高校生物学(生物基礎)で学習する内容のうち、苦手な人が多いのが『恒常性(ホメオスタシス)』に関する項目です。

いくつものホルモンの名前や神経系を覚える必要があり、授業を聞いているうちに眠くなってしまう…という人も少なくないでしょう。今回は、恒常性によって維持されている代表的なシステムの一つ・血糖量調節の仕組みを学んでいきたい。

生物のからだに詳しい現役講師のオノヅカユウを招いたぞ。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

血糖量調節の仕組みを学ぶ前に

血糖量の調節は、恒常性に関する項目の中でもとくに複雑なシステムです。具体的な仕組みを見ていく前に、まずは血糖そのものについての基本事項をおさらいしましょう。

血糖とは?

血糖は、血液中に含まれる糖=グルコースの量です。グルコースは私たちの身体を構成している細胞にとっての栄養分。基本的に、細胞はグルコースなくして生きていくことができません。とくに脳細胞はグルコースを大量に消費します。低血糖状態が続くと、筋肉を動かせないどころか、脳の細胞がダメージを受けてしまうんです。

それでは、血糖は常にたくさんあったほうが良いかといえば、そうとも言えません。過度な高血糖状態は毛細血管を傷つけ、末梢神経にも障害を与えます。血糖量を一定にするということは、生命を維持するための超重要なメカニズムなんです。

私たちの血糖量はどれくらい?

image by iStockphoto

血液中にどれくらいのグルコースがあるかを示した数値が、健康診断などでよく耳にする「血糖値」です。

私たち人間の血糖値は、正常な人でおおむね100㎎/dL前後(空腹時)といわれます。1dL=100mLですので、1Lあたりに換算すると1g/L。人の血液量は体重の13分の1くらいといわれていますから、体重60㎏の人であれば、血液量は約4.6L、血液に含まれる血糖量は4.6g(4600㎎)くらいといえるでしょう。

この100㎎/dLという数値は、あくまで目安です。後述しますが、糖尿病にかかっている人はこれよりも高い血糖値が続くようになります。

血糖量の変化はどうやって感じ取るの?

血糖量の変化を感じ取るのは脳です。間脳の視床下部という部分に流れる血液の血糖量が変化すると、それを皮切りに血糖量を増やす、もしくは減らすための仕組みがはたらき始めます。

この間脳の視床下部という場所は、恒常性維持にはたらく自律神経系や内分泌系の中枢。体内環境を維持するための多くの仕組みが、間脳の視床下部が刺激を受け取ることで始まるんです。

\次のページで「血糖値を上げる仕組み」を解説!/

血糖値を上げる仕組み

食事がしばらくとれずに血糖量が下がってくると、間脳の視床下部がそれを感知し、血糖量を上げようとする仕組みがはたらき始めます。

視床下部からのびる交感神経によって、膵臓のランゲルハンス島A細胞が刺激され、グルカゴンというホルモンの分泌が促進。さらに、同じく交感神経によって刺激された副腎髄質からはアドレナリンが分泌されます。グルカゴンとアドレナリンは、肝臓に蓄えられているグリコーゲンを分解してグルコースを増やす作用のあるホルモンです。

交感神経による刺激が起きる一方で、同じく視床下部からは脳下垂体前葉に向かって、副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモンが分泌されます。これを受け、脳下垂体は副腎皮質刺激ホルモンを分泌し、副腎皮質からの糖質コルチコイドの分泌を促進。糖質コルチコイドは体内のタンパク質を分解してグルコースをつくるはたらきを促します。

また、脳下垂体前葉からは分泌される成長ホルモンにも、グリコーゲンの分解を促す作用があるんです。

以上を1枚の図にまとめると、このようになります。

image by Study-Z編集部

交感神経と6つのホルモンのはたらきで、血糖量の減少を防いでいるんですね。ホルモン(内分泌系)による調節では、脳下垂体、副腎(髄質および皮質)、すい臓のランゲルハンス島(A細胞)の3つの内分泌器官が関与していることにも注意しましょう。

血糖値を下げる仕組み

私たちが食事をして糖を摂取すると、間脳の視床下部が血糖量の上昇を感知し、血糖量を下げる仕組みがはたらきます。

血糖値を下げる場合に活動するのは副交感神経です。副交感神経はすい臓のランゲルハンス島B細胞を刺激し、インスリンというホルモンを分泌します。インスリンはグルコースの消費量を上げるほか、肝臓でグリコーゲンの合成を促進し、血液中の血糖量を下げるホルモンです。

\次のページで「血糖量調節と糖尿病」を解説!/

image by Study-Z編集部

「え!これだけ!?」と思った皆さん。そう、これだけなんです。血糖値を上げる仕組みと違い、下げる仕組みには副交感神経とインスリンのみが関与します。

血糖量調節と糖尿病

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前述の通り、血糖量を維持することは私たちの生命機能や身体の活動に不可欠です。多すぎても少なすぎてもいけない血糖量ですが、この血糖量の調節がうまくいかなくなる疾患があります。日本人の多くが罹患する糖尿病です。

糖尿病は、名前の通り尿中に糖が含まれるほどの高血糖状態が続く病気。なぜ尿中に糖が含まれてしまうのかといえば、血糖値を下げるためにはたらくインスリンが分泌されなかったり、分泌されたとしても効果が薄くなってしまうために生じます。

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尿中に糖が含まれるということは、血液中にも糖が存在しているということ。正常な人であれば空腹時に100㎎/dLほどの血糖値が、糖尿病の人になると120㎎/dLほどにもなります。前述の通り、過剰な血糖は血管や末梢神経を傷つけるため、目が見えなくなったり、手足がマヒするなどの表情が現れるんです。

血糖量調節の仕組みを理解してワンランク上を目指そう!

自律神経系と内分泌系の両方が関与し、複雑な調節が行われているのが血糖量調節の仕組みです。とくに血糖量上昇のメカニズムは覚えることもたくさんありますが、一つ一つのホルモンを丁寧に追っていけば、それほど面倒ではありません。

血糖量調節の仕組みについての学習は、「生物の恒常性」の分野中で一番の山場。苦手な人が多いテーマです。繰り返し確認して、他の人との差をつけましょう。

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タンパク質と生物体の機能理科生物

複雑な血糖量調節の仕組みをサクッとおさらい!現役講師がわかりやすく解説!

高校生物学(生物基礎)で学習する内容のうち、苦手な人が多いのが『恒常性(ホメオスタシス)』に関する項目です。

いくつものホルモンの名前や神経系を覚える必要があり、授業を聞いているうちに眠くなってしまう…という人も少なくないでしょう。今回は、恒常性によって維持されている代表的なシステムの一つ・血糖量調節の仕組みを学んでいきたい。

生物のからだに詳しい現役講師のオノヅカユウを招いたぞ。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

血糖量調節の仕組みを学ぶ前に

血糖量の調節は、恒常性に関する項目の中でもとくに複雑なシステムです。具体的な仕組みを見ていく前に、まずは血糖そのものについての基本事項をおさらいしましょう。

血糖とは?

血糖は、血液中に含まれる糖=グルコースの量です。グルコースは私たちの身体を構成している細胞にとっての栄養分。基本的に、細胞はグルコースなくして生きていくことができません。とくに脳細胞はグルコースを大量に消費します。低血糖状態が続くと、筋肉を動かせないどころか、脳の細胞がダメージを受けてしまうんです。

それでは、血糖は常にたくさんあったほうが良いかといえば、そうとも言えません。過度な高血糖状態は毛細血管を傷つけ、末梢神経にも障害を与えます。血糖量を一定にするということは、生命を維持するための超重要なメカニズムなんです。

私たちの血糖量はどれくらい?

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血液中にどれくらいのグルコースがあるかを示した数値が、健康診断などでよく耳にする「血糖値」です。

私たち人間の血糖値は、正常な人でおおむね100㎎/dL前後(空腹時)といわれます。1dL=100mLですので、1Lあたりに換算すると1g/L。人の血液量は体重の13分の1くらいといわれていますから、体重60㎏の人であれば、血液量は約4.6L、血液に含まれる血糖量は4.6g(4600㎎)くらいといえるでしょう。

この100㎎/dLという数値は、あくまで目安です。後述しますが、糖尿病にかかっている人はこれよりも高い血糖値が続くようになります。

血糖量の変化はどうやって感じ取るの?

血糖量の変化を感じ取るのは脳です。間脳の視床下部という部分に流れる血液の血糖量が変化すると、それを皮切りに血糖量を増やす、もしくは減らすための仕組みがはたらき始めます。

この間脳の視床下部という場所は、恒常性維持にはたらく自律神経系や内分泌系の中枢。体内環境を維持するための多くの仕組みが、間脳の視床下部が刺激を受け取ることで始まるんです。

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