今回は、力学で学習する「斜方投射」という物体の運動について解説していきます。

実は、「斜方投射」を学習すると、ベクトルの考え方、ニュートンの法則、加速度・速度・座標(変位)の関係性といった、力学の基礎となる部分が身につくんです。「斜方投射」は、つまずきやすい単元ではありますが、非常に重要な部分です。ぜひとも、この記事を読んで、「斜方投射」をマスターしてくれ。

塾講師として物理を高校生に教えていた経験もある通りすがりのぺんぎん船長と一緒に解説していきます。

ライター/通りすがりのペンギン船長

現役理系大学生。環境工学、エネルギー工学を専攻しており、物理学も幅広く勉強している。塾講師として物理を高校生に教えていた経験から、物理の学習において、つまずきやすい点や勘違いしやすい点も熟知している。

斜方投射とは?

image by PIXTA / 40859569

突然ですが、誰かとキャッチボールしているところを想像してみてください。あなたが投げたボールは、カーブを描いて、相手側に届きますよね。このときボールが描くカーブのことを、放物線と呼ぶのです。ボールに限らず、物体を斜め上に投げると、物体は放物線を描き、最終的には地面に到達します。このような物体の運動を、物理学的用語で斜方投射というのです。

そして、斜方投射を学習することで、力学を学ぶ上で欠かせないベクトルの考え方、ニュートンの法則、加速度・速度・座標(変位)の関係性が身に付きます。これらを理解することで、2次元および3次元の運動が扱いやすくなるのです。つまり、斜方投射をマスターすることができたら、物理学の基本的な考え方はおおよそ理解できるのです!

また、この記事では斜方投射の様子を数式で記述できるようになることをメインテーマとして、解説を進めていきます。

斜方投射の様子を数式で記述しよう!

斜方投射の様子を数式で記述しよう!

image by Study-Z編集部

では、早速問題を解いてみましょう!「図のようなxy直交座標平面において、原点から小球をx軸と角度θをなす向きに、初速度v0で投げた。小球を投げてから、t秒後の小球の位置を表す座標を、tの関数で表現せよ。ただし、空気抵抗などは考慮しない。」という問題です。

小球を斜め上に投げていることから、斜方投射の問題であることがわかります。そして、小球は図に示されたような放物線の軌道を描くだろうと考えられますね!それでは、この小球の運動を数式で表す方法を紹介していきます。

#1 初速度ベクトルを分解する

初速度ベクトルを分解する

image by Study-Z編集部

まず最初に、初速度ベクトルを分解します。このとき、x軸に平行な成分とy軸に平行な成分に分解するのが一般的です。ここでは、x軸に平行な成分をvx0、y軸に平行な成分をvy0としました。

図のように考えると、x軸に平行な成分については、vx0=v0×cosθと表わせます。y軸に平行な成分についても、同様にして、vy0=v0×sinθと表わせますね。「あれれ?よくわからないぞ…」という方は数学で登場する三角比の定義を思い出してみましょう

\次のページで「小球にかかる力を考える」を解説!/

#2 小球にかかる力を考える

小球にかかる力を考える

image by Study-Z編集部

次に、小球にかかる力を考えましょう。図のように、小球がどの位置に存在する場合でも、y軸の負の向きに重力がかかります。重力とは、簡単に言えば、地球が小球を引っ張る力のことです。また、重力は小球の質量が変化しない限り、大きさは変わりません。もちろん、小球の質量が突如変化するということは考えられませんから、重力の大きさは変化しないのです。

以上の事柄をまとめると、「小球がどの位置に存在しても、y軸の負の向きに同じ大きさの重力がかかる」ということになりますね。また、重力以外の力は小球にかかりません

#3 x軸方向の運動を考える

x軸方向の運動を考える

image by Study-Z編集部

いよいよ、運動の様子を数式で記述していきます!まずは、x軸方向の運動を考えてみましょう

先ほど、小球にかかる力を考えました。小球にはy軸の負の向きに重力のみがかかるということでしたね。この事柄は、x軸方向には力が一切かからないと言い換えることができます。ここで思い出したいのが、物体に力がかからないとき、加速度は0になるということです。つまり、速度はいつまでたっても変化しません。このような運動のことを等速直線運動といいます。

したがって、加速度のx成分は0となるのです。そして、速度のx成分は変化しないので、vxは初速度のx成分の値であるv0×cosθから変化しません。なお、加速度のx成分をax、速度のx成分をvxとしています。

では、小球のx座標はどのように表せるでしょうか?v0×cosθの速度でt秒間動いたあとの座標を求めればよいですから、x=v0×cosθ×tとなりますね。そして、v0×cosθ×tというのは、図のように縦軸にvx、横軸にtをとったグラフの黄色の部分の面積に等しいことがわかります。つまり、座標の値とグラフの面積を結びつけることができるのです。この概念は、y軸方向の運動を考えるときにも使うので、覚えておきましょう。

#4 y軸方向の運動を考える

y軸方向の運動を考える

image by Study-Z編集部

最後に、y軸方向の運動を考えてみましょう

小球にはy軸の負の向きに重力のみがかかります。ここで思い出したいのが、力がかかっている方向に、物体は加速するということです。つまり、小球はy軸の負の向きに加速します。また、重力の大きさは一定なので、加速度も一定なのです。このような運動を等加速度直線運動といいますね。そして、重力による加速度のことを重力加速度といい、一般的にgで表します。

したがって、加速度のy成分は-gとなるのです。このとき、y軸の負の向きに重力がかかるので、gにマイナスをつけましょう。また、加速度が-gであることは、1秒ごとに速度がgずつ小さくなることを表します。よって、速度のy成分はv0sinθ-gtとなるのです。なお、加速度のy成分をay、速度のy成分をvyとしています。

では、小球のy座標はどのように表せるでしょうか?先ほどと同様に、小球のy座標もグラフの面積で表すことができるのです。小球のy座標は図のように縦軸にvy、横軸にtをとったグラフの黄色の部分の面積に等しくなります。黄色の部分の面積は、台形の面積公式を用いて求めることができて、y=1/2×(v0×sinθ+v0×sinθ-gt)×t=v0×sinθ×t-1/2×gt^2となりますね。

これで、斜方投射の様子を数式で記述できたことになります。

\次のページで「斜方投射をマスターしよう」を解説!/

斜方投射をマスターしよう

斜方投射の学習を通して、ベクトルの考え方、ニュートンの法則、加速度・速度・座標(変位)の関係性などを理解することができます。これらはすべて、力学を学ぶ上で、基本中の基本となる部分です。力学の基本でありながら、本質的なことを理解するには少し時間のかかる部分で、斜方投射で挫折してしまう人も少なくはありません。ですが、演習および復習を何度も繰り返すことで、きっと理解は深まります。「難しいな、あきらめようかな」と思っても、ひと踏ん張りしてみてください。

斜方投射の学習を乗り越えたら、今後の物理学習が非常にスムーズになるはずです!

" /> 力学の基礎となる「斜方投射」を理系学生ライターが5分でわかりやすく解説! – Study-Z
物理物理学・力学理科

力学の基礎となる「斜方投射」を理系学生ライターが5分でわかりやすく解説!

今回は、力学で学習する「斜方投射」という物体の運動について解説していきます。

実は、「斜方投射」を学習すると、ベクトルの考え方、ニュートンの法則、加速度・速度・座標(変位)の関係性といった、力学の基礎となる部分が身につくんです。「斜方投射」は、つまずきやすい単元ではありますが、非常に重要な部分です。ぜひとも、この記事を読んで、「斜方投射」をマスターしてくれ。

塾講師として物理を高校生に教えていた経験もある通りすがりのぺんぎん船長と一緒に解説していきます。

ライター/通りすがりのペンギン船長

現役理系大学生。環境工学、エネルギー工学を専攻しており、物理学も幅広く勉強している。塾講師として物理を高校生に教えていた経験から、物理の学習において、つまずきやすい点や勘違いしやすい点も熟知している。

斜方投射とは?

image by PIXTA / 40859569

突然ですが、誰かとキャッチボールしているところを想像してみてください。あなたが投げたボールは、カーブを描いて、相手側に届きますよね。このときボールが描くカーブのことを、放物線と呼ぶのです。ボールに限らず、物体を斜め上に投げると、物体は放物線を描き、最終的には地面に到達します。このような物体の運動を、物理学的用語で斜方投射というのです。

そして、斜方投射を学習することで、力学を学ぶ上で欠かせないベクトルの考え方、ニュートンの法則、加速度・速度・座標(変位)の関係性が身に付きます。これらを理解することで、2次元および3次元の運動が扱いやすくなるのです。つまり、斜方投射をマスターすることができたら、物理学の基本的な考え方はおおよそ理解できるのです!

また、この記事では斜方投射の様子を数式で記述できるようになることをメインテーマとして、解説を進めていきます。

斜方投射の様子を数式で記述しよう!

斜方投射の様子を数式で記述しよう!

image by Study-Z編集部

では、早速問題を解いてみましょう!「図のようなxy直交座標平面において、原点から小球をx軸と角度θをなす向きに、初速度v0で投げた。小球を投げてから、t秒後の小球の位置を表す座標を、tの関数で表現せよ。ただし、空気抵抗などは考慮しない。」という問題です。

小球を斜め上に投げていることから、斜方投射の問題であることがわかります。そして、小球は図に示されたような放物線の軌道を描くだろうと考えられますね!それでは、この小球の運動を数式で表す方法を紹介していきます。

#1 初速度ベクトルを分解する

初速度ベクトルを分解する

image by Study-Z編集部

まず最初に、初速度ベクトルを分解します。このとき、x軸に平行な成分とy軸に平行な成分に分解するのが一般的です。ここでは、x軸に平行な成分をvx0、y軸に平行な成分をvy0としました。

図のように考えると、x軸に平行な成分については、vx0=v0×cosθと表わせます。y軸に平行な成分についても、同様にして、vy0=v0×sinθと表わせますね。「あれれ?よくわからないぞ…」という方は数学で登場する三角比の定義を思い出してみましょう

\次のページで「小球にかかる力を考える」を解説!/

次のページを読む
1 2 3
Share: