今回は「理想気体の状態方程式」について勉強していこう。

理想気体の状態方程式は高校物理や高校化学の基本中の基本となる、非常に重要な考え方です。

そんな基礎となる方程式について、化学系学生ライターずんだもちと一緒に解説していきます。

ライター/ずんだもち

化学系の研究室で日々研究を重ねる理系学生。1日の半分以上の時間を化学実験に使う化学徒の鑑。受験生のときは化学が得意でなかったからこそ、化学を苦手とする人の立場に立ってわかりやすく解説する。

 

1.理想気体について

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理想気体の状態方程式を紹介する前に、そもそも理想気体とは何なのかを解説していきます。

1-1.理想気体とは?

理想気体とは、「計算などを簡単にするために、現実の気体の特徴を簡略化した気体」です。現実の気体(=実在気体)の性質はとても複雑で、簡単には理解できません。例えば、気体の種類によって分子間に働く力の大きさが変わります。気体ごとに動きが変わってしまっては大変な労力が必要ですね。

そこで、理想気体では気体の種類ごとに違うこのような性質を全て無視します。具体的に無視するのは、「気体分子自身の体積」と「気体分子間に働く分子間力」です。この2つを無視するだけで気体の挙動は格段に単純になります。そしてその結果、気体は高校生でも分かるような単純な1つの式で表すことができるようになる。それが理想気体の状態方程式なのです。

1-2.単純化しても問題ない?

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先ほどの説明を見て、分子の大きさや分子間力といった重要な性質を無視してしまっても大丈夫なのか、と思った人もいると思います。

実際、理想気体の挙動が実在気体とは大きく変わってしまうのは確かです。例えば、気体分子には大きさがないので、気体の粒子どうしが衝突することはありません。さらに、分子間力が存在しないため気体はどんなに温度を下げても液体になりません。それでも、理想気体は非常に重要なモデルとして広く知られています。なぜ理想気体が重要なのかを簡単に説明していきますね。

まず、実在気体にも理想気体に似た性質を示す場合があるということが知られています。それは「高温・低圧」の条件のときです。このキーワードは非常に重要なので、確実に抑えておきましょう。

気体が高温のときは、分子は激しく運動しています。つまり、実在気体においても分子間力はほとんど分子の動きに関わっていないと考えることができますね。気体は分子間力の影響を受けないほどに速く運動していて、分子間力が働いていない理想気体と似たような状態になるのです。

また、気体が低圧のときは気体分子の密度が低い状態になります(これがしっくりこないという場合は、状態方程式が出てくるまで読み進めてみてください)。密度が低いということは、気体が占める空間の大きさに対して気体分子自身の体積が無視できるほど小さいということになります。これが、実在気体が低圧条件で理想気体に近づく理由です。

これらの理由から、ここまで単純化してしまった理想気体というモデルでも使いどころがあることが分かりますね。

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2.理想気体の状態方程式

理想気体については理解できたでしょうか。ここからは、理想気体の状態方程式について解説していきます。

2-1.状態方程式の形

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理想気体の状態方程式は、「pV=nRT」という形で書かれます。気体の状態を表すとは思えないほど整理された単純な式ですね。

pは気体の圧力です。これは気体分子が壁と衝突して加える単位面積当たりの力にあたります。Vは気体の体積で、これは気体の入っている容器の体積と理解してください。nは気体のモル数です。Tは気体の絶対温度ですので注意してください。よく使うのは0℃と25℃で、それぞれ273Kと298Kですのでこれは覚えておくと便利ですね。5つの文字の中で、「気体定数」だけは馴染みがないかもしれませんが、これは8.314...J/(K·mol)という値を持ったただの定数です。単位にこそ注意が必要ですが、それにさえ気をつけていれば問題ありません。

2-2.状態方程式の使い方

状態方程式を計算で使う場合、特に高校化学では主に2つの使い方をします。

1つ目は「不明なパラメータの値を求める」という使い方です。3つの値が分かっていれば、残り1つの値を求めることができますね。2-1でも説明しましたが、このときに気をつけるべきは気体定数の単位です。気体定数は先ほど紹介したもの以外のも「0.0821atmL/(Kmol)」や「8.31×103PaL/(Kmol)」などの様々な単位で表されので、圧力や体積などの単位と揃っているかを確認しながら間違いのないように使いましょう。

2つ目は「比例関係を使う」という使い方です。状態方程式の中にはいろいろな比例関係が含まれています。これをうまく使えば、面倒な計算をせずともパラメータを求めることができて、これをまとめたものはボイル・シャルルの法則として有名です。

ボイル・シャルルの法則は下の式を見るとよく分かります。この式は、状態方程式の両辺を温度Tで割ったものです。この法則は分子の数が変わらないことが前提になっていることに注意してください。

image by Study-Z編集部

このとき、左辺の値は常に一定になることがわかりますね。例えば、体積の変わらない容器に入れた理想気体の温度を2倍にすれば圧力も2倍です。また、温度を一定に保った理想気体の圧力を2倍にすれば、温度は1/2になることが分かります。明快で分かりやすい法則ですので、しっかり覚えておきましょう。

Robert Boyle 0001.jpg
By Johann Kerseboom - http://www.bbk.ac.uk/boyle/Issue4.html, パブリック・ドメイン, Link

pとTに関する法則だけ名前がついていないのは、ボイル・シャルルの法則は理想気体の状態方程式から導かれたものではないためです。ボイルとシャルルはそれぞれ他の方法でこの法則を導き、これらの法則をヒントにして状態方程式が導かれた、というのが正しい順番になります。あまり問われることのない部分ですが、間違えて覚えてないように注意しましょう。

この法則について、実はもう1つ誤解される点があります。すぐ上の文中にも書いてあるように「ボイル・シャルルの法則」という言い回しがよく使われ、みなさんもこの言い回しを使ったことがあるかもしれません。しかし、実際には「ボイル・シャルルの法則」という法則は存在しません。この言い回しはおそらく、ボイルの法則とシャルルの法則をまとめて呼ぶために使われたものであったものが、いつの間にか「ボイル・シャルルの法則」があるかのように広まってしまったものです。ボイルの法則とシャルルの法則は、特に状態方程式を学んでしまうと似たような法則である気がしますが、歴史的にも全く別物になります。気になる方は歴史背景もぜひ調べてみてください。

状態方程式には多くの情報がある!

状態方程式の意味は理解できたでしょうか。

今回紹介したのは状態方程式の一部に過ぎず、他にもこの方程式からいろいろな法則が導出できますし、この状態方程式を拡張した様々な状態方程式も存在します。

気になる方はぜひ調べてみてくださいね。

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化学

理想気体の状態方程式とは?意味や使い方を化学系学生ライターがわかりやすく解説

今回は「理想気体の状態方程式」について勉強していこう。

理想気体の状態方程式は高校物理や高校化学の基本中の基本となる、非常に重要な考え方です。

そんな基礎となる方程式について、化学系学生ライターずんだもちと一緒に解説していきます。

ライター/ずんだもち

化学系の研究室で日々研究を重ねる理系学生。1日の半分以上の時間を化学実験に使う化学徒の鑑。受験生のときは化学が得意でなかったからこそ、化学を苦手とする人の立場に立ってわかりやすく解説する。

 

1.理想気体について

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理想気体の状態方程式を紹介する前に、そもそも理想気体とは何なのかを解説していきます。

1-1.理想気体とは?

理想気体とは、「計算などを簡単にするために、現実の気体の特徴を簡略化した気体」です。現実の気体(=実在気体)の性質はとても複雑で、簡単には理解できません。例えば、気体の種類によって分子間に働く力の大きさが変わります。気体ごとに動きが変わってしまっては大変な労力が必要ですね。

そこで、理想気体では気体の種類ごとに違うこのような性質を全て無視します。具体的に無視するのは、「気体分子自身の体積」と「気体分子間に働く分子間力」です。この2つを無視するだけで気体の挙動は格段に単純になります。そしてその結果、気体は高校生でも分かるような単純な1つの式で表すことができるようになる。それが理想気体の状態方程式なのです。

1-2.単純化しても問題ない?

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先ほどの説明を見て、分子の大きさや分子間力といった重要な性質を無視してしまっても大丈夫なのか、と思った人もいると思います。

実際、理想気体の挙動が実在気体とは大きく変わってしまうのは確かです。例えば、気体分子には大きさがないので、気体の粒子どうしが衝突することはありません。さらに、分子間力が存在しないため気体はどんなに温度を下げても液体になりません。それでも、理想気体は非常に重要なモデルとして広く知られています。なぜ理想気体が重要なのかを簡単に説明していきますね。

まず、実在気体にも理想気体に似た性質を示す場合があるということが知られています。それは「高温・低圧」の条件のときです。このキーワードは非常に重要なので、確実に抑えておきましょう。

気体が高温のときは、分子は激しく運動しています。つまり、実在気体においても分子間力はほとんど分子の動きに関わっていないと考えることができますね。気体は分子間力の影響を受けないほどに速く運動していて、分子間力が働いていない理想気体と似たような状態になるのです。

また、気体が低圧のときは気体分子の密度が低い状態になります(これがしっくりこないという場合は、状態方程式が出てくるまで読み進めてみてください)。密度が低いということは、気体が占める空間の大きさに対して気体分子自身の体積が無視できるほど小さいということになります。これが、実在気体が低圧条件で理想気体に近づく理由です。

これらの理由から、ここまで単純化してしまった理想気体というモデルでも使いどころがあることが分かりますね。

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