今回のテーマは酸素です。「酸素なんてよく知ってるよ」と多くの人が思うかもしれない。

酸素がないと生きていけないよな。ドラマなんかの病院のシーンで酸素マスクを使っている様子を見たことがあるかもしれない。しかし実は空気中に含まれている酸素はごく一部で、ほとんどは金属元素と結びついて岩石中に含まれているって知っていたか?

今回は酸素とはどんな元素か?から身近な酸化反応まで大学で酸素について勉強したライターwingと一緒に解説していきます。

ライター/wing

元製薬会社研究員。小さい頃から化学が好きで、実験を仕事にしたいと大学で化学を専攻した。卒業後は化学分析・研究開発を生業にしてきた。化学のおもしろさを沢山の人に伝えたい!

1.酸素とは何か?

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酸素とは原子番号8の元素で、原子量は16.00です。

酸素分子は常温常圧で、無色無臭の気体として大気中に約21%存在します。

1-1.酸素の化学的性質

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酸素は第16族、第2周期の元素で、電子が安定する状態よりも2個少ない状態です。そのため、電子を受け取ろうとする性質が強いので他の物質と反応しやすいという特徴を持っています。

酸素が他の物質と反応して発熱し、化合物を作ることを酸化というのです。そして酸化によってできた化合物を酸化物といいます。

1-2.地球上の酸素

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地球上に酸素原子はとてもたくさんあります。

アメリカの科学者のクラークは、地表付近(大気と海や川などの水と海面下1万6000mの地殻をつくる岩石)の元素の割合を推定しました。このクラーク数によると、酸素は質量の比で全体の約50%もあります。これはとびぬけて一番多い元素です。

空気の中の酸素は21%もあるし、海の水もH2OでOを含むからそのくらいあるんじゃないか?と思うかもしれません。しかし、気体の密度は岩石とは比較できないほど小さくて、質量で比べるとほとんどありません海を含めて地表にある水を足しても6%くらいにしかなりません。

ではこの大量の酸素はどこに隠れているのでしょうか?

実は地殻をつくっている岩石中に、酸化物(~O)や水酸化物(~OH)の形で存在している酸素が多いのです。

酸素はどんな元素とも結合しやすいので、単体として存在する酸素はごくわずかで、ほとんどの酸素が酸素にはみえない化合物という形で地球上にとても多く存在しています。

1-3.生きるために欠かせない酸素

酸素は人間が生きるのに欠かせない元素です。呼吸によって空気中から取り入れられた酸素は血液中に溶け込み、体内のブドウ糖などのエネルギー源を分解して、活動するために必要なエネルギーを作ります。

食料や水は2~3日摂らなくても生きていられますが、酸素はたった数分途絶えただけで危険な状態に陥ってしまうでしょう。

大昔の地球には酸素はほとんど存在しなかったといわれています。しかし光合成を行うシアノバクテリアが30億年前頃に現れて、酸素が作られるようになりました。

現在、酸素は大気中に21%も存在します。この酸素は長い年月をかけて植物たちが作り出したものなのです。

1-4.酸素の同素体オゾン

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オゾン層、オゾンホールという言葉を聞いたことはありませんか?このオゾンというのは、酸素の同素体です。酸素は酸素原子が2つ結びついてできていますが、オゾンは酸素原子が3つ結びついてできています。

オゾンは実は刺激臭を持つ、淡青色の気体です。周囲の物質を強力に酸化させようとする性質を持っていて、殺菌や脱臭に使われています。しかし、その強烈な酸化力から高濃度では人体に有害です。

大気中のオゾンは成層圏に高い濃度で存在し、オゾン層と呼ばれています。オゾン層は、太陽から放たれる有害な紫外線をさえぎり、地上に暮らすわたしたちを守ってくれているのです。

\次のページで「2.酸素の製法」を解説!/

2.酸素の製法

酸素は植物の光合成で作られて、空気中にもたくさん存在します。しかし、工業的にまたは実験室で作りたいときはどのような方法で作るのでしょうか?

2-1.工業的製法

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工業的には空気の分留で得るのが一般的です。分留とは、混合物を沸点が低いものから順番に蒸留して分離することをいいます。まず空気を圧縮冷却し液体にし、徐々に温度を上げていくことで窒素やアルゴンなどと分けるのです。

ちなみに窒素(N2)の沸点は-195.8℃で酸素(O2)の沸点は-182.96℃なので、窒素の方が低い温度で気体になります。

分留した酸素を酸素ボンベに圧縮充填しますが、日本では酸素のボンベの色は黒色と決まっているのです。また、分留した酸素を再び低温にし、液体にした液体酸素も様々なところで活用されています。

2-2.実験室での製法

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(A)過酸化水素(H2O2)に触媒である二酸化マンガン(MnO2)を入れると酸素が発生します。

   2H2O2 → 2H2O + O2

  二酸化マンガンは反応を助ける触媒として入れているので、化学反応式には影響しません。

(B)水を電気分解すると陽極側で酸素が発生します。

  電気分解とは化合物に電圧をかけることにより、陽極側で酸化反応・陰極側で還元反応を起こし分解する方法です。

(C)塩素酸カリウム(KClO3)を加熱すると酸素が発生します。

   2KClO3 → 2KCl + 3O2

2-3.実験室での捕集方法

2-3.実験室での捕集方法

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酸素は水に溶けにくいため、水上置換法で捕集できます。

3.活用される酸素

わたしたちは日常的に、空気中にある酸素を使って呼吸をしたり料理をしたりしています。では工業的に製造した酸素はどのような使われ方をしているのでしょうか?

\次のページで「3-1.医療現場での酸素」を解説!/

3-1.医療現場での酸素

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酸素吸入は医療現場では欠かせませんよね。重傷を負った患者さんが、まず酸素マスクをつけてもらう様子をドラマなどで観たことがあるでしょう。

空気中より高い濃度の酸素を患者さんに吸入させることで、低酸素症・低酸素血症の予防や心肺の負荷を軽減しています。

大きな病院では酸素ガスボンベではなく、液体酸素を気化してパイプラインを通じて供給しているところもあるそうです。

3-2.助燃材としての酸素

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酸素は燃焼を促進するという性質を利用して、空気中で燃やすよりも高い熱を出す炎を使いたい時に役立っています。

鉄鋼業では溶接や溶断、精錬などで燃えるのを助ける助燃材として酸素が使われているのです。また、ガラス原料の溶解にも酸素が使われています。

皆さんは宇宙へ行くロケットの発射を見たことがありますか?宇宙へ行くには地球の引力に打ち勝つ強いエネルギーが必要です。そのロケットのエンジン部分で燃料である水素を燃やすために、液体酸素が使われています。

3-3.工業分野で酸化物をつくる

化学工業の分野では、酸化チタンをつくる時に、四塩化チタンから塩素を分離させる際に酸素が使われています。また半導体の分野では、半導体の製造時にシリコンの酸化膜をつくる酸化剤として酸素が必要です。

他には、酸化エチレンや酢酸など化学品の酸化にも酸素が使われています。

身近なところでは、製紙用パルプの漂白にも酸素が使われているそうです。

4.身近な酸化反応

常にわたしたちの身の回りにある酸素。酸素はとても反応性が高いので、燃焼以外にも頻繁に酸化反応が起きています。

4-1.金属がさびる

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金属が長い間放置されるとさびがでてきますよね。これは身近な酸化反応のひとつです。

酸素は他の物質から電子を奪う強い酸化力を持っています。対して金属は金(Au)以外は相手に電子を与えて還元し、イオンになりやすいという性質があるのです。

金属のイオンになりやすさはイオン化傾向というのですが、イオン化傾向が大きい元素ほどさびやすいということになります。

最も身近な例として、鉄がさびる様子を段階的に化学反応式でみてみましょう。

\次のページで「4-2.食品の劣化」を解説!/

鉄は空気中の水分に電子を奪われイオンになります。

Fe → Fe2+ → Fe3+

イオンになった鉄と、鉄から電子を奪ってイオン化した水(水酸化物イオン(OH))が結びつきます。

Fe3+ + 3OH → Fe(OH)3

空気中に水分を取られ赤さび(Fe2O3)になります。

2Fe(OH)3 → Fe2O3 + 3H2O

4-2.食品の劣化

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リンゴをむいて少し経つと、表面が茶色くなってきませんか?これも酸化が原因なんです。

他にも油が黒っぽくなったり、白米が美味しくなくなったりします。食品の多くが時間が経つと味が落ちますよね。これらは空気中の酸素と結びついた酸化が主な原因です。

4-3.使い捨てカイロ

寒い冬の必需品である使い捨てカイロ。火を使わないのに、開封しただけでなぜ温かくなのか疑問を持ったことがありませんか?

使い捨てカイロは中に鉄の粉末が入っています。鉄の粉末が空気中の酸素に触れて酸化され、発熱しているのです。

入っている鉄がすべて酸化されると発熱も終わります。あとは、空気中や触れているものにどんどん熱が移っていき、温度が下がってしまうのです。使い捨てカイロの中身は鉄なので、自治体にもよるかもしれませんが、不燃ごみで捨てましょう。

酸素は生きるために欠かせない元素

酸素は呼吸をするのに不可欠な物質で、地表付近に空気中や水中以外にも酸化物の形でたくさん含まれています。

工業的に空気中から分留により取り出した酸素は、病院・鉄鋼業・ロケットのエンジンなど様々な分野で活躍しているのです。

わたしたちの周りにも常に空気中の酸素と結びつく酸化が起こっており、金属のさびや食品の劣化は身近な酸化反応といえます。

酸素は他の元素と結びつこうとする力が強いので、身の回りの物を劣化させる原因にもなりますが、わたしたちの生活にとって大変重要な元素です。

" /> 地表に一番多い元素「酸素」について元研究員がわかりやすく解説 – Study-Z
化学

地表に一番多い元素「酸素」について元研究員がわかりやすく解説

今回のテーマは酸素です。「酸素なんてよく知ってるよ」と多くの人が思うかもしれない。

酸素がないと生きていけないよな。ドラマなんかの病院のシーンで酸素マスクを使っている様子を見たことがあるかもしれない。しかし実は空気中に含まれている酸素はごく一部で、ほとんどは金属元素と結びついて岩石中に含まれているって知っていたか?

今回は酸素とはどんな元素か?から身近な酸化反応まで大学で酸素について勉強したライターwingと一緒に解説していきます。

ライター/wing

元製薬会社研究員。小さい頃から化学が好きで、実験を仕事にしたいと大学で化学を専攻した。卒業後は化学分析・研究開発を生業にしてきた。化学のおもしろさを沢山の人に伝えたい!

1.酸素とは何か?

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酸素とは原子番号8の元素で、原子量は16.00です。

酸素分子は常温常圧で、無色無臭の気体として大気中に約21%存在します。

1-1.酸素の化学的性質

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酸素は第16族、第2周期の元素で、電子が安定する状態よりも2個少ない状態です。そのため、電子を受け取ろうとする性質が強いので他の物質と反応しやすいという特徴を持っています。

酸素が他の物質と反応して発熱し、化合物を作ることを酸化というのです。そして酸化によってできた化合物を酸化物といいます。

1-2.地球上の酸素

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地球上に酸素原子はとてもたくさんあります。

アメリカの科学者のクラークは、地表付近(大気と海や川などの水と海面下1万6000mの地殻をつくる岩石)の元素の割合を推定しました。このクラーク数によると、酸素は質量の比で全体の約50%もあります。これはとびぬけて一番多い元素です。

空気の中の酸素は21%もあるし、海の水もH2OでOを含むからそのくらいあるんじゃないか?と思うかもしれません。しかし、気体の密度は岩石とは比較できないほど小さくて、質量で比べるとほとんどありません海を含めて地表にある水を足しても6%くらいにしかなりません。

ではこの大量の酸素はどこに隠れているのでしょうか?

実は地殻をつくっている岩石中に、酸化物(~O)や水酸化物(~OH)の形で存在している酸素が多いのです。

酸素はどんな元素とも結合しやすいので、単体として存在する酸素はごくわずかで、ほとんどの酸素が酸素にはみえない化合物という形で地球上にとても多く存在しています。

1-3.生きるために欠かせない酸素

酸素は人間が生きるのに欠かせない元素です。呼吸によって空気中から取り入れられた酸素は血液中に溶け込み、体内のブドウ糖などのエネルギー源を分解して、活動するために必要なエネルギーを作ります。

食料や水は2~3日摂らなくても生きていられますが、酸素はたった数分途絶えただけで危険な状態に陥ってしまうでしょう。

大昔の地球には酸素はほとんど存在しなかったといわれています。しかし光合成を行うシアノバクテリアが30億年前頃に現れて、酸素が作られるようになりました。

現在、酸素は大気中に21%も存在します。この酸素は長い年月をかけて植物たちが作り出したものなのです。

1-4.酸素の同素体オゾン

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オゾン層、オゾンホールという言葉を聞いたことはありませんか?このオゾンというのは、酸素の同素体です。酸素は酸素原子が2つ結びついてできていますが、オゾンは酸素原子が3つ結びついてできています。

オゾンは実は刺激臭を持つ、淡青色の気体です。周囲の物質を強力に酸化させようとする性質を持っていて、殺菌や脱臭に使われています。しかし、その強烈な酸化力から高濃度では人体に有害です。

大気中のオゾンは成層圏に高い濃度で存在し、オゾン層と呼ばれています。オゾン層は、太陽から放たれる有害な紫外線をさえぎり、地上に暮らすわたしたちを守ってくれているのです。

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