高校で学ぶ「生物基礎」の科目のうち、多くの学生が苦手意識を持つのが『恒常性』の分野です。各器官にさまざまな変化をもたらす自律神経に加え、いくつものホルモンが登場して混乱しやすい。

「血糖値調節」の仕組みを学習すると、膵臓から2種類の血糖値に関するホルモンが出ていることを学ぶでしょう。今回はそんな血糖値調節に関与する重要ホルモン「グルカゴン」についてみていきます。生き物のからだに詳しいオノヅカユウを招いた。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

グルカゴンとは?

グルカゴンは29のアミノ酸がくっついてできているペプチドホルモンの一種。主に膵臓のランゲルハンス島から分泌されるほか、胃や十二指腸などの消化器官からも分泌されることがわかっています。膵臓のランゲルハンス島は重要なホルモンを分泌する組織ですので、しっかり復習しましょう。

膵臓、ランゲルハンス島とは?

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By Takuma-sa - file from wikimedia commons, パブリック・ドメイン, Link

膵臓は胃のすぐ下にある臓器で、胃と小腸をつなぐ十二指腸につながっています。十二指腸へ膵液という消化液を分泌する「外分泌腺」としての役割と、ホルモンを合成・分泌する「内分泌腺」としての役割を持つ、地味ながらも大切な臓器です。

膵液をつくる外分泌腺の細胞の間に浮かぶようにして存在する、内分泌細胞のかたまりが「ランゲルハンス島」とよばれています。名前の由来は、発見者のパウル・ランゲルハンス(1847~1888、ドイツ)からです。

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By User:Polarlys - 投稿者自身による作品, CC 表示 2.5, Link

ランゲルハンス島は5種類の細胞が集まってできていますが、それらの細胞はそれぞれ違うホルモンを合成・分泌しています。グルカゴンを分泌している細胞は、A細胞(α細胞)。ほかにも、インスリンを分泌するB細胞(β細胞)や、ソマトスタチンを分泌するD細胞(δ細胞)などからなっています。

グルカゴン同様に関与するインスリンもランゲルハンス島から分泌されるため、混乱しやすいですが、それぞれのホルモンが分泌される細胞の名前はしっかり覚えましょう。グルカゴン=A細胞、インスリン=B細胞です。

グルカゴンのはたらきは?

image by iStockphoto

グルカゴンの主なはたらきは、ずばり血糖値の上昇です。おなかがペコペコで血液中の血糖値が低くなっているとき、膵臓からのグルカゴン分泌が促されます。

分泌されたグルカゴンはからだの様々なところで作用しますが、とくに重要なのが肝臓でのグリコーゲン分解と、糖新生です。2つの血糖値上昇システムについて、少し詳しくみてみましょう。

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グリコーゲン分解→血糖値上昇

肝臓には、普段摂りすぎた必要以上の糖分(グルコース)を蓄えるというはたらきがあります。グルコースは、グリコーゲンという多糖類の形で貯蔵され、血糖値が低くなった時にはこれを分解することでグルコースの量を増やすのです。グルカゴンは、このグリコーゲンの分解を促すホルモン。低血糖状態は動物にとって危機的な状況ですので、少しでも血糖値を維持できるよう、精巧に調節されています。

糖新生→血糖値上昇

グリコーゲンの分解以外にもう一つ、血糖値を上げる手段があります。それが、糖新生という仕組みです。通常、細胞に取り入れられたグルコースは、ピルビン酸や乳酸などの物質に代謝されます。その過程でできるATPをさまざまな活動のエネルギー源としますが、糖新生では逆に、ピルビン酸や乳酸などからグルコースをつくるんです。

また、極端な飢餓状態の場合には筋肉などに含まれるアミノ酸が分解され、できたアミノ酸を材料としてグルコースをつくります。これらのように、糖以外の物質から新しく糖を生み出す仕組みが糖新生。グルカゴンはこの糖新生も促進します。

血糖値調節に関わるホルモンたち

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体内の血糖値をちょうどいい量に保つため、私たちのからだでは血糖値を上げるホルモンや、血糖値を下げるホルモンが常にバランスよくはたらいています。血糖値を上げるグルカゴンのほかには、どんなホルモンがあるのでしょうか?

血糖値を上昇させるホルモンはたくさんある

正常な血糖値はおおむね100mg/dL(=100mlあたり100mg)。いつ餌が手に入るかわからない自然界では、血糖が足りなくなる心配が常につきまといます。血糖の不足は脳にダメージを与え、めまいや頭痛、ひどいと昏睡状態に陥ってしまうこともあるんです。

激しい運動や空腹状態による低血糖を避けるため、からだにはグルカゴン以外にも血糖値を上昇させるホルモンが複数備わっています。例えば、副腎の髄質から分泌されるホルモンであるアドレナリンや、副腎の皮質から分泌されるコルチゾール、脳下垂体から分泌される成長ホルモンなどです。

血糖値を下降させるホルモンはほぼ一種類

一方、食後などに上がりすぎた血糖値を下げるはたらきをするホルモンは、同じく膵臓のランゲルハンス島にあるB細胞から分泌されるインスリンが、ほぼ唯一の存在です。

とはいえ、低血糖状態が起こりがちな野生動物とちがい、飢えから遠い生活をする人間では、血糖値が高すぎる場合のほうが多いのが現実。食事して血糖値が上がるたびにインスリンが分泌され、過剰なグルコースを肝臓でグリコーゲンにしますが、何らかの原因でインスリンの分泌が低下したり、インスリンが効きにくくなってしまうことがあります。これが、現代人を悩ませる糖尿病。高血糖は末梢神経や血管にダメージを与え、数々の合併症を引き起こします。

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糖尿病とグルカゴン

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桜木先生の言う通り、糖尿病の原因といえばインスリンの分泌異常や機能低下が良く知られていますが、近年はグルカゴンの過剰分泌なども関わっているのではないかと考えられるようになってきました。グルカゴン分泌を適切に制御するような薬などが、今後新しい糖尿病の治療方法に加わってくるかもしれません。

また現状でも、グルカゴンは糖尿病による諸症状の治療薬としても使われることがあります。糖尿病の患者さんで血糖値が下がりすぎてしまった時、グルカゴンを注射することで血糖値を回復させることができるんです。

日本でも患者数が年々増えている糖尿病。グルカゴンやチロキシンなどの血糖値調節ホルモンのはたらきを知っておくことは、決して無駄にはならないでしょう。

グルカゴンは、チロキシンとワンセットで覚えよう

グルカゴンは、血糖値調節をするホルモンの代表格としてしっかり覚えておきたいホルモンです。同じ膵臓から分泌されるチロキシンとセットで頭に入れましょう。身近な病気である糖尿病について学ぶことも、グルカゴンやチロキシンについての知識習得に役立ちますよ。

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タンパク質と生物体の機能理科生物

3分で簡単「グルカゴン」!血糖値調節に重要な役割を果たす重要ホルモンを現役講師がわかりやすく解説!

高校で学ぶ「生物基礎」の科目のうち、多くの学生が苦手意識を持つのが『恒常性』の分野です。各器官にさまざまな変化をもたらす自律神経に加え、いくつものホルモンが登場して混乱しやすい。

「血糖値調節」の仕組みを学習すると、膵臓から2種類の血糖値に関するホルモンが出ていることを学ぶでしょう。今回はそんな血糖値調節に関与する重要ホルモン「グルカゴン」についてみていきます。生き物のからだに詳しいオノヅカユウを招いた。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

グルカゴンとは?

グルカゴンは29のアミノ酸がくっついてできているペプチドホルモンの一種。主に膵臓のランゲルハンス島から分泌されるほか、胃や十二指腸などの消化器官からも分泌されることがわかっています。膵臓のランゲルハンス島は重要なホルモンを分泌する組織ですので、しっかり復習しましょう。

膵臓、ランゲルハンス島とは?

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By Takuma-sa – file from wikimedia commons, パブリック・ドメイン, Link

膵臓は胃のすぐ下にある臓器で、胃と小腸をつなぐ十二指腸につながっています。十二指腸へ膵液という消化液を分泌する「外分泌腺」としての役割と、ホルモンを合成・分泌する「内分泌腺」としての役割を持つ、地味ながらも大切な臓器です。

膵液をつくる外分泌腺の細胞の間に浮かぶようにして存在する、内分泌細胞のかたまりが「ランゲルハンス島」とよばれています。名前の由来は、発見者のパウル・ランゲルハンス(1847~1888、ドイツ)からです。

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By User:Polarlys投稿者自身による作品, CC 表示 2.5, Link

ランゲルハンス島は5種類の細胞が集まってできていますが、それらの細胞はそれぞれ違うホルモンを合成・分泌しています。グルカゴンを分泌している細胞は、A細胞(α細胞)。ほかにも、インスリンを分泌するB細胞(β細胞)や、ソマトスタチンを分泌するD細胞(δ細胞)などからなっています。

グルカゴン同様に関与するインスリンもランゲルハンス島から分泌されるため、混乱しやすいですが、それぞれのホルモンが分泌される細胞の名前はしっかり覚えましょう。グルカゴン=A細胞、インスリン=B細胞です。

グルカゴンのはたらきは?

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グルカゴンの主なはたらきは、ずばり血糖値の上昇です。おなかがペコペコで血液中の血糖値が低くなっているとき、膵臓からのグルカゴン分泌が促されます。

分泌されたグルカゴンはからだの様々なところで作用しますが、とくに重要なのが肝臓でのグリコーゲン分解と、糖新生です。2つの血糖値上昇システムについて、少し詳しくみてみましょう。

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