今回は等速直線運動と運動量保存について解説していきます。

等速直線運動は考えられる最も簡単な運動です。そして運動量保存は力学で最も基本的な法則の1つです。等速直線運動と運動量保存の法則は密接に関連している。同時に理解してしまうのがコツです。

今回は物理学科出身のライター・トオルさんと解説していきます。

ライター/トオル

物理学科出身のライター。広く科学一般に興味を持つ。初学者でも理解できる記事を目指している。

等速直線運動について

image by iStockphoto

等速直線運動とは読んで字のごとく、ずっと同じ速度でただまっすぐに進む運動のことです。考えられる限り最も簡単な運動なので、運動を初めて勉強するときはまずこの運動からはじめるのが一般的だと思います。実際には完全な等速直線運動は難しいのですが、カーリングなど摩擦の低い状態での平面運動は等速直線運動に近いものです。

準備

準備

image by Study-Z編集部

初学者のためにこの記事で使う記号とニュートンの運動方程式をのせておきます。一番上の式がニュートンの運動方程式で

         力=質量×加速度=質量×速度の時間微分=質量×位置の2階の時間微分

という意味です。力学では何事もこの式がスタートになります。この式は微分方程式ですが、微積分という数学についてよく知らない人は、そういう計算方法があることだけでも知っておいてください。その他の記号については、物理学で一般的につかわれる記号ですので慣れておくと何かと便利です。

等速直線運動の式

等速直線運動の式

image by Study-Z編集部

これが等速直線運動の式になります。括弧の中が正しく微分で表した式です。大学レベルからはカッコ内の式を使いますが、日本の高校では微分を使わない式が一般的だと思います。上の式から下の式へ変形するのが積分で、下の式から上の式へ変形するのが微分です。本格的に物理学を学問として学ぼうとする方は、微積分の表記に慣れてください。念のために触れておきますが、初速度は初めの速度、初期位置は初めの位置という意味になります。

それぞれの式の意味

まずは真ん中の式を見てみましょう。真ん中の式の意味は速度は、ずっと初めの速度のままという意味であり、これは等速直線運動の定義そのものです。また、加速度は速度の変化を時間で割ったものであることを思い出せば、速度が一定なのですから加速度はゼロ、よって一番上の式がでてきます。一番下の式は進んだ位置は初めの位置プラス速度かける時間なので、小学校で習う距離の定義そのものです。質量は力がゼロなので消えてしまっていることに注意してください。等速直線運動の速度と位置に関して質量はまったく関係なくなります。

等速直線運動と慣性の法則

一番上の式を見てみればわかるように、力が加速度に比例するというのがニュートンの運動方程式です(ニュートンの運動第2法則)。なので加速度がゼロなら力もゼロ、つまり等速直線運動というものは慣性運動を表した式だと分かります。慣性の法則とは

       すべての物体は外から力が加わらない限り静止状態か等速直線運動をつづける

というものです。等速直線運動の式で初めの速度をゼロとすると、位置はずっと初期位置のままになり、これは静止しているという事になります。慣性運動とは力が加わらない運動のことであり、つまり等速直線運動のことです。ちなみに、慣性の法則はニュートンの運動第1法則とも言われます。

\次のページで「運動量保存の法則」を解説!/

運動量保存の法則

image by iStockphoto

等速直線運動を説明しましたので、次は運動に関する最も基本的な法則の一つである運動量保存の法則について説明します。等速直線運動とは説明したように慣性運動のことであり、慣性運動と作用反作用の法則から導けるのが運動量保存の法則です。運動量保存も現実的には完全に成立させるのは難しいのですが、摩擦力が低い平坦な面での運動ではほとんど運動量保存の法則がそのまま成り立っています。

運動量保存の法則の定義

運動量保存の法則の定義は

        ある系に外部から力が加わらない限りその系の運動量の総和は不変である

というものになります。初めての人は何を言っているのかよくわからないと思いますが、運動量という量がありそれは外から力が加わらない限り変わりませんよというものです。運動量保存は一般的に物体の衝突を解析するときによく使われます。ついでに説明しておきますと、系とは英語ではsystemといい、いま考えてる問題に関係のある範囲全部のことです。たとえば、力学系の問題とは力学的現象のみを考えた問題のことであり、力学以外の現象は無視するという意味になります。

作用反作用の法則

作用反作用の法則

image by Study-Z編集部

運動量保存則を導くためには作用反作用の法則が必要となります。作用反作用の法則は

     2つの物体が互いに力を及ぼしあうとき、それらの力は向きが反対で大きさが等しくなる

というものです。これは上の図のように同じ物体が正面衝突するときはイメージしやすいと思います。衝突時に物体1が物体2に与える力と物体2が物体1に与える力は、向きは逆で大きさは同じであるということがなんとなく理解できるはずです。実は、これはまったく違う物体同士が衝突するときも成り立ちます。それが作用反作用の法則です。作用反作用の法則はニュートンの運動第3法則ともいいます。

運動量保存を導く

運動量保存を導く

image by Study-Z編集部

物体1の質量と速度をm1とv1とし、物体2の質量と速度をm2とv2とします。衝突が開始する瞬間をtAとし衝突が終わる瞬間をtBとして、運動方程式を物体1と物体2でそれぞれ衝突の初めから終りまで時間で積分。力の大きさが同じで向きが反対の場合はマイナスの符号をつけることに注意し、物体1と物体2の方程式を足し合わせたのが最後の式です。質量かける速度を運動量と定義すると、最後の式は衝突の前と後で運動量の合計が変らないことを意味しています。これが運動量保存の法則です。

いくつ物体があっても運動量保存が成り立つ

先に衝突をやってしまいましたが、慣性運動では速度が一定のため運動量は常に保存します。つまりいくつ物体が存在してようと何度衝突しようと、すべての物体が慣性運動をしている限り、同じ意味ですが外から力が一切かからない限り、全物体の運動量の合計は永久に保存されるのです。考えると妙なことのように思えますが、ニュートンの運動方程式と作用反作用の法則が成り立てば自動的に導かれます。

\次のページで「等速直線運動と運動量保存の法則」を解説!/

等速直線運動と運動量保存の法則

慣性の法則と作用反作用の法則が成り立てば、等速直線運動の式と運動量保存の法則は自動的に成り立ちます。ニュートンの運動方程式で力をゼロおけばこの二つは容易に導けるのです。つまり、物体は力が加わわらなけれは等速直線運動をすることと、運動量は保存されることはニュートンの運動方程式に含まれているともいえます。視点の問題かもしれませんが、現代では運動量保存の法則はこの宇宙のより根源的法則であると考えている人が多いようです。

" /> 「等速直線運動」と「運動量保存の法則」を理系ライターが丁寧にわかりやすく解説 – Study-Z
物理物理学・力学理科

「等速直線運動」と「運動量保存の法則」を理系ライターが丁寧にわかりやすく解説

今回は等速直線運動と運動量保存について解説していきます。

等速直線運動は考えられる最も簡単な運動です。そして運動量保存は力学で最も基本的な法則の1つです。等速直線運動と運動量保存の法則は密接に関連している。同時に理解してしまうのがコツです。

今回は物理学科出身のライター・トオルさんと解説していきます。

ライター/トオル

物理学科出身のライター。広く科学一般に興味を持つ。初学者でも理解できる記事を目指している。

等速直線運動について

image by iStockphoto

等速直線運動とは読んで字のごとく、ずっと同じ速度でただまっすぐに進む運動のことです。考えられる限り最も簡単な運動なので、運動を初めて勉強するときはまずこの運動からはじめるのが一般的だと思います。実際には完全な等速直線運動は難しいのですが、カーリングなど摩擦の低い状態での平面運動は等速直線運動に近いものです。

準備

準備

image by Study-Z編集部

初学者のためにこの記事で使う記号とニュートンの運動方程式をのせておきます。一番上の式がニュートンの運動方程式で

         力=質量×加速度=質量×速度の時間微分=質量×位置の2階の時間微分

という意味です。力学では何事もこの式がスタートになります。この式は微分方程式ですが、微積分という数学についてよく知らない人は、そういう計算方法があることだけでも知っておいてください。その他の記号については、物理学で一般的につかわれる記号ですので慣れておくと何かと便利です。

等速直線運動の式

等速直線運動の式

image by Study-Z編集部

これが等速直線運動の式になります。括弧の中が正しく微分で表した式です。大学レベルからはカッコ内の式を使いますが、日本の高校では微分を使わない式が一般的だと思います。上の式から下の式へ変形するのが積分で、下の式から上の式へ変形するのが微分です。本格的に物理学を学問として学ぼうとする方は、微積分の表記に慣れてください。念のために触れておきますが、初速度は初めの速度、初期位置は初めの位置という意味になります。

それぞれの式の意味

まずは真ん中の式を見てみましょう。真ん中の式の意味は速度は、ずっと初めの速度のままという意味であり、これは等速直線運動の定義そのものです。また、加速度は速度の変化を時間で割ったものであることを思い出せば、速度が一定なのですから加速度はゼロ、よって一番上の式がでてきます。一番下の式は進んだ位置は初めの位置プラス速度かける時間なので、小学校で習う距離の定義そのものです。質量は力がゼロなので消えてしまっていることに注意してください。等速直線運動の速度と位置に関して質量はまったく関係なくなります。

等速直線運動と慣性の法則

一番上の式を見てみればわかるように、力が加速度に比例するというのがニュートンの運動方程式です(ニュートンの運動第2法則)。なので加速度がゼロなら力もゼロ、つまり等速直線運動というものは慣性運動を表した式だと分かります。慣性の法則とは

       すべての物体は外から力が加わらない限り静止状態か等速直線運動をつづける

というものです。等速直線運動の式で初めの速度をゼロとすると、位置はずっと初期位置のままになり、これは静止しているという事になります。慣性運動とは力が加わらない運動のことであり、つまり等速直線運動のことです。ちなみに、慣性の法則はニュートンの運動第1法則とも言われます。

\次のページで「運動量保存の法則」を解説!/

次のページを読む
1 2 3
Share: