身体が重い。鞄が重い。財布を落としたら地面に向かって落ちていく。宙に浮いていればすかさず地面に落ちていく。地面に付いていれば、ジャンプでもして力を加えないと地面から離れられない。

そう、俺たちは地面に引っぱられているんです。

この記事では、地面の奥底「地球の中心」に向かって物体を引っ張る力「重力」について、理系ライターのR175と解説していきます。

ライター/R175

理科教員を目指す。理系学部出身でエンジニアの経験があり、物理や化学の現象を教科書だけで完結させず、身近な現象に結び付けて分かりやすく解説。

1.どんな物も地球の中心に向かう

image by iStockphoto

地上にいる限り、私たちは安定して地面に立っことが出来ます。ふわふわ浮いてどこか行ってしまうなんてことはありません。ジャンプをするなどして、宙に浮くことができても、必ず地面に向かって落ちていきます。そう「必ず地面に引っ張られますね」。地球が周囲の物体を引っ張っています。この「引っ張る」こそ重力

重力の働く向き

重力の働く向き

image by Study-Z編集部

地面に向かって、下に向かってというのは結局のところ「地球の中心に向かって」と言い換えることが出来ます。

もし、中心ではないところに向かって引っ張られたとしましょう(イラスト参照)。

確かに、イラストのA地点では地面に真下に向かって重力が働きますが、B地点やC地点ではやや斜め方向に重力が働いてしまいます。場所によって重力が斜め下向きというのはおかしいですよね。よって、イラスト右のように中心ではないところに向かって引っ張ることはできないのです。

2.なぜ地球の中心に引っ張られるか

地球の中心に向かって引っ張られているのは、日常生活での感覚の通り。どうやって地球の中心に引っ張られるのか?その正体が万有引力。簡単に言うと、

「万」どんなものにも
「有」ある
「引力」引っぱる力

実は、どんな物体同士もお互い引っ張り合っています。椅子と机、A君と大きな石、A君と地球。「地球?」と思った方。ここでは、地球も一つの物体として考えましょう。広い宇宙からしたら、地球も1つの岩です。

万有引力の大きさ

万有引力はどんな物体にも働きますが、その大きさは様々。前述の椅子と机やA君と石のように、お互い引っ張り合っているように感じないのは万有引力が非常に小さいため。

しかし、A君と地球はどう考えても引っ張りあっていますね。A君は体重分の力で地球に引っ張られています。そんな万有引力の大きさは何できまるのでしょうか?

image by Study-Z編集部

万有引力の大きさは上記の公式で表せます。物体の質量が大きいほど万有引力は大きく、物体同士の距離が離れているほど万有引力は小さくなるもの。Gは万有引力定数で、イラスト内に示すようにかなり小さな値。

地球の質量は、A君の質量の10の23乗倍。とてつもない質量。よって、地球と周辺の物体間には大きな「万有引力」が発生するわけです。一方、A君の体重は60kg、石ころの重さが10kgとするとします。A君と石の間に働く万有引力は非常に小さいです。A君が石を引き寄せているなんて自分でも気づかないことでしょう。

image by Study-Z編集部

重力は「おおよそ」万有引力によるものだということがお分かりいただけたでしょうか。ただ、これはあくまでも「おおよそ」であり、他にも関係する要因があるのです。

みなさんは、赤道付近と北極付近の高緯度地域で若干体重が変わるということを聞いたことがあるでしょうか?地球はイラストのようなイメージで24時間に1周自転しています。そう考えると、赤道付近の方が何だが吹っ飛ばされやすそうじゃないですか?そう赤道付近は遠心力が大きいけれど、北極点や南極点は遠心力がゼロ。日本は赤道の遠心力のおおよそ8割程度。このことから、遠心力は重力の大きさにも当然影響があると考えられます。

赤道付近は「地球から離れようと」する「遠心力」が大きいため、若干軽くなりそうですよね。果たしてどれくらい影響があるのか次項で見ていきましょう。

3.自転の影響

この項では自転によってどれくらい重力が小さくなるのか見ていきます。赤道上は自転による遠心力が最も大きいですね。

地球の半径:r=6378km=6378000mです。かなり大きな値なので、自転の影響が大きいのではないでしょうか。次に角速度。地球は24時間で1周しますから角速度ω:1周/24hr=360°/24hr=2π/24hr(ラジアン表記)。→よって角速度ω=0.000073(rad/s)。これはかなり小さい値ですね。

質量1kgの物体が赤道上にある時自転による遠心力F=1x6378000x(0.000073)^2=0.034Nこれは質量mの物体に働く重力9.8Nに比べると小さい(0.35%の誤差)。もっとも遠心力の大きい赤道上でもこの差なので、自転による遠心力は、重力にほとんど影響しないですね。

ただ、この0.35%の誤差にこだわって精密に重さを測る場合は遠心力の影響も考慮され、低緯度仕様、高緯度仕様たる重量計が用意されています。

4.遠心力と重力

3項では、自転による遠心力によって若干重力が弱まることを述べました。自転の速度では重力の大きさにあまり影響しませんが、仮に物凄い速さで移動したらどうなるでしょうか。物凄く速い自動車(羽はついてない)で、重力に逆らって地球を脱出することはが理論上可能でしょうか。

遠心力は速さの2乗に比例、つまり速く移動すればするほど、遠心力は強くなるもの。速度を上げていき、時速4万kmまで加速すると、遠心力が重力に勝ってしまい、宙に浮くことができ地球を脱出できます。この4万(km/hr)は第一宇宙速度と呼ばれるもの。

時速4万km以上のものは地球から出ていくことが可能です。音速は時速1235km程度なので(仮に地球外にも大気があったとしても)、第一宇宙速度時速4万kmには未達により、地球から「音」が出ていくことは不可能。

「光」は時速30万kmで移動。つまり、地球から光が出ていくことは可能。これは宇宙からでも地球が「見える」ことを意味しています。

5.ブラックホールの正体

image by iStockphoto

さて、地球からだと「光」が出ていくことは可能ですが、仮に「とてつもなく」重力が強い天体ではどうなのでしょうか。

例えば、地球と同じ半径6378kmの天体があったとしましょう。その天体での重力は地球の約140倍だとしましょう(重力加速度:1400m/s)。この天体で、質量1kgの物体の重力は1400N。1Lのペットボトルを持ち上げるのが140kgのウェイトリフティングに相当。恐ろしいですね。

この質量1kgの物体が仮に光速度同等の時速30万kmで移動したとしましょう。遠心力は1[kg]x30万[km/hr]x30万[km/hr]÷6378[km]単位をそろえると1[kg]x83333[m/s]x83333[m/s]÷6378000[m]=1089N。驚きの結果ですね。なんと、重力を下回るじゃありませんか。光速であっても脱出することが不可能です。

この天体から光が出ていかないということは、外から見ると真っ暗。第一宇宙速度が光速を上回る天体がブラックホールの正体。

ブラックホールの密度は?

例えば5項で見たような地球と同じ大きさのブラックホールを想定しましょう。大きさが同じで重力が140倍、つまり万有引力が140倍=質量が140倍。大きさが同じで質量が140倍ということは、密度が140倍という可能性があります*。

*ブラックホールを直接観測するのは難しいため、実際にどんな物体があるかはよく分かっていません。

とてつもなくおおきな密度を持つ物体がブラックホールとなり得るわけですね。

重力の原因は万有引力と自転による遠心力

天体の中心に引っ張られる力「重力」の正体は主に万有引力。それに加えて自転による「遠心力」分だけ、重力は小さくなります。

天体表面を移動している物体には速度に応じて遠心力が発生。遠心力が重力を上回る物体は、その天体から脱出可能。光速度で移動したときの遠心力が重力より小さい場合は光も脱出不可、ブラックホールとなります。

" /> 3分で簡単!重力の定義とは?原理・万有引力・遠心力も理系ライターがわかりやすく解説 – Study-Z
物理物理学・力学理科

3分で簡単!重力の定義とは?原理・万有引力・遠心力も理系ライターがわかりやすく解説

身体が重い。鞄が重い。財布を落としたら地面に向かって落ちていく。宙に浮いていればすかさず地面に落ちていく。地面に付いていれば、ジャンプでもして力を加えないと地面から離れられない。

そう、俺たちは地面に引っぱられているんです。

この記事では、地面の奥底「地球の中心」に向かって物体を引っ張る力「重力」について、理系ライターのR175と解説していきます。

ライター/R175

理科教員を目指す。理系学部出身でエンジニアの経験があり、物理や化学の現象を教科書だけで完結させず、身近な現象に結び付けて分かりやすく解説。

1.どんな物も地球の中心に向かう

image by iStockphoto

地上にいる限り、私たちは安定して地面に立っことが出来ます。ふわふわ浮いてどこか行ってしまうなんてことはありません。ジャンプをするなどして、宙に浮くことができても、必ず地面に向かって落ちていきます。そう「必ず地面に引っ張られますね」。地球が周囲の物体を引っ張っています。この「引っ張る」こそ重力

重力の働く向き

重力の働く向き

image by Study-Z編集部

地面に向かって、下に向かってというのは結局のところ「地球の中心に向かって」と言い換えることが出来ます。

もし、中心ではないところに向かって引っ張られたとしましょう(イラスト参照)。

確かに、イラストのA地点では地面に真下に向かって重力が働きますが、B地点やC地点ではやや斜め方向に重力が働いてしまいます。場所によって重力が斜め下向きというのはおかしいですよね。よって、イラスト右のように中心ではないところに向かって引っ張ることはできないのです。

2.なぜ地球の中心に引っ張られるか

地球の中心に向かって引っ張られているのは、日常生活での感覚の通り。どうやって地球の中心に引っ張られるのか?その正体が万有引力。簡単に言うと、

「万」どんなものにも
「有」ある
「引力」引っぱる力

実は、どんな物体同士もお互い引っ張り合っています。椅子と机、A君と大きな石、A君と地球。「地球?」と思った方。ここでは、地球も一つの物体として考えましょう。広い宇宙からしたら、地球も1つの岩です。

万有引力の大きさ

万有引力はどんな物体にも働きますが、その大きさは様々。前述の椅子と机やA君と石のように、お互い引っ張り合っているように感じないのは万有引力が非常に小さいため。

しかし、A君と地球はどう考えても引っ張りあっていますね。A君は体重分の力で地球に引っ張られています。そんな万有引力の大きさは何できまるのでしょうか?

image by Study-Z編集部

万有引力の大きさは上記の公式で表せます。物体の質量が大きいほど万有引力は大きく、物体同士の距離が離れているほど万有引力は小さくなるもの。Gは万有引力定数で、イラスト内に示すようにかなり小さな値。

地球の質量は、A君の質量の10の23乗倍。とてつもない質量。よって、地球と周辺の物体間には大きな「万有引力」が発生するわけです。一方、A君の体重は60kg、石ころの重さが10kgとするとします。A君と石の間に働く万有引力は非常に小さいです。A君が石を引き寄せているなんて自分でも気づかないことでしょう。

image by Study-Z編集部

重力は「おおよそ」万有引力によるものだということがお分かりいただけたでしょうか。ただ、これはあくまでも「おおよそ」であり、他にも関係する要因があるのです。

みなさんは、赤道付近と北極付近の高緯度地域で若干体重が変わるということを聞いたことがあるでしょうか?地球はイラストのようなイメージで24時間に1周自転しています。そう考えると、赤道付近の方が何だが吹っ飛ばされやすそうじゃないですか?そう赤道付近は遠心力が大きいけれど、北極点や南極点は遠心力がゼロ。日本は赤道の遠心力のおおよそ8割程度。このことから、遠心力は重力の大きさにも当然影響があると考えられます。

赤道付近は「地球から離れようと」する「遠心力」が大きいため、若干軽くなりそうですよね。果たしてどれくらい影響があるのか次項で見ていきましょう。

3.自転の影響

この項では自転によってどれくらい重力が小さくなるのか見ていきます。赤道上は自転による遠心力が最も大きいですね。

地球の半径:r=6378km=6378000mです。かなり大きな値なので、自転の影響が大きいのではないでしょうか。次に角速度。地球は24時間で1周しますから角速度ω:1周/24hr=360°/24hr=2π/24hr(ラジアン表記)。→よって角速度ω=0.000073(rad/s)。これはかなり小さい値ですね。

質量1kgの物体が赤道上にある時自転による遠心力F=1x6378000x(0.000073)^2=0.034Nこれは質量mの物体に働く重力9.8Nに比べると小さい(0.35%の誤差)。もっとも遠心力の大きい赤道上でもこの差なので、自転による遠心力は、重力にほとんど影響しないですね。

ただ、この0.35%の誤差にこだわって精密に重さを測る場合は遠心力の影響も考慮され、低緯度仕様、高緯度仕様たる重量計が用意されています。

4.遠心力と重力

3項では、自転による遠心力によって若干重力が弱まることを述べました。自転の速度では重力の大きさにあまり影響しませんが、仮に物凄い速さで移動したらどうなるでしょうか。物凄く速い自動車(羽はついてない)で、重力に逆らって地球を脱出することはが理論上可能でしょうか。

遠心力は速さの2乗に比例、つまり速く移動すればするほど、遠心力は強くなるもの。速度を上げていき、時速4万kmまで加速すると、遠心力が重力に勝ってしまい、宙に浮くことができ地球を脱出できます。この4万(km/hr)は第一宇宙速度と呼ばれるもの。

時速4万km以上のものは地球から出ていくことが可能です。音速は時速1235km程度なので(仮に地球外にも大気があったとしても)、第一宇宙速度時速4万kmには未達により、地球から「音」が出ていくことは不可能。

「光」は時速30万kmで移動。つまり、地球から光が出ていくことは可能。これは宇宙からでも地球が「見える」ことを意味しています。

5.ブラックホールの正体

image by iStockphoto

さて、地球からだと「光」が出ていくことは可能ですが、仮に「とてつもなく」重力が強い天体ではどうなのでしょうか。

例えば、地球と同じ半径6378kmの天体があったとしましょう。その天体での重力は地球の約140倍だとしましょう(重力加速度:1400m/s)。この天体で、質量1kgの物体の重力は1400N。1Lのペットボトルを持ち上げるのが140kgのウェイトリフティングに相当。恐ろしいですね。

この質量1kgの物体が仮に光速度同等の時速30万kmで移動したとしましょう。遠心力は1[kg]x30万[km/hr]x30万[km/hr]÷6378[km]単位をそろえると1[kg]x83333[m/s]x83333[m/s]÷6378000[m]=1089N。驚きの結果ですね。なんと、重力を下回るじゃありませんか。光速であっても脱出することが不可能です。

この天体から光が出ていかないということは、外から見ると真っ暗。第一宇宙速度が光速を上回る天体がブラックホールの正体。

ブラックホールの密度は?

例えば5項で見たような地球と同じ大きさのブラックホールを想定しましょう。大きさが同じで重力が140倍、つまり万有引力が140倍=質量が140倍。大きさが同じで質量が140倍ということは、密度が140倍という可能性があります*。

*ブラックホールを直接観測するのは難しいため、実際にどんな物体があるかはよく分かっていません。

とてつもなくおおきな密度を持つ物体がブラックホールとなり得るわけですね。

重力の原因は万有引力と自転による遠心力

天体の中心に引っ張られる力「重力」の正体は主に万有引力。それに加えて自転による「遠心力」分だけ、重力は小さくなります。

天体表面を移動している物体には速度に応じて遠心力が発生。遠心力が重力を上回る物体は、その天体から脱出可能。光速度で移動したときの遠心力が重力より小さい場合は光も脱出不可、ブラックホールとなります。

Share: