今回は「揮発」について勉強していこう。

「揮発」は日常でもときどき目にする言葉だと思うが、どういう意味かと言われると意外と説明に困るんじゃないか?

そんな「揮発」という言葉について、化学に詳しいライターずんだもちと一緒に解説していきます。

ライター/ずんだもち

化学系の研究室で日々研究を重ねる理系学生。1日の半分以上の時間を化学実験に使う化学徒の鑑。受験生のときは化学が得意でなかったからこそ、化学を苦手とする人の立場に立ってわかりやすく解説する。

1.そもそも揮発とは?

image by iStockphoto

日常ではガソリンなどの液体に対して使われることが多い「揮発」という言葉。いったいどういう意味なのでしょうか?

揮発とは「液体が常温において表面から気体になること」という意味でよく使われる言葉です。ここでのポイントは「常温」と「表面」。この2つのポイントを押さえると、同じような意味で使われる「蒸発」「気化」「沸騰」などの言葉と区別できるようになります。

image by Study-Z編集部

「蒸発」「気化」「沸騰」「揮発」とは

これらの言葉は一般的に上の図のように使われることが多いです。液体が気体になるという単純な現象を大きく「気化」と呼び、液面から気化するものを「蒸発」、液体内部から気化するものを「沸騰」と呼びます。この蒸発のうち、常温におけるものが「揮発」になります。

しかし、日常会話ではこのような使い分けをしないことも多くあります。また、気化と蒸発を同じ意味と説明しているものもあり、言葉の定義は曖昧です。ここでは、揮発の意味をしっかり押さえておきましょう。

2.揮発はなぜ起こる?

では、揮発はなぜ起こるのでしょうか。

2-1.机にこぼした水はずっとそのまま?

image by iStockphoto

まず、揮発という現象の身近な例を考えてみましょう。

水が100℃で蒸発することは有名ですね。では、机の上に少し水をこぼしてしまったとしましょう。この水はいつまでも机の上にあるのでしょうか?

答えは「いいえ」です。そして、これがまさに「揮発」になります。机にこぼした水は100℃にはならないので、常温のまま気体へと変化したことになりますね。沸点に達していない液体が気体になるというのは不思議ですね。

\次のページで「2-2.温度は分子運動の激しさの平均値」を解説!/

2-2.温度は分子運動の激しさの平均値

この不思議な現象を理解するには、「温度」について知る必要があります。

温度とは、物質に含まれる分子の運動の激しさを表す値です。温度が高くなると分子の運動は激しくなり、絶対零度まで下がれば分子運動はほぼ止まります。

しかし、20℃の水であってもすべての水分子が同じ激しさで分子運動をしているわけではありません。20℃の水の中にはほとんど運動してない分子からかなり激しく運動している分子まで存在します。これらの運動の激しさを平均すると20℃に相当する、というイメージを持ってもらえれば良いでしょう。

ここまで理解が進むと揮発がなぜ起こるのかが分かるのではないでしょうか。室温の水の中にも気化するのに十分なエネルギーを持った分子が一定の割合で存在し、その分子が気化することで揮発が起こるというメカニズムです。

2-3.揮発のしやすさは液体によって違う

揮発のしやすさは液体によって異なります。

ここで、この「揮発のしやすさ」のことを「揮発性」と呼ぶことを覚えておきましょう。「揮発性の高い(=揮発しやすい)液体」「揮発性の液体」などの言い回しでよく使われる言葉です。逆に、揮発しにくい液体のことは「不揮発性の液体」と呼ばれます。

では、揮発性の違いはなぜ起こるのでしょうか?

その答えは液体分子同士の間に働く「分子間力」です。分子と分子の間にはお互いを引きつける分子間力が働いていて、この力が大きくなると液体分子は液体中に拘束されるために液体表面から飛び出しにくくなり、結果として揮発性が低くなります。

この分子間力の正体は電気的な力であり、その大きさは分子の極性(電荷の偏り)が大きいほど大きくなるのです。

3.化学反応における揮発性

化学反応においても、揮発性はキーワードです。高校化学では以下のような公式を習いますよね。

「揮発性酸の塩+不揮発性酸→不揮発性酸の塩+揮発性酸」

これはどのような意味なのでしょうか?

この公式の意味を理解するには、まずルシャトリエの原理を知る必要があります。ルシャトリエの原理とは、平衡状態にある系に対して物質を加えたり温度を上げるたりするなどの変化を加えた時、反応がどちらに進むかを決める原理です。ルシャトリエの原理によれば、反応は加えた変化を打ち消す方向に進むとされています。

例えば、A+B⇄Cという反応があるとしましょう。平衡状態の系から物質Bを少しだけ取り除くとします。このとき、変化を打ち消す方向というのは、物質Bを増やすことになる左向きの矢印です。つまり、物質Bを取り除くと反応は左向きに進行します。

実はこれと同じことを考えると先ほどの公式を説明できるのです。公式中に出てくる4つの物質のうち、自然と系中から取り除かれるものはどれでしょう?答えは揮発性酸ですね。揮発性酸が系中から出て行くと、これを打ち消すように反応が進むことになります。これが、公式の反応が右向きに進む理由です

4.身近な例

机にこぼした水の話を例に挙げて揮発を説明しましたが、実はこの他にも身近なところで揮発が起こっていることを確認できる例があります。

4-1.匂い

image by iStockphoto

私たちの身の回りには、匂いのする液体がたくさんあります。調味料や香水からは心地の良い香りがしますし、反対に不快な匂いを持つものも多いです。

では、なぜ匂いを感じることができるのでしょうか。

その答えはまさに「揮発性」。日頃は考えないようなことですが、私たちが匂いを感じている時点で、その液体から揮発した分子は鼻の中の嗅細胞に達しているのです。人が不快な匂いを感じたときには、すでにその物質は体内に入ってきています。あまり考えたくないような現象ですね。

\次のページで「4-2.雨のゆくえ」を解説!/

4-2.雨のゆくえ

image by iStockphoto

地球には日々大量の雨が降り注いでいます。例えば、この雨の多くが降り注ぐのは海です。では、海に降った雨はどこに行くのでしょうか?

答えはもちろん「蒸発して大気中に戻る」になります。大気中に戻らなければ、地球上の陸地はすぐに浸水してしまいますね。

しかし、地球上の水は100℃に達しているわけではありません。つまり、「海から大気中に水が揮発している」のです。これだけ考えても相当量の水が揮発していることがわかりますね。

液体は沸点に達しなくても蒸発している

「液体は沸点に達すると気体になる」と習うことが多いため見落としがちですが、気体になる分子は沸点に達しなくても存在します。

一度理解すると当然のことのように思えるかもしれませんが、意外と考えたことがなかったのではないでしょうか?

温度が分子運動の激しさの平均であることなども含めてしっかり覚えておきましょう。

" /> 「揮発」って何?身近な例とともに化学系学生ライターがわかりやすく解説 – Study-Z
化学

「揮発」って何?身近な例とともに化学系学生ライターがわかりやすく解説

今回は「揮発」について勉強していこう。

「揮発」は日常でもときどき目にする言葉だと思うが、どういう意味かと言われると意外と説明に困るんじゃないか?

そんな「揮発」という言葉について、化学に詳しいライターずんだもちと一緒に解説していきます。

ライター/ずんだもち

化学系の研究室で日々研究を重ねる理系学生。1日の半分以上の時間を化学実験に使う化学徒の鑑。受験生のときは化学が得意でなかったからこそ、化学を苦手とする人の立場に立ってわかりやすく解説する。

1.そもそも揮発とは?

image by iStockphoto

日常ではガソリンなどの液体に対して使われることが多い「揮発」という言葉。いったいどういう意味なのでしょうか?

揮発とは「液体が常温において表面から気体になること」という意味でよく使われる言葉です。ここでのポイントは「常温」と「表面」。この2つのポイントを押さえると、同じような意味で使われる「蒸発」「気化」「沸騰」などの言葉と区別できるようになります。

image by Study-Z編集部

「蒸発」「気化」「沸騰」「揮発」とは

これらの言葉は一般的に上の図のように使われることが多いです。液体が気体になるという単純な現象を大きく「気化」と呼び、液面から気化するものを「蒸発」、液体内部から気化するものを「沸騰」と呼びます。この蒸発のうち、常温におけるものが「揮発」になります。

しかし、日常会話ではこのような使い分けをしないことも多くあります。また、気化と蒸発を同じ意味と説明しているものもあり、言葉の定義は曖昧です。ここでは、揮発の意味をしっかり押さえておきましょう。

2.揮発はなぜ起こる?

では、揮発はなぜ起こるのでしょうか。

2-1.机にこぼした水はずっとそのまま?

image by iStockphoto

まず、揮発という現象の身近な例を考えてみましょう。

水が100℃で蒸発することは有名ですね。では、机の上に少し水をこぼしてしまったとしましょう。この水はいつまでも机の上にあるのでしょうか?

答えは「いいえ」です。そして、これがまさに「揮発」になります。机にこぼした水は100℃にはならないので、常温のまま気体へと変化したことになりますね。沸点に達していない液体が気体になるというのは不思議ですね。

\次のページで「2-2.温度は分子運動の激しさの平均値」を解説!/

次のページを読む
1 2 3
Share: