image by iStockphoto

クラウジウスと同時代に活躍したトムソン(1824-1907)もまた熱の問題に取り組んでいました。
トムソンは熱に関して「トムソンの原理」を提唱しており、次のように表現されます。

トムソンの原理
「吸収した熱をすべて仕事に変えることはできない。」

これはクラウジウスの原理と同等であることがわかっています。

つまり、熱力学第2法則とは、クラウジウスの原理とトムソンの原理というように、違った表現で示せるのです。

ちなみに、トムソンは後に功績を讃えられて貴族の称号を与えられ、ケルビン卿と名乗っています。

エントロピー

image by iStockphoto

クラウジウスは研究の過程である量を発見することになります。

それが、エントロピーなのです。
現在エントロピーについてはいろいろな分野からアプローチがなされていますが、
ここでは熱現象からの場合について考えてみましょう。

エントロピー
「断熱過程において、移動した熱量Qとその時の物体の絶対温度Tについて、Q/Tを考えてエントロピーと名付ける。この場合、エントロピーは増大する。」

ちょっといい方が難しいですね。正確さを少し犠牲にして説明すると次のようになります。

「移動した熱量Qを絶対温度Tで割ったものをエントロピーと名付ける。高温物体(温度Th)と低温物体(温度Tc)という2つ以上の物体の間だけで熱が移動するとした場合、そのエントロピーの総量は増大する」

これは次の図のような場合です。

\次のページで「エントロピーは増大する」を解説!/

熱エントロピーの説明用の図.svg
By すじにくシチュー - 投稿者自身による作品, CC0, Link

ここで、エントロピーの総和を考えてみましょう。
次式になるはずです。

image by Study-Z編集部

つまり、クラウジウスの言うように熱が必ず高温のものから低温のものへ流れるというのであれば、この式の値については必ず次のことが言えます。

「Qはどちらも同じで、温度は当然 Th > Tc であるため、この式の値は必ず正になる」

つまり、エントロピーは増大するのです

これは、熱力学第2法則の数学的な表現と考えてもいいでしょう。
エントロピーとは熱が高温から低温への一方通行であることを示す指標と言えるわけですね。

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また、エントロピーはよく「乱雑さ」を表していると言われますが、乱雑さとは何でしょうか?
熱が高温物体から低音物体へ流れる場合でもエネルギー自体はエネルギー保存則により増えも減りもしません。
したがって、高温の物体から低温の物体へ熱エネルギーが移動してもその総量は変わっていないはずです。

しかし、熱エネルギー総量は全体として同じだとしても、明らかに再利用しにくくなっています。

  お湯を沸かすことを考えてみましょう。
  ガスを燃やすことでガスの化学エネルギーを熱に変えます。
  そのガスのエネルギーは水の温度を上げることに使われるほかは、大気中などに放出されますね。
  ガスの持っていたエネルギー総量は増えも減りもしません。
  しかし、散っていった熱エネルギーをもう一度再利用するのはとても難しいことです。
  このように熱エネルギーはとても使いにくいエネルギーといえます。

  これは目薬をプールに一滴落とした時のことを考えてみるとわかりやすいかもしれません。
  プールの目薬は当然、増えも減りもしませんし、成分も変化はしないとしましょう。
  しかし、プールの水から目薬を抽出して次に活用することはとても困難なことだというのと似ています。  

熱は移動するに従いエントロピーがどんどん大きくなっていき、そしてそれは熱エネルギーがどんどん使いづらくなっていくことを示しているのです。

これを感覚的にわかりやすく「乱雑さが増した」と表現しています。

エントロピーにはその他、統計力学や情報の関係からのアプローチもありますが、クラウジウスの考えたエントロピーという概念はこのようなものです。

エントロピーは増大する

エントロピーは増大するのです。
これは熱力学の前提である熱力学第1法則や熱力学第2法則が正しければ必ずそうなります。

そして、熱力学の法則に反することは未だ見つかっていません。

我々の使っているエネルギーは最終的には熱エネルギーになります。
例えば、ガスを燃やしてお湯を沸かしても、電気を使ってストーブをつけても、ジェット機でひとっ飛びでも、すべてのエネルギーは最後には熱になるのです。

そして、エントロピーが増大するため、熱エネルギーはとても使いにくいエネルギーだといえます。

もしも、熱エネルギーを簡単に再利用することができれば、エネルギー危機は消滅するでしょう。
なぜかというと熱力学第1法則により、エネルギー自体は増えも減りもしないからです

" /> 熱力学第2法則?わかりにくい「エントロピー」を理系ライターがわかりやすく解説 – Study-Z
熱力学物理理科

熱力学第2法則?わかりにくい「エントロピー」を理系ライターがわかりやすく解説

今回はエントロピーについて考えていきます。

高校物理ではほとんど出てこない概念ですがな。しかし、熱力学第2法則は習ってるはずです。そしてエントロピーはこの熱力学第2法則の別の表現なんです。

エントロピーは難しい概念で、一言で「コレ」というのは難しいかもしれないが、理系ライターのタッケさんと一緒に解説してゆくぞ!

ライター/eastflower

物理学全般に興味をもつ理系ライター。理学の博士号を持つ。専門は物性物理関係。高校で物理を教えていたという一面も持つ。今回はエントロピーについて考えてみた。

熱力学第2法則

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熱力学第2法則をご存知でしょうか?

クラウジウス(1822~1888)によれば次のように定義され、クラウジウスの原理とも呼ばれています。

「熱は高温の物体から低温の物体へ移動し、自然に低温の物体から高温の物体へ移動することはない。」

なにを当たり前なことを、と思われるかもしれませんが、日常生活のこのような常識と思われることもなぜかと考えることは大事なことなのです。

さて、クラウジウスの言っていることは至極当然のように思われます。
しかし、ちょっと考えてみてください。

真空中で振り子を振らせるとき、抵抗がなければいつまでも振れ続けますよね。
いや、これも当然だろう、と思われるかもしれません。
でも、これは行ったり来たりできるという点で熱現象とは決定的に違います。

たとえば、熱いやかんを放置すればやがてやかんの中のお湯とともに冷えていきますね。
これの逆は…
  「冷えてしまったやかんの水を放置すれば、逃げていった熱が戻ってきてひとりでにお湯が沸く」

ということになりそうですが、このことは我々の直感通り、常識的には起こり得ないことです。
つまり、熱の場合は行ったり来たりすることはできないのですね。
こういう現象を不可逆変化といいます。

クラウジウスを始めとする当時の科学者たちは、熱現象がどうして可逆でないのか?
なぜ熱は温度の高いところから低いところへしか流れないのかについて、物理的な説明を与えようと努力しましたが、多大な努力にも関わらずできなかったのです。

そこで、クラウジウスはなぜ?と問うことをやめて、
「熱は温度の高いところから低いところへ流れ、その逆はない」
というのを経験則として認めることにし、それを物理学での原理として採用することにしました。
原理というのは、経験則などにより疑いがないと信じられるものを物理学の礎として採用するというものです。

トムソンの原理

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クラウジウスと同時代に活躍したトムソン(1824-1907)もまた熱の問題に取り組んでいました。
トムソンは熱に関して「トムソンの原理」を提唱しており、次のように表現されます。

トムソンの原理
「吸収した熱をすべて仕事に変えることはできない。」

これはクラウジウスの原理と同等であることがわかっています。

つまり、熱力学第2法則とは、クラウジウスの原理とトムソンの原理というように、違った表現で示せるのです。

ちなみに、トムソンは後に功績を讃えられて貴族の称号を与えられ、ケルビン卿と名乗っています。

エントロピー

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クラウジウスは研究の過程である量を発見することになります。

それが、エントロピーなのです。
現在エントロピーについてはいろいろな分野からアプローチがなされていますが、
ここでは熱現象からの場合について考えてみましょう。

エントロピー
「断熱過程において、移動した熱量Qとその時の物体の絶対温度Tについて、Q/Tを考えてエントロピーと名付ける。この場合、エントロピーは増大する。」

ちょっといい方が難しいですね。正確さを少し犠牲にして説明すると次のようになります。

「移動した熱量Qを絶対温度Tで割ったものをエントロピーと名付ける。高温物体(温度Th)と低温物体(温度Tc)という2つ以上の物体の間だけで熱が移動するとした場合、そのエントロピーの総量は増大する」

これは次の図のような場合です。

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