今回は「亜鉛」について勉強していこう。

亜鉛は名前こそ知られている物質ですが、実際どこで使われているかは知らない人が多いんじゃないか?

そんな亜鉛という物質について、研究室で実際に亜鉛を使った触媒を扱っている化学系学生ライターずんだもちと一緒に解説していきます。

ライター/ずんだもち

化学系の研究室で日々研究を重ねる理系学生。1日の半分以上の時間を化学実験に使う化学徒の鑑。受験生のときは化学が得意でなかったからこそ、化学を苦手とする人の立場に立ってわかりやすく解説する。

1.亜鉛ってどんな物質?

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亜鉛という名前はときどき耳にすることがあると思います。では、亜鉛はどのような物質なのでしょうか。まずは主な特徴を簡単に見ていきましょう。

1-1.代表的な遷移金属

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亜鉛は原子番号が30の元素で、12族の第4周期に属します。亜鉛はその名の通り、かつて鉛を工業的に製造していた際に副生成物として得られていたものです。(「亜」は「〜に次ぐ」という意味)

亜鉛は代表的な遷移金属として知られていて、単体では「銀白色」と形容される色をしています。単体で目にすることはなかなかないのであまり馴染みはないかもしれません。

しかし亜鉛は単体で利用されることはあまりありません。有機物の一部となることもあれば、他の金属との合金として利用されることもあります。

1-2.意外と広く利用されている元素

亜鉛という名前は他の元素に比べてもそこまで有名な名前ではありません。しかし、その利用量は意外と多いことが知られています。

日常よく目にする金属として思いつくのは、鉄・銅・アルミニウムあたりだと思いますが、亜鉛はこの3つの元素についで4番目に多く使われている金属です。上位3つの金属はそれぞれどこで使われているか思い当たるものがあると思いますが、4位の亜鉛となると急に思いつかなくなると思います。

日頃は意識しない元素ですが、私たちが知らないだけで、かなり身近なところでお世話になっているかもしれませんね。

2.亜鉛の用途

亜鉛がいかに多く使われている元素なのかがわかったところで、実際にどこで使われているのかをひとつひとつ見ていきましょう。

2-1.日焼け止め

亜鉛は意外と身近なところで使われていると言いましたが、その代表例が日焼け止めクリームです。

日焼けクリームは肌に塗ることで太陽光からの紫外線をカットし、日焼けを防止します。日焼け止めには普通、亜鉛が含まれていますが、亜鉛単体として存在しているわけではありません。日焼け止め中の亜鉛は酸化物、つまり酸化亜鉛(ZnO)の形で存在していて、これは高い紫外線散乱剤として知られています。この酸化亜鉛は光に敏感であり、紫外線に反応して皮膚を傷つける可能性もあるため、日焼け止めの酸化亜鉛はコーティングされていることも有名です。

しかし、日焼け止めクリームに含まれる亜鉛にはデメリットもあります。亜鉛はそこそこ大きなイオン化傾向を持つ、すなわち、陽イオンになりやすい元素です。日焼け止め中の亜鉛がイオン化されると、同じく日焼け止め中に含まれる油分と反応して臭いの原因となることがあります。最近ではこの問題を防ぐために、酸化亜鉛と一緒に酸化チタンを加えている商品がほとんどです。しかし、酸化チタンでは紫外線をカットする能力が下がってしまうので、一長一短ですね。

日焼け止めクリームに亜鉛が採用されているのには亜鉛の特徴を生かした理由があります。それは、亜鉛は肌に触れても健康上の害がなく安全な元素であることです。記事の次の項目で解説する通り、人間の体には多くの亜鉛が使われており、健康上でも非常に重要な元素になります。

\次のページで「2-2.体内でも重要な元素」を解説!/

2-2.体内でも重要な元素

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亜鉛は生体内にも多く存在します。微量元素の中では鉄に次いで2番目の量であり、200種類以上の酵素に含まれるほどです。亜鉛を含む酵素のことを総称して「亜鉛酵素」という言葉も存在します。この酵素としての働きは、亜鉛が酸化還元に対して不活性であるという特徴由来です。

しかし、体内で重要な元素であるにも関わらず亜鉛を含む食品はそれほど多くはありません。さらに、含んでいたとしてもごく微量で、一般的に推奨されている摂取量に達するのは非常に難しいと言われています。

亜鉛を含む食品として何か思いつくとすれば、それは牡蠣でしょう。牡蠣は亜鉛を含むことで有名で、さらに含有量も多いことで知られています。このように亜鉛は魚介類に多く含まれますが、牛肉やかぼちゃなどの食品にも含まれますので、この話を思い出した時には意識してみてくださいね。

2-3.トタン

2-3.トタン

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あまり身近ではないかもしれませんが、大学受験などでは亜鉛を鉄にめっきした「トタン」がよく問われます。なぜ亜鉛をめっきすると丈夫になるのか、その仕組みを理解することは非常に重要です。

まず知っておくべきは、イオン化傾向の大きさ。亜鉛と鉄では、亜鉛の方がより大きいイオン化傾向を持ちます。つまり、もしトタンに傷がついたとしても、鉄より亜鉛の方がイオンとして水滴に溶け出しやすいのでめっきとして有効になりますね。

受験では、トタンと並んでブリキもよく問われます。ブリキは鉄に対してスズをめっきしたものなのでここでは説明を省きますが、仕組みも合わせて抑えておきましょう。

2-4.透明導電膜

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酸化亜鉛にはまだ注目されている性質があります。それは透明導電膜です。名前を聞いたことのある人は少ないのではないでしょうか。透明導電膜はその名の通り、電気を通す透明な膜です。この技術は新しいものではなく、すでに多くの研究がなされています。現在の透明導電膜にはスズやインジウムといった希少な金属が使われていますので、この金属に代替するものとして亜鉛が注目されているのです。

今後使われる酸化亜鉛の透明導電膜が可能性のあるものとして分かりやすいのは太陽電池(太陽光パネル)で、最近では一般家庭にも設置されるほど身近になってきましたね。さて、私たちがよく目にする太陽電池は一般的に黒いです。これはなぜでしょうか。

実は、太陽電池にはシリコンが使われていますが、このシリコンが可視光域の光を吸収するという特徴を持つため私たちの目には黒く見えるのです。さて、この膜が酸化亜鉛に置き換わるとどうでしょう。

酸化亜鉛は日焼け止めの部分でも解説した通り紫外線をカットしますが、可視光域を透過するという特徴があります。これを用いると、太陽電池の見た目の問題を解決することができるのです。現在の太陽電池は黒く景観を損なうこともあるのに対して、酸化亜鉛の膜であれば透過光の波長域を調整することで様々な色を出すこともできます。景観を損なわずに太陽電池を配置できるようになれば、環境問題の解決の糸口となりますね。

亜鉛は意外と身近で用途多用な金属

亜鉛は性質の似た金属の集まりである遷移金属の1つに過ぎませんが、意外と多くの用途があることが分かったと思います。

ここでは紹介していないものもまだまだあるので、興味がありましたらぜひ調べてみてください。

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化学

亜鉛ってどんな物質?身近な例とともにその特徴を化学系学生ライターがわかりやすく解説

今回は「亜鉛」について勉強していこう。

亜鉛は名前こそ知られている物質ですが、実際どこで使われているかは知らない人が多いんじゃないか?

そんな亜鉛という物質について、研究室で実際に亜鉛を使った触媒を扱っている化学系学生ライターずんだもちと一緒に解説していきます。

ライター/ずんだもち

化学系の研究室で日々研究を重ねる理系学生。1日の半分以上の時間を化学実験に使う化学徒の鑑。受験生のときは化学が得意でなかったからこそ、化学を苦手とする人の立場に立ってわかりやすく解説する。

1.亜鉛ってどんな物質?

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亜鉛という名前はときどき耳にすることがあると思います。では、亜鉛はどのような物質なのでしょうか。まずは主な特徴を簡単に見ていきましょう。

1-1.代表的な遷移金属

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亜鉛は原子番号が30の元素で、12族の第4周期に属します。亜鉛はその名の通り、かつて鉛を工業的に製造していた際に副生成物として得られていたものです。(「亜」は「〜に次ぐ」という意味)

亜鉛は代表的な遷移金属として知られていて、単体では「銀白色」と形容される色をしています。単体で目にすることはなかなかないのであまり馴染みはないかもしれません。

しかし亜鉛は単体で利用されることはあまりありません。有機物の一部となることもあれば、他の金属との合金として利用されることもあります。

1-2.意外と広く利用されている元素

亜鉛という名前は他の元素に比べてもそこまで有名な名前ではありません。しかし、その利用量は意外と多いことが知られています。

日常よく目にする金属として思いつくのは、鉄・銅・アルミニウムあたりだと思いますが、亜鉛はこの3つの元素についで4番目に多く使われている金属です。上位3つの金属はそれぞれどこで使われているか思い当たるものがあると思いますが、4位の亜鉛となると急に思いつかなくなると思います。

日頃は意識しない元素ですが、私たちが知らないだけで、かなり身近なところでお世話になっているかもしれませんね。

2.亜鉛の用途

亜鉛がいかに多く使われている元素なのかがわかったところで、実際にどこで使われているのかをひとつひとつ見ていきましょう。

2-1.日焼け止め

亜鉛は意外と身近なところで使われていると言いましたが、その代表例が日焼け止めクリームです。

日焼けクリームは肌に塗ることで太陽光からの紫外線をカットし、日焼けを防止します。日焼け止めには普通、亜鉛が含まれていますが、亜鉛単体として存在しているわけではありません。日焼け止め中の亜鉛は酸化物、つまり酸化亜鉛(ZnO)の形で存在していて、これは高い紫外線散乱剤として知られています。この酸化亜鉛は光に敏感であり、紫外線に反応して皮膚を傷つける可能性もあるため、日焼け止めの酸化亜鉛はコーティングされていることも有名です。

しかし、日焼け止めクリームに含まれる亜鉛にはデメリットもあります。亜鉛はそこそこ大きなイオン化傾向を持つ、すなわち、陽イオンになりやすい元素です。日焼け止め中の亜鉛がイオン化されると、同じく日焼け止め中に含まれる油分と反応して臭いの原因となることがあります。最近ではこの問題を防ぐために、酸化亜鉛と一緒に酸化チタンを加えている商品がほとんどです。しかし、酸化チタンでは紫外線をカットする能力が下がってしまうので、一長一短ですね。

日焼け止めクリームに亜鉛が採用されているのには亜鉛の特徴を生かした理由があります。それは、亜鉛は肌に触れても健康上の害がなく安全な元素であることです。記事の次の項目で解説する通り、人間の体には多くの亜鉛が使われており、健康上でも非常に重要な元素になります。

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