放射性同位体ってどんなものか知ってるか?

放射ってつくと放射能を連想し「なんだか怖い」と思うかもしれませんね。
ですが、放射性同位体ってやつは身近な物質にも含まれていて、濃度を調べると何万年前から地球に存在していたかわかるすごい原子なんです。

学生時代に放射性同位体の研究をしていたライターwingと一緒に解説していきます。

ライター/wing

元製薬会社研究員。小さい頃から化学が好きで、実験を仕事にしたいと大学で化学を専攻した。卒業後は化学分析・研究開発を生業にしてきた。学生時代に放射化学研究室で、放射性同位体について研究していた経験を活かし解説する。

1.放射性同位体とは何か?

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放射性同位体とは何でしょう?

原子番号が同じでも原子核に含まれる中性子の数が違う原子の事を同位体といいます。その同位体には安定なものと不安定なものが存在し、不安定なものは放射線を出しながら壊れて別の原子になってしまうのです。

この放射線を出しながら壊れてしまう不安定な同位体のことを放射性同位体といいます。

最初に「同位体とは何か?」から説明しましょう。

2.同位体とは

同位体とは原子番号が同じでも原子核に含まれる中性子の数が違う原子のことです。

原子核と中性子とはなんでしょう?

まず原子の構造をひも解いていきましょう。

2-1.原子の構造

2-1.原子の構造

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原子とはもともと、それ以上分割できない最小のものという意味です。

ですがその後の研究により原子がいくつかの異なる性質をもったものの集合体であるということがわかりました。

原子の中心にはプラスの電荷を帯びた原子核があります。そのまわりをぐるぐると周回する、マイナスの電荷を帯びた小さな粒が電子です。原子核はさらに陽子と電荷をもたない中性子に分けられます。

質量は陽子が1だとすると中性子も1、しかし電子は1800分の1くらいでとても小さいものです。このため原子の質量は、ほぼ原子核の質量で決まります。

次に炭素原子をモチーフにして、同位体をさらに詳しく見ていきましょう。

2-2.炭素で解説する同位体

2-2.炭素で解説する同位体

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ほとんどの元素には中性子数が異なる同位体が存在することをご存じでしょうか?

原子番号6の炭素には、中性子数が6の12Cと、中性子数が7の13Cと、中性子数が8の14Cという3つの同位体があります。自然界に存在する比率は、12Cが98.9%を占め、13Cが1.07%、14Cはごく微量しかありません。

このうち12Cと13Cは安定であり、14Cは放射性同位体です。

炭素原子に限らず、中性子数が違っても同位体の化学的性質はほとんど変わりません。

\次のページで「2-3.同位体と同素体」を解説!/

2-3.同位体と同素体

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同位体とよく似ている言葉で同素体という言葉があります。言葉は似ていますが全く違った意味ですので、混同しないように覚えておきましょう。

同素体というのは、同じ元素からなる単体同士で、結合の仕方が違うために異なる性質をもったもののことです。例えば、炭素(C)からできているダイヤモンドと黒鉛は同素体の関係になります。

同素体を持つ元素は以下の4つしかありません。

炭素(C):ダイヤモンド・黒鉛・フラーレン・カーボンナノチューブ

硫黄(S):斜方硫黄・単斜硫黄・ゴム状硫黄

酸素(O):酸素・オゾン

リン(P):黄リン・赤リン

それぞれの元素記号から、SCOP(スコップ)という覚え方が有名です。

3.放射性とは

同位体についてはわかりました。では放射性とはどのような性質なのでしょうか?

3-1.同位体には不安定なものもある

同位体の中には、安定しているものと不安定なものがあることは先ほど説明しました。不安定な同位体は放射線を出しながら壊れて、別の原子に変化してしまいます。この放射線を出しながら壊れてしまう同位体のことを放射性同位体というのです。

例えば炭素の放射性同位体(14C)は崩壊して窒素(14N)に変わってしまいます。14Nは安定でそれ以上崩壊することはありません。

\次のページで「3-2.放射能と放射線と放射性同位体の違い」を解説!/

3-2.放射能と放射線と放射性同位体の違い

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放射能とは放射線を出す能力のことをいいます。そして、放射線を出す元が放射性同位体です。放射線を光にたとえると、光源が放射性同位体で、光が放射線で、光を出す能力が放射能ということになりますね。

わたしたちはごく微量の放射線(自然放射線)を常に浴びているのです。自然放射線には、宇宙線が大気とぶつかってできる放射線と地球を構成している元素に含まれる放射線があります。地球上の生物たちは、大昔から自然放射線の中で暮らしてきたので、その程度の微量の放射線を浴びてもとくに害はありません

4.放射性同位体の活用

放射性同位体はその特異な性質から、様々な舞台で活用されています。

4-1.植物の品種改良

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植物に放射線をあてることにより突然変異を起こさせ、様々な品種を誕生させます。その中から美味しい、美しい、病気に強いなど、より良い品種を選んで育てることができますよね。

突然変異は自然にも発生しますが、放射線を使うと人工的に突然変異を起こすことができるので効率的な品種改良ができると期待されている技術です。

放射線照射によって品種改良された植物は、米、大豆、梨などがあります。

また観賞用の花に対しての品種改良は、菊など多くの種類で行われていて今までになかった色の花を咲かせることができると注目される技術です。

4-2.がんの治療

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一般的なのは、身体の外から放射線をあてる外部照射といわれる治療法ですが、放射性同位体を飲むことで、がん組織を破壊してがんを治す治療法もあるのです。

例えば甲状腺がんの患者さんに、ヨウ素の放射性同位体を服用してもらいます。甲状腺はヨウ素を取り込む性質があるので、ヨウ素の放射性同位体も甲状腺と腫瘍に取り込まれそこで放射線を出してがん組織を破壊するのです。

放射線治療は身体にメスを入れずに、がん組織にアプローチできるので身体への負担を抑えることができ副作用も少ない有効な治療法の一つとなっています。

4-3.14C年代測定法

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大気中の14Cの割合は、昔から変わっていないと考えられています。光合成で二酸化炭素として炭素を取り込んでいる植物の中にある14Cの割合も一定であり、その植物を食べている動物の中にある14Cの割合も一定です。

しかし、植物が枯れたり倒れたりすると二酸化炭素を取り込めなくなります。すると14Cは次第に放射線を出して崩壊し数が減っていくのです

放射性同位体の減っていく速さには決まりがあり、半分に減る時間を半減期といいます。14Cの半減期は5730年です。一方12Cは安定なので減りません。

そこで、12Cと14Cの割合を比べることで14Cがどのくらい減っているかがわかり、その生物がいつ死んだかがわかります。例えば14Cが半分に減っていることがわかれば、その生物が死んでから5730年経っているということです。

放射性同位体=ラジオアイソトープとは放射線を出しながら壊れてしまう同位体のこと

不変だと思われていた原子の中にも、それぞれの速度(半減期)で崩壊して別の原子になってしまうものがありました。

原子番号が同じでも中性子数が異なる同位体の中で、放射線を出しながら壊れて別の原子になってしまう同位体が放射性同位体です。

放射性同位体は放射線を出すという特異な能力(放射能)により様々な分野で活用されています。

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化学

身近な原子「放射性同位体=ラジオアイソトープ」とは何か?元研究員がわかりやすく解説

放射性同位体ってどんなものか知ってるか?

放射ってつくと放射能を連想し「なんだか怖い」と思うかもしれませんね。
ですが、放射性同位体ってやつは身近な物質にも含まれていて、濃度を調べると何万年前から地球に存在していたかわかるすごい原子なんです。

学生時代に放射性同位体の研究をしていたライターwingと一緒に解説していきます。

ライター/wing

元製薬会社研究員。小さい頃から化学が好きで、実験を仕事にしたいと大学で化学を専攻した。卒業後は化学分析・研究開発を生業にしてきた。学生時代に放射化学研究室で、放射性同位体について研究していた経験を活かし解説する。

1.放射性同位体とは何か?

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放射性同位体とは何でしょう?

原子番号が同じでも原子核に含まれる中性子の数が違う原子の事を同位体といいます。その同位体には安定なものと不安定なものが存在し、不安定なものは放射線を出しながら壊れて別の原子になってしまうのです。

この放射線を出しながら壊れてしまう不安定な同位体のことを放射性同位体といいます。

最初に「同位体とは何か?」から説明しましょう。

2.同位体とは

同位体とは原子番号が同じでも原子核に含まれる中性子の数が違う原子のことです。

原子核と中性子とはなんでしょう?

まず原子の構造をひも解いていきましょう。

2-1.原子の構造

2-1.原子の構造

image by Study-Z編集部

原子とはもともと、それ以上分割できない最小のものという意味です。

ですがその後の研究により原子がいくつかの異なる性質をもったものの集合体であるということがわかりました。

原子の中心にはプラスの電荷を帯びた原子核があります。そのまわりをぐるぐると周回する、マイナスの電荷を帯びた小さな粒が電子です。原子核はさらに陽子と電荷をもたない中性子に分けられます。

質量は陽子が1だとすると中性子も1、しかし電子は1800分の1くらいでとても小さいものです。このため原子の質量は、ほぼ原子核の質量で決まります。

次に炭素原子をモチーフにして、同位体をさらに詳しく見ていきましょう。

2-2.炭素で解説する同位体

2-2.炭素で解説する同位体

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ほとんどの元素には中性子数が異なる同位体が存在することをご存じでしょうか?

原子番号6の炭素には、中性子数が6の12Cと、中性子数が7の13Cと、中性子数が8の14Cという3つの同位体があります。自然界に存在する比率は、12Cが98.9%を占め、13Cが1.07%、14Cはごく微量しかありません。

このうち12Cと13Cは安定であり、14Cは放射性同位体です。

炭素原子に限らず、中性子数が違っても同位体の化学的性質はほとんど変わりません。

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