
「酸」と「塩基」が打ち消し合う「中和」について元研究員がわかりやすく解説

酸性とアルカリ性を混ぜると「中和」するのは知っているけれど、その「中和」について説明しようとすると、ちょっと難しいよな。
今回は酸・塩基の定義から、中和によって生じる塩(えん)やモル濃度を利用した計算まで長年酸塩基反応を用いて実験してきたライターwingと一緒に解説していくぞ。

解説/桜木建二
「ドラゴン桜」主人公の桜木建二。物語内では落ちこぼれ高校・龍山高校を進学校に立て直した手腕を持つ。学生から社会人まで幅広く、学びのナビゲート役を務める。

ライター/wing
元製薬会社研究員。小さい頃から化学が好きで、実験を仕事にしたいと大学で化学を専攻した。卒業後は化学分析・研究開発を生業にしてきた。化学のおもしろさを沢山の人に伝えたい!
1.中和とは何か?

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酸と塩基を混ぜると、酸がもつ水素イオンと塩基がもつ水酸化物イオンが結合して水ができます。
同時に酸の状態で水素イオンと結合していた陰イオンと、塩基の状態で水酸化物イオンと結合していた陽イオンが結合し塩(えん)が生成するのです。
この現象を中和といいます。
まずは酸・塩基の定義から、中和について学んでいきましょう。
1-1.酸と塩基の定義

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1884年にアレーニウス(アレニウス)という科学者が水に溶けて水素イオン(H+)を出す物質を酸、水酸化物イオン(OH–)を出す物質を塩基と定義しました。この定義は水溶液中に限られており、他の溶媒中や気体について説明ができないなどの欠点がありました。
そこで、アレーニウスの定義を拡張した定義を、1923年にブレンステッドとローリーという二人の科学者が別々に提案しました。水素イオンを出す物質を酸、水素イオンを受け取る物質を塩基とするという定義です。
このブレンステッド・ローリーの定義により酸塩基反応を幅広く説明できるようになりました。ブレンステッド・ローリーの定義は中和反応の計算にはあまり関係ありませんが、合わせて覚えておきましょう。
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1-2.価数って何?

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酸とは水素イオンを出す物質のことだと学びました。しかし分子1つから出すことができる水素イオンの数が違うことがあります。放出できる水素イオンをいくつ持っているか、その数のことを価数というのです。
酸1molからXmolの水素イオンを出すとき、その酸はX価の酸ということになります。同様に塩基にも価数があり、塩基1molからYmolの水酸化物イオンを出すとき、その酸はY価の塩基というのです。
この価数は上記の表に記したように、化学式を見ると簡単にわかります。
例えば塩酸は
HCl → H+ + Cl–
と1molから水素イオンを1mol放出するので1価の酸ということです。
よく知られている硝酸(HNO3)は1価の酸、硫酸(H2SO4)は2価の酸となります。
塩基の方でみると、例えば水酸化カルシウムは
Ca(OH)2 → Ca2+ + 2OH–
と1molから水酸化物イオンを2mol放出するので2価の塩基ということです。
1-3.電離度と強弱
価数についてはわかりました。しかし1-2.の表には強酸・弱酸・弱塩基・強塩基とあります。次はこれらについて説明しましょう。
例えば同じ1価の酸でも、水溶液中で陽イオンと陰イオンが離れやすいものと離れにくいものがあります。塩酸は水溶液中でH+とCl–がほぼ完全に離れているのに対して、酢酸はH+とCH3COO–がごく一部しか離れていないために水溶液中の水素イオン濃度にかなりの差があるのです。
水溶液中でほぼ完全に離れている(電離している)酸を強酸、一部しか離れていない酸を弱酸といいます。同様に、水溶液中でほぼ完全にイオン化している塩基を強塩基、一部しかイオン化していない塩基を弱塩基とよぶのです。
この溶解した酸や塩基の量に対するイオン化した酸や塩基の割合を電離度といいます。同じ濃度の酸や塩基も電離度を比べることでどちらの酸(または塩基)が強いか弱いか知ることができるのです。
1-4.中和反応とは

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酸に塩基を加えていくと、徐々に酸の性質が弱くなります。これは酸と塩基が互いの性質を打ち消し合うからです。このことを中和といいます。
最初にもお話しましたが、酸と塩基が中和するとき、酸から放出された水素イオンと塩基から放出された水酸化物イオンが結びついて水が生成しますね。さらに酸の水素イオンと結びついていた陰イオンと、塩基の水酸化物イオンと結びついていた陽イオンがくっつき化合物として塩(えん)を生成します。
この中和反応を、わかりやすい化学反応式で表すと
HCl + NaOH → NaCl + H2O
塩酸(酸)と水酸化ナトリウム(塩基)を混ぜ合わせたとき、塩化ナトリウム(塩)と水が生成するのです。
実は酸と塩基が互いの性質を打ち消し合っている途中で、溶液としては完全に中性になっていなくても中和反応は起きていて水も塩も生成していることを覚えておきましょう。
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