君たちは「バセドウ病」や「橋本病」といった病気について聞いたことがあるでしょうか?これらはいずれも、甲状腺から分泌されるホルモンの代表・チロキシンに関わるものです。

今回は、ヒトのからだで重要な役割を果たすチロキシンというホルモンについて学んでいこう。生物のからだに詳しい現役講師のオノヅカユウを招いたぞ。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

チロキシンとは?

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By Emeldir (talk) - 投稿者自身による作品, パブリック・ドメイン, Link

チロキシンは、私たちヒトではのどのあたりにある「甲状腺」という内分泌腺から分泌されるホルモンです。英語の読み方により近い「サイロキシン(Thyroxine)」という名称でよばれることもあるほか、化学物質の命名法にしたがった名称である「テトラヨードチロニン」の名前が使われることもあります。

「テトラヨードチロニン」の名前から推測することができますが、チロキシンは「チロニン」という物質に「ヨード=ヨウ素」が「テトラ=4つ」くっついてできている物質です。

甲状腺とは?

チロキシンが分泌される甲状腺は、のどぼとけのすぐ下あたりにあるちいさな器官。わずか15~20gほどの重さしかありませんが、私たちが健康に生きていく上ではなくてはならない器官です。よく「羽を広げたちょうちょのような形」と表現される形状をしています。縦の長さは4wp_前後です。

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実は、甲状腺が分泌するホルモンはチロキシンだけではありません。チロキシンによく似た「トリヨードサイロニン」や、血中のカルシウム濃度調節に関係する「カルシトニン」というホルモンも分泌されています。

トリヨードサイロニンとは?

トリヨードサイロニンはチロキシン(テトラヨードチロニン)と非常に良く似たホルモンです。前述の通り、チロキシンは『チロニンにヨウ素が4つ』という構造ですが、トリヨードサイロニンは『チロニンにヨウ素が3つ(=トリ)』という物質。たった1つのヨウ素の違いですが、細胞へのはたらきかけの強さはトリヨードサイロニンのほうが強く、少量でも効きやすいホルモンであることがわかっています。

甲状腺からはチロキシンのほうが多く分泌されますが、血流にのって全身をめぐるうちにヨウ素が1つとれ、トリヨードサイロニンに変換されるんです。ここから、『チロキシンはトリヨードサイロニンの前駆物質』ということもできます。

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チロキシンのはたらきは?

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それでは、チロキシンやトリヨードサイロニンが分泌されると細胞にどんな変化が現れるのかを見ていきましょう。

細胞の代謝促進

チロキシンやトリヨードサイロニンが分泌されると、細胞で起きるさまざまな物質の代謝が促進されることが知られています。どんどん糖や酸素を使ってエネルギーを作り出したり、タンパク質の合成が促されたり…一つ一つの細胞が活発にはたらくようになるんです。

細胞の代謝が特に重要なのが、からだが日に日に成長していく胎児や子ども。からだを成長させるホルモンといえば「成長ホルモン」などが有名ですが、チロキシンやトリヨードサイロニンなどの甲状腺ホルモンも必要不可欠であることが知られています。子どもの発育が思わしくない場合は、甲状腺ホルモンなどの分泌量が正常かを調べる検査も行われるんです。

交感神経を刺激

興奮していたり、からだが活発に動くような状態で刺激されている交感神経。チロキシンやトリヨードサイロニンは、この交感神経のはたらきを活発にする効果ももちあわせています。このため、チロキシンがたくさん分泌された時には心拍数が上昇したり、血圧が上がるなどの変化が見られるんです。

ヒト以外の動物では?

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チロキシンが細胞の代謝にかかわるのは、ヒトのからだだけではありません。両生類や爬虫類、鳥類などでもチロキシンなどの甲状腺ホルモンは重要なはたらきをします。

例えば、オタマジャクシからカエルに変態する時、その体内ではチロキシンの分泌量が増加。細胞の代謝を促すことで、尻尾の消失や手足の形成が進むのです。

そのほか、爬虫類では成長する際の脱皮の促進、鳥類では羽の生え替わり(換羽)が促進されることがわかっています。チロキシンは細胞の代謝を促すことで、からだを生まれ変わらせるホルモン、というイメージができるでしょう。

チロキシン(甲状腺ホルモン)にかかわる病気

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チロキシンを分泌する甲状腺に異常が生じ、甲状腺ホルモンの分泌に過不足がおきることで引き起こされる病気があります。チロキシンのはたらきを頭に入れたうえで考えてみましょう。

\次のページで「バセドウ病」を解説!/

バセドウ病

何らかの原因で、甲状腺ホルモンが過剰に分泌されることで生じる病気の1つがバセドウ病です。チロキシンが過剰に分泌されることで、細胞の代謝や交感神経が必要以上に促進・刺激されて、以下のような症状が現れます。

・運動をしてもいないのに心拍数が上がったり、疲れやすい

・少し動いただけで、息切れや動悸がする

・ダイエットをしているわけでもないのに体重が減る

いずれの症状も、「からだの細胞がどんどん糖や酸素を使ってエネルギーをつくっている」と考えれば納得できますよね。適切な量のチロキシンやトリヨードサイロニンは成長や発育に不可欠ですが、過剰な分泌はからだを疲れさせてしまうんです。

甲状腺機能低下症

甲状腺のはたらきが何らかの原因で悪くなり、甲状腺ホルモンの分泌が低下してしまう病気をまとめて甲状腺機能低下症といいます。生後、からだの発達が遅い子供にみられる先天性甲状腺機能低下症(クレチン症)や、甲状腺に炎症が起きる橋本病など、甲状腺の機能が低下する原因はさまざまです。

後天的に甲状腺ホルモンの分泌が低下する場合、以下のような症状が現れることがしられています。

・寒さに弱くなったり、体温が上がりにくくなる

・脈が遅くなる

・血圧が低くなる

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バセドウ病や橋本病は、女性のほうがかかりやすい(患者数の多い)病気として知られています。これらは自分自身が持つ免疫機能が正常にはたらかなくなってしまうことで起きる「自己免疫疾患」であることがわかっていますが、その詳細な発症メカニズムや女性に多い原因などは解明されていないところが多いです。これからの研究の発展が待たれています。

代謝を左右するチロキシンの重要性

チロキシンは細胞の代謝を活性化してくれる大切なホルモン。成長期の子どもにとって特に重要であることもお分かりいただけたかと思います。また、人間だけでなく、両生類や爬虫類。鳥類などほかの動物でのチロキシンのはたらきも面白いですよね。

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タンパク質と生物体の機能理科生物

3分で簡単「チロキシン」!血糖値にかかわる超重要ホルモンを現役講師がわかりやすく解説!

君たちは「バセドウ病」や「橋本病」といった病気について聞いたことがあるでしょうか?これらはいずれも、甲状腺から分泌されるホルモンの代表・チロキシンに関わるものです。

今回は、ヒトのからだで重要な役割を果たすチロキシンというホルモンについて学んでいこう。生物のからだに詳しい現役講師のオノヅカユウを招いたぞ。

ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

チロキシンとは?

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チロキシンは、私たちヒトではのどのあたりにある「甲状腺」という内分泌腺から分泌されるホルモンです。英語の読み方により近い「サイロキシン(Thyroxine)」という名称でよばれることもあるほか、化学物質の命名法にしたがった名称である「テトラヨードチロニン」の名前が使われることもあります。

「テトラヨードチロニン」の名前から推測することができますが、チロキシンは「チロニン」という物質に「ヨード=ヨウ素」が「テトラ=4つ」くっついてできている物質です。

甲状腺とは?

チロキシンが分泌される甲状腺は、のどぼとけのすぐ下あたりにあるちいさな器官。わずか15~20gほどの重さしかありませんが、私たちが健康に生きていく上ではなくてはならない器官です。よく「羽を広げたちょうちょのような形」と表現される形状をしています。縦の長さは4wp_前後です。

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実は、甲状腺が分泌するホルモンはチロキシンだけではありません。チロキシンによく似た「トリヨードサイロニン」や、血中のカルシウム濃度調節に関係する「カルシトニン」というホルモンも分泌されています。

トリヨードサイロニンとは?

トリヨードサイロニンはチロキシン(テトラヨードチロニン)と非常に良く似たホルモンです。前述の通り、チロキシンは『チロニンにヨウ素が4つ』という構造ですが、トリヨードサイロニンは『チロニンにヨウ素が3つ(=トリ)』という物質。たった1つのヨウ素の違いですが、細胞へのはたらきかけの強さはトリヨードサイロニンのほうが強く、少量でも効きやすいホルモンであることがわかっています。

甲状腺からはチロキシンのほうが多く分泌されますが、血流にのって全身をめぐるうちにヨウ素が1つとれ、トリヨードサイロニンに変換されるんです。ここから、『チロキシンはトリヨードサイロニンの前駆物質』ということもできます。

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