「アルミニウム」って身の回りの多くの製品に使われていますね。

元素全体の約80%もある金属元素の中で、なぜアルミニウムがこんなにも使われているのか?それはアルミニウムの特徴を学べばわかってくるんです。

今回は「アルミニウム」の特徴と製法について、大学で化学的視点からアルミニウムについて勉強したライターwingと一緒に解説していきます。

ライター/wing

元製薬会社研究員。小さい頃から化学が好きで、実験を仕事にしたいと大学で化学を専攻した。卒業後は化学分析・研究開発を生業にしてきた。化学のおもしろさを沢山の人に伝えたい!

1.アルミニウムはどんな元素?

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アルミニウム(Al)は原子番号13の元素です。原子量は26.98で、融点は660.4℃、沸点は2470℃。

地球上に多量に存在し、色々な金属のアルミノケイ酸塩として岩石や土壌の主要成分となっています。

1-1.アルミニウムの化学的特徴

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単体は銀白色で光沢があり、展性(薄く広がる性質)延性(長く伸びる性質)に富み、容易に加工できます。

常温常圧で熱伝導率が高いため、フライパンや鍋に使われているのは見たことがあるでしょう。また電気伝導率が高いので、高圧送電線にも使われています。

また密度が2.70 g/wp_3(20℃)と金属の中では軽量で強度が高いので、航空機や宇宙へ行くロケットの構造部品をつかさどる、大変重要な金属です。

反応性においてはイオン化傾向(イオンになりやすさ)が大きく酸とも塩基とも反応する「両性元素」という大きな特徴があります。

自然界に多量に存在するため、安価で手に入りやすいことも、様々な分野で活用されている要因です。

使い終わった飲料缶などをリサイクルして、成形しなおし、他の用途に再生できる点も大きな魅力ですね。

1-2.アルミニウムの酸化物アルミナ

酸化アルミニウム(Al2O3)の通称をアルミナといいます。

アルミニウムは鉄よりもさびにくいと思われてますが、鉄よりもイオン化傾向(イオンになりやすさ)が大きく急速に空気と反応するのです。しかしアルミニウムの酸化物はとても「硬く」て「透明」で「隙間がない構造」のため、鉄のさびと違って酸化してバリアーをはり内側が酸化するのを防いでくれます

この表面を覆う薄いバリアーを酸化皮膜といい、バリアーの正体が「アルミナ」です。アルミナが内側のアルミニウムが酸化するのを防ぐ効果があるので、一円玉やサッシにも用いられています。

2.バイヤー法で酸化アルミニウムを作る

2.バイヤー法で酸化アルミニウムを作る

image by Study-Z編集部

アルミニウムの特徴が大体わかったところで、アルミニウムの製法についてお話しします。特徴を活かして精製を行っているので、より詳しく理解することができますよ。

アルミニウムは、アルミニウムを含む鉱物であるボーキサイトから精製します。ボーキサイトの主成分は酸化アルミニウムなのですが、不純物(主に酸化鉄(Fe2O3)や二酸化ケイ素(SiO2))を含んでいるのです。

それなので、バイヤー法という方法を用いて純度の高い酸化アルミニウム(アルミナ)にしましょう。

\次のページで「2-1.工程1(ボーキサイトを高温の水酸化ナトリウムで溶かし、ろ過する)」を解説!/

2-1.工程1(ボーキサイトを高温の水酸化ナトリウムで溶かし、ろ過する)

金属を溶解する時には、ほとんどの場合「酸」を使用します。しかし、アルミニウムが両性元素(酸にも塩基にも溶ける)という性質を利用して、ここでは「塩基」である水酸化ナトリウム(NaOH)に溶かします

ボーキサイトに含まれている不純物である酸化鉄(Fe2O3)は塩基には溶けないので沈殿したままです。そうすることで不純物である酸化鉄を除去します。

溶液部分には水酸化アルミニウム(Al(OH)3)が、沈殿には不純物である酸化鉄が含まれているので、ろ過によりアルミニウムが含まれている溶液だけにしましょう。

Al2O3  +  2OH–  +  3H2O  →  2[Al(OH)4]–

2-2.工程2(溶液に少量の水酸化アルミニウムを加え冷却し、ろ過する)

水酸化ナトリウムに溶かしたことにより、酸化アルミニウムは水酸化アルミニウムになりました。

水酸化アルミニウムが含まれている溶液に、核となる少量の水酸化アルミニウムを加えしばらく放置(高温だった溶液を常温まで冷却)します。するとゆっくり白色の綿状固体である水酸化アルミニウムの沈殿ができてきます

ここで、溶液はアルカリ性が強いため、不純物であるケイ素を含んだケイ酸ナトリウム(Na2SiO3)は溶液中に溶けたままです。ろ過をして沈殿のみを取り出すことによりケイ素(Si)を除去することができます。

2-3.工程3(加熱する)

ろ過によって得られた水酸化アルミニウムの固体を、高温で加熱することで脱水し、酸化アルミニウム(Al2O3)にします。この時水は、沸点よりも高い温度で熱せられているので、気体となって現れるのです。

2Al(OH)3 → Al2O3 + 3H2O

\次のページで「3.ホール・エルー法で酸化アルミニウムからアルミニウムを作る」を解説!/

3.ホール・エルー法で酸化アルミニウムからアルミニウムを作る

バイヤー法でボーキサイトから不純物を除きアルミナを精製しました。次に酸素を除き単体のアルミニウムにしたいので、アメリカのホールさんとフランスのエルーさんが同時期に別々に開発した、ホール・エルー法を使いましょう。

通常金属を含む鉱物から電気分解で金属単体を得ようするときは、水に溶かしてイオンにし電気分解で金属単体を得ますが、アルミニウムはイオン化傾向が大きくイオンの状態が安定しています。水素よりイオン化傾向が大きいため、アルミニウムの水溶液を電気分解してもアルミニウムは得られず、代わりに水素が発生してしまうのです。

それなので、以下の特別な方法で単体のアルミニウムを精製しましょう。

3-1.氷晶石を用いる理由

氷晶石
Didier Descouens - 投稿者自身による作品, CC 表示-継承 3.0, リンクによる

アルミナを水に溶かして電気分解してもアルミニウムが得られないので、固体を直接溶かして電気分解する必要があります。しかし、アルミナの融点は2050℃とものすごく高く、簡単には溶かすことができません。

そこで、氷晶石というあまり聞きなじみがないものを使います。氷晶石(Na3AlF6)の融点は1020℃とアルミナより1000℃ほど低いです。1000℃も2000℃も日常生活からは考えられないほど高い温度ですが、1000℃を2000℃に上げるには莫大な電力を必要とすることは想像できますよね。

ドロドロに溶かした氷晶石の温度は、融点付近の約1000℃です。アルミナの融点には届いていません。しかし氷晶石に含まれているフッ素(F)が、酸化アルミニウムの三次元網目構造に入り込むことで構造が壊れやすくなり、約1000℃でもゆっくりと溶けることを発見したのです。

さらに氷晶石は、酸化アルミニウムと同時に溶かして電気分解しても、アルミニウムの析出(固体となって現れること)を邪魔する陽イオンを含まないことも重要な要素といえます。

溶かした氷晶石に酸化アルミニウムを溶かすことで約1000℃で電気分解し、単体のアルミニウムを得ることができるのです。

3-2.工程

3-2.工程

image by Study-Z編集部

1020℃で溶かした氷晶石に、酸化アルミニウムを少しずつ溶かします。ドロドロに溶けた混合物に炭素電極を入れ電気分解するのです。

溶けた氷晶石(Na3AlF6)と酸化アルミニウム(Al2O3)の混合物のなかには、以下のイオンがあります。

Al3+、O2-、Na+、F

ということは陽極に近づいてくるのは陰イオンのO2-Fなので、O2-が電極である炭素とくっつき、一酸化炭素(CO)や二酸化炭素(CO2)を発生するのです。

陽極にしている炭素は酸素とくっついて気体になってしまい、だんだんとなくなってしまうので、頻繁な交換が必要になります。

対して陰極に近づいてくるのは、陽イオンのAl3+Na+です。ナトリウムとアルミニウムではアルミニウムの方がイオン化傾向が小さい(イオンの状態でいられない)ので、アルミニウムが陰極で析出します。

このように固体をドロドロに溶かして電気分解することを「融解塩電解」というので、覚えておきましょう。

アルミニウムはさまざまな特徴を持った金属元素で、特徴を活かして精製されている

アルミニウムの単体は展性延性に富み熱伝導率と電気伝導率が高いです。

また、金属の中では軽くて丈夫で、原料がたくさん採れるため安価で手に入れられます。

さらにイオン化傾向が大きく酸とも塩基とも反応する両性元素です。

アルミニウムの酸化物アルミナは、非常に硬く透明で表面を覆うバリアーとなり、内側が酸化するのを防いでくれます。

ボーキサイトから不純物を除き酸化アルミニウムを得る「バイヤー法」と、単体アルミニウムを析出させる「ホール・エール法」はアルミニウムの特徴を活かしたもので、今日でもこの方法が使われている大変優れた製法です。

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化学無機物質理科

「アルミニウム 」の特徴と製法について元研究員がわかりやすく解説

「アルミニウム」って身の回りの多くの製品に使われていますね。

元素全体の約80%もある金属元素の中で、なぜアルミニウムがこんなにも使われているのか?それはアルミニウムの特徴を学べばわかってくるんです。

今回は「アルミニウム」の特徴と製法について、大学で化学的視点からアルミニウムについて勉強したライターwingと一緒に解説していきます。

ライター/wing

元製薬会社研究員。小さい頃から化学が好きで、実験を仕事にしたいと大学で化学を専攻した。卒業後は化学分析・研究開発を生業にしてきた。化学のおもしろさを沢山の人に伝えたい!

1.アルミニウムはどんな元素?

image by iStockphoto

アルミニウム(Al)は原子番号13の元素です。原子量は26.98で、融点は660.4℃、沸点は2470℃。

地球上に多量に存在し、色々な金属のアルミノケイ酸塩として岩石や土壌の主要成分となっています。

1-1.アルミニウムの化学的特徴

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単体は銀白色で光沢があり、展性(薄く広がる性質)延性(長く伸びる性質)に富み、容易に加工できます。

常温常圧で熱伝導率が高いため、フライパンや鍋に使われているのは見たことがあるでしょう。また電気伝導率が高いので、高圧送電線にも使われています。

また密度が2.70 g/wp_3(20℃)と金属の中では軽量で強度が高いので、航空機や宇宙へ行くロケットの構造部品をつかさどる、大変重要な金属です。

反応性においてはイオン化傾向(イオンになりやすさ)が大きく酸とも塩基とも反応する「両性元素」という大きな特徴があります。

自然界に多量に存在するため、安価で手に入りやすいことも、様々な分野で活用されている要因です。

使い終わった飲料缶などをリサイクルして、成形しなおし、他の用途に再生できる点も大きな魅力ですね。

1-2.アルミニウムの酸化物アルミナ

酸化アルミニウム(Al2O3)の通称をアルミナといいます。

アルミニウムは鉄よりもさびにくいと思われてますが、鉄よりもイオン化傾向(イオンになりやすさ)が大きく急速に空気と反応するのです。しかしアルミニウムの酸化物はとても「硬く」て「透明」で「隙間がない構造」のため、鉄のさびと違って酸化してバリアーをはり内側が酸化するのを防いでくれます

この表面を覆う薄いバリアーを酸化皮膜といい、バリアーの正体が「アルミナ」です。アルミナが内側のアルミニウムが酸化するのを防ぐ効果があるので、一円玉やサッシにも用いられています。

2.バイヤー法で酸化アルミニウムを作る

2.バイヤー法で酸化アルミニウムを作る

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アルミニウムの特徴が大体わかったところで、アルミニウムの製法についてお話しします。特徴を活かして精製を行っているので、より詳しく理解することができますよ。

アルミニウムは、アルミニウムを含む鉱物であるボーキサイトから精製します。ボーキサイトの主成分は酸化アルミニウムなのですが、不純物(主に酸化鉄(Fe2O3)や二酸化ケイ素(SiO2))を含んでいるのです。

それなので、バイヤー法という方法を用いて純度の高い酸化アルミニウム(アルミナ)にしましょう。

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