今回は「分子結晶」というキーワードについて勉強していこう。

「化学結合」の種類については解説済みですが「分子結合という言葉が出てこなかったな。なぜだ?」と思ったやつはいないか?実は「分子結合」というのは、ありそうで実はない勘違いワードなんです。

早速化学結合の復習を兼ねて結晶の成り立ちを解説しよう。化学に詳しいライターAyumiと一緒に解説していきます。

ライター/Ayumi

理系出身の元塾講師。わかるから面白い、面白いからもっと知りたくなるのが化学!まずは身近な例を使って楽しみながら考えさせることで、多くの生徒を志望校合格に導いた。

1.様々な結合

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今回の本題である「結晶」について解説する前に、結晶構造のおおもととなる原子や分子同士の結合についておさらいしていきましょう。

既に化学結合についてはまとめてありますので、全体の流れを掴みたいという人はそちらからご覧くださいね。また、それぞれの結合に関する詳細は追って解説していきます。

1-1.原子同士の結合

分子をつくる物質もそうではない物質も、どんな物質であれ原子同士が結合することで1つのかたちを成した物質として存在しています。原子そのものがもつ電子の数や電気陰性度という性質、どの元素と元素が結びついているかという条件によって、結合方法は異なりましたね。

簡単にまとめでおさらいしてみましょう。

共有結合非金属同士をつなぐ結合で、お互いの不対電子1つを出し合い共有電子対をつくることで安定した構造をとるもの

 例) 水素、酸素、二酸化炭素などの気体分子に多い

配位結合:共有結合のように不対電子を1対1で出し合うのではなく、2対0での共有構造をとるもの

 例) NH3 + H+ → NH4+ (アンモニウムイオン) Nが不対電子を持っていない H+ に電子を1つ分けることで結合する

イオン結合:主に金属と非金属の結合で、陽イオンと陰イオンによる結合

 例) NaClのような塩(えん)に多い

金属結合金属同士の結合で、自由電子が陽イオンの間を自由に動き回ることで原子同士を結びつける

 例) 鉄、銅、アルミニウムなど

\次のページで「1-2.分子間力による結合」を解説!/

1-2.分子間力による結合

分子というかたちとれば完全に安定な構造というわけではありません。分子になってからも原子同士には引き合う力が残っているために、分子そのものの構造が変わったり分子と分子が引き合うということが起こります。この引き合う力というものをまとめて「分子間力」といっているわけですね。

分子間力をまとめた内容がこちらです。

水素結合:フッ素、酸素、窒素といった電気陰性度の大きい原子に水素原子が引き寄せられることで生じるもの

極性引力:電気陰性度の大きい原子が電気陰性度の小さい原子を引き寄せる

ファンデルワールス力全ての分子や原子間ではたらく引力や反発力の総称で、電子の移動によって生じる瞬間的な電荷の偏りによるクーロン力(静電気力)がもとになったもの

1つの分子内だけではたらくのではなく、他の分子とも相互作用があるために「分子結合」と誤って覚えてしまう人が多いのかもしれませんね。しかしこれは水素原子と水素原子から水素分子ができるような「まさに結合」とは異なります。分子間力による結合はあくまでも引き合う力、引力が主たるものだと覚えておきたいですね。

\次のページで「2.様々な結晶」を解説!/

2.様々な結晶

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それでは今回の本題に入りましょう。分子同士、原子同士が結びつくことで形成されるものといえば結晶ですね。原子や分子が規則性を持って立体で気に配列することで出来る物質です。

「分子結合」と「分子結晶」、1文字違いなので紛らわしいという理由もあるかもしれませんね。

結晶構造を理解するためにもおさらいした化学結合の知識が欠かせません。ではどんな力が作用することで結晶がうまれるのか、見ていきましょう。

2-1.分子結晶

2-1.分子結晶

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分子結晶とは、1つ1つの分子が分子間力の作用によって結晶化している状態を指します。また、分子間にどんな力がはたらいているかによって、さらに分類分けがされているので、覚えておきましょう。

上図を使って解説していきますね。

左:ファンデルワールス結晶 ファンデルワールス力によって結びついた結晶

右:水素結合結晶 水素結合によって結びついた結晶

どちらも分子1つ1つが結晶構造をとることから分子結晶と名がついています。分子同士が結合するわけではなく、あくまでも分子間にはたらく力によって成り立つ構造であると理解しましょう。

2-2.共有結晶

2-2.共有結晶

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共有結合は電子を共有することで共有電子対をつくるため、化学結合の中ではもっとも強い結合でしたね。そんな共有結合による結晶は、その他の結晶に比べても非常に強度の高い結晶となります。

その代表的なものがダイヤモンドと黒鉛です。どちらも炭素からなる物質なのにどうしてあんなに違う物質になるのか、不思議に思ったことがありませんか?

実はダイヤモンドは全ての炭素原子が立体の共有結合で強く結合されているのに対し、黒鉛は層のように共有結合を結びます。そしてその層1枚1枚はファンデルワールス力によってつながっているのです。これは分子間力の結合の中でももっとも弱い結合でしたね。これにより、鉛筆の芯にも含まれる黒鉛は層が剥がれるように割れてしまうということなのです。

2-3.イオン結晶

2-3.イオン結晶

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陽イオンと陰イオンのイオン結合によって結晶構造が生じます。金属元素を含む物質は分子をつくらないということを覚えていますか?イオン結合によって成り立つ物質の多くは、中和によっても生じる塩(えん)でしたね。その代表的な物質は塩化ナトリウムでしょう。

陽イオンであるナトリウムイオンと陰イオンである塩化物イオンは、それぞれがクーロン力(静電気力)で結びついています。上図のように、それぞれの元素が1対1で独立した構造をとるのではなく、まとまりとして存在するために分子とはいわないということですね。この構造がどれだけ続いているかは数えるのも大変ですが、常にナトリウムイオンと塩化物イオンは1対1で存在しているために、化学式では NaCl という表記になっているのです。

2-4.金属結晶

2-4.金属結晶

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金属原子は最外殻電子を放出することで陽イオン化しています。すると放出された電子は金属原子の間を自由に動く自由電子となりますね。すると陽イオンのプラスと電子のマイナスは互いに引き合い、金属結合することで結晶としての構造をつくります。

金属結晶の構造は主に上図の3種類です。

左:面心立方格子構造 アルミニウム Al、カルシウム Ca、銅 Cu、銀 Ag

中:体心立方格子構造 リチウム Li、ナトリウム Na、カリウム K

右:六方最密充填構造 ベリリウム Be、マグネシウム Mg、亜鉛 Zn

1つ1つの原子が規則性をもって並んでいるのがわかりますね。

\次のページで「「分子結合」は誤り!「分子間力」や「分子結晶」と混同しないように!」を解説!/

「分子結合」は誤り!「分子間力」や「分子結晶」と混同しないように!

化学結合の中に原子同士の結合があるのですから、分子同士でも結合して「分子結合」と言いたくなってしまいますよね。しかしあくまでも分子の中で原子同士にはたらく力は「分子間力」であり、分子同士が結びつくのは「分子結晶」であると分けて考えなければなりません。さらに結晶というのは「分子結晶」に限らず、それぞれ物質ごとに異なる結晶をつくります。

分子結晶:水分子による、二酸化炭素分子によるドライアイス

共有結合:炭素原子によるダイヤモンドや黒炭

イオン結合:陽イオンと陰イオンからなる塩化ナトリウム

金属結晶:銅やアルミニウム、鉄などの金属

この物質がこの結晶!とただ暗記するよりもそれぞれの成り立ちを考えることが理解への近道ですよ。

" /> 分子同士の「分子結合(?)」と間違えやすい「分子結晶」について元塾講師がわかりやすく解説 – Study-Z
化学物質の状態・構成・変化理科

分子同士の「分子結合(?)」と間違えやすい「分子結晶」について元塾講師がわかりやすく解説

今回は「分子結晶」というキーワードについて勉強していこう。

「化学結合」の種類については解説済みですが「分子結合という言葉が出てこなかったな。なぜだ?」と思ったやつはいないか?実は「分子結合」というのは、ありそうで実はない勘違いワードなんです。

早速化学結合の復習を兼ねて結晶の成り立ちを解説しよう。化学に詳しいライターAyumiと一緒に解説していきます。

ライター/Ayumi

理系出身の元塾講師。わかるから面白い、面白いからもっと知りたくなるのが化学!まずは身近な例を使って楽しみながら考えさせることで、多くの生徒を志望校合格に導いた。

1.様々な結合

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今回の本題である「結晶」について解説する前に、結晶構造のおおもととなる原子や分子同士の結合についておさらいしていきましょう。

既に化学結合についてはまとめてありますので、全体の流れを掴みたいという人はそちらからご覧くださいね。また、それぞれの結合に関する詳細は追って解説していきます。

1-1.原子同士の結合

分子をつくる物質もそうではない物質も、どんな物質であれ原子同士が結合することで1つのかたちを成した物質として存在しています。原子そのものがもつ電子の数や電気陰性度という性質、どの元素と元素が結びついているかという条件によって、結合方法は異なりましたね。

簡単にまとめでおさらいしてみましょう。

共有結合非金属同士をつなぐ結合で、お互いの不対電子1つを出し合い共有電子対をつくることで安定した構造をとるもの

 例) 水素、酸素、二酸化炭素などの気体分子に多い

配位結合:共有結合のように不対電子を1対1で出し合うのではなく、2対0での共有構造をとるもの

 例) NH3 + H+ → NH4+ (アンモニウムイオン) Nが不対電子を持っていない H+ に電子を1つ分けることで結合する

イオン結合:主に金属と非金属の結合で、陽イオンと陰イオンによる結合

 例) NaClのような塩(えん)に多い

金属結合金属同士の結合で、自由電子が陽イオンの間を自由に動き回ることで原子同士を結びつける

 例) 鉄、銅、アルミニウムなど

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