俺たちの体の中では、いくつものホルモンが日々はたらき、体の機能を一定に保ってくれている。

ホルモンを分泌する「内分泌器官」の中でもとくに重要度が高いのが、脳にあるちいさな脳下垂体です。今回はこの脳下垂体についておさらいしよう。

生物のからだに詳しい現役講師のオノヅカユウを招いたぞ。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

脳下垂体とは?

Pituitary gland image.png
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皆さんは「脳の絵をかいてみてください」といわれて、どれくらい正確に書くことができるでしょうか?丸いおまんじゅうのような絵を描く人や、雲のようなもこもことしたかたまりを書く人、ちょっと脳について勉強したことがある人は小脳や脳幹くらいまで書けるかもしれません。それでも、脳下垂体の存在まで描ける人はほとんどいないでしょう。

今回の主役である「脳下垂体」(もしくは下垂体)は、脳を真ん中でぱっくりと割らないと見ることができない位置にあります。大脳と中脳の間に位置する「間脳」、その「視床下部」とよばれるエリアにぶら下がるようにして存在しているのが脳下垂体です。下垂体茎という細長い組織によって間脳とつながっています。

脳下垂体の大きさは?

ヒトの脳下垂体の大きさは「ソラマメくらい」とか、「女性の小指の先くらい」などと表現されます。重要な器官ではあるのですが、びっくりするほど小さく、重さは1gにも満たないわずか0.7gほど。大脳が極端に発達しているヒトの脳ではあまり目立たない存在です。

脳下垂体の前葉と後葉

脳下垂体の前葉と後葉

image by Study-Z編集部

とても小さな器官であるヒトの脳下垂体ですが、その構造や発生過程の違いから、大きく2つのエリアに分けて考えることができます。脳下垂体の中でも体の前方側(目に近いほう)の前葉と、後頭部に近い側の後葉です。

脳下垂体前葉と、脳下垂体後葉は発生過程が大きく異なります。脳下垂体前葉は上皮組織由来ですが、脳下垂体後葉は間脳が伸びてきたもの。一つの小さなかたまりになっていますが、別々の組織が由来となっているんです。

脳下垂体の役割

脳下垂体は、さまざまなホルモンを分泌する内分泌器官です。前葉と後葉では異なるホルモンを分泌しており、小さいながらも体に大きな影響を与える器官であることが知られています。

それでは、脳下垂体から分泌される代表的なホルモンを確認していきましょう。

\次のページで「脳下垂体前葉から分泌される代表的なホルモン」を解説!/

脳下垂体前葉から分泌される代表的なホルモン

成長ホルモン

私たちのからだが成長する時に分泌が増えることで知られる成長ホルモン(growth hormone:GH)は、脳下垂体前葉から分泌される代表的なホルモンのひとつ。筋肉の強化や骨の伸長を促すほか、代謝を促進したり、血糖値を維持する作用もあります。

からだの成長が著しい子どもで分泌が多いのはもちろんですが、大人であっても成長ホルモンは分泌されており、細胞のはたらきが正常に保たれるのになくてはならない存在です。運動時や睡眠時に分泌が促進されることがわかっています。成長期の子どもや、筋肉を使う仕事や運動をよく行う人、肌荒れなどが気になる人などは、しっかり寝て運動することで成長ホルモンの分泌を高めてあげましょう。

甲状腺刺激ホルモン

甲状腺刺激ホルモン(thyroid stimulating hormone:TSH)は名前の通り、甲状腺を刺激する作用のあるホルモンです。この甲状腺刺激ホルモンが作用すると、甲状腺からはチロキシンなどの甲状腺ホルモンが分泌されます。つまり「ホルモン分泌を促すホルモン」というわけです。

この甲状腺刺激ホルモンは、間脳視床下部から分泌される甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(thyrotropin-releasing hormone:TRH)によって分泌が促進されています。甲状腺ホルモンの濃度が高くなると、甲状腺刺激ホルモン放出ホルモンの分泌が抑制され、それによって甲状腺刺激ホルモンの分泌も低下、甲状腺ホルモンの分泌量が減るんです。このようなシステムをネガティブフィードバックといいます。

副腎皮質刺激ホルモン

こちらも、「ほかのホルモン分泌を促すホルモン」のひとつ。副腎皮質を刺激することで、そこから分泌されるホルモンの量を増やすのが、副腎皮質刺激ホルモン(adrenocorticotropic hormone:ACTH)です。

甲状腺刺激ホルモン同様に、間脳視床下部から分泌される副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン(corticotropin-releasing hormone:CRH)によって分泌が促されます。また、血中の副腎皮質ホルモンの濃度が高くなることで副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモンの分泌抑制が起き、副腎皮質刺激ホルモンの分泌も低下する、ネガティブフィードバックによって調節されているという点も共通です。

プロラクチン

image by iStockphoto

プロラクチン(prolactin:PRL)は、女性の妊娠や出産、子育てのときに深くかかわるホルモンです。出産後、女性は母乳が出るようになりますが、プロラクチンはこの母乳の分泌を促す作用があります。

また、妊娠期間中にはプロゲステロンという別のホルモン分泌を促進しますが、このプロゲステロンは卵巣に働きかけて生理や排卵を抑制することが知られているんです。つまり、すでに妊娠している子どもの生長・出産のために体を調節することにつながります。

脳下垂体後葉から分泌される代表的なホルモン

\次のページで「バソプレシン」を解説!/

バソプレシン

脳下垂体後葉から分泌されるホルモンの中でとくに覚えておいてほしいのが、「抗利尿ホルモン(antidiuretic hormone:ADH)」とよばれることもあるバソプレシン(vasopressin:VP)です。

腎臓にはたらきかけ、尿として排出される水分を血液に戻す“再吸収”を高めることで、尿の量を減らす機能があります。さらに、血管を収縮させることで血圧を上昇させる効果も。この効果を利用して、心停止時にバソプレシンを投与し、血液の輸送を補助することがあります。

オキシトシン

近年注目があつまるようになり、メディアでも取り上げられる機会が増えたオキシトシン(oxytocin:OXT)というホルモンがあります。バソプレシンと非常に似た構造をしていて、わずかアミノ酸2つ分の違いしかありません。

出産時に分泌が増加しますが、これにより子宮の収縮を促進して分娩が促進されます。また、出産後の育児の最中にも分泌が促進されることがわかっており、母性の形成に関与することから「愛情ホルモン」という別名でよばれているんです。

脳下垂体と病気

以上のように、脳下垂体は生きていくうえで必要不可欠な数多くのホルモンを分泌しています。ここに炎症や腫瘍などが原因の異常が生じると、全身のあちこちに大きな影響を及ぼすことは想像に難くありません。脳下垂体の機能が低下することで現れる諸症状をまとめて「脳下垂体機能低下症」といいます。

image by iStockphoto

たとえば、成長ホルモンの欠乏によって子どもに現れる「低身長症」。甲状腺刺激ホルモンの欠乏によって甲状腺ホルモンの分泌も低下し、体重増加や代謝の低下が起きる「甲状腺刺激ホルモン欠損症」、副腎皮質刺激ホルモンの欠乏で副腎皮質の機能が低下する「副腎皮質刺激ホルモン欠損症」などもあります。

脳下垂体中葉と両生類・魚類

image by iStockphoto

ヒトではほとんど退化してしまう脳下垂体の中葉。両生類や魚類ではこの中葉がよく発達しています。中葉から分泌されるホルモンは、メラニン細胞刺激ホルモン(melanocyte-stimulating hormone:MSH)とよばれるものです。

メラニン細胞とは色素を含んだ細胞のこと。このホルモンはメラニン細胞を刺激し、増殖を促したり、メラニン細胞を大きくすることで、体色を変化させることができます。体の色を変えるなんて、わたしたち人間にはできませんよね。中葉が退化していない両生類や魚類らしい生態といえるでしょう。

脳下垂体は必ず押さえるべき内分泌器官!

数々のホルモンを産生・分泌している脳下垂体。体内にいくつもある内分泌器官の中でもとくに多くのホルモンに関わることからも、その重要性が感じられるはずです。脳下垂体の位置・構造を把握し、関係するホルモンの種類をおさえることは、内分泌系の学習で必須の項目といえるでしょう。

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理科環境と生物の反応生物

3分で簡単脳下垂体のホルモン!現役講師がわかりやすく解説!

バソプレシン

脳下垂体後葉から分泌されるホルモンの中でとくに覚えておいてほしいのが、「抗利尿ホルモン(antidiuretic hormone:ADH)」とよばれることもあるバソプレシン(vasopressin:VP)です。

腎臓にはたらきかけ、尿として排出される水分を血液に戻す“再吸収”を高めることで、尿の量を減らす機能があります。さらに、血管を収縮させることで血圧を上昇させる効果も。この効果を利用して、心停止時にバソプレシンを投与し、血液の輸送を補助することがあります。

オキシトシン

近年注目があつまるようになり、メディアでも取り上げられる機会が増えたオキシトシン(oxytocin:OXT)というホルモンがあります。バソプレシンと非常に似た構造をしていて、わずかアミノ酸2つ分の違いしかありません。

出産時に分泌が増加しますが、これにより子宮の収縮を促進して分娩が促進されます。また、出産後の育児の最中にも分泌が促進されることがわかっており、母性の形成に関与することから「愛情ホルモン」という別名でよばれているんです。

脳下垂体と病気

以上のように、脳下垂体は生きていくうえで必要不可欠な数多くのホルモンを分泌しています。ここに炎症や腫瘍などが原因の異常が生じると、全身のあちこちに大きな影響を及ぼすことは想像に難くありません。脳下垂体の機能が低下することで現れる諸症状をまとめて「脳下垂体機能低下症」といいます。

image by iStockphoto

たとえば、成長ホルモンの欠乏によって子どもに現れる「低身長症」。甲状腺刺激ホルモンの欠乏によって甲状腺ホルモンの分泌も低下し、体重増加や代謝の低下が起きる「甲状腺刺激ホルモン欠損症」、副腎皮質刺激ホルモンの欠乏で副腎皮質の機能が低下する「副腎皮質刺激ホルモン欠損症」などもあります。

脳下垂体中葉と両生類・魚類

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ヒトではほとんど退化してしまう脳下垂体の中葉。両生類や魚類ではこの中葉がよく発達しています。中葉から分泌されるホルモンは、メラニン細胞刺激ホルモン(melanocyte-stimulating hormone:MSH)とよばれるものです。

メラニン細胞とは色素を含んだ細胞のこと。このホルモンはメラニン細胞を刺激し、増殖を促したり、メラニン細胞を大きくすることで、体色を変化させることができます。体の色を変えるなんて、わたしたち人間にはできませんよね。中葉が退化していない両生類や魚類らしい生態といえるでしょう。

脳下垂体は必ず押さえるべき内分泌器官!

数々のホルモンを産生・分泌している脳下垂体。体内にいくつもある内分泌器官の中でもとくに多くのホルモンに関わることからも、その重要性が感じられるはずです。脳下垂体の位置・構造を把握し、関係するホルモンの種類をおさえることは、内分泌系の学習で必須の項目といえるでしょう。

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