今回は副腎から分泌されるホルモンのひとつである鉱質コルチコイドについてみていこう。名前の良く似た「糖質コルチコイド」との違いや、鉱質コルチコイドのはたらき、その意味など、多くの受験生にとってとっつきにくいポイントを重点的に解説してもらう。

生物のからだに詳しい現役講師のオノヅカユウを招いたぞ。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

鉱質コルチコイドとは?

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By Image:Aldosterone-2D-skeletal.png by Ben Mills, vectorized by Fvasconcellos (トーク · 投稿記録) - Vector version of Image:Aldosterone-2D-skeletal.png., パブリック・ドメイン, Link

鉱質コルチコイドは副腎髄質から分泌されるホルモンです。英語ではミネラルコルチコイド(Mineralcorticoid)というほか、電解質コルチコイドという名前でよばれることも。アルドステロンやデスオキシコルチコステロン、フルドロコルチゾンなどの化学物質が、鉱質コルチコイドとしてはたらきます。

副腎髄質とは?

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By EEOC - cancer.gov, パブリック・ドメイン, Link

ここで、私たちの体内にある重要な内分泌器官のひとつである副腎について確認しておきましょう。副腎は腎臓のすぐ上に、まるで帽子のように乗っかっている小さな器官です。副腎は内部の組織を「髄質」、外側に位置している組織を「皮質」といい、それぞれの場所で分泌されるホルモンが異なっています。副腎髄質から分泌されるホルモンの代表はアドレナリンです。

さらに、副腎髄質は3層で形成されており、外側からそれぞれ球状層、束状層、網状層といいます。鉱質コルチコイドが合成されるのはもっとも外側に位置する球状層です。

鉱質コルチコイドと糖質コルチコイド

鉱質コルチコイドとよく似た名前のホルモンに糖質コルチコイドがあります。糖質コルチコイドは鉱質コルチコイドと同じく副腎の皮質(ただし束状帯)で合成されるホルモンです。

名前の音も字面もよく似ているため、混乱してしまいますよね。それもそのはず、そもそも「コルチコイド(coricoid)」は皮質を意味する「コルテックス(cortex)」からきています。この2つのホルモンに共通して「コルチコイド」という言葉が使われているのは、両者とも副腎皮質から分泌されるためなんですね。

さらに、どちらもコレステロールを原料に合成されるステロイド系のホルモンであることも共通しています。

鉱質コルチコイドのはたらき

鉱質コルチコイドが分泌されると、腎臓でのナトリウムイオンの吸収を促進します。また、それとは逆にカリウムイオンについては排出を促進し、体液のバランスをとっているのです。ナトリウムイオンやカリウムイオンなどのミネラルのバランスを整えることから、ミネラルコルチコイド=鉱質コルチコイドという名前だということが、お分かりいただけると思います。

ナトリウムイオンやカリウムイオンは何のために調節が必要?

高校の生物の教科書(とくに生物基礎)では、「鉱質コルチコイド=ナトリウムイオンやカリウムイオンの調節」くらいしか説明されず、とにかく無理やり覚えてしまうことがよくあります。しかしながら、そんな生徒たちに「ナトリウムイオンやカリウムイオンは細胞にとってどんな役割をしているの?」と質問しても、答えられないことがほとんどです。

鉱質コルチコイドのはたらきと合わせ、ナトリウムイオンやカリウムイオンがなぜ調節されなくてはいけないのか、細胞にとってなぜ必要なのかも合わせてチェックしておきましょう。

ナトリウムイオンの役割

「塩分が人のからだにとって必要不可欠」というのは皆さんご存知の通り。たくさん汗をかく夏場は熱中症予防のためとしきりに塩分(NaCl)を摂りますよね。

私たちの体液にはナトリウムイオンが溶け込んでいます。体液は細胞内を満たす細胞内液と、血液やリンパ液などの細胞外液に分けることができますが、ナトリウムイオンは細胞外液の方に多く存在し、細胞内液との浸透圧のバランスをとっているんです。

\次のページで「カリウムイオンの役割」を解説!/

細胞内液の濃度よりも細胞外液の濃度が小さいと(細胞外液のほうが薄いと)、細胞内へどんどん水が入って行ってしまう可能性があります。その逆もしかり。細胞内液と外液の濃度を一定に保つことは、一つ一つの細胞が正常にはたらくために必要な条件なんです。

細胞内外のナトリウムイオンや後述するカリウムイオンはポンプによって輸送でき、多少の濃度調節をすることができますが、あまりの濃度差があると細胞のポンプもついていけなくなります。普段ナトリウムを摂りすぎた場合は、尿中に排出することでナトリウムイオンが増えすぎないよう調節されているんです。

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一方、ナトリウムの摂取量が少なかったり、汗をたくさん書いてナトリウムが体外にたくさん排出されてしまった場合はどうでしょう?少しでもナトリウムイオンを体内に残すため、尿の量を少なくするとともに、排出されそうだったナトリウムイオンを血液中に戻す「再吸収」が促進されます。このときにはたらくのが鉱質コルチコイドなんですね。

カリウムイオンの役割

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ナトリウムイオンが細胞外液に多いという話をしましたが、実は細胞内液に多いのがカリウムイオンなんです。ナトリウムイオンの減少で細胞外液が薄くなっているのであれば、カリウムイオンも減らせば細胞内外の濃度差が大きくならずに済みます。ナトリウムイオンを再吸収するのと同時にカリウムイオンは排出を促進することで、浸透圧のバランスが保たれるのです。

ナトリウムイオンやカリウムイオンのはたらきは浸透圧のバランス調節だけではありません。神経細胞の興奮伝達筋肉の細胞のはたらきにおいてもこれらのイオンが不可欠なんです。ナトリウムイオンやカリウムイオンのアンバランスが続くと、神経や筋肉が正常にはたらかなくなり、命に関わるほどの危険な状態に陥ることもあります。

鉱質コルチコイドに関連した病気

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前述の通り、鉱質コルチコイドや糖質コルチコイドなどは副腎皮質から分泌されるホルモンですが、これらの生産量が低下し、からだにさまざまな症状が現れるようになってしまう病気があります。それが、アジソン病、または慢性原発性副腎皮質機能低下症です。

副腎皮質が破壊され、鉱質コルチコイドや糖質コルチコイドの分泌が足りなくなることで、ナトリウムイオンやカリウムイオンのバランスが崩れ、吐き気や脱力感、低血糖などの症状が現れます。日本でも難病に指定されている、治療の難しい病気です。

この病気の患者さんは、人工的に合成した鉱質コルチコイド(フルドロコルチゾン)や糖質コルチコイド(ヒドロコルチゾン)を服用することになります。副腎はあまり目立たない器官ですが、とても重要な役割を果たしているんですね。

鉱質コルチコイドと糖質コルチコイドの違いをおさえよう

ここまで読んでくれたあなたは、鉱質コルチコイドのことをしっかり意識できるようになったはず。「名前は覚えたけれど糖質コルチコイドと混ざってしまうし、そのはたらきもよくわからなくなる…」と思っていた人も、違いがはっきり分かったのではないでしょうか?ナトリウムイオンやカリウムイオンの体内での重要性と合わせ、しっかりと覚えておきましょう。

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タンパク質と生物体の機能理科生物

3分で簡単にわかる「鉱質コルチコイド」!糖質コルチコイドとの違いも現役講師がわかりやすく解説!

今回は副腎から分泌されるホルモンのひとつである鉱質コルチコイドについてみていこう。名前の良く似た「糖質コルチコイド」との違いや、鉱質コルチコイドのはたらき、その意味など、多くの受験生にとってとっつきにくいポイントを重点的に解説してもらう。

生物のからだに詳しい現役講師のオノヅカユウを招いたぞ。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

鉱質コルチコイドとは?

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鉱質コルチコイドは副腎髄質から分泌されるホルモンです。英語ではミネラルコルチコイド(Mineralcorticoid)というほか、電解質コルチコイドという名前でよばれることも。アルドステロンやデスオキシコルチコステロン、フルドロコルチゾンなどの化学物質が、鉱質コルチコイドとしてはたらきます。

副腎髄質とは?

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ここで、私たちの体内にある重要な内分泌器官のひとつである副腎について確認しておきましょう。副腎は腎臓のすぐ上に、まるで帽子のように乗っかっている小さな器官です。副腎は内部の組織を「髄質」、外側に位置している組織を「皮質」といい、それぞれの場所で分泌されるホルモンが異なっています。副腎髄質から分泌されるホルモンの代表はアドレナリンです。

さらに、副腎髄質は3層で形成されており、外側からそれぞれ球状層、束状層、網状層といいます。鉱質コルチコイドが合成されるのはもっとも外側に位置する球状層です。

鉱質コルチコイドと糖質コルチコイド

鉱質コルチコイドとよく似た名前のホルモンに糖質コルチコイドがあります。糖質コルチコイドは鉱質コルチコイドと同じく副腎の皮質(ただし束状帯)で合成されるホルモンです。

名前の音も字面もよく似ているため、混乱してしまいますよね。それもそのはず、そもそも「コルチコイド(coricoid)」は皮質を意味する「コルテックス(cortex)」からきています。この2つのホルモンに共通して「コルチコイド」という言葉が使われているのは、両者とも副腎皮質から分泌されるためなんですね。

さらに、どちらもコレステロールを原料に合成されるステロイド系のホルモンであることも共通しています。

鉱質コルチコイドのはたらき

鉱質コルチコイドが分泌されると、腎臓でのナトリウムイオンの吸収を促進します。また、それとは逆にカリウムイオンについては排出を促進し、体液のバランスをとっているのです。ナトリウムイオンやカリウムイオンなどのミネラルのバランスを整えることから、ミネラルコルチコイド=鉱質コルチコイドという名前だということが、お分かりいただけると思います。

ナトリウムイオンやカリウムイオンは何のために調節が必要?

高校の生物の教科書(とくに生物基礎)では、「鉱質コルチコイド=ナトリウムイオンやカリウムイオンの調節」くらいしか説明されず、とにかく無理やり覚えてしまうことがよくあります。しかしながら、そんな生徒たちに「ナトリウムイオンやカリウムイオンは細胞にとってどんな役割をしているの?」と質問しても、答えられないことがほとんどです。

鉱質コルチコイドのはたらきと合わせ、ナトリウムイオンやカリウムイオンがなぜ調節されなくてはいけないのか、細胞にとってなぜ必要なのかも合わせてチェックしておきましょう。

ナトリウムイオンの役割

「塩分が人のからだにとって必要不可欠」というのは皆さんご存知の通り。たくさん汗をかく夏場は熱中症予防のためとしきりに塩分(NaCl)を摂りますよね。

私たちの体液にはナトリウムイオンが溶け込んでいます。体液は細胞内を満たす細胞内液と、血液やリンパ液などの細胞外液に分けることができますが、ナトリウムイオンは細胞外液の方に多く存在し、細胞内液との浸透圧のバランスをとっているんです。

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