突然ですが、酸や塩基の濃度がわからないときどうする?

pHはpHメーターや試験紙を使えばわかるが、濃度はわからないよな。そんな時に濃度のわかっている塩基や酸と「中和反応」を利用して濃度を求める方法があるんです。

今回は中和反応とは何か?から、中和滴定の実験操作や濃度の計算、身近な中和反応まで長年中和反応を用いて実験してきたライターwingと一緒に解説していきます。

ライター/wing

元製薬会社研究員。小さい頃から化学が好きで、実験を仕事にしたいと大学で化学を専攻した。卒業後は化学分析・研究開発を生業にしてきた。化学のおもしろさを沢山の人に伝えたいと意気込む。

1.中和反応とは

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酸に塩基を加えていくと、徐々に酸の性質が弱くなります。これは酸と塩基が互いの性質を打ち消し合うからです。この反応のことを中和反応といいます。

酸と塩基が中和するとき、酸から放出された水素イオンと塩基から放出された水酸化物イオンが結びついて水ができます。さらに酸の水素イオンと結びついていた陰イオンと、塩基の水酸化物イオンと結びついていた陽イオンが結びつき塩(えん)を生成するのです。

溶液としては完全に中性になっていなくても、中和反応は起きていて化合物である水も塩も生成しています。

1-1.酸・塩基とは何か?

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では、酸・塩基とはどのような物質のことでしょうか?

アレーニウス(アレニウス)という科学者が水に溶けて水素イオン(H+)を出す物質を酸、水酸化物イオン(OH)を出す物質を塩基と定義しました。この定義は水溶液中に限られており、他の溶媒中や気体について説明ができません。

そこで、ブレンステッドとローリーという科学者が水素イオンを出す物質を酸、水素イオンを受け取る物質を塩基と定義しました。この二つの定義はとても近い意味ですが、ブレンステッド・ローリーの定義で他の溶媒中や気体の酸塩基反応を説明できるようになったのです。

中和反応を説明する時は主にアレーニウスの定義で説明しますが、ブレンステッド・ローリーの定義もあわせて覚えておきましょう。

1-2.中和反応と生成物

中和反応とは、酸と塩基が互いの性質を打ち消し合って水と塩(えん)ができる反応だと説明しました。ではその様子を段階的に化学反応式で見てみましょう。

まず塩酸(HCl)について見てみましょう。

HCl  → H+ + Cl

塩酸は水素イオン(H+)を出すので酸だとわかります。

次に水酸化ナトリウム(NaOH)はどうでしょうか?

NaOH  → Na+ + OH

水酸化ナトリウムは水酸化物イオン(OH)を出しているので塩基だとわかりました。

酸と塩基を混ぜ合わせると中和反応が起きるはずですね?それでは、酸である塩酸と塩基である水酸化ナトリウムを混ぜ合わせてみましょう。

HCl + NaOH → NaCl + H2O

塩酸(酸)と水酸化ナトリウム(塩基)を混ぜ合わせると、塩化ナトリウム(塩(えん))とが生成しました。

中和反応で生成する塩(えん)には様々な種類があります。酸の状態で水素イオンとくっついている陰イオンと、塩基の状態で水酸化物イオンとくっついている陽イオンの種類が様々だからです。

2.中和滴定

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中和反応を利用して、酸(または塩基)の濃度を決定する実験操作をご存じでしょうか?この実験のことを中和滴定といいます。

濃度がわかっている酸(または塩基)をどのくらいの量投入したら「中和したか」によって、濃度のわからない塩基(または酸)の濃度を求めるという実験操作です。

中和滴定は教科書に載っていたり、学校で実際に実験する機会も多い有名な実験なので、覚えておきましょう。

\次のページで「2-1.器具と使い方」を解説!/

2-1.器具と使い方

2-1.器具と使い方

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中和滴定では正確な水素イオン濃度(または水酸化物イオン濃度)が必要なので、正確に量り取ったり希釈(薄めること)したりできる実験器具を使います。

(a)ホールピペット

正確な一定の体積を量るための器具で、体積を量りたい溶液で中をすすぎ(共洗いと言います)濡れたまま使用します

(b)メスフラスコ

正確な濃度の溶液をつくるため、一定の体積の水溶液をつくる器具蒸留水ですすぎ、乾燥させて使用します。このとき加熱乾燥機などをつかうと、ガラスの膨張や収縮により容量が変わってしまう恐れがあるので、必ず室温で乾燥させてください。

(c)ビーカー(コニカルビーカー)

蒸留水ですすいだ後濡れたまま使います。濃度がわからない酸(または塩基)をホールピペットで正確な体積を量り入れましょう。コニカルビーカーの方が口がすぼまっているので、混ぜるときにこぼれにくいです。

(d)ビュレット

濃度がわかっている塩基(または酸)を入れて、コックを少しずつ開けることで滴下した量が正確にわかる器具。共洗いして濡れたまま使用します。

2-2.中和滴定の操作

では実際に中和滴定をしてみましょう。例として、濃度のわからない塩酸(HCl)の濃度を0.10mol/Lの水酸化ナトリウム溶液(NaOH)を投入して中和する中和滴定をしてみます。

1. 濃度のわからない塩酸を共洗いした10mLホールピペットで、正確に10mL量り取る。

2. 1.を乾燥した100mLメスフラスコに入れる。

3. メスフラスコの標線の少し下まで蒸留水を入れ、栓をして混ぜ合わせる。

4. メスフラスコの栓を開け、標線まで蒸留水を入れて再び栓をして混ぜ合わせる。

5. 1.とは別の10mLホールピペットを4.の水溶液で共洗いする。

6. 5.で4.の水溶液を正確に10mL量り取り、ビーカー(コニカルビーカー)に入れる。

7. 6.のビーカーに指示薬としてフェノールフタレイン溶液を2~3滴入れる。

8. 共洗いしたビュレットに0.10mol/Lの水酸化ナトリウム溶液を入れ、液面を0に合わせる

9. 7.のビーカーをビュレットの下に置き、ビュレットのコックをひねって少しずつ水酸化ナトリウム溶液を滴下する。

10. 滴下するたびに混合し、指示薬であるフェノールフタレイン溶液の反応で液全体が透明から赤紫色に変わった所のビュレットの目盛りを読む。(ここでは8.2mLとします。)

※濃度のわからない塩酸を1/10に薄めてから滴定したのは、濃度が濃すぎると水酸化ナトリウムをたくさん入れてもなかなか中和せず、滴定が終了しないためです。

2-3.指示薬について

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上の中和滴定では指示薬としてフェノールフタレイン溶液を使用しました。指示薬っていったい何でしょうか?

指示薬とは色の変化でpHの変化を示す物質のことです。例えばフェノールフタレイン溶液は、pHが8.3以下の時は無色(透明)ですがpHが10以上になると赤紫色に変色します。変色によって溶液が完全に中和したことを知ることができるのです。

この他に中和滴定に使用する指示薬にメチルオレンジ(変色域pH3.3~4.4)があります。メチルオレンジはpH3.3以下で黄色を示し、pH4.4以上で赤色になるのです。この2つは変色域が異なるので使い分けなければいけません。

この指示薬の選定は2-5.中和滴定曲線にも関わるので、そこでも解説します。

2-4.中和滴定の計算

2-4.中和滴定の計算

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では2-2.で行った中和滴定の計算をしてみましょう。

塩酸に水酸化ナトリウム溶液を滴下し、フェノールフタレインが赤紫色に変色したという事は、塩酸中にあった水素イオンが完全に水酸化ナトリウム溶液中の水酸化物イオンとくっついた(=中和した)ということです。

この時の水素イオンの量と水酸化物イオンの量は必ず等しくなります。この事を利用して濃度のわからない塩酸の濃度を求めていきましょう。

\次のページで「2-4.中和滴定曲線」を解説!/

(A) まず濃度がわからない酸の中の水素イオン(H+)の物質量を式に表しましょう。

酸の水溶液の中にある水素イオンの物質量は、価数a、濃度c(mol/L)、体積v(mL)の時

a × c(mol/L)× v/1000(L)

と表すことができます。

滴定に使用した塩酸は価数1、濃度はわからないのでXとし、体積10mLなので

1 × X × 10/1000

(B) 次に濃度のわかっている塩基の中の水酸化物イオン(OH)の物質量を求めましょう。

塩基の水溶液の中にある水酸化物イオンの物質量は、価数b、濃度d(mol/L)、体積w(mL)の時

b × d(mol/L)× w/1000(L)

と表すことができます。

中和するのに使った水酸化ナトリウム溶液は、価数1、濃度0.10mol/L、体積8.2mLなので

1 × 0.10 × 8.2/1000

(C) イコールで結んでモル濃度を計算しましょう。

完全に中和した時、水素イオンの物質量と水酸化物イオンの物質量は等しくなるので

1 × X × 10/1000 = 1 × 0.10 × 8.2/1000

X = 0.082 mol/L

(D) 最後に薄める前(希釈前)のモル濃度を求めましょう。

最初に濃度のわからない塩酸を1/10に正確に薄めたので、求めたXを10倍すると

0.082 × 10 = 0.82 mol/L

これが、濃度のわからなかった塩酸の濃度です。

2-4.中和滴定曲線

2-4.中和滴定曲線

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中和滴定の時のpHと加えた酸や塩基の体積の関係を示したグラフのことを中和滴定曲線といいます。

縦軸がpHで、横軸が加えた酸や塩基の体積です。滴定に用いた酸や塩基の強弱の組み合わせによりグラフの形が異なります。いずれも当量点(中和した場所)付近ではpHが急激に変化することにより、グラフが垂直になっていますね。

2-3.指示薬についてでも触れましたが、どんな組み合わせで中和滴定を行うかにより、適切な指示薬を選ぶことが必要です。

1. 強酸と強塩基

中和反応が完了した所(当量点)付近のpHの変化が非常に大きいので、指示薬としてフェノールフタレインもメチルオレンジも使用することができます

2. 弱酸と強塩基

当量点が弱塩基性であるため、指示薬はフェノールフタレインしか使用できません

3. 強酸と弱塩基

当量点が弱酸性であるため、指示薬はメチルオレンジのみ使用できます

3.身近な中和反応

ここまで勉強してきた中和反応ですが、実は人類は古くから中和反応を生活に利用してきました。有名な中和反応を利用して生成した物質に石鹸があります。大昔に人類は、脂肪酸(酸)と木炭(塩基)を混ぜ合わせることで石鹸を作り出しました。

この他にも、様々な中和反応が身近に使われていることをご存じでしょうか?

3-1.汚れやにおいを落とす中和反応

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トイレで使われるスプレー型の消臭剤。においの原因であるアンモニアは塩基ですよね。そのアンモニアを酸で中和することで、他の物質に変え匂わなくしています。

他には、酸性の汚れにはアルカリ性の洗剤を、アルカリ性の洗剤には酸性の洗剤を使うと良いという話を聞いたことがあるかもしれません。酸性の汚れ、例えば油汚れや皮脂汚れにはアルカリ性の重曹を使うとよく落ちます。

これは酸性の汚れとアルカリ性の洗剤が中和反応を起こしているからです。

一方アルカリ性の汚れには、水垢や石鹸カス汚れや尿よごれなどがあります。アルカリ性の汚れには、クエン酸など酸性の洗剤で中和反応を起こすとよく落ちますよ。

\次のページで「3-2.植物の成長にも役立つ中和反応」を解説!/

3-2.植物の成長にも役立つ中和反応

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植物を育てるとき大切なのは何だと思いますか?日光や水や肥料はもちろん大切ですが、土のpHによっても植物の成長具合に違いが出てくるんですよ。

一般的に弱酸性の土が植物を育てるのに最適なそうですが、日本の土はそれより酸性に傾いているそうです。

そこで、アルカリ性の石灰や草木を燃やした灰を土に混ぜて中和することで、酸性度を下げています。中和反応を利用して、わたしたちが食べている作物も育っているんですね。

中和反応は濃度がわからない酸(または塩基)の濃度を求める実験で重要!

中和反応とは酸と塩基が混ざることで水と塩(えん)ができる反応のことです。

濃度のわからない酸(または塩基)の濃度を、濃度がわかっている塩基(または酸)で中和反応を起こして濃度を求める「中和滴定」という実験が重要なので覚えておきましょう。

中和反応は身近にもたくさん利用されていて、わたしたちの生活に欠かせないものになっています。

パブリックドメイン写真を使用し著者が作図

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化学物質の状態・構成・変化理科

酸や塩基の濃度がわかる「中和反応」について元研究員がわかりやすく解説

突然ですが、酸や塩基の濃度がわからないときどうする?

pHはpHメーターや試験紙を使えばわかるが、濃度はわからないよな。そんな時に濃度のわかっている塩基や酸と「中和反応」を利用して濃度を求める方法があるんです。

今回は中和反応とは何か?から、中和滴定の実験操作や濃度の計算、身近な中和反応まで長年中和反応を用いて実験してきたライターwingと一緒に解説していきます。

ライター/wing

元製薬会社研究員。小さい頃から化学が好きで、実験を仕事にしたいと大学で化学を専攻した。卒業後は化学分析・研究開発を生業にしてきた。化学のおもしろさを沢山の人に伝えたいと意気込む。

1.中和反応とは

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酸に塩基を加えていくと、徐々に酸の性質が弱くなります。これは酸と塩基が互いの性質を打ち消し合うからです。この反応のことを中和反応といいます。

酸と塩基が中和するとき、酸から放出された水素イオンと塩基から放出された水酸化物イオンが結びついて水ができます。さらに酸の水素イオンと結びついていた陰イオンと、塩基の水酸化物イオンと結びついていた陽イオンが結びつき塩(えん)を生成するのです。

溶液としては完全に中性になっていなくても、中和反応は起きていて化合物である水も塩も生成しています。

1-1.酸・塩基とは何か?

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では、酸・塩基とはどのような物質のことでしょうか?

アレーニウス(アレニウス)という科学者が水に溶けて水素イオン(H+)を出す物質を酸、水酸化物イオン(OH)を出す物質を塩基と定義しました。この定義は水溶液中に限られており、他の溶媒中や気体について説明ができません。

そこで、ブレンステッドとローリーという科学者が水素イオンを出す物質を酸、水素イオンを受け取る物質を塩基と定義しました。この二つの定義はとても近い意味ですが、ブレンステッド・ローリーの定義で他の溶媒中や気体の酸塩基反応を説明できるようになったのです。

中和反応を説明する時は主にアレーニウスの定義で説明しますが、ブレンステッド・ローリーの定義もあわせて覚えておきましょう。

1-2.中和反応と生成物

中和反応とは、酸と塩基が互いの性質を打ち消し合って水と塩(えん)ができる反応だと説明しました。ではその様子を段階的に化学反応式で見てみましょう。

まず塩酸(HCl)について見てみましょう。

HCl  → H+ + Cl

塩酸は水素イオン(H+)を出すので酸だとわかります。

次に水酸化ナトリウム(NaOH)はどうでしょうか?

NaOH  → Na+ + OH

水酸化ナトリウムは水酸化物イオン(OH)を出しているので塩基だとわかりました。

酸と塩基を混ぜ合わせると中和反応が起きるはずですね?それでは、酸である塩酸と塩基である水酸化ナトリウムを混ぜ合わせてみましょう。

HCl + NaOH → NaCl + H2O

塩酸(酸)と水酸化ナトリウム(塩基)を混ぜ合わせると、塩化ナトリウム(塩(えん))とが生成しました。

中和反応で生成する塩(えん)には様々な種類があります。酸の状態で水素イオンとくっついている陰イオンと、塩基の状態で水酸化物イオンとくっついている陽イオンの種類が様々だからです。

2.中和滴定

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中和反応を利用して、酸(または塩基)の濃度を決定する実験操作をご存じでしょうか?この実験のことを中和滴定といいます。

濃度がわかっている酸(または塩基)をどのくらいの量投入したら「中和したか」によって、濃度のわからない塩基(または酸)の濃度を求めるという実験操作です。

中和滴定は教科書に載っていたり、学校で実際に実験する機会も多い有名な実験なので、覚えておきましょう。

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