今回は「ヘリウム」について勉強していこう。

ヘリウムと聞くと「ヘリウムガス」を思い浮かべる人が多いんじゃないか?
そう、お祭りの屋台で売っている、声が高くなるあのヘリウムガスです。

そんなヘリウムという物質について、実際にヘリウムを扱うこともある化学系学生ライターずんだもちと一緒に解説していきます。

ライター/ずんだもち

化学系の研究室で日々研究を重ねる理系学生。1日の半分以上の時間を化学実験に使う化学徒の鑑。受験生のときは化学が得意でなかったからこそ、化学を苦手とする人の立場に立ってわかりやすく解説する。

1.ヘリウムはどんな物質?

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ヘリウムは日常でもときどき耳にする名前ですね。風船の中に入っている気体、吸うと声が高くなる気体、などのイメージを持っている人も多いのではないでしょうか?そんなヘリウムについて、身近な例を踏まえながら、化学的な視点で解説していきます。

1-1.貴ガス

ヘリウムの特徴としてよく挙げられるのは「貴ガス」であることです。まずはこの貴ガスについて解説していきます。

貴ガスは周期表の一番右側の列にあるヘリウム、ネオン、アルゴンなどのことです。

貴ガスが持つ最大の特徴は反応性が非常に乏しいことになります。貴ガスは他の物質と混ぜても原則として反応することはなく、非常に安定です。このような性質から、貴ガスは不活性ガスと呼ばれることもあります。この呼び名は貴ガスの性質をよく表していているために現在でもよく使われますが、元素番号54のキセノン(Xe)が他の元素と化合物をつくることが発見されて以来は適切な呼び名ではなくなってしまいました。とはいえ、キセノンも特別な条件下でなければ化合物をつくることはなく、安定な気体です。

また、貴ガスは「希ガス」と書かれることも多くあります。こちらの表現の方が馴染みがある、という方も多いのではないでしょうか?以前は「珍しい気体」という意味で「希ガス」と呼ばれていましたが、実はそこまで珍しいものでもありません。みなさんは、大気中に含まれる気体のうち3番目に多いものは何だと思いますか?1位窒素、2位酸素の次は二酸化炭素だとよく勘違いされますが、実は貴ガスのアルゴンなのです。このような理由から、現在では希ガスという表記は適当ではないとされています。

1-2.とにかく軽い

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ヘリウムは貴ガスの中でも最も軽い気体であるという特徴があります。

ヘリウムが周期表の中でどこにあるか思い出してみましょう。ヘリウムは周期表の1番右上に位置していて、その原子番号は2になります。原子番号はおおよそ、その原子の重さ(原子量)の順です。すなわち、ヘリウムは2番目に軽い元素ということになります。

多くの気体は水素(H2)や酸素(O2)のような2原子分子です。そのため原子番号の順だけで気体の重さの順を決めることはできません。しかし気体分子の構造まで加味しても、ヘリウムは水素について2番目に軽い気体として知られています。ヘリウムを入れた風船が大気中で浮いているのはこような理由からだったのですね。

1-3.宇宙には大量のヘリウムがある

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みなさんは宇宙全体で最も多い元素を知っていますか?

残念ながら最も多い元素はヘリウムではなく水素です。そして、その割合は76%と言われています。宇宙はほとんどが水素でできているのですね。

ヘリウムはこの水素についで2番目に多い元素です。その割合はどのくらいだと思いますか?実は、ヘリウムは宇宙全体の元素の23%を占めます。予想を大幅に上回った人が多いのではないでしょうか?なぜならば、水素とヘリウムだけで宇宙全体の99%を占めることになってしまうからです。残りの多くの元素は全て足し合わせても1%しかないのですね。

\次のページで「1-4.α崩壊」を解説!/

1-4.α崩壊

1-4.α崩壊

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ヘリウムはα崩壊によって生成することが有名です。高校化学でも出てくるので、しっかり覚えておきましょう。

α崩壊とは、原子がヘリウムの原子核を放出して他の原子に変化することです。ヘリウムの原子核は陽子と中性子2つずつからなるので、原子番号は2、質量数は4だけ減少することになりますね。

地球上にとどまれないヘリウムが地球上にも存在するのはα崩壊のおかげだとも言われています。

2.ヘリウムの用途

ここまではヘリウムがどんな気体なのかを説明してきました。ここからは、ヘリウムが実際にどのような場面で使われる気体なのかを解説していきます。

2-1.風船

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ヘリウムが風船に使われることはとても有名で、冒頭で例としても挙げました。

ヘリウムは2番目に軽い気体であり、その原子量は約4になります。空気の原子量は約29ですので、ヘリウムは空気より遥かに軽い気体であり、実際に風船が浮かぶことが説明できますね。

では、空気より軽い気体が数多くある中で、なぜヘリウムが使われているのでしょうか。その答えはすでに説明したことの中にあります。ヘリウムが不活性な気体であるためです。以前はヘリウムよりもさらに軽い水素ガスを使って風船をつくっていたこともありましたが、水素は不活性な気体ではないために引火性や爆発性があり、実際に事故も起こってしまいました。

もう1つ面白い話があります。膨らんでいる風船は時間が経つにつれて次第にしぼんでいきますよね。風船をそれぞれヘリウムと空気で膨らませたとき、ヘリウムで膨らませた風船は空気のときよりも早くしぼんでしまいます。これはなぜなのでしょうか?これをヘリウムの原子半径に注目して説明してみましょう。

風船の膜には肉眼では到底確認できないほど小さい穴が空いています。そして、ほどんとの気体分子はこの穴を通り抜けることができるのです。この通り抜けやすさは気体分子の大きさにも関係し、気体分子が小さいほど速く通り抜けることができます。ヘリウムは非常に半径の小さい原子であり風船の膜を簡単に通り抜けてしまうため、風船はすぐにしぼんでしまうのですね。

2-2.ヘリウムガス

ヘリウムはお祭りでよく見かける変声用のヘリウムガスでも使われています。

ヘリウムガスは空気よりも密度の低い気体です。そのため、発せられた声は空気中より速く体内を伝わるため、普段よりも声が高くなります。この現象は物理学の範囲ですので、気になった方はなぜなのか考えてみてください。

また、ヘリウムを吸っても体に害がないのも、先に解説したようにヘリウムが不活性ガスであることが理由になりますね。このことも是非関連づけておくと覚えやすいですね。

しかし、ここで1つ注意をしておかなければなりません。ヘリウムガスを吸っても体に害はないと解説しましたが、風船などに使うヘリウムガスを吸うと死に至ることもあります。この理由が分かるでしょうか?

どちらも同じ「ヘリウムガス」という名前で呼ばれるのでわかりにくいですが、両者は組成の異なる気体です。風船に使うようなヘリウムガスは純粋な気体ヘリウムであることが多いですが、変声用のものは違います。純粋なヘリウムガスを吸えば窒息する危険性があるため、変声用のヘリウムには20%程度の酸素が含まれているのです。実際、これを知らずに純粋なヘリウムガスを吸い込むという死亡事故も確認されています。

2-3.NMR

ヘリウムにはまだ説明していない特徴がもう1つあります。それは、ヘリウムは沸点の最も低い元素であるということです。その沸点は4.22K(-268.93℃)と、私たちには想像できません。この特徴は、どんなところに生かされているのでしょうか?

少し難しい話にはなりますが、化学者が目的の化合物が本当にできているのかを確認するためのNMRという装置があります。つくった化合物を溶液に溶かしてNMRという装置に入れると、どんな化合物ができたかのヒントになるデータを得ることができるのです。NMRは化学系の研究者なら誰もが利用する装置ですので、非常に重要な役割を担っていますね。

このNMRという装置には、超伝導磁石が組み込まれています。超電導とは、ある物質の温度を極低温まで下げることで抵抗が0になる現象のことです。この冷却に使われいるものこそがヘリウムになります。

3.深刻なヘリウム不足

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ヘリウムが比較的身近な気体であることは今まで解説した通りです。しかしその一方、世界規模で深刻なヘリウム不足が起こっています。

ヘリウムは地下の天然ガスから抽出されますが、その埋蔵量は少なく、近い将来枯渇することも危惧されているのほどです。世界のヘリウムの6割を生産するアメリカは、ヘリウムの国外販売停止を発表しました。また、その他の産出国であるカタールなどの中東諸国も外交問題等により円滑な出荷ができずにいます。

日本はヘリウムを生産することができない国ですので、研究機関に与えるダメージも非常に大きいでしょう。

現在、特に工業的に使われるヘリウムは再利用されずに排出されることが多くあります。これは、ヘリウムの再利用にかかる費用が大きいためです。このままヘリウム不足が続けば、ヘリウムの再利用は必須になりますね。また、ヘリウムの使用量を減らし、代わりとなる新たな資源を探すことも今後の課題となってきます。

ヘリウムは非常に安定な不活性ガス

ヘリウムは他の物質と反応しない、非常に安定な気体です。

そして、これこそが私たちの身の回りでも広く利用されている理由になります。

化学的な知識だけでなく、ヘリウム不足という深刻な問題があることも是非覚えておいてくださいね。

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化学

ヘリウムってどんな物質?身近な例とともに化学系学生ライターがわかりやすく解説

1-4.α崩壊

1-4.α崩壊

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ヘリウムはα崩壊によって生成することが有名です。高校化学でも出てくるので、しっかり覚えておきましょう。

α崩壊とは、原子がヘリウムの原子核を放出して他の原子に変化することです。ヘリウムの原子核は陽子と中性子2つずつからなるので、原子番号は2、質量数は4だけ減少することになりますね。

地球上にとどまれないヘリウムが地球上にも存在するのはα崩壊のおかげだとも言われています。

2.ヘリウムの用途

ここまではヘリウムがどんな気体なのかを説明してきました。ここからは、ヘリウムが実際にどのような場面で使われる気体なのかを解説していきます。

2-1.風船

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ヘリウムが風船に使われることはとても有名で、冒頭で例としても挙げました。

ヘリウムは2番目に軽い気体であり、その原子量は約4になります。空気の原子量は約29ですので、ヘリウムは空気より遥かに軽い気体であり、実際に風船が浮かぶことが説明できますね。

では、空気より軽い気体が数多くある中で、なぜヘリウムが使われているのでしょうか。その答えはすでに説明したことの中にあります。ヘリウムが不活性な気体であるためです。以前はヘリウムよりもさらに軽い水素ガスを使って風船をつくっていたこともありましたが、水素は不活性な気体ではないために引火性や爆発性があり、実際に事故も起こってしまいました。

もう1つ面白い話があります。膨らんでいる風船は時間が経つにつれて次第にしぼんでいきますよね。風船をそれぞれヘリウムと空気で膨らませたとき、ヘリウムで膨らませた風船は空気のときよりも早くしぼんでしまいます。これはなぜなのでしょうか?これをヘリウムの原子半径に注目して説明してみましょう。

風船の膜には肉眼では到底確認できないほど小さい穴が空いています。そして、ほどんとの気体分子はこの穴を通り抜けることができるのです。この通り抜けやすさは気体分子の大きさにも関係し、気体分子が小さいほど速く通り抜けることができます。ヘリウムは非常に半径の小さい原子であり風船の膜を簡単に通り抜けてしまうため、風船はすぐにしぼんでしまうのですね。

2-2.ヘリウムガス

ヘリウムはお祭りでよく見かける変声用のヘリウムガスでも使われています。

ヘリウムガスは空気よりも密度の低い気体です。そのため、発せられた声は空気中より速く体内を伝わるため、普段よりも声が高くなります。この現象は物理学の範囲ですので、気になった方はなぜなのか考えてみてください。

また、ヘリウムを吸っても体に害がないのも、先に解説したようにヘリウムが不活性ガスであることが理由になりますね。このことも是非関連づけておくと覚えやすいですね。

しかし、ここで1つ注意をしておかなければなりません。ヘリウムガスを吸っても体に害はないと解説しましたが、風船などに使うヘリウムガスを吸うと死に至ることもあります。この理由が分かるでしょうか?

どちらも同じ「ヘリウムガス」という名前で呼ばれるのでわかりにくいですが、両者は組成の異なる気体です。風船に使うようなヘリウムガスは純粋な気体ヘリウムであることが多いですが、変声用のものは違います。純粋なヘリウムガスを吸えば窒息する危険性があるため、変声用のヘリウムには20%程度の酸素が含まれているのです。実際、これを知らずに純粋なヘリウムガスを吸い込むという死亡事故も確認されています。

2-3.NMR

ヘリウムにはまだ説明していない特徴がもう1つあります。それは、ヘリウムは沸点の最も低い元素であるということです。その沸点は4.22K(-268.93℃)と、私たちには想像できません。この特徴は、どんなところに生かされているのでしょうか?

少し難しい話にはなりますが、化学者が目的の化合物が本当にできているのかを確認するためのNMRという装置があります。つくった化合物を溶液に溶かしてNMRという装置に入れると、どんな化合物ができたかのヒントになるデータを得ることができるのです。NMRは化学系の研究者なら誰もが利用する装置ですので、非常に重要な役割を担っていますね。

このNMRという装置には、超伝導磁石が組み込まれています。超電導とは、ある物質の温度を極低温まで下げることで抵抗が0になる現象のことです。この冷却に使われいるものこそがヘリウムになります。

3.深刻なヘリウム不足

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ヘリウムが比較的身近な気体であることは今まで解説した通りです。しかしその一方、世界規模で深刻なヘリウム不足が起こっています。

ヘリウムは地下の天然ガスから抽出されますが、その埋蔵量は少なく、近い将来枯渇することも危惧されているのほどです。世界のヘリウムの6割を生産するアメリカは、ヘリウムの国外販売停止を発表しました。また、その他の産出国であるカタールなどの中東諸国も外交問題等により円滑な出荷ができずにいます。

日本はヘリウムを生産することができない国ですので、研究機関に与えるダメージも非常に大きいでしょう。

現在、特に工業的に使われるヘリウムは再利用されずに排出されることが多くあります。これは、ヘリウムの再利用にかかる費用が大きいためです。このままヘリウム不足が続けば、ヘリウムの再利用は必須になりますね。また、ヘリウムの使用量を減らし、代わりとなる新たな資源を探すことも今後の課題となってきます。

ヘリウムは非常に安定な不活性ガス

ヘリウムは他の物質と反応しない、非常に安定な気体です。

そして、これこそが私たちの身の回りでも広く利用されている理由になります。

化学的な知識だけでなく、ヘリウム不足という深刻な問題があることも是非覚えておいてくださいね。

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