

これは、人間をはじめとする生物が命をつないでいくうえで欠かすことのできない重要な概念だ。今回は、一言で説明しようとすると意外と難しい、この「ホメオスタシス(恒常性)」について改めて考えていこう。
生物のからだに詳しい現役講師のオノヅカユウを招いたぞ。

解説/桜木建二
「ドラゴン桜」主人公の桜木建二。物語内では落ちこぼれ高校・龍山高校を進学校に立て直した手腕を持つ。学生から社会人まで幅広く、学びのナビゲート役を務める。

ライター/小野塚ユウ
生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。
ホメオスタシス(恒常性)とは?
ホメオスタシス(homeostasis)、日本語でいうところの恒常性とは、生物の体内環境(内部環境)を一定に保とうとする性質のことです。英語での表記である「ホメオスタシス」は、古典ギリシャ語からつくられた造語で「homeo=同じ」+「stasis=状態」を組み合わせてつくられました。
「生物の体内環境(内部環境)を一定に保とうとする性質」というと難しく感じるような気がしますが、この性質は私たちが日常生活を送る上で当たり前に存在しています。どんな身体の変化にホメオスタシスをみることができるのか、例をいくつか挙げてみましょう。
・気温が高くなる→たくさん汗をかく→体温を下げようとする
・気温が低くなる→体が震える→体温を上げようとする
・食事をとる→血糖値が上がる→血糖値を下げるホルモンが出る
・病原菌が体内に侵入する→病原菌を倒すための白血球が集まってくる→病原菌撃退
これらはみな、生命機能を維持するために必要不可欠な体の変化です。少々回りくどい言い方ですが、「気温や湿度などの体外環境の変化や、病原菌などの体内への侵入が生じた時、体内が安定な状態を維持できるようにはたらくシステムがある」ことこそがホメオスタシスだといえるでしょう。

この恒常性は、『生物とはなにか?』という問いへの、一つの答えだ。「自分の体内を一定に調節できるか、異常が生じた時に修復できるか」=「ホメオスタシスの有無」は、生物と非生物を区別する大きな違いだな。
「ホメオスタシス(恒常性)」の考え方はいつからあるの?
気温や湿度によって体調が変化したり、けがや病気になっても軽いものであれば自然に治癒するという現象は、大昔の人にとっても、現代の私たちにとっても当たり前のこと。しかしながら、体内でどんなメカニズムがはたらき、どのように健康が維持されているのかがわかるようになったのは、比較的最近のことです。
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ホメオスタシスという概念を生み出すきっかけになったのは、フランスの生理学者であるクロード・ベルナールが提唱した「内部環境の固定性」という考え方です。ベルナールは、生物の体内は体液で満たされており、体外環境とは明確に区別されるという点に着目しました。そして、「外部環境が変化しても、体液に満たされた内部環境は一定に維持される性質がある」という発想に至ったのです。
このベルナールの「内部環境の固定性」を発展させ、「ホメオスタシス」という名前を付けたのが、アメリカの生理学者ウォルター・B・.キャノン。1932年の著書『人体の知恵』で発表されました。
ホメオスタシスを維持するための3つのシステム

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ホメオスタシスは大きく分けて3つのシステムで支えられています。そのシステムとは、「自律神経系」「内分泌系」「免疫系」の3つです。それぞれについて簡単にみていきましょう。
自律神経系
ホメオスタシスを維持するためにはたらく、代表的なシステムのひとつが自律神経系です。
交感神経と副交感神経によってなる自律神経系は、運動神経系とは違い、不随意(自律的)にはたらいています。これらの自律神経系が体内環境の変化によって刺激され、それぞれの臓器や細胞にはたらきかけることで、体内環境を調節するのです。
一般に、交感神経がはたらくのは「興奮状態」や「活発な活動をするとき」「ストレスを感じたとき」など。反対に、副交感神経は「安静時」や「リラックスしているとき」にはたらきます。
内分泌系
内分泌系は、かんたんにいえばホルモンによる体内環境の調節システムです。内分泌腺から分泌される物質であるホルモンが、血液などの体液にのって身体中をめぐり、それぞれの臓器のはたきを調節しています。
自律神経系による情報伝達とホルモンによる情報伝達の大きな違いは、効果が表れるまでにかかる時間です。神経細胞の興奮による刺激は、細胞がつながっている範囲であればものの数秒で到達しますが、ホルモンは体液にのって体内を移動して作用することから、神経系に比べて時間がかかります。しかしながら、その効果を長期間にわたって及ぼすことができるため、数日~数か月といった期間の体内環境の調節にも利用できるんです。

自律神経系と内分泌系(ホルモン)の両方が関与する体内環境の調節システムも少なくない。
例えば血糖量の調節では、血糖値を上げようとするときには交感神経の刺激によってアドレナリンやグルカゴンなどの血糖値を上昇させるホルモンが分泌される。逆に、血糖値を下げようとするときには副交感神経からの刺激によって、血糖値を下げる作用のあるホルモン、インスリンの分泌が促進されるんだ。
どちらか一方がはたらくのではなく、両者が協調しあってはたらくことがあるのを忘れないでほしい。
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