今回は鉛直投射と力学的エネルギー保存について解説していきます。

鉛直投射は等加速度運動の一種であり、自由落下の一種だと考えるのがお勧めです。そうすると数式も難しくなく誰でも容易に想像できる運動であるから、学習するのが比較的容易なはずです。それと関連して力学的エネルギー保存の法則もついでにやってしまおう。力学的エネルギー保存は文字通りエネルギー保存の一種であり、物理学上最も強力な法則の一つです。エネルギー保存は常に成り立っているので、それの力学版だと考えれば忘れることもないでしょう。

今回は物理学科出身のライター・トオルさんと解説していきます。

ライター/トオル

物理学科出身のライター。広く科学一般に興味を持つ。初学者でも理解できる記事を目指している。

鉛直投射

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自由落下を手に持っていた物体をそのまま離す運動だとすれば、鉛直投射は手に持っている物体を下方にまっすぐ投げつけたり、上方にまっすぐ投げ上げたりする運動のことです。鉛直はまっすぐという意味であり、投射は投げるという意味ですから、文字通りそのままの意味の運動を想像すればよいことになります。下に投げることを鉛直投げ下げ、上に投げることを鉛直投げ上げということもあるようです。空気抵抗を無視すれば、手を離れた瞬間からは自由落下と同じく重力だけの運動になるため数式はまったく同じになります。

準備

準備

image by Study-Z編集部

上記は初学者のための表になります。一番上はニュートンの運動方程式であり、これを知らずに物理を勉強するのは不可能に近い式です。運動方程式は物体に加えられた力と加速度は比例するという式であり、加速度は速度の時間変化すなわち速度の時間微分になります。ちなみに速度は位置の時間微分です。単位に関係なく成立するため単位は記入していません。この記事では微積分を使いますが、微積分を知らない人でも読めるようになっています。

鉛直投射の式

鉛直投射の式

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上記は加速度と速度と位置を時間で表した式です。この式で初速度をゼロとすれば自由落下、プラスとすれば鉛直投げ上げ、マイナスとすれば鉛直投げ下げと言われる運動の式になります。カッコ内が正しく微積分を用いた式であり、重力加速度は重力を与える加速度です。一敏な上の式より力がF=-mgであることから、空気抵抗を無視しているのがわかります。式を見れば分かるように自由落下と鉛直投射の式は同じであり、ただ初速度が違うだけです。別々に考えるより重力のみが働く運動として一緒に覚えてしまうのがよいでしょう。式の中に質量が無いことに注意してください。これは運動の速度や位置が質量の大小に関係がないということを意味しています。gにマイナスがついているのは、この記事では地表面より上向きをプラスとしているからです。

鉛直投げ上げの様子

鉛直投げ上げの様子

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鉛直投げ上げ、つまり鉛直投射で初速度がプラスの運動を見てみましょう。地球の地表付近では重力加速は約9.8メートル毎秒毎秒ですので9.8とし、初速度を上方向つまりプラス10メートル毎秒で初期位置を0メートルとします。今回表示してあるのは速度と位置の時間変化のグラフです。グラフから運動の様子が想像できるでしょうか。グラフから読み取れるのは、最初の地点より速度10メール毎秒で上向きに投げ出された物体が、約1秒後に速度0メートル毎秒で約5メートルの最高点に到達したあと、スタートより約2秒後に速度が下向き10メートル毎秒で元の位置に戻ってくるという運動であるということです。ボールを手で上に放り投げ、元の手の中に落ちてくる運動をイメージすれば理解できると思います。念のため、これは空気抵抗を無視した場合の運動であることを確認しておきましょう。

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力学的エネルギー保存

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力学的エネルギー保存について解説します。エネルギー保存は最も強力な法則であり、我々の知る限りどこでもいつでも常に成り立っていると考えられている法則です。それの力学に関する部分を抜き出したものが、力学的エネルギー保存の法則になります。なのでエネルギーが力学で考える以外の部分にいってしまった場合、力学的エネルギー保存は成り立ちません。今回は少し難しいですが力学的エネルギー保存の導出も行っておきましょう。

エネルギー保存を導く・その1

エネルギー保存を導く・その1

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エネルギー保存の導出は微積分になれてない人は少し難しいと思いますので、そういう方は結果だけ読んでいただければ大丈夫です。ではエネルギー保存を導いて見ましょう。力がxについての関数になっていることに注意してください。初めの式は運動方程式であり、それに両辺dx/dtを掛けたものが次の式です。次に左辺をvに直し、さらにvの二乗の形に直します。両辺にdtをかけtで積分すると積分定数が出てくるので、初速度と初期位置によって積分定数を消しましょう。そうすると最後の式になります。

エネルギー保存を導く・その2

エネルギー保存を導く・その2

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ここでUという量を導入しましょう。上の三つの式はUがどういう量かという説明の式です。それは力をxで積分しマイナスをつけた量であり、同じことですが、xで微分しマイナスをつけると力がでてくる量という意味になります。そのUを先ほどの最後の式にあてはめたのが、新しくでてきた式です。ここで1/2mv^2を運動エネルギーUを位置エネルギーと呼ぶことにすると、新しい式は運動エネルギーと位置エネルギーの合計が常に同じであることを表しています。つまりこれがエネルギー保存則を表す式です。ただし、ここで使った導出は運動が1次元の場合のみに使えるものであることに注意してください。

鉛直投げ上げのエネルギー保存

鉛直投げ上げのエネルギー保存

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最後に、鉛直投げ上げ運動でエネルギー保存の様子を確認しておきましょう。先ほどと同じようにgはマイナス9.8メートル毎秒毎秒、初速度はプラス10メートル毎秒、初期位置は0メートルとします。新たに物体の質量は1キログラムとしておきましょう。位置エネルギーは力がxを含んでいないため簡単なmgxになります。先ほどの速度と位置の式を運動エネルギーと位置エネルギーの式にそれぞれ代入したのが、上の二つのグラフです。Tを運動エネルギーすると、それぞれ運動エネルギーが減れば位置エネルギーが増えるという対称的な放物線になっていて、運動エネルギーと位置エネルギーの和が常に約50ジュールであることがわかると思います。ちなみに、エネルギーの単位はJ(ジュール)です。前回のグラフのときと同様、空気抵抗を無視した場合であることを確認しておいてください。空気抵抗を考えるとエネルギーは保存しません

鉛直運動と力学的エネルギー保存

鉛直運動と力学的エネルギー保存について簡単に解説しました。鉛直投げ上げの場合については力学的エネルギーが保存することも確認しておきました。エネルギー保存の導出は少し難しかったかもしれませんので、初学者の方は結果だけ確認しておいてください。エネルギー保存は科学で最も有名な法則の一つだと思われますので、ほとんど人が聞いたことはあると思います。それを一次元の力学版の場合で説明したのが今回の解説です。重力のみによって行われる運動の場合は正確に力学的エネルギー保存が成り立ち、運動エネルギーと位置エネルギーの和は常に等しくなることを覚えておいてください。

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物理物理学・力学理科

「鉛直投射」と「力学的エネルギー保存」について理系ライターが丁寧にわかりやすく解説

今回は鉛直投射と力学的エネルギー保存について解説していきます。

鉛直投射は等加速度運動の一種であり、自由落下の一種だと考えるのがお勧めです。そうすると数式も難しくなく誰でも容易に想像できる運動であるから、学習するのが比較的容易なはずです。それと関連して力学的エネルギー保存の法則もついでにやってしまおう。力学的エネルギー保存は文字通りエネルギー保存の一種であり、物理学上最も強力な法則の一つです。エネルギー保存は常に成り立っているので、それの力学版だと考えれば忘れることもないでしょう。

今回は物理学科出身のライター・トオルさんと解説していきます。

ライター/トオル

物理学科出身のライター。広く科学一般に興味を持つ。初学者でも理解できる記事を目指している。

鉛直投射

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自由落下を手に持っていた物体をそのまま離す運動だとすれば、鉛直投射は手に持っている物体を下方にまっすぐ投げつけたり、上方にまっすぐ投げ上げたりする運動のことです。鉛直はまっすぐという意味であり、投射は投げるという意味ですから、文字通りそのままの意味の運動を想像すればよいことになります。下に投げることを鉛直投げ下げ、上に投げることを鉛直投げ上げということもあるようです。空気抵抗を無視すれば、手を離れた瞬間からは自由落下と同じく重力だけの運動になるため数式はまったく同じになります。

準備

準備

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上記は初学者のための表になります。一番上はニュートンの運動方程式であり、これを知らずに物理を勉強するのは不可能に近い式です。運動方程式は物体に加えられた力と加速度は比例するという式であり、加速度は速度の時間変化すなわち速度の時間微分になります。ちなみに速度は位置の時間微分です。単位に関係なく成立するため単位は記入していません。この記事では微積分を使いますが、微積分を知らない人でも読めるようになっています。

鉛直投射の式

鉛直投射の式

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上記は加速度と速度と位置を時間で表した式です。この式で初速度をゼロとすれば自由落下、プラスとすれば鉛直投げ上げ、マイナスとすれば鉛直投げ下げと言われる運動の式になります。カッコ内が正しく微積分を用いた式であり、重力加速度は重力を与える加速度です。一敏な上の式より力がF=-mgであることから、空気抵抗を無視しているのがわかります。式を見れば分かるように自由落下と鉛直投射の式は同じであり、ただ初速度が違うだけです。別々に考えるより重力のみが働く運動として一緒に覚えてしまうのがよいでしょう。式の中に質量が無いことに注意してください。これは運動の速度や位置が質量の大小に関係がないということを意味しています。gにマイナスがついているのは、この記事では地表面より上向きをプラスとしているからです。

鉛直投げ上げの様子

鉛直投げ上げの様子

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鉛直投げ上げ、つまり鉛直投射で初速度がプラスの運動を見てみましょう。地球の地表付近では重力加速は約9.8メートル毎秒毎秒ですので9.8とし、初速度を上方向つまりプラス10メートル毎秒で初期位置を0メートルとします。今回表示してあるのは速度と位置の時間変化のグラフです。グラフから運動の様子が想像できるでしょうか。グラフから読み取れるのは、最初の地点より速度10メール毎秒で上向きに投げ出された物体が、約1秒後に速度0メートル毎秒で約5メートルの最高点に到達したあと、スタートより約2秒後に速度が下向き10メートル毎秒で元の位置に戻ってくるという運動であるということです。ボールを手で上に放り投げ、元の手の中に落ちてくる運動をイメージすれば理解できると思います。念のため、これは空気抵抗を無視した場合の運動であることを確認しておきましょう。

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