生物学

5分でわかるホルモン「バソプレシン」!現役講師が簡単解説!

高校の生物学ではいくつものホルモンの名前を覚えなくてはいけない。今回は、高校で覚えるホルモンの中でも頻繁に目にする「バソプレシン」についてみていこう。バソプレシンは、ヒトをはじめとする動物の体内環境調節になくてはならない重要なホルモンだ。バソプレシンを分泌する場所や、バソプレシンの過不足で起きる病気など、周辺知識と一緒に頭に入れていこう。

今回は、生物のからだに詳しい現役講師のオノヅカユウを招いたぞ。

解説/桜木建二

「ドラゴン桜」主人公の桜木建二。物語内では落ちこぼれ高校・龍山高校を進学校に立て直した手腕を持つ。学生から社会人まで幅広く、学びのナビゲート役を務める。

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ライター/小野塚ユウ

生物学を中心に幅広く講義をする理系現役講師。大学時代の長い研究生活で得た知識をもとに日々奮闘中。「楽しくわかりやすい科学の授業」が目標。

バソプレシンとはどんなホルモン?

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By Fvasconcellos投稿者自身による作品, パブリック・ドメイン, Link

バソプレシン(またはバソプレッシン)は、脳下垂体の後葉から分泌されるホルモン。9個のアミノ酸がつながってできているペプチドホルモンの一種です。ヒトだけでなく、多くの動物の体内から見つかっていますが、ヒト以外の動物のバソプレシンは9個のアミノ酸のうちの一部がヒトのものと異なっていることがあります。

超重要な内分泌器官『脳下垂体』とは?

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By Images are generated by Life Science Databases(LSDB). – from Anatomography, website maintained by Life Science Databases(LSDB). You can get this image through URL below. 次のアドレスからこのファイルで使用している画像を取得できます URL., CC BY-SA 2.1 jp, Link

ホルモンについて知るのであれば、脳下垂体について学ばないわけにはいきません。脳下垂体(または下垂体)は、脳の下に存在するとても小さな器官。間脳の視床下部から伸びた下垂体柄にくっついています。その大きさは小指の先ほどしかありませんが、いくつもの重要なホルモンにかかわる、なくてはならない器官です。

ヒトの小さな脳下垂体は、さらに「前葉」と「後葉」に分けることができます。前葉と後葉は分泌するホルモンの種類が異なっているんです。前述の通り、バソプレシンは後葉から分泌されるホルモン。バソプレシンのほかにも、近年注目が高まっているオキシトシンというホルモンも脳下垂体後葉から分泌されます。

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ホルモンは、名前やはたらきだけでなく、どの内分泌器官で合成・分泌されるかを合わせて覚えなくてはならない。脳下垂体からは複数のホルモンが分泌されているので、しっかり整理して覚えよう。

今回注意したいのは、バソプレシンは「分泌される場所」と「つくられる場所」が違うというところだ。

じつはバソプレシンやオキシトシンは、脳下垂体後葉から分泌されますが、そのホルモンをつくっている(合成している)のは脳下垂体後葉ではありません。

脳下垂体後葉からバソプレシンを分泌している細胞(神経分泌細胞)は、視床下部から長い細胞を伸ばし、脳下垂体後葉までつながっています。バソプレシンやオキシトシンが合成されているのは、場所としては視床下部にあたり、合成されたホルモンは長い細胞の中を通って脳下垂体後葉から分泌されているのです。脳下垂体後葉まで届けられたホルモンは、脳下垂体後葉内部を通る血管に放出され、血流にのって体をめぐります。

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神経分泌細胞はかなり特殊な細胞だ。神経細胞でありながら、ホルモンの合成・分泌もできる「内分泌細胞」としてもはたらくことができる。

バソプレシンのはたらきは?

それでは、バソプレシンが分泌されるとどんなはたらきをするのかを見ていきましょう。バソプレシンのはたらきで重要なものは主に2つです。

1.抗利尿作用

2.血圧上昇

バソプレシンの抗利尿作用

夏の暑さでのどがカラカラ、でも水が飲めないようなとき…皆さんは尿の量が減ったり、尿の色が濃くなるのに気づいたことはありますか?体は水分を少しでも貯めようと、尿として排出されるはずだった水分の再吸収を促進します。これを引き起こしているのがバソプレシンなんです。

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腎臓では、血液がろ過されて尿をつくっています。その過程で、からだにとって必要な水や糖などの栄養は「腎細管(細尿管)」という管を通過中に再吸収され、過剰な水や塩分、老廃物などが尿として排泄されるのです。脳下垂体後葉から分泌されたバソプレシンが血流にのって腎細管の受容体へ到達すると、腎細管での水の再吸収量が増え、尿の量が濃く、少なくなります。

このはたらきのため、バソプレシンは抗利尿ホルモン(antidiuretic hormone;ADH)とよばれることもあるんです。

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「尿を減らす」ことよりも、「水の再吸収を高める」ことに注目してほしい。暑い環境や、すぐには水が手に入らないような過酷な環境で水分を失わないようにするための重要なホルモンであることがわかるな。

バソプレシンの血圧上昇作用

バソプレシンにはもう一つ、忘れてはならないはたらきがあります。それは、血圧を上昇させる効果です。

バソプレシンは、腎細管の受容体に結合して水の再吸収を促進するだけでなく、血管にある受容体にも結合し、血管の筋肉を収縮させます。血管が収縮することで、血圧が上昇。さらに、腎臓での水の再吸収が促進され血液量が相対的に増えることも、血圧上昇の一因になっているでしょう。

そもそも、バソプレシンの名前の由来は「管(Vaso)」+「圧迫(Press)」+「in」から。バソプレシンのはたらきをよく示した名前といえるでしょう。

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このバソプレシンの血圧上昇の効果を利用したのが、心停止時にバソプレシンを投与する治療法です。心臓が止まってしまっても、血管を収縮させ血流を生み出すことで、脳や心臓へ血液を送ることができます。昔はアドレナリンを投与して血圧を上昇させていましたが、現在はバソプレシンの方が生存率が高いことが知られているんです。

バソプレシンの分泌異常でもたらされる病気

バソプレシンの代表的なはたらきがわかりましたか?最後に、バソプレシンの分泌が多すぎたり、少なすぎたりすることで起きる病気をご紹介しましょう。

抗利尿ホルモン不適合分泌症候群(SIADH)

バソプレシンの分泌量が何らかの原因で多くなりすぎる、もしくは腎細管のバソプレシン受容体の感受性が高まると生じるのが、抗利尿ホルモン不適合分泌症候群(SIADH)という病気。通常よりもバソプレシンが強くはたらくことで、腎細管での水の再吸収量が増えます。このため、血液が正常な状態よりも薄くなり、血中のナトリウムの濃度が低下。疲れやすくなったり、頭痛がしたり、ひどいと痙攣などの症状へつながる可能性があります。

抗利尿ホルモン不適合分泌症候群は、脳卒中などの脳の病気や、肺がん、肺結核などの肺の病気の合併症で現れることがほとんどです。

尿崩症

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それでは、バソプレシンの分泌が悪くなったり、受容体がバソプレシンを受け取れなくなると、どのような症状が現れるでしょうか?水の再吸収を促し、尿の量を減らすバソプレシンが不足すれば、尿の量が増えてしまうことが想像できるでしょう。

バソプレシンの分泌減少や腎細管にある受容体の異常が起きると生じるのが、尿崩症という病気です。尿の量が異常に増え、激しいのどの渇きをおぼえるようになります。原因は、バソプレシンを合成・分泌する視床下部や脳下垂体に炎症などが起きている場合と、受容体のある腎臓に異常がある場合に分けられるんです。

毎日の暮らしの中で、バソプレシンのはたらきを意識しよう!

ホルモンの名前やはたらきを覚えるコツは、普段の生活からそれぞれのホルモンがはたらいているタイミングを意識すること。暑い時や水が飲めないときに、バソプレシンのはたらきをイメージし、体内でどんな変化が起きているかを考える癖をつければ、自然と覚えていくことができますよ。

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