「溶解」という単語は理科ではおなじみの単語です。生活の中でも、紅茶に砂糖を溶かすことは容易にイメージできるでしょう。
溶解しているとはどのような現象か、ここで改めて理解しておこう。

薬学部出身の主婦ライターarpeggioと一緒に解説していきます。

ライター/Study-Z編集部

高校2年生でようやく理系の勉強に着手して以来、特に化学の面白さの虜になり、薬学部へ。最近は学術業務を続ける傍ら、自分の子どもやその友達と、身近なものを使った実験を楽しんでいる。

1. 溶解の定義

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今回のキーワード「溶解(ようかい)」について、辞書における言葉の定義を見てみましょう。

1. とけること。とかすこと。

2. 物質が液体中にとけて均一な液体となる現象。

                 ー広辞苑

気、液、または固体が液体に混合されたとき、均一の液相を形成する現象をいう。

                 ―森北出版 化学辞典

気体、液体、固体の物質(溶質)が他の液体や固体の物質(溶媒)に混合し均一な相を形成する現象。普通、物質が液体に溶けて溶液をつくることをさす。

                 ―岩波 理化学辞典

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2. 物質が水に溶けるとは?

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先に記した通り、物質が水に溶けるとは、水と均一に混ざること。つまり、溶質の分子が何らかの形で水分子と均一に混ざることを意味します。

水分子はまっすぐに結合しているのではなく、折れ線型をしているのはご存知ですね。酸素原子を真ん中に、2つの水素原子が互いに鈍角(約104.5°)の方向に結合しています。

酸素原子は、水素原子から電子を引き寄せるので、1個の水分子は、電気的に弱いマイナスを持つ部分(酸素原子の部分)と、電気的に弱いプラスを持つ部分(水素原子の部分)とがあり、全体として電荷に偏りが生じているのです。つまり極性を持っている。この特徴が、溶質が水に溶解するときのカギとなります。

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2-1. 塩が水に溶けるとき

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食塩(塩化ナトリウム)のように、水の中に入れるとイオンに分かれる物質電解質といいます。

水に入れる前の塩化ナトリウムは、上の写真のように、塩化物イオン【Cl-】とナトリウムイオン【Na+】が引き合い、規則的に互い違いに結合(イオン結合)している結晶です。

水に入れると、マイナスの電荷をもつ【Cl-】の周りには水分子のプラス部分が引き付けられ、プラスの電荷をもつ【Na+】の周りには水分子のマイナス部分が引き付けられます。

それぞれのイオンを対象に、大量の水分子が取り囲んで引き抜いていくことで、個体だった塩化ナトリウムはバラバラになり、時間とともに次第に均一に混ざった水溶液となっていくのです。

2-2. 砂糖が水に溶けるとき

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では、水に入れてもイオンに分かれない非電解質である、ショ糖(砂糖の主成分)やブドウ糖はどのようにして水に溶けるのでしょうか?砂糖は水によく溶けますよね。

答えは、「分子ごと溶ける」です。

ショ糖やブドウ糖は、酸素原子(O)、水素原子(H)、炭素原子(C)が分子を形成し、さらに分子同士が結晶化しています。上の図はショ糖の構造式ですが、1つの分子に水酸基(-OH の部分)がいくつも存在していますね。ここに極性があるため、水に入れると、多数の水分子に取り囲まれて引き抜かれ、分子同士がバラバラになることで水に溶けるのです。

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2-3. 二酸化炭素が水に溶けるとき

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塩や砂糖のような固体だけではなく、気体も水に溶解することが可能です。

炭酸水の原料は?そう、二酸化炭素と水ですね。製造過程で圧力をかけて処理されています。水に溶解していた気体は、容器を開封して放置していると、段々に外へでてきてしまいますよね。つまり、塩や砂糖のように、分子の極性によって水の中にずっと入り込んだまま安定していられるというわけではありません。

気体にかかる圧力が高い方が、液体に溶解する気体分子は多くなります(ヘンリーの法則)。他にも、二酸化炭素は純水よりも少しアルカリ性に傾いている水の中の方が炭酸として存在しやすくなるなど、いろいろな要因に溶解の度合いが左右されます。

なお、砂糖や塩は水の温度が高い方がよく溶けますが、一般的に気体は逆で、水の温度が高くなるにつれて溶解できる気体の量が減る傾向にあることを押さえておいてください。気体は温度が高くなると液体以上に運動エネルギーが高くなり、液体から出て行ってしまうのが要因の1つです。お湯を沸かすとき、水の温度が高くなるにつれて溶けていた空気が水中から出てくる様子がイメージしやすいかもしれません。

水にどれくらい溶解できるかは気体の種類によって異なります。

1 気圧の気体が水の 1cm3 中に溶解するときの容積(20℃)

 二酸化炭素:0.88 cm3

 酸素   :0.031 cm3

           -理科年表

3. 水と油

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では、水と油は?溶解することができず、分離しますよね。2層に分かれているドレッシングなどが良い例です。サラダにかける前によく振っても、使い終わって容器を静置しておくと、次第に元通りに水と油の相に分離してしまいます。

これは、先述した水の極性そして表面張力と大いに関係があるのです。

3-1. 表面張力の違い

水は、葉っぱや撥水性のテーブルクロスなどの上でまるく水滴になりますね。これは水が極性を持ち、表面張力(表面の単位長さあたりにはたらく力)が大きいためです。

ほかに表面張力が大きい液体としては金属が挙げられます。水分子同士が結合している水素結合よりも、水銀や溶融した金属の分子間にはたらく金属結合の方が強いため、一般に金属の液体の方が水よりも表面張力が高いのです。

今は珍しくなりましたが、体温測定に水銀計を使っていた世代の方は、測定前にリセットのため勢いよく振っていたら破損してしまい、飛び出た水銀がまん丸の球状になって床をコロコロ転がっていった…という、私と同じ経験をお持ちの方もいらっしゃるのではないでしょうか。

エタノール、ベンゼンや各種の油は、水に比べて表面張力がとても低いです。

 水銀=475

 水=72.75

 オリーブオイル=32.0

 ベンゼン=28.9

 酢酸=27.7

 エタノール=22.55

※いずれも20℃、dyn/cm。ちなみに、1dynは質量 1gの物体に働いて加速度1cm/s2 を与える力で、1dyn = 105

             -日本大百科全書(ニッポニカ)、理科年表オフィシャルサイト

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3-2. 界面活性剤

エタノールは分子の中に「水になじみやすい部分(親水基)」と「油になじみやすい部分(親油基、疎水基ともいう)」を併せ持っているので、水に少しずつ混ぜていくと、混合物の表面張力が急激に減少するという性質があるのです。このような現象を表面吸着といい、エタノールのように混合すると表面張力が下がるはたらきをする物質界面活性剤といいます。

(ちなみに、塩化ナトリウムを水に混合すると表面張力は高くなり、このときの塩化ナトリウムは「界面不活性物質」です。)

例えば、石鹸や洗剤は、水に混ざりやすい部分と油に混ざりやすい部分があるため、汚れに吸着して水で洗い流すために利用しますよね。

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界面活性剤を水中に添加していくと、次第に界面活性剤分子がお互いに集まって、親水基を水側に向けた球体(ミセル)をつくります。イガグリのような形を思い浮かべてみてください。とげとげの外側部分が界面活性剤の親水基、とげとげの内側が親油基で、栗の部分に油の塊が取り込まれているようなイメージです。

油がミセルの中に取り込まれて水中に分散する(可溶化)と、油が均一に水に溶けたように見えますが、これは分散と呼ばれます。最初に述べた通り、もっと細かい粒子に分かれて分散しているのが「溶解」です。

溶解とは溶媒(通常は液体)に溶質が均一に混ざること

溶解の中でも、特に身近な溶媒である水への溶解を中心にお話ししました。

水に極性があることが一番のキーポイントです!

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化学

「溶解」ってどんな現象?化学好き主婦が身近な例でわかりやすく解説!



「溶解」という単語は理科ではおなじみの単語です。生活の中でも、紅茶に砂糖を溶かすことは容易にイメージできるでしょう。
溶解しているとはどのような現象か、ここで改めて理解しておこう。

薬学部出身の主婦ライターarpeggioと一緒に解説していきます。

ライター/Study-Z編集部

高校2年生でようやく理系の勉強に着手して以来、特に化学の面白さの虜になり、薬学部へ。最近は学術業務を続ける傍ら、自分の子どもやその友達と、身近なものを使った実験を楽しんでいる。

1. 溶解の定義

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今回のキーワード「溶解(ようかい)」について、辞書における言葉の定義を見てみましょう。

1. とけること。とかすこと。

2. 物質が液体中にとけて均一な液体となる現象。

                 ー広辞苑

気、液、または固体が液体に混合されたとき、均一の液相を形成する現象をいう。

                 ―森北出版 化学辞典

気体、液体、固体の物質(溶質)が他の液体や固体の物質(溶媒)に混合し均一な相を形成する現象。普通、物質が液体に溶けて溶液をつくることをさす。

                 ―岩波 理化学辞典

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