「混合物」を「分離」したい時どうする?

混合物を分離する実験操作はいくつかあり、取り出したい物質の性質によって選択することが必要なんです。

今回は「混合物」の「分離方法」について、実験室で混合物を分離して目的の成分を取り出して分析してきたライターwingと一緒に解説していきます。

ライター/wing

元製薬会社研究員。小さい頃から化学が好きで、実験を仕事にしたいと大学で化学を専攻した。卒業後は化学分析・研究開発を生業にしてきた。化学のおもしろさを沢山の人に伝えたい!

混合物と純物質

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身の回りの物質には、純水や酸素や鉄のように他の物質が混ざり合っていない1種類の物質からできている純物質と空気や海水のように2種類以上の物質が混ざり合った混合物があります。

混合物と純物質の違いは?

純物質はそれぞれ固有の融点(固体から液体に変化する温度)と沸点(液体から気体に変化する温度)をもっています。融点や沸点を調べることにより、その純物質の種類を特定することが可能です。

そして混合物は純物質が2種類以上混ざり合っているため、固有の融点や沸点をもちません。混合物は混ぜ合わせた純物質の割合により性質が異なることを覚えておきましょう。

混合物の分離方法

混合物を純物質いくつかに分離したい時は、純物質固有の性質の違いを利用して純物質を1つずつ取り出します。この混合物から純物質を取り出す実験操作のことを分離といい、分離した物質から不純物を取り除くことで純度を高める操作のことを精製というのです。それでは、混合物の分離方法について1つずつ解説していきましょう。

\次のページで「1.ろ過」を解説!/

1.ろ過

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ろ紙を用いて液体と液体に溶けない固体を分離します。液体と固体の混合物の時は、目に見えない細かい穴が多数空いている紙(ろ紙)をフィルターとして使い、上から液体と固体の混合物を流し込むことで分離するのです。

ろ紙はろ紙自体の直径に種類がありますが、空いている穴の大きさにも種類があるので、適切な種類のろ紙を選択する必要があります。

自然に液体と固体の分離を待つ方法の他に、実験室ではアスピレーターを用いてろ紙以下を減圧にすることで分離を早める吸引ろ過が用いられことが多いです。これは純物質それぞれの粒子の大きさの違いを利用した分離方法になります。

2.蒸留(じょうりゅう)

Simple chem distillation.PNG
By H Padleckas created this picture in December 2005. H Padleckas 16:47, 27 December 2005 (UTC) - H Padleckas created this picture in December 2005. H Padleckas 16:47, 27 December 2005 (UTC), CC 表示-継承 3.0, Link

混合物を加熱し、1種類の純物質を気化させ、その蒸気を冷やし液体に戻すことで目的の物質を取り出す実験操作です。蒸留は純物質の沸点の違いを利用した分離方法で、特別な装置を組んで行います。

(1)ガスバーナー(混合物を加熱する装置です。低温で加熱したいときはウォーターバスを使いましょう。)
(2)丸底フラスコ(混合物を入れます。沸騰石を同時に入れ突沸(急に沸騰する事)を防ぐことも重要です。)
(3)ト字管(丸底フラスコと温度計とリービッヒ冷却器をつなぎます。)
(4)温度計(丸底フラスコの上部にあがってきた気体の温度を測るために重要です。温度計の球部はト字管の枝つけ根の少し下に来るように設置します。)
(5)リービッヒ冷却器(ガラス管が二重になった構造。混合物を加熱して出てきた蒸気を内側の管に導き、周囲を水で冷却することで再び液体に戻す装置です。)
(6)リービッヒ冷却器の水の入口(気体を冷やすために使う水は、冷却効率を上げるために下から上に流します。)
(7)リービッヒ冷却器の水の出口(使った水はそのまま流しに捨ててかまいません。)
(8)フラスコ(混合物から出てきた気体を、液体に戻したものを溜めるのに使います。)
(9)塩化カルシウム管につなぐ(装置の開放部に塩化カルシウム管をつなぐことで、吸湿を防止しましょう。)
(10)アダプター(装置同士をつなぎます。)

実験操作
1.混合物と沸騰石を丸底フラスコに入れましょう。
2.装置をセッティングし冷却器に水を流し始めます。バーナーをつけ加熱開始です。
3.丸底フラスコを加熱していくと、溶液が沸騰し始め蒸気がト字管に上がってきます。
4.蒸気を測っている温度計の上昇が止まってほぼ一定温度(目的物質の沸点)になったら、目的物質が蒸気になり冷却されて液体になりフラスコに集まります
5.目的物質がほぼ回収されると、温度計が示す温度が変化し始めるので、加熱をやめ蒸留は終了です。

\次のページで「3.分留(ぶんりゅう)」を解説!/

3.分留(ぶんりゅう)

蒸留と同じく純物質の沸点の違いを利用した分離方法です。

蒸留(上記3.)と同じ装置を使い、数種類の液体からなる混合物をそれぞれの沸点の違いから1つずつ分離します。

蒸留装置の(10)のアダプターの下にさらに三又アダプターをつけ、フラスコを3つ繋げることで3種類の液体を回収することも可能です。この時、温度計が示す温度がとても重要だということを覚えておきましょう。蒸気の温度から、どの物質が蒸気になり冷却され液体になっているかを把握して回収することができます。

4.再結晶法(さいけっしょうほう)

1 solvent recrystallisation.png
By Quantockgoblin 19:26, 11 January 2007 (UTC) - 投稿者自身による作品, パブリック・ドメイン, Link

純物質の温度による溶解度(どのくらいの量溶けるか)の違いを利用した分離法で、温度による溶解度に差のある固体と固体の混合物を分離する時に行う実験操作です。

高い温度で溶けきるぎりぎりの量(大量)の物質を加えた溶液を冷やすと、温度による溶解度の差が大きい物質が溶けきれなくなり固体として現れます(析出)

例えば、硝酸カリウムと塩化ナトリウムの混合物の高温高濃度の水溶液を冷却すると、硝酸カリウムの固体が析出するのです。硝酸カリウムは低温では少ししか解けず温度を上げるとたくさん溶けるという性質があります。しかし、塩化ナトリウムは温度を上げてもあまり溶ける量が変わりません

このことを利用して、硝酸カリウムを分離することができます。析出した後は、ろ過をして乾燥し硝酸カリウムの固体を分離しましょう。

5.昇華法(しょうかほう)

5.昇華法(しょうかほう)

image by Study-Z編集部

混合物を加熱し、昇華(気体から液体を経ないで固体になる状態変化)する性質のある物質だけを取り出す方法です。混合物を加熱し昇華させて冷却し、目的の物質だけを分離します。これは純物質の昇華性を利用した分離法です。昇華法で分離できるのはヨウ素、ナフタレンがあります。

6.抽出(ちゅうしゅつ)

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混合物に目的の物質だけを溶かす溶媒を加えて振ることで、目的の物質を溶媒中に溶け込ませ分離する方法です。例えば、水より特定の溶媒に溶けやすい純物質を、水溶液中から分離する時に使います。これは純物質の溶解度の違いを利用した分離方法です。

\次のページで「7.クロマトグラフィー」を解説!/

実験操作
1.分液ろうと台に分液ろうとを置き、下のコックを閉じて上の栓を開けて混合物を流し込みます。
2.同様にほぼ混合物と同量の抽出溶媒を流し込みましょう。
3.上部の栓を溝と空気穴をずらして密栓し、片方の手で栓を押さえながらさかさまにします。
4.さかさまの状態でコックを開き、分液ろうと内を常圧にしましょう。
5.コックを閉じて液がよく混合するように上下に5~6回強く振り、コックを開いてガス抜きします。
6.5.を数回繰り返しましょう。
7.分液ろうとをろうと台に置き、完全に二層に分かれるまで静置します。
8.コックをゆっくり開き、液面が乱れないように下層をビーカーなどに回収しましょう。

7.クロマトグラフィー

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純物質の吸着力の違いを利用した分離方法です。

例えばペーパークロマトグラフィー(上写真)では混合物をろ紙の一点に付け、展開液を端から浸すと、ろ紙に吸着しやすい物質は元の場所の近くに残り、吸着しにくい物質は元の場所から離れたところまで展開液と一緒に移動します。

クロマトグラフィーは移動相(ペーパークロマトでの展開液)と固定相(ペーパークロマトでのろ紙)の組み合わせによって分類するのです。移動相に気体を用いるのがガスクロマトグラフィー(GC)、液体を用いる方法を液体クロマトグラフィー(LC)といいます。

液体クロマトグラフィーは物質の揮発性や熱分解性に制限されることがないので、ほとんどすべての物質の分離を行うことができる方法です。

液体クロマトグラフィーは、現在ではガスクロマトグラフィーと同様に完全に機械化され、迅速かつ高精度な分離分析方法として利用されています。これを特に高速液体クロマトグラフィー(HPLC)と呼び、医薬品の分析や治験分析などの分野で活躍しているのです。

混合物の分離方法には種類があり、目的物質の性質により選ぶことが重要

混合物を構成する純物質に分けるときの実験操作には種類があります。

ろ過、蒸留、分留、再結晶法、昇華法、抽出、クロマトグラフィーが主な方法です。混合物のなかからどのような物質を分離したいか、その物質がどんな性質を持っているかにより分離方法を選択する必要があります。

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化学

混合物の分離方法って何がある?7つの方法と見分け方を元研究員がわかりやすく解説

「混合物」を「分離」したい時どうする?

混合物を分離する実験操作はいくつかあり、取り出したい物質の性質によって選択することが必要なんです。

今回は「混合物」の「分離方法」について、実験室で混合物を分離して目的の成分を取り出して分析してきたライターwingと一緒に解説していきます。

ライター/wing

元製薬会社研究員。小さい頃から化学が好きで、実験を仕事にしたいと大学で化学を専攻した。卒業後は化学分析・研究開発を生業にしてきた。化学のおもしろさを沢山の人に伝えたい!

混合物と純物質

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身の回りの物質には、純水や酸素や鉄のように他の物質が混ざり合っていない1種類の物質からできている純物質と空気や海水のように2種類以上の物質が混ざり合った混合物があります。

混合物と純物質の違いは?

純物質はそれぞれ固有の融点(固体から液体に変化する温度)と沸点(液体から気体に変化する温度)をもっています。融点や沸点を調べることにより、その純物質の種類を特定することが可能です。

そして混合物は純物質が2種類以上混ざり合っているため、固有の融点や沸点をもちません。混合物は混ぜ合わせた純物質の割合により性質が異なることを覚えておきましょう。

混合物の分離方法

混合物を純物質いくつかに分離したい時は、純物質固有の性質の違いを利用して純物質を1つずつ取り出します。この混合物から純物質を取り出す実験操作のことを分離といい、分離した物質から不純物を取り除くことで純度を高める操作のことを精製というのです。それでは、混合物の分離方法について1つずつ解説していきましょう。

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