今回は副腎から分泌されるホルモンのひとつである糖質コルチコイドについてみていきます。普段あまり耳にしない名前ですが、一部の薬などに利用されている大切なホルモンです。受験などで問われることもあるホルモンだから、しっかり押さえておこう。

生物のからだに詳しい現役講師のオノヅカユウを招いたぞ。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

糖質コルチコイドとは?

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By David Richfield (User:Slashme) and Mikael Häggström. Derived from previous version by Hoffmeier and Settersr. In external use, this diagram may be cited as: (2014). "Diagram of the pathways of human steroidogenesis". WikiJournal of Medicine 1 (1). DOI:10.15347/wjm/2014.005. ISSN 20018762. - Häggström M, Richfield D (2014). "Diagram of the pathways of human steroidogenesis". WikiJournal of Medicine 1 (1). DOI:10.15347/wjm/2014.005. ISSN 20024436., CC 表示-継承 3.0, Link

糖質コルチコイドは、腎臓のすぐ上にある内分泌器官、副腎の皮質から分泌されるホルモンです。私たちヒトの体内では、コルチゾールやコルチコステロン、コルチゾンなどの化学物質が、この糖質コルチコイドとしてはたらきます。

のちほど詳しくご紹介しますが、糖質コルチコイドは「糖質」という言葉からもわかる通り、血糖値の調節に関係するホルモンです。この「糖質」という言葉を言い換えてグルココルチコイドという名前でよばれることもあります。

糖質コルチコイドは「ステロイドホルモン」の一種

糖質コルチコイドとしてはたらく物質はいずれも「ステロイド」という構造がベースになっていることから、「ステロイドホルモン」というグループに分類されます。名前の良く似た「鉱質コルチコイド」や、男性ホルモンとして有名な「アンドロゲン」、女性ホルモン「エストロゲン」なども、このステロイドホルモンの仲間です。

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By Boghog2 - 投稿者自身による作品, パブリック・ドメイン, Link

私たちのからだの中にはステロイドホルモン以外にも、ビタミンDや胆汁酸などのステロイド系の物質が存在し、それぞれが重要なはたらきを担っています。それらの原料として重要なのが、コレステロールです。ある程度年齢を重ねると、健康診断などで「コレステロール値を下げましょう」などとお医者さんから言われる、あのコレステロール。なんとなく体に良くないイメージがある人もいると思いますが、ステロイドホルモンをはじめとする多くのステロイド系の物質の合成に必要な物質なんです。

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糖質コルチコイドの分泌調節

糖質コルチコイドの分泌を調節しているのは、脳下垂体の前葉から分泌される副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)です。さらに副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)は間脳の視床下部から分泌される副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン(CRH)によって分泌が促進されます。

副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン(CRH)
  ↓
副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)
  ↓
糖質コルチコイド

血中の糖質コルチコイド量が多くなると、それを感知して副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン(CRH)の分泌が減り、結果的に糖質コルチコイドの分泌量が抑えられます。ホルモンの分泌が過剰になりすぎないようにする、すごい仕組みですよね。これをフィードバック調節といいます。

糖質コルチコイドのはたらき

それでは、糖質コルチコイドにはどんな特徴があるのか、作用するとからだにどんな変化が現れるのかなどを具体的にみていきましょう。

糖質コルチコイドは血糖値の上昇させる

image by iStockphoto

糖質コルチコイドの主なはたらきは、血糖値を上昇させることです。血糖値を維持することは、私たちの脳や筋肉が正常に動くためになくてはならない機能。自然界では獲物が安定して手に入ることは少なく、血糖値が低くなりすぎてしまう危機にさらされやすかったためか、血糖値を上昇させるホルモンがいくつか体内に備わっています。そのうちのひとつが糖質コルチコイドなんですね。

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image by iStockphoto

糖質コルチコイドが血糖値を上昇させる仕組みは、『糖新生』とよばれます。肝臓でアミノ酸などの糖以外の物質からグルコースをつくりだし、血中のグルコース濃度を上げるんです。さらに、糖質コルチコイドには細胞のグルコース取り込みを抑制する作用もあるといわれています。

糖質コルチコイドは抗炎症作用をもっている

高校の生物学などではほとんど触れられませんが、糖質コルチコイドには組織の炎症を抑えるという作用もあります。炎症が起きている部分では白血球が免疫応答し、血管が膨れて血液中から白血球の増援をよんでいる状態です。糖質コルチコイドは血管の膨れを抑えたり、白血球のはたらきを抑制することで、炎症のはれや痛みを緩和します。

この作用を利用したのが、後述する薬剤としてのステロイド外用薬です。

糖質コルチコイドはストレスを感じた時にもでる

私たちが身体的・心理的ストレスを感じると、糖質コルチコイドの分泌量が増えることがわかっています。これは、糖質コルチコイドの分泌を促す副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)の分泌が増えることによりますが、なぜストレスに対して糖質コルチコイドが必要なのか、はっきりとはわかっていないようです。それでも、ストレスに対抗する何らかの意味があると考えられることから、糖質コルチコイドを抗ストレスホルモンとよぶことがあります。

糖質コルチコイドを利用した薬

image by iStockphoto

人工的に合成された糖質コルチコイドの類似物質を利用した薬があります。身近なものも多いので、いくつかご紹介しましょう。

ステロイド外用薬

糖質コルチコイドのもつ強力な抗炎症作用を利用したのが、アトピー性皮膚炎やそのほかの皮膚病の治療によく用いられるステロイド外用薬。塗るとかゆみや腫れがすぐに収まる、心強い薬です。作用が強めのものから弱めのものまで種類があります。

あまり頻繁に使うと副腎に悪影響が出ることもありますが、医師に処方されたとおり、適量を守って使えばそれほど心配はいらないでしょう。

SAIDs(セイズ)

体内で起きている炎症を抑えるために、糖質コルチコイドの類が含まれた内服薬や注射薬を使うことがあります。SAIDs(Steroidal Anti-Inflammatory Drugs:ステロイド系抗炎症薬)とよばれ、医療現場でもたびたび使われる薬です。

こちらもやはり強い効果を持つ薬ですが、使いすぎると糖尿病や副腎不全などの副作用が出ることがあります。副作用の影響を重くみて、1960年代に新たに開発されたのが、ステロイドを含まない抗炎症薬NSAIDs(Non-Steroidal Anti-Inflammatory Drugs:非ステロイド系抗炎症薬)です。ドラッグスストアなどで気軽に買える風邪薬や鎮痛剤にはこのNSAIDsがよく使われています。

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糖質コルチコイドで第一に抑えるべき作用は「血糖値の上昇」

話が抗炎症作用の方に偏ってしまいましたが、高校の生物学で押さえておいてほしいのは、糖質コルチコイドの主要な作用である「血糖値の上昇」です。「『糖質』コルチコイドだから、糖に関係する」という印象で記憶しましょう。もちろん、医学や薬学を勉強している人であれば糖質コルチコイドのもつ抗炎症作用も忘れずに。

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タンパク質と生物体の機能理科生物

副腎から分泌される「糖質コルチコイド」って何?現役講師が5分でわかりやすく解説!

今回は副腎から分泌されるホルモンのひとつである糖質コルチコイドについてみていきます。普段あまり耳にしない名前ですが、一部の薬などに利用されている大切なホルモンです。受験などで問われることもあるホルモンだから、しっかり押さえておこう。

生物のからだに詳しい現役講師のオノヅカユウを招いたぞ。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

糖質コルチコイドとは?

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By David Richfield (User:Slashme) and Mikael Häggström. Derived from previous version by Hoffmeier and Settersr. In external use, this diagram may be cited as: (2014). “Diagram of the pathways of human steroidogenesis“. WikiJournal of Medicine 1 (1). DOI:10.15347/wjm/2014.005. ISSN 20018762. – Häggström M, Richfield D (2014). “Diagram of the pathways of human steroidogenesis”. WikiJournal of Medicine 1 (1). DOI:10.15347/wjm/2014.005. ISSN 20024436., CC 表示-継承 3.0, Link

糖質コルチコイドは、腎臓のすぐ上にある内分泌器官、副腎の皮質から分泌されるホルモンです。私たちヒトの体内では、コルチゾールやコルチコステロン、コルチゾンなどの化学物質が、この糖質コルチコイドとしてはたらきます。

のちほど詳しくご紹介しますが、糖質コルチコイドは「糖質」という言葉からもわかる通り、血糖値の調節に関係するホルモンです。この「糖質」という言葉を言い換えてグルココルチコイドという名前でよばれることもあります。

糖質コルチコイドは「ステロイドホルモン」の一種

糖質コルチコイドとしてはたらく物質はいずれも「ステロイド」という構造がベースになっていることから、「ステロイドホルモン」というグループに分類されます。名前の良く似た「鉱質コルチコイド」や、男性ホルモンとして有名な「アンドロゲン」、女性ホルモン「エストロゲン」なども、このステロイドホルモンの仲間です。

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私たちのからだの中にはステロイドホルモン以外にも、ビタミンDや胆汁酸などのステロイド系の物質が存在し、それぞれが重要なはたらきを担っています。それらの原料として重要なのが、コレステロールです。ある程度年齢を重ねると、健康診断などで「コレステロール値を下げましょう」などとお医者さんから言われる、あのコレステロール。なんとなく体に良くないイメージがある人もいると思いますが、ステロイドホルモンをはじめとする多くのステロイド系の物質の合成に必要な物質なんです。

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