フィギアスケートでスピンという技があるだろ。広げていた手を縮めると回転の速さが増すよな。あれは角運動量保存則にしたがっているんです。その他にも角運動量保存則はいろいろなところで見ることができるし、実験だって家やオフィスで簡単にできるんです。

角運動量保存則について理系ライターのタッケさんと一緒に解説してゆくぞ!

ライター/タッケ

物理学全般に興味をもつ理系ライター。理学の博士号を持つ。専門は物性物理関係。高校で物理を教えていたという一面も持つ。今回は角運動量保存則について考えてみた。簡単にできるので、椅子を回転させる実験をぜひやってみてもらいたい。

等加速度運動

image by iStockphoto

等加速度運動とは、加速度が一定の運動です。加速度は大きさと向きをあわせもつ量ですから、これらが一定ということはまっすぐにだんだん速くなる(遅くなる)運動となります。

ニュートン運動の第2法則は、ma = F で示されるものですがこのときの m が質量で慣性の大きさを示すのでしたね。つまり、m が大きいと加速が鈍く、小さいと加速しやすいということです。

これを回転運動で考えると、やはり質量 m が大きいと回転しにくいと考えられそうですね。ただし、回転運動の場合は回転半径という、もう一つの物理量が回転のしやすさやしにくさに関係するはずです。

ちょっと想像してください。バットをスイングします。重いバットほど振り難くなりますね。

でも、もしバットと同じ重さの物干し竿があったとすると、物干し竿を振り回すほうが大変そうです。

つまり、回転運動においてはの回転のし難さというのは、回転物体の質量と回転半径の両方に関係するということになります。

角運動量を考える

image by iStockphoto

運動量を覚えていますか?
運動量は 質量☓速度 すなわち、mv  で示される量です。

いま、簡単のため回転が円である場合を考えましょう。
運動量 mv に回転半径 r をかけることにします。

そうすると、
   mvr  となりますね。

これが角運動量と言われているものです。
回転半径 r が大きくなると mvr も当然大きくなります。

  もうすこし詳しく言うと mvr・sinθ です。
  この θ は、半径 r と速度 v のなす角になります。
  円運動の場合は θ=90° なので sinθ=1 ですね。   

角運動量保存法則とは、回転する物体の 質量☓速度☓半径 の値が回転中にいつもおなじになることを言います。

もっと詳しく

もっと詳しく解説してみます。
数式がだめという方は読み飛ばしてください。
ベクトル積という手法を使い、式中の はベクトル積を示しています。

image by Study-Z編集部

\次のページで「フィギアスケートのスピン」を解説!/

image by Study-Z編集部

r × F= 0 となるののはどのようなときでしょうか?

r × F= rF・sinθ      θ は r と F のなす角

ですから、 r ベクトルと F ベクトルが平行のときに 0 となります。

つまり、回転中心に向かう力が働く場合にそうなるのです。
このような時、 r × mv が一定に保たれることになります。

このとき r × mv を角運動量といい、この関係を角運動量保存の法則というのです。

フィギアスケートのスピン

image by iStockphoto

フィギアスケートでスピンを行うとき手を縮めると回転の速さが速まります。これを角運動量保存則を使って考えて見ましょう。

スピンしている選手は外部から運動を変える力を受けていません。手を縮めるだけです。このとき、手の質量をm、速さを v としてやるとr × mv の角運動量を持っています。手が回転しており、回転中心にむけて手に向心力を及ぼしていますから、 r × F =0 です。

したがって、角運動量保存則が成り立っています。ここで

r × mv = r mV sinθ 

ですが、θ ≒ 90 ° としてよいでしょうから sinθ=1 です。すなわち、

r m v = C (一定)

v=C'/r  

とかけます。したがって、r が小さくなれば v が大きくなるのです。

これはあなたがフィギィアスケートの選手でなくとも簡単に実験できます。

滑らかに回る回転いすにすわって手足を広げたままで回転しましょう。安定したところで、手足を縮めるのです。そうすると、あーら不思議! 勝手に回転が速まります。

ケプラーの面積速度一定の法則と角運動量保存の法則

桜木先生がおっしゃるように、「ケプラーの面積速度一定の法則」と「角運動量保存保の法則」はおなじです。

ケプラーが天体観測により発見した法則をニュートンが定式化したと言ってもいいでしょう。
ケプラーの法則はここでニュートン力学のお墨付きを得られたのです。

以下の記事も参考にしてください。

角運動量保存則はこんなところにもある

ここでケプラーの面積速度一定の法則と角運動量保存則がなぜ等価なのか、簡単に示しましょう。

ケプラーの面積速度一定の法則は

1/2 rvsinθ=一定

です。この式の両辺に、2 と質量 m をかけても一定という関係は変わりません。

mrv・sinθ=一定 

のはずですね。したがって両者は等価なのです。

この角運動量保存の法則はいろいろなところでみることができます。

たとえば、フィギアスケートの他には、体操競技。
宙返りのときに体を小さくする(抱え込み)のは回転の半径を小さくして回転スピードを上げているのです。

反対に体を伸ばして(伸身)回転すると、ゆっくりと回るので雄大に見えます(スワンという技です)。

それから、体操選手に小柄な選手が多いのはなぜでしょうか?
ここまで読んでくださった貴方にはもうおわかりですね。

そうですね。体が小さいと回転半径が小さくなります。
そうすると、角運動量保存則から宙返りなどのときの回転速度を大きくすることができるから断然有利なのです。

" /> 「角運動量保存の法則」フィギアスケートのスピンのなぞを理系ライターが詳しくわかりやすく解説 – Study-Z
物理物理学・力学理科

「角運動量保存の法則」フィギアスケートのスピンのなぞを理系ライターが詳しくわかりやすく解説

フィギアスケートでスピンという技があるだろ。広げていた手を縮めると回転の速さが増すよな。あれは角運動量保存則にしたがっているんです。その他にも角運動量保存則はいろいろなところで見ることができるし、実験だって家やオフィスで簡単にできるんです。

角運動量保存則について理系ライターのタッケさんと一緒に解説してゆくぞ!

ライター/タッケ

物理学全般に興味をもつ理系ライター。理学の博士号を持つ。専門は物性物理関係。高校で物理を教えていたという一面も持つ。今回は角運動量保存則について考えてみた。簡単にできるので、椅子を回転させる実験をぜひやってみてもらいたい。

等加速度運動

image by iStockphoto

等加速度運動とは、加速度が一定の運動です。加速度は大きさと向きをあわせもつ量ですから、これらが一定ということはまっすぐにだんだん速くなる(遅くなる)運動となります。

ニュートン運動の第2法則は、ma = F で示されるものですがこのときの m が質量で慣性の大きさを示すのでしたね。つまり、m が大きいと加速が鈍く、小さいと加速しやすいということです。

これを回転運動で考えると、やはり質量 m が大きいと回転しにくいと考えられそうですね。ただし、回転運動の場合は回転半径という、もう一つの物理量が回転のしやすさやしにくさに関係するはずです。

ちょっと想像してください。バットをスイングします。重いバットほど振り難くなりますね。

でも、もしバットと同じ重さの物干し竿があったとすると、物干し竿を振り回すほうが大変そうです。

つまり、回転運動においてはの回転のし難さというのは、回転物体の質量と回転半径の両方に関係するということになります。

角運動量を考える

image by iStockphoto

運動量を覚えていますか?
運動量は 質量☓速度 すなわち、mv  で示される量です。

いま、簡単のため回転が円である場合を考えましょう。
運動量 mv に回転半径 r をかけることにします。

そうすると、
   mvr  となりますね。

これが角運動量と言われているものです。
回転半径 r が大きくなると mvr も当然大きくなります。

  もうすこし詳しく言うと mvr・sinθ です。
  この θ は、半径 r と速度 v のなす角になります。
  円運動の場合は θ=90° なので sinθ=1 ですね。   

角運動量保存法則とは、回転する物体の 質量☓速度☓半径 の値が回転中にいつもおなじになることを言います。

もっと詳しく

もっと詳しく解説してみます。
数式がだめという方は読み飛ばしてください。
ベクトル積という手法を使い、式中の はベクトル積を示しています。

image by Study-Z編集部

\次のページで「フィギアスケートのスピン」を解説!/

次のページを読む
1 2
Share: