今回はベクトルと合成速度について解説していきます。

合成速度などと名前がついているが、これはただ速度の足し算のことです。ただし速度はベクトル量なので、普通の足し算とはちょっと違うというところが注意すべき点です。力の合成と分解、速度の合成と分解、加速度の合成と分解など、すべてベクトル量の計算です。つまりベクトルがわかっていれば、すべてのベクトル量の操作について理解できることになる。物理で使うことを前提に、ベクトルの基礎について学んで見よう。

今回は物理学科出身のライター・トオルさんと解説していきます。

ライター/トオル

物理学科出身のライター。広く科学一般に興味を持つ。初学者でも理解できる記事を目指している。

物理を学ぶためのベクトルの基礎

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物理学をしっかりと学ぶ上で、どうしても避けられない数学の知識の一つがベクトル解析です。この宇宙が一次元なら、ベクトルを使わなくてもなんとかなったかもしれませんが、幸か不幸かこの宇宙は空間だけで三次元以上ありますので、ベクトルを使わざるを得ません。物理ではベクトルといえば、大きさと向きを持つ量のことであり、力・速度・加速度・運動量などはすべてベクトル量です。数学のベクトルはもっと抽象的で一般的なのですが、物理学では具体的な量としてベクトルをイメージしてください。ちなみに、向きを持たない量はスカラー量と呼ばれ質量・エネルギーなどが含まれます。

ベクトル・その1

ベクトル・その1

image by Study-Z編集部

これがベクトル量を表現したものです。矢印が指している方向がこのベクトルの向き矢印の長さがベクトルの大きさになります。矢印がついてないほうを始点、矢印がついている方が終点です。ベクトルは成分で表すことも可能であり、上のベクトルは成分表示では{1,1}と表します。絶対値をつけると大きさの意味になり、このベクトルの大きさは三平方の定理を使ってルート2となることがわかるはずです。軸に沿ってい大きさが1のベクトルは単位ベクトルと呼ばれeなどで表されます。

ベクトル・その2

ベクトル・その2

image by Study-Z編集部

まずはベクトルbを見てください。ベクトルbはベクトルaのちょうど逆方向のベクトルになっています。ベクトルを正反対にするには成分を見れば分かるように、マイナス1をすべての成分にかけるだけです。つまり、マイナスベクトルaは大きさが同じで向きがちょうど正反対のベクトルを表していることになります。つぎにベクトルdを見てください。このベクトルはベクトルaとベクトルcの和になっています。成分を見れば、それぞれのベクトルの成分同士の足し算になっているのがわかるはずです。ベクトルの和はいつもグラフのように平行四辺形と対角線の関係になっていることを覚えておいてください。

ベクトル・その3

ベクトル・その3

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つぎにベクトルの掛け算の一種である内積について説明します。内積はドット積とも呼ばれ、図のように成分同士の掛け算を足したものです。これは二つのベクトルの間の角をシータとすると、ベクトルcのコサインシータがオレンジ色のベクトルの大きさになり、それとベクトルaの大きさと掛けたものと同じになり、これも内積になります。内積の結果はスカラーなることを覚えておきましょう。物理でよくある内積の使われ方は、単位ベクトルとの内積をとり単位ベクトルの方向の成分を取り出すために使われます。あと、単位ベクトル同士の内積を見ればわかるように、ベクトルの間の角が90度なら内積は常にゼロです。

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ベクトルと力学

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ここでは具体的に力学の問題でベクトルを使ってみます。といっても、二次元以上で問題を考える場合は、自動的にベクトルを使わざるを得ません。この記事をご覧いただければ、物理ではベクトルを使わざるを得ないことがわかっていただけると思います。基礎的な力学の問題は基礎的なベクトルの問題になっていることも多いので、ベクトルの練習にもなるはずです。今回は簡単のため二次元で解説しています。

ベクトルと力の合成

ベクトルと力の合成

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まず左上の図を見てください。F1・F2・F3と三つの力がかかっている場合すべての力の合計、つまり合力はどうなるかわかるでしょうか。ただし力はすべて物体の重心にかかっているとします。重心とはちょうど重さのバランスがとれているところであり、重心以外に力がかかると物体が回転してしまうような場所のことです。力の合成は力がベクトル量なのでベクトル和になります。左図の場合はF1とF2の和が点線のように、ちょうどF3と正反対になっていますので合力はゼロです。つまり初め物体が静止していたら静止したままになります。右図のようにベクトルの和の法則にしたがって、力に常に成り立っているのが合成と分解の法則です。別に難しく考える必要は無く、力がベクトルなのでベクトルの演算がすべて成り立つと考えれば問題ありません。

ベクトルと合成速度

ベクトルと合成速度

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よくある合成速度の問題として、下流に向かって10メートル毎秒で流れている川に、水平に10メートル毎秒で船が進行するとどういう運動になるかというものがります。これは単純に速度の合成ととらえ、左図のようにベクトル和で考えれば幾何学的に解けるはずです。答えは図により、水平から川下に向かって斜め45度で14メートル毎秒で進むとなります。同様に右図のように、この川で上流向きに斜め45度で14メール毎秒で進めば、合成速度は水平方向に10メートル毎秒となるのが分かるはずです。この場合はいちいち成分を確認せずとも、図形的に答えが導けます。別に川でなくても、動く歩道で人が歩く場合でも、動く道路で自動車が移動する場合でも、すべて同じ求め方です。難しく考えず、二つの速度が合わさっているのだから、そのベクトル和が答えになると考えれば解けます。

ベクトルと運動方程式

ベクトルと運動方程式

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最後に二次元の運動方程式を見ておきましょう。二次元なので運動方程式は二つ必要です。図のように力が分解可能ですので、それぞれの力に対して運動方程式を解くという形になります。そして答えもxとyそれぞれがtの関数になり、xとy二つの成分がでてきますのでこれはベクトルです。よって二次元の運動を解析するには、どうしてもベクトルが必要であることがわかると思います。三次元の場合も基本的に二次元と同様で、ただ成分がもう一つ増えるだけです。

「ベクトル」と「合成速度」

「ベクトル」と「合成速度」と題して、ベクトルの基本法則とそれが力学に使われる様子を紹介しました。二次元だと成分が二つ、三次元だと成分が三つになるので、力学ではベクトルが必要になることを理解していただけたと思います。また空間は三次元なので、力学以外でも身近な現象を分析しようと思うと、大抵はベクトルの知識が必要です。なので現実の現象を正確に分析しようと思うと、ベクトルの知識はかかせません。コンピューターのおかげで演算や視覚化が容易になりましたが、それでも基本的なイメージは自分の頭でできることが望ましいと思われます。

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物理物理学・力学理科

「ベクトル」と「合成速度」について理系ライターが丁寧にわかりやすく解説

今回はベクトルと合成速度について解説していきます。

合成速度などと名前がついているが、これはただ速度の足し算のことです。ただし速度はベクトル量なので、普通の足し算とはちょっと違うというところが注意すべき点です。力の合成と分解、速度の合成と分解、加速度の合成と分解など、すべてベクトル量の計算です。つまりベクトルがわかっていれば、すべてのベクトル量の操作について理解できることになる。物理で使うことを前提に、ベクトルの基礎について学んで見よう。

今回は物理学科出身のライター・トオルさんと解説していきます。

ライター/トオル

物理学科出身のライター。広く科学一般に興味を持つ。初学者でも理解できる記事を目指している。

物理を学ぶためのベクトルの基礎

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物理学をしっかりと学ぶ上で、どうしても避けられない数学の知識の一つがベクトル解析です。この宇宙が一次元なら、ベクトルを使わなくてもなんとかなったかもしれませんが、幸か不幸かこの宇宙は空間だけで三次元以上ありますので、ベクトルを使わざるを得ません。物理ではベクトルといえば、大きさと向きを持つ量のことであり、力・速度・加速度・運動量などはすべてベクトル量です。数学のベクトルはもっと抽象的で一般的なのですが、物理学では具体的な量としてベクトルをイメージしてください。ちなみに、向きを持たない量はスカラー量と呼ばれ質量・エネルギーなどが含まれます。

ベクトル・その1

ベクトル・その1

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これがベクトル量を表現したものです。矢印が指している方向がこのベクトルの向き矢印の長さがベクトルの大きさになります。矢印がついてないほうを始点、矢印がついている方が終点です。ベクトルは成分で表すことも可能であり、上のベクトルは成分表示では{1,1}と表します。絶対値をつけると大きさの意味になり、このベクトルの大きさは三平方の定理を使ってルート2となることがわかるはずです。軸に沿ってい大きさが1のベクトルは単位ベクトルと呼ばれeなどで表されます。

ベクトル・その2

ベクトル・その2

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まずはベクトルbを見てください。ベクトルbはベクトルaのちょうど逆方向のベクトルになっています。ベクトルを正反対にするには成分を見れば分かるように、マイナス1をすべての成分にかけるだけです。つまり、マイナスベクトルaは大きさが同じで向きがちょうど正反対のベクトルを表していることになります。つぎにベクトルdを見てください。このベクトルはベクトルaとベクトルcの和になっています。成分を見れば、それぞれのベクトルの成分同士の足し算になっているのがわかるはずです。ベクトルの和はいつもグラフのように平行四辺形と対角線の関係になっていることを覚えておいてください。

ベクトル・その3

ベクトル・その3

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つぎにベクトルの掛け算の一種である内積について説明します。内積はドット積とも呼ばれ、図のように成分同士の掛け算を足したものです。これは二つのベクトルの間の角をシータとすると、ベクトルcのコサインシータがオレンジ色のベクトルの大きさになり、それとベクトルaの大きさと掛けたものと同じになり、これも内積になります。内積の結果はスカラーなることを覚えておきましょう。物理でよくある内積の使われ方は、単位ベクトルとの内積をとり単位ベクトルの方向の成分を取り出すために使われます。あと、単位ベクトル同士の内積を見ればわかるように、ベクトルの間の角が90度なら内積は常にゼロです。

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