今回は、「セクレチン」というホルモンについて学んでいこう。日常生活ではあまり名前を聞かないが、消化に関係している重要なホルモンです。セクレチンが分泌される場所や、そのはたらきについてチェックしていきます。

今回も、生物のからだに詳しい現役講師のオノヅカユウを招いた。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

セクレチンとは?

セクレチン(secretin)は、十二指腸から分泌されるホルモンの一種です。ヒトのセクレチンは27個のアミノ酸がつながってできているので、ホルモンの種類としてはペプチドホルモンに分類されます。

十二指腸って?

十二指腸って?

image by Study-Z編集部

人間の内臓や体のつくりにあまりなじみのない方のために、十二指腸について簡単にご紹介しておきましょう。

十二指腸は胃と小腸をつないでいる、カーブを描いた消化管です。十二指腸という名前は、その長さ(おおむね25~30㎝ほど)が指の幅12本分くらいであることからつけられました。

胃と小腸の間に立つ十二指腸には、消化液を分泌するすい臓が管(すい管)によって接続しています。すい臓からは、胃で消化された食べ物が小腸へ送られる際にすい液という消化液が分泌され、小腸でのさらなる消化を助けてくれるのです。さらに、胆のうでつくられる胆汁を分泌する胆管も、十二指腸につながっています。

十二指腸は、胃から送られた食べ物とすい液・胆汁の出会いの場ともいえるでしょう。

腸は内分泌器官なの?

内分泌系やホルモンについてしっかり学習している人であれば、脳下垂体や甲状腺、副腎などの内分泌器官を覚えていると思います。高校の生物学では、代表的な内分泌器官の名前を覚えるように指導されますが、「腸がホルモンを分泌する」なんて話は聞いたことがないかもしれません。

実は、私たちの体内では胃や腸からもさまざまなホルモンが分泌されているんです。

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胃腸内分泌細胞とは

image by iStockphoto

胃や腸のあちこちにあり、ホルモンを産生・分泌する細胞のことを胃腸内分泌細胞といいます。分泌されるホルモンの種類によって10以上のタイプに分けられており、それぞれがエキソサイトーシスによってホルモンを分泌しているんです。

セクレチンを分泌する胃腸内分泌細胞はS細胞とよばれます。他にも、ガストリンを分泌するG細胞や、コレシストキニンを分泌するI細胞(またはCCK細胞)などが有名です。また、すい臓のランゲルハンス島に多く存在しグルカゴンを分泌するA細胞は、胃にも存在しています。

セクレチンのはたらき

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セクレチンが分泌されるのは、胃から食べ物が送られてくることで、十二指腸内のpHが下がったとき。胃の消化液である胃酸は強い酸性なので、胃の内容物が送られてくると、十二指腸のpHが酸性に傾く(=pHが下がる)んです。

それでは、「食べ物が送られてきたときに分泌が促進される」ということを頭においたうえで、セクレチンがホルモンとしてどんな作用をするのかを確認していきましょう。セクレチンには大きく分けて3つのはたらきがあります。

#1 すい液の分泌促進

セクレチンが分泌されると、すい臓からのすい液の分泌が促進されます。前述の通り、すい液には小腸でのさらなる消化を助ける物質(酵素)が含まれているので、胃から小腸へ食べ物が送られたときに分泌が促進されるのは理屈にあっていますよね。

また、すい液にはもう一つ重要な役割があります。それは、胃酸の中和。強い酸性である胃酸を含んだ食べ物が小腸に届くと、小腸の壁を傷めてしまいかねません。すい液は塩基性(アルカリ性)であるため、胃の内容物に混ざると中和反応が起き、酸性を弱めることができるのです。

#2 コレシストキニンの効果を高める

腸から分泌されるホルモンの一つ、コレシストキニンの効果を高めるのも、セクレチンのはたらきです。コレシストキニンは胆のうを収縮させ、胆汁の分泌を促します。胆汁も、消化を助ける消化液。これにより、小腸での食べ物の消化をさらに促すことができます。

#3 胃酸の分泌をおさえる

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食べ物が小腸に向かって送られた後、胃酸の分泌が続くと胃を痛めてしまいます。セクレチンは、胃酸の分泌を促進するホルモンであるガストリンの分泌を抑えることで、胃酸の分泌量を減らすことができるのです。胃での消化が終わると、セクレチンの効果もあって胃酸がちょうどよい量に調節されることになります。

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セクレチンは歴史に名を遺すホルモン

普段の生活や、高校生物学のレベルではあまり耳にすることがないセクレチン。しかし、ホルモン研究の歴史を紐解いてみると、セクレチンはとても重要なホルモンであることがわかります。じつは、現在確認されている数々のホルモンのうち、はじめに見つかったホルモンといわれているのがセクレチンなのです。

ホルモンが認識されるまで

体内の情報伝達方法には、神経系内分泌系(ホルモン)の2つがあります。このうち、神経細胞の興奮によって細胞から細胞へ刺激を伝える神経系のほうが先に研究され、そのメカニズムが詳しく調べられていました。神経細胞は、太いものであれば肉眼でもはっきり確認できますし、その重要性も良く認識されていたのです。

一方、「分泌されると血液中を流れ、離れた細胞にも作用する化学物質」=ホルモンは確認が難しく、神経系よりも発見が遅くなってしまいました。ホルモンが発見される前は、「身体の機能はすべて神経でコントロールされている」とまで考えていた研究者もいたようです。

ホルモンの発見

William Bayliss 1918b.jpg
By 不明 - [1], CC 表示 4.0, Link

神経以外にも生体内での情報伝達をするシステムがある、ということを実験で証明したのが、イギリスの生理学者であるウィリアム・ベイリースアーネスト・スターリングでした。

1900年ごろ、ベイリースとスターリングは実験動物としてイヌを使い、歴史に残る実験を行います。

彼らは消化管の研究をする中で、十二指腸に薄い塩酸を流すとすい液が分泌されるという事実を知っていました。塩酸は胃酸に含まれていますので、これは胃酸が十二指腸に流れ込んだ状態をまねしていることになります。

二人は麻酔したイヌの腹をあけ、すい臓につながる神経をすべて切除した後、十二指腸に薄い塩酸を注入しました。すると、すい液の分泌は起こりません。このことから、神経によってすい臓が刺激され、すい液が分泌されたという可能性を排除しました。

つぎに、十二指腸の壁を切り取り、薄い塩酸を加えてすりつぶしたものを、膵臓につながる血管に注入しました。すると、残っている十二指腸に塩酸がかかったわけでもないのに、すい液が分泌されたのです。

「神経以外に、細胞を刺激する情報伝達の手段が存在する」。この実験の結果が意味するところは多くの生理学者を驚かせました。二人は、この「体液にのって流れ、細胞を刺激することができる謎の物質」をホルモンとよび、「膵臓を刺激した物質」にセクレチンという名前を付けたのです。

ホルモンというものの存在が認められると、多くの研究者が未知のホルモンをもとめ、内分泌系の研究に没頭していくことになります。セクレチンはその始まりとなった歴史に名を遺すホルモンなのです。

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セクレチンは「発見されるまでの物語」と重ねると面白い

ベイリースとスターリングの実験は世界の研究者を驚かせました。「まだ知られていない人の身体の仕組みを見つけ出す」ことになった二人の研究は、とても刺激的でワクワクするものだったことでしょう。こんな背景を知ると、セクレチンというホルモンが特別なものに思えてくるはずです。

イラスト使用元:いらすとや

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タンパク質と生物体の機能理科生物

3分で簡単にわかる!セクレチンの役割とは?発見の歴史も現役講師がわかりやすく解説!

セクレチンは歴史に名を遺すホルモン

普段の生活や、高校生物学のレベルではあまり耳にすることがないセクレチン。しかし、ホルモン研究の歴史を紐解いてみると、セクレチンはとても重要なホルモンであることがわかります。じつは、現在確認されている数々のホルモンのうち、はじめに見つかったホルモンといわれているのがセクレチンなのです。

ホルモンが認識されるまで

体内の情報伝達方法には、神経系内分泌系(ホルモン)の2つがあります。このうち、神経細胞の興奮によって細胞から細胞へ刺激を伝える神経系のほうが先に研究され、そのメカニズムが詳しく調べられていました。神経細胞は、太いものであれば肉眼でもはっきり確認できますし、その重要性も良く認識されていたのです。

一方、「分泌されると血液中を流れ、離れた細胞にも作用する化学物質」=ホルモンは確認が難しく、神経系よりも発見が遅くなってしまいました。ホルモンが発見される前は、「身体の機能はすべて神経でコントロールされている」とまで考えていた研究者もいたようです。

ホルモンの発見

William Bayliss 1918b.jpg
By 不明[1], CC 表示 4.0, Link

神経以外にも生体内での情報伝達をするシステムがある、ということを実験で証明したのが、イギリスの生理学者であるウィリアム・ベイリースアーネスト・スターリングでした。

1900年ごろ、ベイリースとスターリングは実験動物としてイヌを使い、歴史に残る実験を行います。

彼らは消化管の研究をする中で、十二指腸に薄い塩酸を流すとすい液が分泌されるという事実を知っていました。塩酸は胃酸に含まれていますので、これは胃酸が十二指腸に流れ込んだ状態をまねしていることになります。

二人は麻酔したイヌの腹をあけ、すい臓につながる神経をすべて切除した後、十二指腸に薄い塩酸を注入しました。すると、すい液の分泌は起こりません。このことから、神経によってすい臓が刺激され、すい液が分泌されたという可能性を排除しました。

つぎに、十二指腸の壁を切り取り、薄い塩酸を加えてすりつぶしたものを、膵臓につながる血管に注入しました。すると、残っている十二指腸に塩酸がかかったわけでもないのに、すい液が分泌されたのです。

「神経以外に、細胞を刺激する情報伝達の手段が存在する」。この実験の結果が意味するところは多くの生理学者を驚かせました。二人は、この「体液にのって流れ、細胞を刺激することができる謎の物質」をホルモンとよび、「膵臓を刺激した物質」にセクレチンという名前を付けたのです。

ホルモンというものの存在が認められると、多くの研究者が未知のホルモンをもとめ、内分泌系の研究に没頭していくことになります。セクレチンはその始まりとなった歴史に名を遺すホルモンなのです。

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