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「ブレグジット」のすべてを現地在住ライターがわかりやすく解説!イギリスはどこへ向かうのか

ブレグジット賛成派が多数を占めた理由は?

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グローバル化と移民への不満

多くのイギリス国民がEUからの離脱を選んだのには、もちろん理由があります。1つ目は、グローバル化が増幅させた移民に対する不満です。

近年のグローバル化の影響により、中国など新興国からの安価な輸入品がイギリスに大量に流入するようになりました。一部の地域ではこの影響を受けて主要産業が廃れ、失業者も増加してしまいます。こうした地域で生活水準の悪化した労働者が、「大量に押し寄せる移民たちがイギリス人の仕事を奪っている」という不満を持つようになりました。実際には、イギリスに流入する移民・難民は大陸に位置する他のEU圏と比較すると決して多くはありません。けれど、産業の衰退による生活心理の悪化が人々にそのような不安感を抱かせてしまったのです。つまり、グローバル化の潮流がブレグジットの一因であるとも言えるでしょう。

EUに加盟しているがために移民が入国しやすい状況となっている、と考えた人々がEUからの離脱を支持しました。実際に、国民投票の結果はグローバル化のネガティブな影響を受けた地域や職の選択肢が少ない低学歴の層において、ブレグジット賛成派が多数を占めています。

EUに決定権が奪われているという不満

もう一つの理由として、EUはイギリスの声を反映していないという不満がありました。

加盟各国の拠出する分担金は、EUの重要な財源です。この分担金は各国のGNI(国民総所得)をもとに決定されており、経済力の高いイギリスの負担は他の加盟国と比べ大きくなっています。しかし、莫大な分担金を支払っているにも関わらず相応の決定権が得られていないと感じる人も多くいました。EUで決められるルールは、加盟国に暮らす人々の生活に影響を与えます。それなのに、巨額な資金だけ負担させられてイギリス国民の意見は尊重されていない、というわけです。

国の大切な財源を使うのであれば、もっと国民の社会福祉向上のためになるような方法があるのではないか。EUにルールを強制されるのではなく、自分たちの生活に関わることは自分たちで決めるべきだ。このように考える人たちが「国家主権を取り戻そう(Take back control)」と主張し、ブレグジットを推進したのです。

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つまり、今の生活に何かしらの不満を抱いている人たちがその矛先をEUに向けた、ということなんだな。輸入品との競争に勝てなかった人たちがグローバル化の流れを非難したり、国際機関よりも自分たちの国を中心に考えようとしたりする風潮は、今のアメリカの状況と少し似ているかもしれないな。

ブレグジットのデメリット

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イギリスの産業に与える悪影響

ブレグジットに賛同した人が多数を占めた一方、残留に投票した人々ももちろん数多くいました。ブレグジットに反対する多くの人々は、イギリスの産業への悪影響を懸念しています。

例えば、工業製品の競争力について考えてみましょう。イギリスは現在EUに対して無関税で輸出を行っていますが、EUを離脱したら関税が復活する可能性があります。すると、輸出品は関税の分だけ価格競争力が低下してしまうのです。今まで、多くの多国籍企業がEUの関税圏内であるというメリットからイギリスに生産拠点を構えていました。しかし、ブレグジットの余波ですでに撤退を表明している企業もあり、例えばホンダは2021年までにイギリス国内の工場を閉鎖する計画を発表しています。

また、ブレグジットは金融業の盛んなロンドンにも悪影響をもたらすでしょう。世界有数の金融街であるロンドンには、銀行などの金融機関が数多く集まっています。EUの加盟国には、いずれかの国で免許を取得すれば他の国でも金融業を営める「単一パスポート制度」というシステムがあり、多くの金融機関がイギリスで取得した免許を利用して他のEU加盟国でも業務を行っているのです。しかし、ブレグジットによりこの制度を使えなくなる可能性が高まっており、不透明感を嫌った多くの金融機関が徐々に他のEU加盟国へと業務を移転しつつあります。

\次のページで「人々の生活に与える悪影響」を解説!/

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