今回は「放射能」について勉強していこう。

「放射能」は最近多く使われるようになった言葉ですが、意味を誤用しているものも多く見かける。

そんな「放射能」という言葉について、化学に詳しいライターずんだもちと一緒に解説していきます。

ライター/ずんだもち

化学系の研究室で日々研究を重ねる理系学生。1日の半分以上の時間を化学実験に使う化学徒の鑑。受験生のときは化学が得意でなかったからこそ、化学を苦手とする人の立場に立ってわかりやすく解説する。

1.放射能とは?

image by iStockphoto

放射能は非常に誤用が多い言葉です。ここで言葉の意味をしっかり押さえておきましょう。

放射能とは「放射性同位元素が放射性崩壊を起こして別の元素へ変わる性質(Wikipedia)」のことをいいます。「放射性同位元素」や「放射性崩壊」など、難しい言葉が多いですね。しかし、誤用が多いと説明したのはそのような難しい現象のことではありません。まず押さえておくべきは、放射能が「性質」、すなわち「能力」のことを指すということです。

過去に原子力発電所の事故によって放射性物質が晒され大量の放射線が放たれたことがありました。このとき、「放射能が飛んでくる」などの間違った言い回しをよく聞きました。しかし実際に飛んできていたのは放射能ではなく放射線です。このような間違いをしないよう、言葉の意味をしっかり押さえておきましょう。

放射能の単位はBq(ベクレル)です。1Bqというのは1秒間に1個の放射性元素が放射能を出して崩壊したことを指します。この単位は原子レベルの小さい世界で何が起こっているかに関係しているので分かりにくいかもしれません。これに対してSv(シーベルト)という単位も聞いたことがあるのではないでしょうか。この単位は人体への影響を加味した単位で、人体への影響が大きくなるほど数値は上がっていきます。

2.放射性崩壊とは?

言葉の意味がわかったところで、実際にどのような現象が起こっているのかを簡単に見ていきましょう。

2-1.放射性元素の種類

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放射性崩壊は特定の元素のみから起こり、これは「放射性元素」と呼ばれています。有名なものだと、「ウラン」「セシウム」「プルトニウム」などは放射性元素として聞いたことがあるかもしれません。しかし、これ以上にもっと馴染みのある名前の元素も放射性元素として知られています。それは「水素」「炭素」「鉄」などです。放射性元素には危険なイメージがあると思いますので、びっくりした方も多いのではないでしょうか。今の説明では少し不十分ですので、さらに詳しく説明していきますね。

実は、水素にも炭素にも鉄にも種類があります。例えば単に「鉄」といっても、その正体は数種類の鉄原子の混ざり物です。原子は陽子と中性子と電子からできていますが、同じ名前の原子でも中性子の数は決まっていません。

image by Study-Z編集部

例えば水素は陽子の数(=電子の数)が1個の元素ですが、中性子が0個の水素(軽水素とも呼ばれます)、中性子が1個の水素(重水素またはデューテリウムとも呼ばれます)、中性子が2個の水素(三重水素またはトリチウムと呼ばれます)があります。これらは同じ元素名で呼ばれている通り性質はほぼ同じです。しかしこの中でも三重水素だけは放射性元素であり、約12年で半分の量になるくらいのペースで放射線を出して崩壊していきます。このように元素には中性子の数が異なる「同位体」が存在し、中性子の数によって放射性であったりするのですね。

2-2.放射の種類

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今まで崩壊という言葉を使ってきたましたが、崩壊にも3種類あり、それぞれ名前を「α崩壊」「β崩壊」「γ崩壊」といいます。どんな崩壊の仕方なのかをそれぞれ簡単に見ていきましょう。

まずはα崩壊です。α崩壊は「ヘリウム原子核を出すような崩壊」とよく表現されます。ヘリウムの原子核は陽子が2個と中性子が2個なので、これを崩壊によって放出するということですね(放出する陽子と中性子2個ずつのことはα線と呼ばれます)。すなわち、原子番号が2つ小さい原子になり、質量数は4だけ減ることになります。

次にβ崩壊です。β崩壊は一般に「電子を出すような崩壊」のことを言い、この崩壊では原子核が中性子に変化する際に電子を放出するので、原子番号は1つ減り質量数はそのままになります。

次にγ崩壊です。この崩壊はα崩壊やβ崩壊とは異なり、原子の種類や質量数が変わることがありません。γ崩壊は「励起されていた原子核が基底状態に戻る際にγ線を放出するような崩壊」です。この崩壊だけ何がおきているか掴みにくいですね。原子は通常、一定のエネルギーを持っています。この原子のエネルギーは何らかの原因によってさらに高い状態になり、これが「原子が励起される」という状態です。励起された原子はもとの状態に戻ろうとしますが、このときにそのエネルギー差に相当する波を放出します。この波のエネルギーがγ線の領域になるときがガンマ崩壊です。少し複雑な現象ですが、よく理解して覚えましょう。

\次のページで「2-3.半減期」を解説!/

2-3.半減期

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放射性崩壊の重要な概念に「半減期」というものがあります。半減期とは「放射性元素が崩壊して他の状態になり、その数が半分になるまでに必要な時間」です。では、なぜこの概念が重要なのでしょうか。

よく考えると、放射性元素が半分になるまでの時間が一定というのは不思議ではないでしょうか。例えば、今ここに64個の放射性元素があるとしましょう。この放射性元素の半減期が1年だとすると、1年後には32個になっています。では2年後にはいくつになっているでしょうか。半減期は1年ですので、16個になっているはずですね。初めの1年では32個の原子が崩壊したのに、なぜ次の1年では16個しか崩壊しないのでしょうか。初めの1年と同じ数だけ崩壊して全てなくなってもいいはずです。

この直感的でない崩壊の理由は、放射性元素は一定の確率で崩壊するという特徴にあります。先ほどの例で説明すると、この放射性元素は1年で崩壊する確率が1/2なのです。このため次の1年でも半分しか崩壊せず、放射性元素がなくなるまでには長い時間がかかることが分かりますね。

この現象が使われている例を1つ紹介します。今回紹介するのは化石などの年代測定です。私たちのような生物が生きている間、体を構成する原子は常に入れ替わっています。全く実感はないと思いますが、例えば今この瞬間に体を構成している炭素原子は時間が経つと異なる炭素原子に入れ替わっているのです。しかし、死を迎えた後はこの原子の入れ替わりは止まってしまいます。つまり、生物が生きている間は体内の放射性炭素原子の数は一定ですが、死を迎えると放射性崩壊により徐々にその数は減ってしまうのです。このことから、放射性炭素原子の半減期は分かっていますので、化石の中の炭素の何%が放射性炭素原子なのかを調べることによって生きていた年代を推測することができます。

実は身近に存在した放射性元素

放射性元素は私たちの体内にも存在するような身近な元素であることが分かりましたね。

崩壊の仕方など、少し難しいものもありましたが、ぜひより深く調べてみてください。

近年よく聞くようになった「放射能」ですが、意味を間違えないように使っていきましょう。

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化学

「放射能」って何?化学系学生ライターがわかりやすく解説

今回は「放射能」について勉強していこう。

「放射能」は最近多く使われるようになった言葉ですが、意味を誤用しているものも多く見かける。

そんな「放射能」という言葉について、化学に詳しいライターずんだもちと一緒に解説していきます。

ライター/ずんだもち

化学系の研究室で日々研究を重ねる理系学生。1日の半分以上の時間を化学実験に使う化学徒の鑑。受験生のときは化学が得意でなかったからこそ、化学を苦手とする人の立場に立ってわかりやすく解説する。

1.放射能とは?

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放射能は非常に誤用が多い言葉です。ここで言葉の意味をしっかり押さえておきましょう。

放射能とは「放射性同位元素が放射性崩壊を起こして別の元素へ変わる性質(Wikipedia)」のことをいいます。「放射性同位元素」や「放射性崩壊」など、難しい言葉が多いですね。しかし、誤用が多いと説明したのはそのような難しい現象のことではありません。まず押さえておくべきは、放射能が「性質」、すなわち「能力」のことを指すということです。

過去に原子力発電所の事故によって放射性物質が晒され大量の放射線が放たれたことがありました。このとき、「放射能が飛んでくる」などの間違った言い回しをよく聞きました。しかし実際に飛んできていたのは放射能ではなく放射線です。このような間違いをしないよう、言葉の意味をしっかり押さえておきましょう。

放射能の単位はBq(ベクレル)です。1Bqというのは1秒間に1個の放射性元素が放射能を出して崩壊したことを指します。この単位は原子レベルの小さい世界で何が起こっているかに関係しているので分かりにくいかもしれません。これに対してSv(シーベルト)という単位も聞いたことがあるのではないでしょうか。この単位は人体への影響を加味した単位で、人体への影響が大きくなるほど数値は上がっていきます。

2.放射性崩壊とは?

言葉の意味がわかったところで、実際にどのような現象が起こっているのかを簡単に見ていきましょう。

2-1.放射性元素の種類

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放射性崩壊は特定の元素のみから起こり、これは「放射性元素」と呼ばれています。有名なものだと、「ウラン」「セシウム」「プルトニウム」などは放射性元素として聞いたことがあるかもしれません。しかし、これ以上にもっと馴染みのある名前の元素も放射性元素として知られています。それは「水素」「炭素」「鉄」などです。放射性元素には危険なイメージがあると思いますので、びっくりした方も多いのではないでしょうか。今の説明では少し不十分ですので、さらに詳しく説明していきますね。

実は、水素にも炭素にも鉄にも種類があります。例えば単に「鉄」といっても、その正体は数種類の鉄原子の混ざり物です。原子は陽子と中性子と電子からできていますが、同じ名前の原子でも中性子の数は決まっていません。

image by Study-Z編集部

例えば水素は陽子の数(=電子の数)が1個の元素ですが、中性子が0個の水素(軽水素とも呼ばれます)、中性子が1個の水素(重水素またはデューテリウムとも呼ばれます)、中性子が2個の水素(三重水素またはトリチウムと呼ばれます)があります。これらは同じ元素名で呼ばれている通り性質はほぼ同じです。しかしこの中でも三重水素だけは放射性元素であり、約12年で半分の量になるくらいのペースで放射線を出して崩壊していきます。このように元素には中性子の数が異なる「同位体」が存在し、中性子の数によって放射性であったりするのですね。

2-2.放射の種類

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今まで崩壊という言葉を使ってきたましたが、崩壊にも3種類あり、それぞれ名前を「α崩壊」「β崩壊」「γ崩壊」といいます。どんな崩壊の仕方なのかをそれぞれ簡単に見ていきましょう。

まずはα崩壊です。α崩壊は「ヘリウム原子核を出すような崩壊」とよく表現されます。ヘリウムの原子核は陽子が2個と中性子が2個なので、これを崩壊によって放出するということですね(放出する陽子と中性子2個ずつのことはα線と呼ばれます)。すなわち、原子番号が2つ小さい原子になり、質量数は4だけ減ることになります。

次にβ崩壊です。β崩壊は一般に「電子を出すような崩壊」のことを言い、この崩壊では原子核が中性子に変化する際に電子を放出するので、原子番号は1つ減り質量数はそのままになります。

次にγ崩壊です。この崩壊はα崩壊やβ崩壊とは異なり、原子の種類や質量数が変わることがありません。γ崩壊は「励起されていた原子核が基底状態に戻る際にγ線を放出するような崩壊」です。この崩壊だけ何がおきているか掴みにくいですね。原子は通常、一定のエネルギーを持っています。この原子のエネルギーは何らかの原因によってさらに高い状態になり、これが「原子が励起される」という状態です。励起された原子はもとの状態に戻ろうとしますが、このときにそのエネルギー差に相当する波を放出します。この波のエネルギーがγ線の領域になるときがガンマ崩壊です。少し複雑な現象ですが、よく理解して覚えましょう。

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